お役立ち情報
COLUMN
原則として月に一度、
代表 高木康裕が自身で執筆しております。
お客様の立場に立って、
新たな税務の情報や事例をご紹介。
辛口で税務の現場のナマの姿をお伝えして参ります!
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5291号
長く連れ添えばお得?
相続において配偶者の地位が非常に強いものであることは、ご存じだろうと思います。民法においては、配偶者は"常に"相続人となるのです。敢えて平たく言えば、配偶者以外の相続人は先ずは子で、子がいなければその親、子も親もいなければ兄弟姉妹と、順序が決まっています。が、配偶者は別格なのです。実は、その配偶者の地位を、少々変えようと言う動きがあるようなのです。
1.民法における相続の順位と相続分民法では、誰が相続人になるのか、そしてその場合の法定相続分がどれ位有るのかが規定されています。誤解のないように申し上げておくと、法定相続分とは、民法上これだけ相続をする権利があることを示した割合のこと。この通りに財産を分けなければならない訳ではありません。
A.相続人が配偶者と子(厳密には直系卑属と言い、子が既に亡くなっていれば孫)の場合、配偶者1/2、子が1/2。子が2人ならその1/2を2人で分けるので各々1/4となります。B.配偶者と親(厳密には直系尊属と言い、親が既に亡くなっていれば祖父母)の場合、配偶者が2/3、親が1/3。C.子も親もいなければ、配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4となっていて、兄弟姉妹が死亡していれば、その子までで孫に相続権はありません。
2.配偶者となるための条件と期間このように、配偶者であれば必ず相続人となり、しかもそれなりの相続分が約束されています。法的に配偶者となるためには、『入籍』が絶対条件で"事実婚"は民法でも相続税法でも考慮されません。しかもその効力は入籍したその日から生じることに。つまり、結婚をして入籍の翌日に相手方が亡くなったとしても、僅か1日でも婚姻期間があれば配偶者として相続人となり、相続権を得られるのです。だからこそ夫の財産目当てで結婚したり、中には保険金を狙って殺害するような事件までも起こるのでしょう。
3.相続に係る民法の改正試案配偶者の相続分が現行のようになったのは、昭和55年でそれ以降ずっと変更はされていません。実は、これを改正する動きが法制審議会でなされているのです。婚姻期間が20年とか30年とか一定期間を経過した場合、配偶者の法定相続分を引き上げようと言うものです。確かに婚姻期間が一日だけでも何十年でも同じと言うことに、問題はあるかも知れません。試案では前記A.の場合に配偶者は従来の1/2を2/3にC.の場合は従来の3/4を4/5にまで引き上げようとしています。
その他にも、ア)亡くなった夫が遺言で自宅を誰かに贈与しても、妻には住み続ける権利を与えるとか、イ)相続や遺贈の対象となっていない人でも、看病や介護をすれば相続人に金銭を請求できる権利を与えるとか、ウ)自筆証書遺言の形式を緩和し、自筆でなくワープロでも可とすること等が検討されているようです。
4.財産目当てを防ぐ法かつて奥様に先立たれた方の長男から、ご相談を頂いたことがありました。財産目当てで女性が同居を始めたため、その女性の入籍を恐れているとのこと。世間にはよくある話で、その女性とは男性が夜な夜な通い詰めた飲み屋のママだそうです。男性が高齢のため、子の立場では入籍されてしまえば、財産の半分を相続されてしまうからです。
こんな時には役所の戸籍係に対し『不受理の申し出』と言って、婚姻届を受理しないよう、事前に届出をしておく制度があるのです。これは、"婚姻届のように届出をして初めて法的効力が発生する場合に、届出の意思のない者、又は一度は届出書に署名したが、その後その意思を翻した者が自己の意思に基づかない届出をされる恐れがあるとして、予め申し出をすることによりその受理を防止する制度"とされています。
ただ、この事例、一度は不受理の申し出によって受理を阻止できたのですが、この女性はそれ程簡単には諦めませんでした。今度は夫となる男性本人と一緒に役所へ出頭したため、無事(?)入籍を果たしたのでした。いくらこの防衛策があっても、本人が行けば、そりゃ何でもできます。
5.相続税でも配偶者はこんなにお得!最後に相続における特典の話をしておきましょう。大きく3つの特典があります。1つは配偶者の税額軽減の制度で、配偶者には相続した財産額が1億6,000万円までなら税金はかかりません。これを超えても法定相続分までの金額であれば、やはり相続税の負担はないのです。残された配偶者のその後の生活を考えての優遇策なのです。2つ目は小規模宅地の評価減の特例と言って、ご自宅の敷地を相続した場合、面積制限はありますが配偶者が相続すれば評価額が80%引きになると言うもの。更に婚姻期間が20年以上であれば、贈与税の配偶者控除と言うものがあります。居住用の土地建物等又はそれを取得するための資金の贈与は2,000万円まで非課税と言う制度です。民法改正で配偶者は益々優遇され、力を付けてきそうです。
2016年8月31日
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5290号
共有状態を解消するには…
相続財産を相続人の間で分けるのに、絶対にやってはいけないのが"共有"です。その理由は財産分けの解決になっていないからです。単なる問題の先送りに過ぎません。中でも上場されていない同族会社の株式を共有と言うか、複数の相続人が相続したら、その結果は悲惨なものに。他の株主への対抗策や共有の解消策を考えてみました。
1.共有の様々な形態共有とは一つの財産を複数の人間で所有し、原則として単独では使用、収益、処分ができない状態を言います。各自の持ち分が定められていて、収入も経費もその割合によって按分することになります。何をするにも全員の合意が必要なため、意見の対立がある場合には収拾がつきません。共有と言っても親子の共有であれば、それ程問題はないでしょう。避けるべきは兄弟の共有で、仮に兄弟間の共有で円滑な関係でも、その一人が亡くなれば、叔父や叔母と甥・姪の共有となり、関係は非常に複雑なものになってしまうのです。
2.最も難しいのは株式の共有中でも将来に禍根を残すのが、上場されていない同族会社の株式です。会社に不動産等の資産が有り、業績が良ければその株式の相続税評価額は非常に高額になってしまいます。そのため、実質的にその会社を承継すべき相続人に、総ての株式を相続させられないケースが生じます。価額が他の相続人に比べて高くなり過ぎ、不公平感を生んでしまうからです。また、例えば長男と次男の双方が被相続人の営む会社で一緒に仕事をしている場合も問題です。株式を仲良く50%ずつ所有していたら、数の上ではどちらも優位に立てず、権力争いに発展することも多いからです。この手の会社は後継者が全株100%所有すべきなのです。
3.株式を分散してしまった事例賃貸物件を多数所有している法人がありました。全株式を一人のオーナーがお持ちだったのですが、生前から長男がオーナーである父親の業務を手伝っていました。ここで相続が起こります。相続人は長男の他に長女と次女の3人です。相続財産はこの会社の株式が評価額で3億円、他に不動産が2億円と金融資産が1億円ほどです。会社を承継し運営していくのは長男だと、本人を含め誰もがそう思っていました。従って、会社の株式は長男が総て相続するものと。しかし、評価額3億円もの株式を総て長男が相続しても、売却はできない株式です。相続税の納税原資がありません。そこで、不動産と現預金については3人が均等に1/3ずつ分けようとの長男の提案に対し、他の2人は猛反発。それなら株式も均等に相続させろと言うことになり、結局、長男、長女、次女もその会社の株式をそれぞれ34%、33%、33%ずつ取得することに。ここから悲劇は生まれるのです。
