お役立ち情報
COLUMN
原則として月に一度、
代表 高木康裕が自身で執筆しております。
お客様の立場に立って、
新たな税務の情報や事例をご紹介。
辛口で税務の現場のナマの姿をお伝えして参ります!
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5217号
相続まで待つか、贈与で勝負か!
相続でも贈与でも、税額算定の前に先ず行うことはその財産の評価です。実務上、評価は基本的には財産評価基本通達という税務署のマニュアルに則って行うのが通例となっています。が、この評価をめぐっては、納税する側と税務署側とで見解の分かれることも。税務署は課税に対する権力を持ってはいても、評価で争う事は極力避けたいと思っているもの。何しろ評価に“絶対”はないからです。これを上手く利用して、こんな事も…
1.贈与税は相続税の補完税生前に多額の贈与が行われると、相続時には財産がなくなり相続税が課税できなくなってしまいます。それを防ぐため、一般的には贈与税は相続税より負担が重いものになっています。贈与税は相続税の補完税と言われる所以です。しかし、この制度の例外として、近年盛んに活用されているのが『相続時精算課税制度』による贈与です。
2.もう一度『精算課税』を復習しよう精算課税についてはこの稿でも何回か取り上げてはいますが、ここで簡単に復習です。生涯で2,500万円まで贈与税が非課税で、これを超えると一律20%の課税。贈与ですから登記等の名義も変えられ財産自体も移転されますが、相続時には再び相続財産として計算に取り込まれ、相続税の課税が。但し事前に納めた精算課税の贈与税があれば、相続税から控除されるというもの。最大の特徴は、相続税の計算においてその財産の評価は相続時ではなく、かつての贈与の時の評価額で行うという点です。実はこれからするお話は、この点を利用しての活用法なのです。
3.評価は適正な時価で行うもの冒頭でもお話したとおり、財産の評価は税務署が用意した通達で行う事が一般的ではあります。
しかし、本来は税法そのものに規定されている考え方、つまり“時価”で行うべきもの。そうは言っても時価の算定が困難な場合が多いため、土地は路線価、建物は固定資産税評価額を基に計算するのがこの通達の考え方です。では、通達と税法とどちらが優先するのでしょうか。言うまでもなく法律である税法です。通達はあくまで税法を執行するための指針、マニュアルに過ぎません。従って財産の評価は通達に従わずとも、適正な時価を反映していれば認められるのです。代表的なのが不動産鑑定士による土地・建物の評価や鑑定人による美術品の評価・鑑定です。
なお、通達と一言で言っても実際の財産評価は複雑です。原則の外に様々な特例も用意されているため、それらを駆使して有利な評価額を導き出すのがプロの仕事です。
4.評価についての税務署の検証ここで話はちょっとそれますが、相続税の調査において評価の検証はどの程度行われているのでしょう。驚くなかれ、相当にいい加減なものなのです。我々税理士は例えば土地を評価する場合、それこそ細心の注意で間口、奥行き、道路付けの状況、計画道路の予定までを斟酌して算出します。
しかし、20年以上の税理士経験の中で、ただの一度も評価について、税務署から何らかの指摘をされた事がありません。何よりの証拠に、調査時にこちらから評価の点を質問した際、そんな細部まで見ていませんでした、との回答に驚愕した事も。しかし、そんな税務署の姿勢にも例外があります。土地で言えば、鑑定評価と広大地評価を適用した場合です。相続税の申告で本来正当な評価方法である鑑定や広大地評価については、先ずは疑ってかかり、入念な審理が行われます。
5.“増差主義”のなせるワザ何故こんな事が起こるのでしょう。相続税調査については年間の件数的なノルマがあります。調査官はこの件数をこなすのですが、彼らも子供の使いではありません。調査に来たからにはそれなりの実績、つまり申告額との相違を示すお手柄としての増減差額(“増差”と言う)が必要なのです。そこで登場するのが鑑定評価と広大地評価。数学の方程式ではないため、財産の評価方法に絶対はありません。鑑定による評価額はそれを鑑定する不動産鑑定士の数だけ存在すると言っても言い過ぎではないでしょう。つまり、“ケチ”をつけ易いのです。広大地評価も同様で、この適用の有無については明確な指針がないため、実務では判断に迷う税理士泣かせの評価方法なのです。鑑定や広大地を否認すれば、直ぐにそれが多額な増差に結び付く、それが税務職員の狙いなのです。
6.贈与税の場合には贈与税については相続税調査のように件数的なノルマがありません。従って上記の相続税の時と様相を異にします。評価で争う事は曖昧な点が多いもの、税務職員だって敢えてそれを問題にしてもめる事はしたくないのです。相続も贈与も評価の考え方は同じ。相続では厳しい目が、贈与では比較的優しいのです。となれば、相続時精算課税の活用で鑑定や広大地評価を適用して贈与し、評価額にケリを付け、確定させて安心して相続を迎えるのも一つの考え方ではないでしょうか。
2010年6月30日
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5216号
株式は一人に集中させよう!
