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~相続後に、無駄な税金を支払わないための注意点~
188号

え〜っと通信

188号

2016年12月15日

坊山 由美

遺産分割後に思わぬ親族争いが発生した場合
~相続後に、無駄な税金を支払わないための注意点~

 遺産分割を行い、相続税の申告も終了して、「ホッ」と一安心したのも束の間、その後、親族間で思わぬ争いが生じたり、新たな問題が発見されることがあります。
 この場合、不利益を生じた相続人が遺産分割のやり直しを主張することがあります。


1.遺産分割後に生じる問題

 とある家族の相続の際、一区画の土地を分筆して兄と弟がそれぞれ相続することにしました。弟は兄を信用して、分筆登記や遺産分割協議書を兄に任せました。遺産分割協議書の署名・押印の時も、あまり内容を確認することなく印鑑を押してしまったのです。
 弟は、2分の1ずつ相続するものだと思っていました。しかし、登記が終わり、実際に物件を確認したところ、兄が3分の2、弟が3分の1を相続するように登記されていたのです。弟は兄を信用していたのに、裏切られたと想い、弁護士を通じて遺産分割と分筆の無効を訴えました。
 また、あるご家庭で父親が亡くなって、遺産分割後に、こんな問題が起きたのです。兄が残された母親の面倒をみると言うので、兄が弟より財産を多めに相続しました。しかし、実際は兄が母親の面倒をみることはなく、結果的に弟が母親を引き取りました。約束が反故にされたことに憤りを感じた弟は、遺産分割のやり直しを兄に請求しました。
 このような場合、遺産分割をやり直したり、やり直しが出来ないときは、金銭で解決をすることがあります。この場合、法律ではどのように取り扱われるのでしょう。


2.民法上の取り扱い

  まず、民法では、他の相続人から相続財産の内容について嘘をつかれて、嘘とは知らずに遺産分割を行った場合、または恐喝され無理矢理、遺産分割協議書に押印させられた場合などは、後から遺産分割協議を取り消すことができます。
 前者のケースで、兄を信じ、兄に全てを一任して遺産分割を行った結果、弟の取り分が少なかった場合はどうでしょうか。一見すると、兄に嘘をつかれて詐欺に合ったようにも見えます。しかし、遺産分割協議書に押印する時に、なぜ弟は内容を確認しなかったのでしょう。きちんと内容を確認すれば、このような問題は起こらなかったはずです。弟にも問題があったのではないでしょうか。
 明らかに、詐欺に合ったことを証明できれば遺産分割の取消しを請求できますが、自分にも問題があったり、証明できなければ遺産分割の取消しはできないのです。
 また、民法では、相続人の全員が遺産分割協議をやり直したいと希望すれば、元々の遺産分割協議を解除して、再度話し合いをすることができます。
 ここでポイントになるのは、相続人全員の合意が必要だということです。
 後者のように、親の面倒をみる約束を守らなかった場合では、他の相続人には関係なく兄弟2人だけで争っています。つまり、「やり直したい」と訴えているのは弟だけで、相続人全員が訴えているわけではありません。そのため、元々の遺産分割協議を無くすことはできない、との判決があるのです。


3.税法上の取り扱い

 では、税法でも遺産分割のやり直しはできるのでしょうか。結論としては、相続税において遺産分割のやり直しは原則として、認められていません。
 税法上では、遺産分割のやり直しにより取得した財産は、贈与又は交換により取得したものになります。つまり、遺産分割のやり直しは、新たな取引(贈与、交換、売買)が発生したと考え、贈与税や譲渡所得税が課税されるのです。
 例えば、前者のケースで、分筆をやり直し、土地の一部を弟へ引き渡す、とします。この場合は、土地を引き渡した時に、兄から弟へ土地を贈与したことになります。そして、土地の相続税評価額が贈与税の対象とされるのです。
 また、後者のケースでは、相続財産のうち兄が取得した金銭を弟に渡した、としましょう。この時は、金銭を渡した時に、兄から弟へ金銭を贈与したことになります。
 そして、話し合いで決着が付かず、裁判に持ち込まれたとします。裁判の結果、兄が弟に賠償金を金銭で支払うことで決着した場合にも、その賠償金に贈与税が課税されるのです。この時の賠償金は、交通事故の損害賠償金と同じように扱われず、遺産分割のやり直し、と考えられるからです。


4.遺産分割は慎重に!

 このように、遺産分割のやり直しは、民法上の考え方と税法上の考え方に違いがあります。民法上は、相続人全員の合意があれば分割協議のやり直しは何度もできます。しかし、税法上では、一度、納税義務が確定した後に再分割をすると、贈与・交換等があったものとして課税されてしまうのです。
 納得して遺産分割をしていても、その後、問題が生じ、遺産分割のやり直し、ということもあり得ます。それでは、相続税と贈与税・所得税の二重課税という無駄な税金を納めることになります。相続後に親族間で争いになり、「こんなはずでは」と後悔しないためにも、遺産分割は慎重に協議するように注意すべきでしょう。
 また、多少の誤算が生じても、相続は「棚から牡丹餅」と思って、心の余裕も必要かもしれません。

※執筆時点の法令に基づいております