4.長女、次女は経営からは蚊帳の外相続前から長男が父親を補佐してこの会社の運営は行っていたため、相続後もその路線に変わりはありませんでした。ただ、長女、次女には役員として報酬は支払っているものの、毎期の決算や申告書の内容を開示する事はなかったのです。二人ともそれを気にもしていませんでした。が、ある時、会社所有の都心の収益物件を長男は誰にも相談もせず、10億円で売却していたことが長女の知る所となったのです。多額の売却益があったものと想定もされましたが、長男からの説明は全く無し。ここから長男に対する不信感は一気に募り、決算や申告内容の開示を要求。しかし長男はそれに応じる気配もなく、困った長女は息子に相談したのです。その結果、息子がATOに助言を求めにおみえになったと言う次第です。
5.息子が母親(長女)に代わり直談判する方法本来、長女はこの会社の大株主であり、かつ役員でもあります。法的にも決算書その他の帳簿書類を閲覧する権利はあります。従って、喧嘩でもして法律論に持ち込めば、その全容が明らかになることは明白です。しかし、血を分けた兄妹でもあり、ここは大人の解決策はないものか、と言うのが長女と息子の意向です。そこで、会社株式は長男に買い取ってもらう事をお勧めしました。長男以外の2人は株主でかつ役員でも、実質的には何らの関与もできない立場、いっそ総てを長男に任せ換金化した方が得策だからです。個人所有の不動産についても、同じくこの同族会社が総てを管理していたのです。これらの土地には思い入れもあり簡単には手放せないとのこと。さりとて共有のため、長男との協議も難しい状況です。長女は今後は長男との交渉を息子に託したい意向から、その不動産を息子に信託するようにお話したのです。これにより、この息子は母からの"受託者"として伯父である長男と男同士の交渉が可能になります。この事例のように、共有持ち分だけでも信託は可能なのです。妹である長女は長男とは対等に話ができません。今後は頼りになる息子に総てを任せ、伯父である長男との丁々発止の渡り合いが期待できそうです。
2016年7月29日
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5289号
益法人を活用すれば、
タックスヘイブンはいらない???残念ながら(?)我がATOのお客様には、今話題のパナマ文書の対象となる方はいらっしゃいませんでした。いわゆるタックスヘイブンは、パナマの他にもケイマン諸島、バハマ、モナコ、サンマリノ共和国等々世界中枚挙に暇がありません。何故このようなものを利用するかと言えば、言うまでもなく脱税ならぬ節税目的。でも、そんなことをしなくても、公益法人を設立できれば合法的、合目的的で、公益にも資する節税策が可能かも…。
1.個人に財産がなければ相続税はかからない!当たり前ですが、財産を個人としてお持ちでなければ相続税は掛りません。個人ではなく法人で財産を持っていても、その法人の株式を個人でお持ちであれば、その株式の財産価値が相続税の対象です。では、どうすればいいのでしょう。
ご自身が株式を所有しない会社に財産を移転してしまえばいいのです。ただ、実際に事はそれ程簡単ではありません。例えば子が100%その株式をお持ちの会社に、上場株式や不動産を無償で譲るとします。譲り受けた会社は受贈益として、その財産の時価相当額に法人税が掛ってしまいます。差し上げた方の個人にも、時価で売却したと見なされ、時価相当額で譲渡税が課税です。また、無償と言う極端な例ではなく、例えば時価1億円の不動産等を3,000万円で売却しても、やはり1億円で売却したとみなされてしまうのです。時価の1/2未満での売却は時価での課税となるためです。
それでは、1/2を超える6,000万円で売却したらどうでしょう。1億円と言う時価課税はありません。個人は6,000万円の譲渡税で済みますが、差額の4,000万円は法人が得をしたものとされ、受贈益と言う法人税が課税されてしまうのです。
2.公益法人なら課税はなし!法人に財産を移転するのは、このように容易ではありません。しかし、その法人が公益法人なら話は別。公益法人の場合、限定されている34業種の継続的に行なわれる収益事業を行えば、それについては課税の対象になります。が、それ以外は総て非課税です。従って、公益法人が受ける補助金、助成金、寄付金等の対価性のない収入は、限定されている収益事業ではないので課税されません。
一方、寄付をした個人の方は、相続税の対象となる財産が減るばかりでなく、所得税も軽減されます。所得控除と言って所得金額から控除され、課税される金額が減少するか、公益法人によっては納税額のうち、その税額そのものが減額される特典が付いてくるのです。相続財産が無税で減るだけでも嬉しいのに、所得税まで減税されるとは何とも夢のような世界なのです。
3.公益法人が設立できれば…公益法人が設立できたとします。ここでは個人から拠出された財産を運用するための組織として、それに公益性を持たせた公益財団を念頭にお話しします。相続税はその公益財団に財産を移した分負担は減りますが、その後の財団の運営はどうなるのでしょう。公益財団には、最高議決機関である評議員会と執行機関である理事会が有り、それぞれ3名以上の評議員、理事で構成されます。監査役に相当する監事がお目付け役。計7名が最低基準で、親族で占められる理事、監事は各々1/3以下と規制されています。ここで言う親族とは3親等内の親族のことで、7名体制であれば目付け役の監事を除き理事、評議員を各1名、合計2名を身内で固めるのが"実務的"と言うことになります。
つまり、ご本人と身内一人の他、息のかかった第三者で先ずは理事、評議員、監事を選出し、自らは理事長に就任します。その公益財団を理事長として実際に運営し、その相続人が子子孫孫にわたって理事長を務めれば、大切な個人財産は公益財団として守ることができるという仕組みです。
4.公益法人の実態現在の法制度では、法人は一般法人と公益法人に分類されます。そして社団法人や財団法人等かつては公益性が主体となっていた法人も、現在は一般社団法人、一般財団法人なら株式会社と同様に登記のみで簡単に設立が可能です。その上で公益法人を目指す場合は、公益認定基準を満たすことが要求されるのです。この認定は内閣総理大臣、又は都道府県知事が行うとされていますが、絶対にやってはいけないのが都道府県知事による認定です。何故なら、都道府県の認定を受けた公益法人は、これら自治体の天下り先として利用され、拒否すれば公益性を取り消される可能性があるためです。実質的な乗っ取りがあり得ると言う話なのです。それに比べ内閣府として国がやることは流石です。そのような妨害行為もなく、何代にもわたって公益財団の理事長を務めることができるのです。しかし、内閣府に公益性を認めてもらうには、多大な労力とノウハウを必要とします。
最後に質問です。ここまでお読み頂いて、相続財産を公益財団に移そうと決意したとします。その相談にATOは乗ってくれるのか?勿論乗りますが、それ以前に相応の財産が必要です。その財産の作り方についてまではお力になれませんが…。2016年6月30日
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5288号
正しい税務署との喧嘩の仕方
税務調査に当たっては、当局とお客様の主張が異なり収拾のつかないことがある。税務署は調整が不能と判断すると、時として"更正"と言う強権を発動、職権で課税しようとすることも。これに対して従来から異議申立てをすることが認められている。が、所詮その課税をしてきた同じ税務署に対して文句を言うこと。通常その結論は変わらない。が、法令の改正で必ずしも税務署相手にその手続きをしなくてもよくなっている。では今後、税務署とはいかに戦うべきなのだろうか?
