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え〜っと通信

138号

2012年10月15日

二見 和美

自主再建中のゴルフクラブ会員権を譲渡した場合の取扱いが変更に

 ここ数年来、税制改正で次こそゴルフ会員権の譲渡損と他の所得との損益通算は廃止されるのでは、と噂されてきましたが、平成24年現在、損益通算は可能です。バブル時代に購入したゴルフ会員権については、売却できたとしても購入時の金額を大幅に下回る金額でしか取引されていないのが昨今の実情ですから、損益通算はせめてもの救い、というところでしょうか。
 そんな中、国税庁のホームページで、ゴルフ会員権を譲渡した場合の取得費について、従来の取扱いを一部変更するということと併せて、その取扱いが明文化されました。


1.従来の取扱い

 この8月に行われた今回の取扱い変更は、6月に確定した東京高裁の判決に基づくものです。譲渡の収入金額から差し引く取得費として従来認めていなかったものを、認めることとするというもので、私たちに有利となる変更です。
 対象となるのは、預託金会員制のゴルフ会員権で、破たんしたゴルフ場経営会社が会社更生法に基づく更生計画等により、ゴルフ場の営業は続けながら自主再建を目指している、というケースのものについてです。
 このような会社のゴルフ会員権について、更生手続等で預託金の全部が切り捨てられた場合には、更生手続きの前後では会員権が資産として同じものではなくなった、という考え方から、全額切り捨てとなった預託金はもちろん、更生手続き前の会員権取得のために支払った入会金も取得費とは認めない、というのが従来の取扱いでした。
 このような会員権は、入会当時は高額の預託金や入会金が必要な会員制であったとしても、預託金切り捨てによって、プレー権程度の価値の非常に低い価格でしか取引されないこととなってしまいました。そして、新たにそのプレー権のみの会員権を、切り捨て時の時価で取得したものとされてしまいました。つまり、売却したとしても、事実上、損失は生じなかったのです。


2.これからの取扱い  

 今後の取扱いは、次のようになります。
 預託金会員制ゴルフ会員権が、会社更生法に基づく更生計画による更生手続等によって預託金の全額を切り捨てられたことにより、優先的施設利用権(いわゆるプレー権。以下同じ)のみのゴルフ会員権となったときであっても、次のような状況があって、そのプレー権は更生手続等の前後で変更なく存続し同じものとして認められる場合には、譲渡した際の収入金額から控除する取得費は、更生手続等前の預託金ゴルフ会員権を取得したときのプレー権部分に相当する金額、つまり入会金相当額とします。全額切り捨てられた預託金部分は従来どおり控除できません。

(1)会社更生計画等の内容から、更生手続等の前後で会員の選択等にかかわらず、プレー権が変更なく存続することが明示的に定められていること
(2)更生手続等でプレー権のみの会員権となるときに、新たに入会金の支払いがなく、かつ、年会費等納入義務を約束する新たな入会手続きが執られていないこと

  なお、預託金の一部のみが切り捨てられたものは、従来どおりで変更はありません。切り捨てが10%でも90%でも切り捨てられた金額は認識せず、取得価額から減額しないものとします。つまり、取得費は、購入時に支払った預託金100%と入会金相当額の全額となります。
 いずれにしても、更生手続き前後で会員としてなんら変わりない地位を有し続けているかということがポイントになります。


3.取扱いの変更は過去にも遡及  

 今回の取扱いの変更は、過去分にも遡及します。判決等により取扱いが変わったものについては、後発的事由による更正の請求という手続きを取ります。ただし、申告期限から5年以内のものに限られます。
 平成23年分は通常の更正の請求期間内であるため申告期限の翌日である平成24年3月16日から5年間、平成19年分から平成22年分についてはこの取扱いの変更を知った日から2ヶ月以内に、更正の請求を行う必要があります。この期間内の申告で、該当する譲渡を変更前の取扱いで申告された方は、早急に手続きが必要です。


4.譲渡損失の損益通算  

 ゴルフ会員権の譲渡は「譲渡所得」なのですが、これに対する税金の計算方法は、土地建物等の分離課税の譲渡とは違います。給与や不動産といった他の所得と合計して税額を計算します。これを「総合課税の譲渡所得(以下、総合譲渡)」といいます。
 また、不動産の譲渡による損失は他の所得とは通算することができませんが、総合譲渡の計算で生じた損失は、給与所得等から差し引くことができます。
 もちろん、総合譲渡となる他の資産の譲渡益との通算も可能です。例えば金の譲渡も総合譲渡として計算します。金価格の上昇で利益の出る売却をなさる方が多くなっているようですので、こうした益との通算ができます。
 取扱いの変更により、該当するケースでは取得費が多く計上できることとなり、残念なことではありますがその分損失も多くなります。預託金全額切り捨てのゴルフ会員権について処分をもうあきらめていた方、要件を満たしていれば、悔しいけれど売却することにより、少し税金という形で取り戻せるかもしれません。

※執筆時点の法令に基づいております