いわゆる同族会社の株式が相続時に問題になるケースが、世の中には結構あるものです。評価額が高く、相続税負担が重い場合だけではありません。支配権をめぐる争いの元になることがあるからです。これは何も製造業や小売業と言ったご商売を営む会社に限った話ではありません。個人の不動産所得を法人形態で行う所有型法人にも当てはまる問題なのです。株式は分散させるのではなく、実質一人に集約させるべき、というのが今回のテーマです。
1.誤った税理士の指導中小企業においては、業績の良い会社や不動産、有価証券等の資産価値の高い財産をお持ちの会社の株式は要注意です。相続税の評価額がかなり高額になるケースが多いからです。
こんな時、多くの顧問税理士のアドバイスは決まって、『株価の安い今の内に、お子さんやお孫さんに株式を贈与や売買で移転・分散させましょう。社長の持ち株数を少なくしておけば、相続のときに安心ですよ!』と。確かに株式を分散し被相続人の所有株数を減らしておけば、相続税の負担は減少するでしょう。ただ、このアドバイス、重要な点を考慮していないのです。誰が経営の責任者として実権を握るのかという、支配権を無視した助言だからなのです。
2.どれだけの株式を持てばいいのか?実際の会社の運営は経営者である取締役が行います。取締役の中から社長である代表取締役が選ばれるため、表面的には社長や専務と言われる人が偉そうには見えます。しかし、その取締役たる役員は、株主が株主総会において選任することになっています。つまり、株主の意向次第で社長他の役員の首のすげ替えは、簡単にできてしまうのです。その意味では株式を所有する株主が絶対の権限者、と言う事ができるのです。株主総会自体は多数決の原理で動くため、過半数を押さえればとりあえずは安心。ただ、重要な案件については特別決議と言って、全株式の2/3以上の賛成が必要です。この意味から、株式の2/3以上を所有していれば、何でもできると言ってもいいでしょう。
3. 兄弟平等は悪平等!以前この稿で、相続にあたっていわゆる同族会社の株式を兄弟が均等に相続した案件をご紹介した事がありました。将来禍根を残すため、税理士としてはどちらか一人に集中すべきとアドバイス。が、兄弟で仲良く経営もし、株式の評価額が高額だった事もあって結局均等相続になってしまったのです。数年を経て諸般の事情から会社は営業を廃止し、その地に賃貸ビルを建てて不動産賃貸業に転業する事になった時です。株式の共有状態を解消することになったのですが、双方の財産価値を維持する事を考慮すると、兄弟の片方が他方へ株式を売却する他に方法はなく、多額の譲渡税の負担を余儀なくされてしまったのです。相続時に株式を集中させておけば、支払わずに済んだ税金だったのですが…。
4.既に分散されている会社はどうするか ?そうは言っても、何回かの相続を経て既に遠い親戚にまで株式が分散している例も実際には多いもの。この状態を放置すれば、更なる遠い親戚にまで株式が分散し、それこそ経営権・支配権の確保も危ぶまれる事だってあるのです。では如何にすれば良いのか。答えは一つ、散らばった株式を買い戻すしか他に道はありません。が、基本的には買戻しには多額の費用がかかる事を覚悟しなければならないのです。
5.一つの株式に株価が二つも三つも???さて、ここで買い戻すにあたり、必ずしも今現在経営を支配している個人が総ての株式を同じ価格で取得しなければならないということではありません。と言うのは、誰が誰にその株式を売却するかによって、同じ株式でも税務上異なる価格が要求される事になるからです。従業員持株会などを利用しての安い価格による移動方法もない訳ではありません。買う側の資金繰り、売る側の期待価格、更にはそれぞれの場合の税務上の取り扱いを考慮して、誰が買うべきかを判断すれば良いでしょう。ただ、未上場の株式の評価の計算は非常に複雑なため、ここで詳述は致しません。相続税の計算をする際に定められた方法が、基本とはなります。原則的な評価額と配当還元価額と言う言葉だけの紹介に留めておきますが、前者は後者よりかなり高額になる事だけは間違いありません。
6.問題は不動産の所有型法人でも同じ!問題は建物の所有型法人でも同じ事。賃貸収入と言う収益物件を持った法人には借地権があり、これを相続後に兄弟間で売買するには相応の資金負担が必要です。それより以前に、株主間で建替えや大規模修繕、売却等の問題で意見が分かれれば、経営権をめぐって血みどろの戦いが避けられません。だからこそ、一つの法人は一人で経営ができる体制を整えておく必要があるのです。そうなると次は相続税負担の工夫ですが、紙面の都合と頂戴する報酬の関係から(冗談)個別相談に!