1.いきなり裁判は起こせない二重前置主義課税の可否をめぐって税務署と見解が異なる場合、最終的に税務署の主張に迎合すれば、修正申告書を提出して手続きは終了。問題は納得ができない場合だ。税務署も譲れなければ、更正と言う強硬手段を講ずるが、これに対しては異議申立てと言う手段で抗議はできる。ただ、更正をした当局相手への抗議であるため、基本的にはその主張が認められることはほとんどない。相手方である税務署ではなく、いきなり第三者の仲裁を求めることはできない仕組みになっていた。
異議申立ての結果に満足できなければ、次は国税不服審判所と言う審査機関の判断を待つことになる。これを審査請求と言うが、それでも納得ができない場合、ここで初めて訴訟と言う司法の場に舞台は移る。裁判の前に審査請求、それに先立つ異議申立てと二重前置主義と言われる制度になっていたのだ。
2.喧嘩の相手にその非を認めさせられるか?今般この二重前置主義が改正された。税務署に対する異議申立てと言う手続きを経ず、当局の更正に対し直接国税不服審判所に審査請求ができることになったのだ。考えてみればむしろ当然で、この異議申立てとは、喧嘩を売ってきた相手に、あなたと私とどちらの主張が正しいか考えて下さいと言うようなもの。更正の結果が覆る事も皆無ではないが、ほとんど期待はできない。一種のセレモニーと言ってもいいだろう。その事にやっと気づいたのか、上記のような改正となった。
ただ、いきなり審査請求する道の他に、『再調査の請求』と言って、実質的には従来通りの異議申立てをする道も残されている。つまり、選択肢が2つになったと考えればいいだろう。再調査の請求はあまり意味が有りそうには思えないが…。
3.審査請求の手続きをしても…それはともかく、税務署ではなく国税不服審判所に審査請求をしたとしよう。納税者側の主張はどの程度認められるのだろうか。下表をご覧頂きたい。最近5年間の統計表である。全部認容と言うのは納税者側の主張のすべてが、そして一部認容はその一部が認められたものである。直近2年間だけを見ても、7.7%、8.0%と一桁台の低さだ。逆の見方をすれば、税務署の勝率は9割以上と言う圧倒的な強さであることが見て取れる。長期的に見ても、12~13%程度しか納税者側の主張は認められていない。税務署との喧嘩はことほど左様に勝つのは難しいと心得ておいた方が良いだろう。
4.それでも多少は期待ができる改正項目悲観的な事ばかりでもない。審査請求の手続きの中で、今後は喧嘩相手の税務署に質問ができるようになる。更には国税不服審判所の担当の審判官が収集した証拠資料等も閲覧ができ、コピーまでもが許されることになったのは朗報であろう。従来は何と税務署が提出した資料等の書き写ししか認められていなかったのだ。とかく納税者側には不利な扱いになっていた手続きが、今後は少しだけではあるが、有利に働く事にはなるだろう。
5.税務署はメンツがつぶれる事を何より嫌う!税務署に異議申立てをしても、ほとんど結論が変わることはないと申し上げた。ただ筆者にも、一度だけあまりにひどい更正処分への異議申立てが、後日覆った経験がある。調査が杜撰過ぎたのだ。当方としては当然審査請求を考えていたのだが、国税不服審判所まで行けば、税務署の敗色が濃いと判断したようだ。しかし、そこは税務署。更正が間違ってましたとは決して言わない。いわゆる中を取って収める妥協案を提案してきた。しかも、こちらが提出した異議申立ては取り下げ、税務署が自主的に再更正した形にしてくれとのご要望付き。税務署が部分的にでも"負けた"形は取りたくないのだ。メンツを重んじる税務署。異議申立ても、審査請求もいとわないぞ、と強気で税務署に圧力を掛けて有利な結論を引出し、実際には喧嘩をしない事が大切である。筆者は"戦う税理士"の異名を持つが、負け戦はしないのだ。
2016年5月31日
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5287号
返却すれば、事は済むのか?
税務上、個人と法人はどちらが得か、昔から幾度となく議論されてきたテーマです。昨今の法人税率の引き下げと、所得税率の引き上げを較べれば、一般論として法人有利は間違いなし。経費に認められる項目も、確かに法人に有利な面も。が、万が一にも売上をもらしたり、架空の経費を計上すれば、個人よりは数倍重い処分が法人には待っています。しかし、税理士が変な理屈をこねると、税務署も時には応じてくれる変な世界のお話です。
1.税率だけの比較なら法人と言ってもここでの話は資本金が1億円以下の中小企業、いわゆる同族会社が前提です。所得が800万円以下であれば、その実効税率は22%台、将来は21%の声も聞こえてきます。それに引き替え個人の方は、累進課税とは言うものの、住民税と合わせ最高税率は55%。更に所得税額の2.1%が復興特別所得税として加算です。法人税率を引き下げれば、財源確保で狙われるのが個人になるのは必然か。
2.経費も厳しい所得税個人に対する所得税でもとりわけ厳しいのは経費面。いわゆる"家事関連費"には税務署も目を光らせます。法人名義の車なら、実務的には本体は減価償却を通じてもちろんのこと、ガソリン代も自動車税も車検代だって法人経費。個人はそうはいきません。遊びや個人的な利用もあるだろうと言うことで、事業に使用する割合だけが経費です。とりわけ個人の不動産所得には、車も交際費も大半は経費には認められません。
3.貸付金の考え方面白いのが貸付利息。個人は血も涙もある存在です。法人に貸す場合、ン10億円でもない限り無利息貸付はOKです。が、逆に法人は利益を追求するための存在で、法人が無利息で貸し付けるなど論外なのです。法人は利益追求の存在なればこそ、無利息借入なら、その分経費が減少し課税所得は増加。税務署にとっては好都合だと言う理屈です。ある意味経済合理性もあるのでしょう。
4.社長が売上や経費を故意にごまかすと売上や経費をごまかすのは、個人でも法人でも勿論誉められた話ではありません。調査でその事実が明らかになれば、当然のこととして修正申告となり、本税の他にも加算税・延滞税等の附帯税が。ここで問題なのは、法人の場合は個人ほど単純ではないと言うことです。個人の所得税では、そのごまかした金額が所得金額に加算され、増えた分だけ税負担が増すだけです。ところが法人は、決算で締めた帳簿自体を、その期に遡って訂正はさせないのです。それを法人税の申告書の第4表・5表と言って、申告書上で調整をすることになります。会計上の帳簿と税務上の帳簿と2種類の帳簿があると考えてもいいでしょう。会計上の決算書には、基本的には当期の経営成績を表す損益計算書、財政状況を示す貸借対照表等から成り立っています。法人税法上のそれぞれに対応するものが、申告書の第4表、第5表と言うこともできます。
そして、ここが法人税の面倒な所なのですが、売上や経費をごまかしたお金が最終的にどう言う形で何処へ行ったのか、それを明らかにしなければならないのです。例えば、社長が真実は1,200万円の売上を1,000万円だけで計上し、200万円を自分の懐に入れてしまった場合を考えてみましょう。税務調査でこれが判明すれば、当然、法人は差額200万円を売上もれとして所得に加算します。問題はこの200万円がどんな形で何処に行ったかです。いったん社長の懐に入ったのはいいのですが、社長がそれを返却するのか否かによって、その処理は異なります。返却しない場合は認定賞与と言う扱いになります。社長に対する賞与です。賞与ですから、社長個人としては、それに対する源泉税を負担することになるのです。法人と個人双方でその責任を負うことになる訳で、非常に重たい処分なのです。
5.返却することにすれば"貸付金"こんな時、税理士は少しでも税負担を軽くすべく税務署と交渉をするのです。認定賞与を"貸付金"に変更して貰うのです。貸付金となれば、社長は会社に返済しなければなりません。しかし、もらいっ放しではないため、源泉税の対象にはならないことになります。但し、先程の3.で述べたように、会社が社長個人に貸す訳で、利息が付されることにはなります。現在は低利率のご時世なので年率1.8%ですが、かつては10%と言う高利の時代もあった程です。高利の時代ではあっても、認定賞与と較べれば月とスッポン。
一方、認定賞与となれば、中小企業の社長はそれなりの給与を取っているはず。本来の給与に上乗せされれば、相応の負担になることは間違いありません。だからこそ、こんな場合には税理士に税務署との交渉力、力量が問われるのです。真実は社長が使ってしまったのに、貸付処理とは『泥棒しても返せばいいんだろ!』と言う考え方。お客様のためではありますが、何とも変な理屈です。2016年4月28日
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5286号
相続放棄をしないと妻と子がこんな事に…
ある税理士の話である。相続税法についての無知か税務署を甘く見たツケなのか、死んでもなお、相続人がその責任を追及された事例である。被相続人に過大な借金がある場合だけでなく、ヤバイ事があったら、とにかくやるべきは"相続放棄"である。これで総てから解放されるが、放棄をしなければ、その責任は相続人に未来永劫ついて来ると言う怖い話である。
1.相続税法における海外財産の取り扱い日本人であれば、何がナンでも総ての財産について日本の相続税が課税される訳ではない。被相続人が日本に住所があるのかどうか、そして相続税を納めるべき人が日本に住所を5年超有しているのか、日本国籍はあるのか等によって、課税される財産の範囲は異なる。ここでは話を最も一般的な場合に絞って考えてみよう。つまり、被相続人も相続人も総て日本国籍を有し、日本に住所のある場合である。この場合の話は簡単で、ワールドワイド、つまり世界中の財産について、日本の相続税がかかることになっている。従って、スイス銀行の預金も、ハワイの別荘も、エーゲ海に浮かぶコンドミニアムも総て相続税の対象なのだ。
2.今なら"国外財産調書"があるが…平成25年分から、その年の年末に合計額で5,000万円を超える国外財産をもっている場合、確定申告の期限までにその種類や数量、価額等を税務署に提出しなければならない。『国外財産調書』と言われるもので、税務署はそれまで課税漏れが多かった国外の財産に、現在は非常に目を光らせている。かつては諸外国との税務情報の交換が密にはなされておらず、結果的に国外財産についての申告漏れ、課税漏れが多かったのだ。従って、現在ではこれからお話するような事態は起こらないかも知れない。では、どんな事件だったのか、その概要からお話しよう。
3.税理士の誤った指導相続税の申告を、毎年の確定申告を依頼していた税理士に依頼した、仮にX一族としておこう。相続人の一人がその税理士に、海外にも財産がありそうなのでどうしたらいいのか、と相談をした。それに対し税理士の回答は何と、「海外の件は調べなくてよい」と答えたそうだ。同じ税理士として、開いた口が塞がらず、目まいで倒れそうになるような驚くべき回答である。相続人もそれならと言うことで、海外の財産約3億5,000万円を計上せずに相続税の申告を行った。そして、それが相続税調査で日の目を見ることに。結論を先に言うと、税務用語で仮装・隠ぺいと言うのだが、俗に言う"脱税"に当たりその行為が悪質であると言う認定を受けたのだ。このような場合には、本税の他に35%の重加算税が課税。さらには本来配偶者には一定額まで相続税がかからない特例も、その部分については適用されない。結果、相続人は重加算税を含め1億円を超える損害を被ったと言うことで、この税理士を訴えたのだ。
4.裁判所の判断その結果、一審では税理士に総額1億円超の損害賠償が命じられた。その理由として、原告(X一族)は相続税の申告に際し、税理士に海外の財産の取り扱いを尋ねている。それに対する回答、指示が適切でなかったことが直接の原因だが、更にa.税理士は被相続人の所得税の確定申告に際し、海外での医療費の資料を受け取っている。そのため、被相続人が海外に財産を有していることを認識していた可能性が高い。b.上記a.にもかかわらず、海外の財産について資料も求めず確認もしなかった。c.原告は被相続人が海外に財産を有していること自体は認識していたが、具体的な資料は手元になかった、等々がその理由だ。ただ、二審では、原告も海外の財産についての認識があったため、納税者としての過失を認定。3割の過失相殺を命じ賠償金を約7,000万円に減じて判決が確定した。
5.税理士は裁判途中で死亡したが…ここまでの話で、筆者は同業者としてこの税理士の心中は察するに余りある。このケースでは確かに税理士の指導や対応には非常に疑問が残る。ただ、実は数年前になるが、筆者もある相続事案で相続人の一人から逆恨みをされ、裁判にまで発展した経験があるのだ。筆者の場合は当方の言い分が通ったため、裁判費用等を負担することもなく、相応の報酬も頂いているので実害はなかった。
しかし、裁判沙汰はやはり相当に精神的な負担が大きい。鈍感で心臓に毛が生えているとまで言われる筆者においてさえ、である。実は、上記の事案、渦中の税理士は裁判途中で亡くなっている。詳細な事情は分からないが、被告の死後、相続人である妻や子が、その債務を継承しているのだ。税理士自身の相続に際し、相続人は相続放棄さえすれば、このような債務まで引き受けることはなかったのに、である。税理士の名誉のためか、勝訴の確信があったのか、はたまた税理士に多額の財産があったためかは不明である。私の知る限りでは、この稼業、税理士如きで1億円を超える財産を蓄財できるとは思わないが…。2016年3月31日
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5285号
税務署にも難しい”お庭”の評価
相続や贈与をする場合、財産の評価は死亡時や贈与時の"時価"で行うことになっています。土地や建物は、通常は路線価や固定資産税評価額で行うため、分かりやすいことが多いでしょう。難しいのはそれなりの"お庭"です。問題は"それなり"の程度。理屈と税務署の考え方と、実際の実務のせめぎ合いを考えてみました。