2010年5月31日
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5215号
相続税から贈与税の時代へ
民主党になって初めての税制改正で、相続税の課税強化の方向性が鮮明になっています。確かに100人に4人しか相続税の申告がなされていない現在の状況は、相続税自体の存在意義に疑問を抱かれてもおかしくありません。それでは相続税受難の時代にどう対応すべきか、その一端を贈与に的を絞って考えてみました。
1. 相続税増税の方向性既にご案内の通り、本年4月以降、土地についての大きな特例である小規模宅地の評価方法が課税強化の方向で改正されます。また、年金形式による受領方法の権利の評価についても節税封じがなされています。更に現時点で適用時期は明らかではありませんが、相続税の計算方法自体の改正も既に織り込み済みのようです。これらはいずれも相続税の課税強化の方向で、資産家にとっては頭の痛い時代という事ができるでしょう。
2.贈与税にはほのかな光明が一方、贈与税には僅かではありますが光明を見出す事ができます。住宅取得資金のための非課税枠が拡大されているからです。実はこれがちょっとしたヒントになっていると考えられるのです。
贈与税と言うと、誰もが相続税よりも負担の重い税目であると言う認識があると思います。確かにその通りで、下記の相続税と贈与税の税率表を比較してみれば、その差は歴然です。本来、相続税回避の目的の贈与を防ぐため、相続税の補完税として贈与には高税率が用意されているからです。しかし、単純に税率の比較だけで贈与を諦める必要はありません。結論から言えば、贈与の仕方で十分に“採算”は取れるのです。相続税の速算表 法定相続人の取得金額 税率 控除額 1,000万円以下 10% ― 1,000万円超 3,000万円以下 15% 50万円 3,000万円超 5,000万円以下 20% 200万円 5,000万円超 1億円以下 30% 700万円 1億円超 3億円以下 40% 1,700万円 3億円超 50% 4,700万円 贈与税の速算表 基礎控除後の課税価格 税率 控除額 200万円以下 10% ― 200万円超300万円以下 15% 10万円 300万円超400万円以下 20% 25万円 400万円超600万円以下 30% 65万円 600万円超1,000万円以下 40% 125万円 1,000万円超 50% 225万円
3.先ずは単純な税率比較同じ金額なら贈与より相続の方が有利に決まってはいます。しかし、相続は一生に一度だけですが贈与は暦年で計算されるので何度でもできる行為です。従って適用される相続税の税率以下の税率で贈与を何年にも分けて行えば、結局は相続税よりもトクになる計算です。更に贈与する相手の人数を増やせば増やすほど、それぞれの方に基礎控除がある上、適用される税率だって低くなる訳です。例えば、1,000万円の現金を子A一人に贈与する場合、基礎控除の110万円を引いて890万円。これに税率をかけて計算すると贈与税は231万円になります。これを子Aと子Bの二人に分散し500万円ずつの贈与とすると、一人当たりの税額は53万円、二人の合計でも100万円をちょっと超える程度です。このケースで適用される税率は下記の表から20%ですが、この表自体が累進税率の速算表。実際に53万円を贈与された500万円で割ってみれば、10.6%の負担と言う事が理解されるでしょう。地味ではありますがこれの繰り返しで確実に相続税より少ない負担の贈与税で、結果的には相続税を軽減できる事になります。
4.たった二日で2年分の贈与も可能おまけ的な話ですが、贈与は前述の通り暦年の計算です。暮れの12月31日の贈与と年明け早々1月1日の贈与は2年に分けて贈与税の計算をし申告をする事になります。諸般のご事情で早目に贈与する必要がある場合、こんな工夫をする事も可能です。但し、相続人に対する相続開始前3年以内の贈与は、実際の相続時にはもう一度、相続財産として計算の対象とされてしまいます。ですからこんな場合は相続人以外のお孫さんとか、息子のお嫁さんとかを利用する事が必要です。
5.収益物件の贈与なら本気で相続税対策をお考えなら、金額はちょっと張りますが収益物件、つまり賃貸マンションの贈与がお勧めです。建物の贈与は固定資産税の評価額が基準になります。その固定資産税評価額は建築価額に比べて格安です。例えば建築価格が1億円の賃貸建物の固定資産税評価額が6掛けの6,000万円だったとしましょう。相続や贈与の計算ではこれを賃貸していれば、この金額の更に70%、つまり4,200万円の評価になります。これに対する贈与税は1,820万円。贈与税は確かに安くはありませんが、1億円相当の建物が1,800万円で例えば子が取得でき、同時にその後の賃貸による収益が生前に総て移管できると考えれば、決して高くはないはずです。贈与税は建物と言う箱物に対する課税で、その後の収益性を考えての課税ではありません。この収益性を無視した贈与税の課税の特性を上手く利用するのも今後の資産活用の要となるかも知れません。
2010年4月30日
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5214号
税務用語は正確に!