1.ある会社役員のご自宅の庭ズバリ、具体例から。某会社役員の世田谷区にある80坪のご自宅の評価です。相続税の税務調査で指摘を受けたのが庭の『造園工事』をめぐる評価です。亡くなる1年半前に隣地から越され、ご自宅を新築なさったのです。その際に旧宅にあった庭木や庭石を一部移設され、新たな庭を設けたことが問題にされたのです。
相続税の調査では、普通預金の通帳の動きから、100万円単位の入出金はその経緯を質問されます。そこで注目されたのが、金額として450万円ほどの"造園設備工事"。ご自宅の敷地は路線価で、そして建物は固定資産税評価額を基に適正に申告をしています。しかし、この450万円は"庭"として特段の申告をしていませんでした。税務署はそれが気にくわないご様子。亡くなる僅か1年半前に450万円もかけたのだから、それなりに財産価値があるはずだと言うご主張なのです。
2.『庭園設備』の評価の考え方税務署には財産の評価に当たり、"財産評価基本通達"と言うルールブックがあり、税務職員はこれに基づいて評価の作業を行っています。公表もされているため、我々税理士も通常はこれに従って作業を行います。このルールブックには、次のように記されています。『庭園設備(庭木、庭石、あずまや、庭池等を言う)の価額はその庭園設備の調達価額(中略)の100分の70に相当する価額によって評価する』。つまり、この設備を作る場合の価額の7割相当で評価すると言う趣旨なのです。ここでは、はっきりと450万円掛ったことが分かっているので、これの7割の評価額を庭園設備として計上しろと言うのです。
3.相続直前の多額の支出は…結論から言います。もし、この造園工事が亡くなる10年前に行われていたら、税務署はこのような事を絶対に言いません。何故なら、例え某会社役員のご自宅でも、世田谷に80坪の敷地です。一般のサラリーマンのレベルで考えれば確かに立派ではありますが、決して"豪邸"と言う程のものではありません。この手の庭を敢えて評価することは実務的にはあり得ないのです。庭石に価値があると言っても、購入時に限ったこと。売却を考えても運搬の費用の方が上回るのが実態なのです。従って、実務では普通の庭は評価など、ほとんど行わないのです。今回のように、相続直前だと文句を言いたくなるのが税務署の常。徹底抗戦でこちらも譲らず、結果オーライでした。
4.地方都市の武家屋敷の庭園は…具体名は伏せますが、地方都市にある某武家屋敷をご自宅になさっていた方の相続です。地方都市とは言え敷地面積は2,500平方メートル、聞けば室町時代からのものとか。庭も流石に立派で庭園だけで550平方メートル。池あり築山あり禅僧が修行のために座る特別な石まである代物です。さて、これをどう評価するのか、税理士の腕前をお見せできる千載一遇のチャンス?とんでもない!こんな庭園を評価したことは、長い税理士人生でも初めての経験。では、税務署に聞いたらなんと答えるのか。先程の通達どおり調達価額の100分の70に相当する価額、としか答えようがありません。では、具体的な金額はどのように算出するのでしょう?庭石がいくら、銘木は1本いくら、池を造成するのに幾らの計算をするのでしょうか。何しろ広さが広さです。莫大な金額になってしまうでしょうし、何よりそんな金額で売買ができるのか、と言うことが問題なのです。
5.悩みに悩んでATOが出した答えはこんな時は税理士も困りますが税務署だって状況は同じです。理屈は前述のとおり"再調達価額の70%相当額"ですが、実際に売買もできない金額で評価してよい筈はありません。例えばダイヤの指輪を100万円で購入します。翌日業者に売ったらいくらで買い取ってくれるのでしょうか。決して同じ金額ではない筈です。商品として売却した後は、翌日であってももはや中古品。購入時には原価の他に運搬料、広告宣伝費、保管料、支払利息、人件費、販売手数料、そして何よりその業者の利益が加算されているのです。その金額だけの価値がある訳では決してないのです。
また、相続人にとっては今後の維持管理が何より頭痛の種とか。1円の利益も生まない大庭園。さりとて維持管理するだけでも年間相当額が掛るとか。固定資産税は課税されていないため、評価額不明な立派な茶室まである庭園。苦肉の策として、この茶室の建築費から割り出した適正額にプラスαをし、"茶室及び庭園一式"として申告。これなら税務署も文句はないでしょう。2016年3月1日
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5284号
マイナンバー制度で何が変わるか?
年が明け、今年はいよいよマイナンバーが開始されます。この制度、表向きは税と社会保障と災害対策に効果的だと言うことになっています。が、本当の目的は目こぼしのない税金と社会保険料の取立てです。とりわけ税務署は調査の手法まで変わってくることが予想されます。これからは内偵も反面調査も必要がなくなるかも知れません。机上のパソコンで取引総てが把握され……。
1.現状では贈与がばれるのはまずは現状のお話から。親が子や孫へ贈与をします。現金はもちろんの事、贈与の意思をもって子や孫の預金口座へ振り込んでも、その時点で税務署にはバレません。子や孫がそのお金で不動産や高価な物でも購入しない限り足は付かず、一つ一つの銀行取引まで、税務署は把握していないからです。では、いつバレるのか?相続税の調査の時です。相続税の申告書を提出すると、税務署は被相続人のみならず、相続人等の預金の動きまで金融機関に照会します。
そこで、父から子への振り込みが判明し、贈与があったのでは?とのご質問となります。贈与税の申告があれば問題はありませんが、無申告だと慌てて心臓がドキ!でも、ここは
6年で時効なので双方に贈与の意思があった事を強弁すれば、お咎めがない事もしばしばです。6年経っておらず、単なる口座への移動なら次に述べる"名義預金"だと言われ相続財産として相続税が追徴に。
2.名義預金とはではここで、名義預金とは何かについてお話をしておきましょう。前述のように、親が子や孫名義の口座へお金を振り込んだとします。贈与と言うのは、贈与をする側の親と、貰う側の子や孫にあげましょう・貰いましょうと言う意思が双方にある場合に初めて成立する行為なのです。つまり、極端な場合、貰う側の子や孫にそのことが知らされていなければ、たとえ親が子や孫の名義で贈与税の申告までを勝手にしていた場合でも、贈与があった事にはならないのです。つまり、贈与税の申告だけでは、贈与があったことの証明にはならないと言うことなのです。
相続税の調査時には、双方に贈与の意思があったかどうかが問題です。子や孫に貰った認識がなければ、それは一方通行なのでお金が動いていないことになる訳です。つまり、子や孫の名義を借りただけの借用行為。預金そのものは親の物だとするのが名義預金なのです。これが株式であれば名義株式、同様の扱いです。但し、その時には既に被相続人はアチラの世界。双方に贈与の意思があったかどうかは税務署には分かりません。その時に相続人が『確かに贈与されました』と言えるかどうか、言ってみれば演技力の勝負になるのが実務なのです。
贈与税の申告期限から6年経っていれば"時効"を主張し無税、経っていなければ相続税と贈与税のどちらが得かその時に判断すればいいでしょう。
(影の声:先生、そこまで言っていいんですか?)
筆者も真面目な税理士です。資産家にとって、ほとんどの場合、数年に分け、更に子や孫の頭数を増やして贈与をすることは、簡単で確実な相続税対策になるはずです。目先で損をして(贈与税を払い)、後で相続税で得をした方が賢明です。
3.マイナンバー導入後は?さて、話はマイナンバーに戻ります。制度の導入後も直ぐに激変はないでしょう。預金については一応平成30年からの導入ですが、直ぐに強制はされません。それから3年後を目途に実施したい意向なのです。現在、税務署は一つ一つの銀行に、それぞれ関係者の氏名を記載して照会し、書面での回答を待っています。とても時間がかかるのです。それが預金に強制された暁には、それこそ、その気になればリアルタイムで全口座の動きが手に取るように分かってしまいます。つまり、贈与税の疑いがあれば直ぐに質問され、申告漏れは大幅に減少することが予想されるのです。
4.証券口座なら安心か?銀行が駄目なら証券会社に預けることを考える方も多いと思います。税務署はそんなあなたの心を見透かすように、ちゃんと備えをしています。平成27年の年末までに証券口座をお持ちの方は、平成30年の年末までに通知することになっています。平成28年からは口座の開設時に通知です。つまり、基本的には証券会社を使っても、その効果は銀行と同じと考えた方がいいでしょう。
5.これからの相続税対策それでも税務署に余計な(?)税金を取られずに済む方法はあるのでしょうか。一つはタンス預金でしょう。これなら絶対バレませんが、火事と泥棒には勝てません。地震や津波も心配でしょう。そんな方にはいっそ核戦争にも耐えられる"核シェルター"でもお作り頂く事をお勧めします。
折角ここまで読んで頂いたのに、本当に恐縮です。結局、今後は真実の申告をするより他の方法はありません。もっとも、正直者が損をするような日本では、これからの展望はありませんぞ!2016年1月29日
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5283号
税務調査はいつ来るのか?
税務調査の手続きに係る税法の改正等で、税務署は手間がかかるようになり、昨今の調査件数は大幅減少。納税者にとっては嬉しい話です。が、申告書を提出した以上、それでも避けられないのが税務調査。では、どの時点で調査事案は選定され、実際に我が社、我が家に来るのはいつ頃なのでしょう。気になる調査の時期について考えてみました。もちろん、署に依って若干状況は異なるため、あくまで一般論としてご理解下さい。
1.所得税は5月の連休明けから話を申告件数が税目の中で最多の所得税から始めましょう。今やコンピューター全盛の時代です。電子申告をせず紙の申告書で申告しても、それが直ちに国税庁自慢のKSKシステムで入力、管理。3月15日の確定申告が終了すると、間髪を入れずにデータの確認が可能です。既に入手済みの様々な個人に係る調査資料と突き合わせ、数年間の申告状況の対比から、怪しげな事案をピックアップ。
ただ、昨今はデータに頼り過ぎ、脱税の匂いを嗅ぎ分けて選定する職人気質はなくなっています。5月の連休明けには調査を開始する一方、簡易な計算誤りや税法の適用誤りは、修正申告を勧めて是正させます。7月10日前後の恒例の人事異動を前に、ほぼその年に調査すべき事案を選定。異動後は直ぐに本格的に調査を開始し、一般部門は年末までが調査の最盛期です。大口・困難事案を担当する特別国税調査官(通称、特官)はその後も確定申告時期以外はずっと調査を継続ですが。
2.法人税は6月に粗選定、年中調査個人と異なり、法人は会社によって決算、申告時期が異なります。従って、1年中が調査の時期。ただ、そうは言うものの、調査件数が減ったため、とにもかくにも確実な件数を確保する必要があるのです。そのため調査事案と件数を異動前にある程度選定し、予定しておきます。粗選定とでも言えるでしょうか。その上で、従来通り毎月上がってくる決算・申告書を精査し、追加、差し替え等を行っていくのです。
さて、かつては異動前の6月に1年分を概ね選定しておき、決算期と無関係に調査が行われることは原則としてはありませんでした。選定は毎月行われていたのです。申告書を提出すると、申告審理と言って申告書上の誤りや、計算誤りをチェックし、調査部門に渡るのが約1~2ケ月後。調査部門はその中から毎月調査事案を選定し、調査に着手すると言うやり方だったのです。この方法では何が問題かと言うと、決算月によって調査が実施される時期が概ね決まってしまうことでした。前述の日程でいけば、申告から2~3ヶ月後が調査時期になるでしょうか。一見するとこのこと自体に問題は無いように思われます。
しかし、調査実績が調査官の勤務評定に結びつく事が問題なのです。勤務評定は毎年3月末までの勤務成績で行われます。現実にはそれ程単純ではないのですが、とりわけ法人課税部門の場合、調査で実績を残せば評定も良くなると調査官達は思っているのです。そのため3月末までの調査は必死。逆に4~6月は件数合わせの消化試合、気楽なものです。つまり、逆算をして会社が4~6月に調査が行われるような決算期にしておけば、調査官は本気モードにならずに済んだ???