日本国の国民である以上、老若男女を問わず様々な税金の負担を強いられます。従って世間話程度から新聞記事に至るまで、様々な場面で税金が話題にはなります。税が話題になること自体は大いに結構なのですが、税の専門家から見ると、時には大新聞でさえ税務用語の使い方には首を傾げたくなる事が多々あるもの。誤用されているものをいくつか取り上げてみました。
1. 鳩山さんの『修正申告』昨年末から度々話題になったのが、鳩山家の政治資金です。政治資金規正法や贈与の問題と相俟って、新聞紙上では盛んに贈与税の『修正申告』をする、しないで話題になったものです。
さて、ここで筆者は当初より疑問に思ったことがあったのです。と言うのは、修正申告とはそれぞれの税目において、既に何らかの申告がなされている事が前提なのです。そして、その申告書の提出後に新たに贈与された金額が過少であった等の誤りが発見され、それを是正する手段が修正申告なのです。そもそも、一国の総理ともあろう人が親兄弟から贈与を受け、幾ばくかの申告をしている筈はないと思っていたのです。
それを世間では“修正申告”、“修正申告”と大騒ぎ。これは正確には“期限後申告” と言い、本来の期限までに申告・納税していなかったものを、期限後の今になって行おうとする行為なのです。総理自信も後日「修正ではなく、申告して納税した」との談話を発表しているのです。朝日や読売のみならず、日経でさえ誤った用語の使い方をしておりました。
2.『国税庁の調査』?これは一般の方々に相当に多い間違いです。国税庁と国税局、そして税務署相互の関係が正確に理解されていないために起こる誤りなのです。結論から先に申し上げると、基本的には通常“国税庁”は税務調査には来ないのです。
税務署を一般会社の支店とすると。国税局が本店で、全国に11の国税局と沖縄に国税事務所があります。その各国税局等の総元締めが国税庁で、総本店とでも言えばいいのでしょうか。国税庁は一般の納税者を直接対象として税務調査を行う機関ではありません。従って、「国税庁が調査に来た!」なんて事はないのです。
厳密な言い方ではありませんが、大法人や大口の事案、及び相当額の脱税が見込まれる場合に担当するのが国税局、それ以外の調査を税務署が担当すると考えて頂ければ宜しいでしょう。
3.『査察』と『調査』“査察”と“調査”も誤用される事が多いものの一つです。似たような言葉では有りますが、税務においては、“査察”となると強制力を持った相当に恐いもの。通常の所得税法、法人税法という税法で規定されている任意の調査とは全く異なるものなのです。「国税犯則取締法」と言う法律に基づき捜査令状を携えてやって来る、例のマルサがそれ。税務署ではなく、国税局によって行われるものなのです。
これに対し“調査”と言えば、上記の強制調査である査察を含む広い意味で使われます。通常は税務調査の大半は任意調査と呼ばれ、建前上は納税者の協力を得て進められるもの。筆者も税理士を20年以上やっており、税務調査の立会いは数え切れませんが査察は一度も経験がありません。査察はかなり悪質な納税者の場合だけですから。
従って、税務署にいじめられ、ひどい経験をなさっても、“税務署の査察を受けた” と言う事態はあり得ない事なのです。気持ちは分る!