3.相続税は遅れ気味?ご存じのとおり、相続税の申告期限は原則的には亡くなってから10ケ月。人によって異なります。申告書が提出されれば、まず初めに行うことは金融機関に対しての残高や普通預金の動き等の照会です。被相続人だけではありません。相続人も含まれるため、いわゆる名義預金と言われる名義は家族名義でも、被相続人のものと想定される預金探しをするのです。この回答が金融機関から返って来るまでは、絶対に税務署は動きません。
回答がきても、その都度一つ一つ選定作業を行っていたのでは効率が良くありません。ある程度の目星は着けておきながらも、7月の異動前に一気に選定、異動後には直ちに調査に着手できる態勢を整えます。若干の準備もあるでしょうが、8月から11月いっぱいは相続税の調査を予定しなければなりません。つまり、もし8月に申告書を提出しても、その年の内に調査があることは通常はないのです。この例なら翌年の8月から11月となっていました。しかし、冒頭にも述べたように、今は調査手続きに時間がかかるせいでしょうか。さらに1年後の8月から11月になるケースも多くなっています。文字どおり、天災は忘れた頃にやって来ます。
しかし、これは一般的な方の相続の場合です。個人課税部門にも法人課税部門にもありますが、相続税を扱う資産課税部門の特官。ここは大口・困難事案を扱う部署です。資産家、富裕層の方々はここで管理されています。亡くなる前から目を付けられていますので、選定段階から注目され、調査も確定申告期間を除き、いつやって来ても不思議はありません。資産家の宿命とは言え、税務署は富裕層であるあなたを狙っています!2015年12月24日
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5282号
個人と法人でこんなに違う”交際費”
人と人との関わりの中で、いわゆる交際費は重要な位置を占めています。とりわけビジネスの世界では、これの使い方一つでその後の展開は大きく変わることだってあり得る話。しかし、この"交際費"、個人と法人とでは税務の取扱いには大きな相違があるのです。そして、同じ法人でも大法人と中小法人では、若干の差が。と言うことで、今月のお品物は"交際費"です。
1.個人事業者は使い放題!結論から先に言うと、何が何でも交際費を沢山使いたい方には、個人事業を立ち上げることをお勧めします。支払いの事実があり、事業に関連性があれば、金額的な制限はありません。ことの是非はともかく、金額的な面では文字どおり青天井の世界なのです。
但し、ここで言う個人事業とは、小売業や製造業等の額に汗する業態の事。不動産貸付業はたとえどんなに規模が大きくても、青天井の恩典はありません。何故なのでしょう。誤解を恐れずに言ってしまえば、税務署はいわゆる不労所得が嫌いだからです。所得税の条文にそんな事は書いてありませんが、額に汗した人にはそれなりの事を認めましょう、そんな考え方なのです。
税務署的には、不動産所得と言うものは、言ってみれば働かずに楽をしている不労所得。そのため、収入に対して厳格な関連性を必要経費に求めているのです。"ヒモ付き"と言う言い方をしますが、そんな世界観なのです。
所得税に限りませんが、筆者には相続税を含め個人に対する課税には、一種浪花節的な考え方があるように思えて仕方ありません。例えば、相続税で自宅に認められる80%引きの小規模宅地の評価減。原則として、配偶者か同居の親族が相続した時に認められる特例です。配偶者はともかく、『同居』が重視され、同居=親孝行、だからこそ80%も評価額を減額してやろうと言うお情け的な考え方があるのも事実。
話を不動産所得に戻せば、ほとんど交際費は認められない、と思って頂いてもいいでしょう。
2.それが法人になるだけで…例えば、既存の賃貸物件を法人に売却し、従来の不動産収入が法人に帰属することになったとします。本来は法人の貸付事業と関連性がなければ、勿論法人が支出した交際費は、法人の経費とはなりません。が、現実には領収証があれば、交際費となる事が多いようです。個人と異なり、法人の活動は基本的には法人の業務のために行われると言う前提があるためです。実務的には個人の不動産所得のような"ヒモ付き"理論は存在しないのです。
3.大法人と中小法人の取扱いに差その代わりと言ってはナンですが、法人の交際費には金額的な制約が課される場合があります。法人と言っても資本金や出資金が1億円超の大法人と、1億円以下の中小法人とで取扱いが若干異なります。
まず、中小法人においては、定額控除限度額と言って、年間800万円までの交際費が認められる制度があります。逆の言い方をすれば、これを超える交際費は経費になりません。そのため、交際費を使う法人としても、800万円までなら何に使っても良かろうと思っているフシがあります。税務署もそれを黙認しているのが実態と言っていいかも知れません。
但し、言うまでもなく、社長が銀座のクラブにご贔屓のホステスができ、夜な夜な一人で通っても、それは交際費にはなりません。理論的には社長に対する賞与となり、法人の経費には算入ができないのです。
また、大法人と中小法人の両者に共通する扱いとして、交際費の内、"接待飲食費"の半分までは金額の制限なく経費として認められる制度があります。これはあくまでも接待のための飲食費であるため、役員や従業員等だけの内部での飲食はこれに当たりません。これらは通常の交際費であったり、福利厚生費、会議費等になるでしょう。あくまでも、社外の人間の存在が不可欠なのです。中小法人が800万円までの定額控除限度額制度を選択するか、"接待飲食費"の半分までを経費とする制度を選択するかは、"接待飲食費"が1,600万円を超えるか否かで判断することになるでしょう。1,600万円を超えるなら、その金額の50%を経費とする扱いが有利でしょうし、超えないなら定額控除を選ぶのが賢明な選択です。
4.5,000円基準は生きているなお、これも必ず社外の人間がいることが必須ですが、一定条件付きの一人当たり5,000円までの接待飲食費については、従来通り"会議費"等で経費となります。本来は交際費でしょうが、その程度は総額の規制のある交際費でなく、一般の経費として認めてやろうと言うお上のご配慮。総じて法人税は社内の人間との付き合いには厳格な姿勢が垣間見られます。慣れあいを許さず、浪花節が通用する世界ではないのです。
2015年11月30日
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5281号
結果的に税額が算出されなければお咎めなし!
法人税でも所得税でも、そして勿論相続税でも申告期限は決められています。その期限までに申告書の提出がない場合、税務署から指摘されれば無申告加算税なる最低でも算出税額の15%のペナルティーが。さらに実際に納税した時までの日割り計算で、利息に相当する延滞税の対象にもなってしまいます。但し、です。結果的に例えば特例の適用をする等の工夫をして、税額が算出されなければどうなるのでしょう。加算税も延滞税も、もともとの本税の税額がゼロなので、その対象にならずお咎めなし。申告期限ギリギリでご相談にいらしたお客様にこんな工夫をしたのです。
1.事案の概要相続税の申告案件です。相続税においては時折りこんなケースがあるのですが、税務についての相談相手がいないのです。ご商売をやっていらっしゃれば、大抵は税理士が付いているもの。その税理士に相談するのが普通でしょう。しかし、このお客様はサラリーマンで、しかも、にわか勉強で自宅や事業所の敷地の評価は8割引きになる事を知っていたのです。相続財産に金融資産はなく、ほぼ自宅と同居の息子がやっている事業所の土地だけのため、結果的に相続税は掛らない、と高を括っていたのでしょう。
しかし、相続税の申告期限が近付いて、流石に心配になったようです。年明け早々に私共の事務所に相談にお見えになったのです。聞けば、申告期限は3月12日。確定申告の真っ最中です。いくらATOが相続税の申告業務に慣れているとは言え、いくらなんでも税理士事務所の最繁忙期にそんな事はやっていられません。そこで一計を案じて、この急場を凌いだと言うのが今回のお話なのです。では、どんな工夫をしたのでしょうか?