4.税理士と会計士、ときどき計理士??先ず“計理士”なる言い方をご存知の方は、失礼ながらはっきり申し上げてお年寄りの部類です。昭和23年までの制度のようで、これが現在の公認会計士に改変されたと言われています。日本企業の成長に伴って監査業務と言う企業外部からの“お目付け役”が必要になったためとか。従って本来は大企業が公表する決算書類の妥当性を担保するための資格・制度で、企業側も法律で強制されなければ、できればお付き合いしたくない面倒な存在です。計理士は当時の法改正で大半の方が公認会計士になったと言う話も。税理士はそれより少し遅れて昭和26年に税務の専門家として成立しています。一般の納税者に代わり、税務当局と対峙するのがその業務であるため、当然ながら納税する側の味方です。一般的には大企業以外が顧客になるため、会計士より馴染みのある存在でしょうか。問題は会計士にほぼ無条件に税理士資格をも付与してしまった事です。監査業務だけでは個人営業が困難なため、その志のある会計士が監査法人を離れ税理士業務にも大量に流入。結果として必ずしも税務のプロでない方が税務の仕事をするケースもあるのです。要は資格でなくその人の能力や努力次第なのですが、一般の方には何とも分り難い制度になっています。
2010年3月31日
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5213号
加算税のイロイロ
税務調査で申告内容とは異なる事実が判明したとします。当然のことながら、修正申告が必要となりますが、差額分の納税だけでは済みません。 ペナルティーが待っているからです。そのペナルティー、通常の過少申告加算税のほか、タチが悪い場合には重加算税なる代物が課されます。そもそも申告をしていない場合には無申告加算税、先ずはペナルティーの種類を覚えておきましょう。
1.過少申告加算税と重加算税いわゆる脱税ではなく、通常の修正申告の場合、原則として当初の申告税額との差額(増差税額と言う)に10%を乗じた金額が過少申告加算税となります。もっともこれには更なる加重分があり、増差税額から次の①と②のいずれか多い金額を控除した部分の5%相当額がそれにあたります。①期限内申告税額、②50万円。これに対し税額計算の元になる金額を仮装し、又は隠ぺいした場合には35%の重加算税と負担は一気に高まります。納税に対する不正手段があった場合の特別の行政制裁なのです。
2. 仮装、隠ぺいとは何か?上記の仮装、隠ぺいとは平たく言えば悪質なごまかしの手口です。具体的には二重帳簿の作成、売上除外、架空仕入や架空経費の計上等がその代表的なものでしょう。いずれもその行為が客観的に見て仮装、又は隠ぺいと判断されれば足り、納税をした側が故意で行った事までを課税庁側で立証する必要はないものとされています。
相続の事例で言えば生前に架空名義の預金が開設されていたことに乗じてその口座を申告から外したり、現金や金塊を地下に埋めたりとかの行為がそれに当るでしょう。
3.重加算税は調査官の勲章です!税務調査では、所得税・法人税・相続税の税目を問わず重加算税を賦課する事は調査官の大きな勲章です。それは単なる計算誤りを見つけたり、法令の解釈を是正したりするのとは異なり、明らかな脱税犯、確信犯を捕捉したと言う手柄になるからです。考えてみれば当然で、本来税務調査は重箱の隅を突いて、細かなミスを発見するのが目的ではないのです。申告納税制度を担保するには、悪質な納税者を一罰百戒で行政的な制裁を加え、適正な申告を促すのが税務調査のそもそもの狙いです。それはともかく、調査官はその勲章を得るべくかなり強硬に重加算税を課そうとするのが税務調査での常套手段なのです。
4.『一筆取る!』を断れるか?さて、実際の税務調査の過程では、重加算税の対象かどうか微妙な場合が出てくるでしょう。上記2.でも述べたように、仮装・隠ぺいの客観性さえあれば課税はできるのですから。但し、その客観性をめぐっては後日争いの種になることも十分に考えられます。そこで彼らがよくやるのが“一筆取らせて頂きたい”と言って、申告を洩らした経緯、経過を自筆で文章化し、署名・押印させる事です。仮に税額をごまかしたとしましょう。先ず、この申し出を断る事はできるのでしょうか?また、その後は動かぬ証拠として、裁判でも課税側に有利になるのでしょうか。結論から言えば、いくらでも断れますし、仮に裁判になったところで、自筆であっても強要されたと言えば済む話。警察の自白調書と同じです。要は課税庁側が事実を立証できるか否かに掛かっている訳です。
因みに、当事務所ではこの手のお申し出はお断りをし、課税庁側に自信がある場合のみ重加算税の対象として頂いております。
5.申告さえもしなければ無申告加算税一般的な例で言えば、法定申告期限後に確定申告をした場合の加算税が無申告加算税です。1日でも遅れればこの対象となりますが、原則的には税率は15%。1. と類似の加重分5%があるため、20%部分もあります。また、同じ無申告でも仮装・隠ぺいに基づくものである場合、無申告重加算税となり税率は40%。
ところで、新聞によると脳科学者の茂木健一郎氏は3年間で著書の印税や講演料、テレビの出演料等約4億円の申告漏れが指摘されています。これに上記無申告加算税を含む追徴税額が1億数千万円とか。世の中には奇特な方がいて、この事件後NHKに“プロフェッショナル仕事の流儀”に出演し続けているのはおかしい、とメールをなさったらしいのです。この番組、なかなか面白く筆者のお気に入りでもあります。それはともかく、NHKに依れば、本税は既に納付を済ませ、加算税部分も速やかに納付するとの事。今後は適正な税務処理を行うことを表明しているとか。このため本人の出演や番組の放送は予定通り行うそうなのです。(関根稔弁護士情報より)
ここでの問題は、国税局によると悪質な所得隠し、つまり仮装・隠ぺいではなく通常の無申告加算税が課されている事です。筆者に言わせれば、あれだけの人が何年にもわたり、申告をしていないこと自体が悪質なのではないのでしょうか。一部分だけの“つまみ申告”をする位なら、堂々と無申告の方がお得なケースがあるのも事実です。2010年2月26日
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5212号
居住用特例にもう一度注意!
居住用の不動産を売却した場合、税法上の特例があることは、ご存知の方も多いと思います。最も有名なところでは売却益からの3,000万円の特別控除でしょうか。他にも一般の譲渡税率よりも低い税率が適用されるものや、買換えの特例等色々なものが用意されてはいます。が、税務署はこれらの特例については厳しくマークしており、現地にまで足を運んで確認する事も。
現地調査では想定外の事まで発覚することもあるので、安易に考えてはいけないようです。
1.基本的には“家屋”の特例各種ある居住用財産の譲渡の特例は、基本的には居住用の家屋・建物を売却した時に適用ができるように規定されています。従って特別な例外はありますが、建物をお持ちでない方には適用がないと覚悟して頂いた方が無難です。但し、実務上は売却して得する事も損をする事も、土地の売却価額次第です。建物を売却して損をする事はあっても、儲かる事はまずないにも拘らず、税務の規定はとにもかくにも建物が基本になっているのです。
2.問題の事例本年申告した下図のような状況の事案のご紹介です。親類同士のA,Bが各々1/2ずつ共有の土地にそれぞれの居住用建物がありました。敷地の利用も概ね1/2ずつであったため、両人共に居住用の3,000万円の特別控除及び居住用の低税率を適用したのです。これらの申告が税務調査に選定されました。A,B同時の調査です。事実だけを説明すれば、特例の適用に何の疑念もないのですが、税務署は提出された書類だけで総てを判断する役所です。書類上の疑念があれば現地へ赴き、又は反面調査を行って真実を追求するのが彼らの仕事なのです。
3.登記簿謄本の記載に問題がこの申告に当っては、初めてのお客様でもあり、当然のことながら居住用であったことの実態を確認。次にそれを書面で立証できる準備をします。実はその段階でB所有の建物が登記簿の謄本上、その種類が『共同住宅』となっていたのです。もしここで、例えば1階は自宅として居住の用に、2階はアパートとして賃貸していたとします。この場合には土地の全体を居住用として特例を適用する事は不可能です。あくまで建物の利用実態に合わせて、土地を自宅の居住用と賃貸用とに按分し、特例が適用できる部分を算出する事になります。実際には古い建物でもあり、何故登記簿上このような表記になったかは不明ながら、真実全体が居住用だったのです。しかし、税務署はここに疑念を持ったのでしょう。結論から言えば、登記簿の記載は全く関係ありません。事実のみが適用可否の判断基準で、その意味ではまったく心配もしていませんでした。ただ、調査では執拗に利用状況、図面の有無等に質問が集中しました。蛇足ながら、申告書を作成した当事務所では謄本の記載と事実が異なる旨の説明書を作成し申告書に添付はしていますが、効果はなかったようです。
4.税務署が行う“居住用”の 確認方法さて、税務署が“居住用”かどうかの疑念を持った場合、どんな方法で確認を取るのでしょうか。
申告書にはかつてその場所に住んでいたことの証明として、住民票の除票添付が要求されます。しかし、住民票があればそれで済む訳では決してありません。住んでもいないのに、この特例を受けるために住民票を移すことなどイトも簡単なこと。売却をし、申告時点ではその場所に現在はいないとしても、真実その場所に居住していたとすれば、例えば電気・ガス・水道等の公共料金の支払いで確認できるでしょう。また、現地に行って近隣で聞き込みをすれば、どんな人が住んでいて、建物をどの様に使っていたのかも簡単に分る事柄です。
5.現地調査で意外な事実が…問題はAさんでした。ご自宅を売却後、一人暮らしでもあることから、Aさんは隣地にある亡夫名義のままのアパートの一室に転居。が、これがまずかった。そこにBさんも転居しAさんに家賃を支払っていたのですが、アパートの家賃は全室分生活費にあてるも総て無申告。両人の同時調査でもあり、Aさんはその場で白状すると共に、今までの無申告の非を認めることとなりました。税務署は事前の現地調査でこのアパートがAさんの所有である事の聞き取りをしていたようで、当事務所も寝耳に水の状況に驚愕の1日でした。
2010年1月29日
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5211号
遺言の執行について考える
お客様の遺言の作成をお手伝いする事がよくあります。確かに“争族”にならないために、遺言の作成は有用です。さて、実際に相続の開始となった時、遺言に書かれた事を実行していかなければなりません。これを遺言の執行と言いますが、誰がどれくらいの費用でやってくれるのでしょうか?相続人自身ではできない事なのでしょうか?