2.とにかく税額が算出されなければ失礼ながら、実はこの手のお客様が一番タチが悪いのです。税法を一応は知っている積りだからです。確かに一定の要件を満たしていれば、当時はご自宅の敷地は240平方メートルまで、事業用敷地は400平方メートルまでは8割引きになります。しかし、これは相続税の申告書を提出することが条件なのです。従って、何もしなければこの適用は受けられません。
そうは言っても、期限後に提出しても結果的にはその時点で適用になります。そこで、ここは腹をくくって申告期限は敢えて無視することにしたのです。ただ、税務署からは相続税の申告書も既に送付されているとのこと。黙って無視をすれば必ずや問い合わせがあり、税務調査にまで発展しかねません。そのため、次の状況を説明した上申書を税務署に提出し、理解を求めたのです。期限を過ぎてはしまうが、状況が整い次第速やかに税額0の申告書の提出を約束する事を。
3.相続人として利益が相反する場合実はこの事案、ちょっと厄介な事があったのです。相続人は配偶者である妻の他、長男と長女の計3人。ただ、長女は難病で何年も寝たきりの状態。意識もなく、税務上は特別障害者と言う扱いなのです。そして、分割協議をするに当たり、長女の意思確認が難しいことから、長男は自らが長女の成年後見人となる手続きをしていたのです。
ただ、そうすると長男は自身の相続人の立場と長女の後見人としての立場が相反するものになってしまいます。つまり、相続人として利益が相反するため、分割協議で後見人となり得ないのです。
こう言う場合、長男以外の特別代理人を選任するか、後見人を監督する後見監督人を選ぶ必要があるのです。
4.上申書に記載したある事情とはここで話は上申書に戻ります。税額が算出されないことが大前提であると申しました。そのためには、例えば配偶者である妻が全財産を相続すればよいのです。配偶者の場合、税額軽減策と言って、法定相続分か1億6,000万円までの金額の相続であれば、相続税は課税されないからです。
問題は長男と長女。長男は上記のような状況下、いずれ総ての財産を相続する立場です。従って今回は何の財産を相続しなくても構いません。長女の方は特別障害者のため、その年齢から420万円が税額から控除されるのです。つまり、この税額に相当する財産2,000万円を相続しても、実際には納税額が算出されないのです。ただ、相続財産は自宅と事業所の敷地だけ、現預金はありません。
そこで、母からの代償分割(相続財産は何も取得しない代わりに、母からその代償として金銭等を貰うこと)で預金を2,000万円受け取ることにしたのです。母の方は金融資産も若干あり、これが減れば、母自身の二次相続の対策にも役に立つことになります。それに何より、長女の特別代理人の選任を申請するに当たり、長女は2,000万円を代償分割で取得するとなれば、家庭裁判所にも納得してもらえる財産の分割案になる訳です。
以上で母は配偶者の税額軽減で、長女は障害者控除で、両人とも相応の財産を相続するにも拘らず税額なし。晴れて無申告を貫き、確定申告後の暇な時期の申告で、事なきを得たのでした。2015年10月30日
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5280号
実子と養子の税法上の相違点
相続税の話で"養子"が出てくると、多くの方が反射的に養子が認められるのは1人だけ、と思うようです。確かに実子がいる場合はそうですが、それはあくまで相続税の計算の中で、それに係る幾つかの例外があると言うだけの話です。養子自体は何人でも縁組することは可能です。そもそも、養子縁組をするとどんな効果があるのか、税務上の扱いには実子とどのような相違があるのか、そんな事をテーマに考えてみました。
1."養子は一人"だけの誤解そもそも養子縁組と言う制度は、民法に規定されている制度です。その民法には人数制限などありません。それを相続税法と言う税法で何らかの規制をしようなど、できる話ではないのです。ただ、相続税法ではそれを無制限に認めると、極端な場合は10人の孫を総て養子にし、相続人を増やすことで過度な節税対策につながる可能性も出てきます。そのため、一定の項目の計算では実子がいる場合は1人、いない場合には2人までを法定相続人として扱う、と言うだけなのです。
2.どんな節税ができるのか?それでは、相続人の数が増えるとどんな節税対策ができるのでしょうか。まず第一に基礎控除額が増えることがあげられます。基礎控除額とは、この金額までは相続税の課税対象とならないと言う最低限の金額で、これを超える部分に税金が掛ることになるのです。現行では3,000万円+法定相続人の人数×600万円で計算します。つまり、夫婦に子が2人で夫が死亡した場合、法定相続人は3人なので3,000万円+600万円×3人=4,800万円が基礎控除の金額となる訳です。従って、民法上は養子は実子と同じ扱いになるので、もし相続税でも養子を無制限に認めると、妻と養子が10人いれば基礎控除額は何と9,600万円にまでなるのです。つまり、課税される財産総額が9,600万円減額されることになります。
3.相続税の総額にも影響さらに、相続人が増えれば、全員で納めるべき税額(これを「相続税の総額」と言います)が減少することも考えられます。その理由は、相続税の計算方法にあります。基礎控除額を控除した残額が相続税の計算のもとになる金額です。この金額を法定相続人が法定相続分通りに分けたと言う前提で、各人の税額を計算するのです。例えば、前述の例で夫の相続が開始された場合、相続人は3人です。法定相続分は妻が1/2、子が各々1/4なので、その金額に各人ごとに税率を乗じて計算。各人の合計額が相続税の総額です。法定相続人の数が多ければ多いほど、一人当たりの課税される金額は少なくなります。その結果、適用税率は低いものになるため、相続税の総額は低くなる訳です。相続税の税率は最低の10%から最高55%までの累進税率。財産が増えれば増えるほど税率は上がり、負担は重くなるのです。但し、この計算にも養子は実子がいれば1人だけのカウントです。
4.非課税の枠も増える!退職金や被相続人が被保険者となっている生命保険金については、本来、民法の上では相続財産ではありません。従って、分割協議の対象となるものではないのです。しかし、相続税の上では相続財産と見なして課税の対象となっています。但し、これらはいずれも法定相続人一人当たり500万円は非課税とされています。従って、前述の夫婦に子2人の場合には、法定相続人が3人のためそれぞれ1,500万円までは課税されないのです。生命保険と退職金で併せて3,000万円までが非課税となる計算です。実務では、生命保険に入っていない方に、亡くなる直前でもこのケースで1,500万円の預金を下ろして一時払いの1,500万円の保険に入ることをお勧めします。1,500万円を掛けて1,500万円の保険金です。損も得もしませんが、非課税になる事が特典です。また、退職金なんて会社も経営してないし、無関係だと思っていませんか?小規模企業共済に入っていれば、亡くなってもらうお金は退職金扱い。これも1,500万円までは非課税です。しかし、ここでも養子は実子がいれば1人だけしか非課税の計算には算入されません。
5.養子の最大の功績は一代飛ばしの相続今まで見てきたように、養子を増やして節税しようと言う試みは、なかなか難しいものになっているのです。かつて極端な数の養子縁組をして相続税を節税する手法が取られた経緯があり、現在はこのような仕組みになっているからです。それでは、もはや相続税の節税を考えた場合、養子はその対策にはならないのでしょうか。必ずしも養子ではなく、遺言書に記載すれば同様の効果は得られますが、子ではなく一代飛ばして孫に相続又は遺贈させればいいのです。この場合、"2割加算"と言って相続税の割り増しはあるものの、同じ財産に子、孫と2回も相続税が課税されることは防げます。また、養子にすれば、遺言がない場合でも実子と同じ"子"の扱い。分割協議で子ではなく、養子に財産を継がせることも可能です。
2015年9月30日