1. 遺言の執行者遺言書に執行者が指定されていなければ、家庭裁判所に選任の申し立てをする事ができます。その場合、裁判所の選任と言う事から、相続人間の調整をしながらの適切な執行は期待できます。これに対し、遺言者が特定の相続人や信頼できる人物を遺言により指定する事もできます。遺言の執行とは、遺言に書かれていることを忠実に履行する事です。従って通常の場合は特別難しい作業ではありません。ただ、相続財産の不法占拠者がいたり、家賃の未納の取立て業務があったりと面倒な場合には、弁護士さんへの依頼が必要にはなるでしょう。
2.具体的な作業内容は?財産の明細が遺言書に記載されていれば、具体的な作業としては、不動産の登記を変更したり、銀行や証券会社で名義の変更をしたり、と言う事が多いでしょう。執行人が直接にその作業をしなければならないと言う事ではありません。例えば不動産の登記変更手続きは、実際には司法書士の仕事。つまり、司法書士へ依頼する事までが執行者の役目です。金融機関の名義変更も同様です。これは登記のように特別な資格がなくてもできる作業なので、もし煩雑であれば委任状を作成して誰かにやってもらうことだってできるのです。
3. 通常は簡単な作業が大半です!つまり、遺言の執行と言っても、大半はそれ程難かしい事ではなく、粛々と進めていけばできることばかりなのです。勿論特別な場合には弁護士さんの力を借りる事はあるでしょうが、むしろ例外と言ってもいいのではないのでしょうか。
但し、遺言の中には作成の際に専門家へ相談せず、ご自身で作成したものも散見されます。遺言執行者が先ず行うべきは『財産目録』の作成なので、この手の遺言で財産の全容が分らない場合、財産が特定できず苦労が多いかもしれません。
いずれにせよ、本来それ程多額な執行費用は必要ないのです。その意味でどこかでやっているような、相続財産の財産価額を計算し、単純にそのナン%の執行報酬などという計算は、私には納得の行くものではありません。
4.執行報酬を抑えるならその意味で、執行報酬を抑えるなら相続人の一人に指定するのも一つの方法です。但し、相続人間の感情の対立を生む可能性もありますので、その場合は注意が必要です。当事務所でも遺言の執行者となり、そのお手伝いをしています。但し『報酬を得る目的で、業として行う』ものではないため、弁護士法にも抵触するものではありません。前述のように司法書士なり相応の専門家に作業を依頼する事までが仕事なのですから、その部分で報酬を頂く必要もない訳です。
5.遺留分の侵害がある場合でも遺言には遺留分と言う、相続人としての最低限の権利が保証されています。例えば夫婦の間に長男、次男がいて父の相続が開始された場合です。総ての財産を長男一人に相続させる旨の遺言があったとしましょう。誰一人この遺言に異を唱えなければこの遺言は有効です。が、配偶者にも次男にも最低限の相続をする権利は残されていますので、文句を言うことはできるのです。この場合には配偶者は法定相続分である1/2の1/2、つまり財産の1/4、次男も法定相続分である1/4の1/2、つまり1/8がそれにあたります。
ただ、仮に遺留分が侵害された事に異を唱えられても、とにもかくにも遺言どおりに総ての財産を長男名義にする事はできてしまうのです。その上で遺留分の侵害分について、他の相続人と話し合うことになるでしょう。遺言はそれ程強い効力のある書類なのです。
6. 相続時精算課税も有効です!この稿でも何度か取り上げた相続時精算課税、実は被相続人のご意志を確実にするためには非常に有用な方法です。ここで制度の詳細には触れませんが、必ずしも節税目的には合致するものではありません。この制度を使えば相続以前に名義の変更は可能で、前述の遺言の執行を待つまでもありません。但し、後日遺留分で争いになった場合には、いくら生前の贈与でも、そして名義が被相続人から相続人へ変わっていたとしても、本来の相続財産として遺留分の計算は行われてしまいます。相続財産から除外される訳ではないのです。
今まで数々の相続の争いを見、立ち会ってきました。その立場からは、相続時精算課税を含め、税務の問題をクリアーした遺言を作成し、遺言の執行者までをも決めて、遺言者のご遺志が達成される事を祈るばかりです。2009年12月25日
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5210号
ご利用は計画的に、返済計画は慎重に!
親子間でお金の貸し借りをする。決して悪い事ではありません。しかし、税務署の見方、考え方をご存知でしょうか。貸し借りの陰に贈与あり、と睨んでいるのです。こちらがそこまで読んで更なる工夫をしても、かえってアダになることも。サラ金のCMではありませんが、ご利用は計画的に、返済計画は慎重に!
1. 形式ではなく、返済能力親子間でお金を貸し借りした場合、贈与と疑われないために契約書を取り交わし、公正証書にする。更に毎月親の銀行口座に振り込み、返済状況を外見上も明らかにしておく。こう言っては叱られそうですが、いかにも素人の方が考えそうな手口です。結論から言うと、こんな浅知恵で税務署を欺く事はできません。彼らが見るのは真実の返済能力だけ。公正証書など公証人役場に行けば簡単に作成でき、預金口座へ振り込んでみても後で現金での返還も容易、何の証拠にもなりません。
2. 抵当権の設定は余計だった!子が土地を取得した後、建物を建築するに際して、親から資金の一部を借り入れたお客様の事例です。上述のように利息を付した借り入れの契約書を作成し、ご丁寧に建物に抵当権まで設定したのです。第三者からの借り入れであればこれも当然なのでしょうが、親子間でここまでなさったようです。想像ですが、その当時の税理士の入れ知恵ではないのでしょうか。この借り入れが贈与ではなく、真実返済する事を税務署にも知らしめたかったのでしょう。だからこそ第三者間であればする筈の抵当権の設定までをなさったのだと推測しております。
3.登記情報は税務署に税務署と登記所が大の仲良しである事をご存知でしょうか。売買や贈与で不動産の移転登記がなされると、その情報が登記所から税務署に伝わる事になっているのです。税務署はそれを見て、売った人には申告の必要性を牽制し、買った人には資金の出所を質問します。前述のように資金が親からの借り入れの場合、本当に返済するのか、疑いの目で見ながら。勿論登記の原因が贈与と記載してあれば、贈与税の申告書を予め送付する事までのサービスまでしてくれます。もっとも昨今は税務署も忙しいのでしょう。売却し譲渡税の対象者には申告書の送付があるのに、贈与の場合は必ずしもここまでのサービスは無いようです。
4. 所得税の調査で発覚話は抵当権設定の親子に戻ります。ここまで用意周到な準備で臨んだわけで、当然ながら毎月キチンと親の口座に返済も実施です。しかし、所詮は人間のやる事、緊張感は続かなかったのでしょう。いつしか元金も利息も梨の礫、返済がなくなってしまったのです。もっともそこは親子間のやりとり、親の方も催促もせず、もう返済はいいよ、位の会話があったのかもしれません。
さて、それから何年か経過したある日、と言ってもつい先だっての事、この親御さんに所得税の調査が入りました。今や私共の大切なお客様です。当方も万全の態勢で立会いに臨みました。が、親御さんとしてはすっかり忘れていた例のお金の貸し借りの問題が浮上したのです。
5. 資産家なればこその宿命か?一定以上の資産家の方は、税務署では超大口資産家と言って管理が厳重になっています。通称マル超と呼ばれますが、一般の納税者とは別に一族全員の資料や情報を長期にわたって保管し相続税や所得税の調査時に活用しているのです。前述のお客様もこのマル超であったため、子が家を建てた時の登記の記録がしっかりと残っていたのです。
そして、現在の返済状況を確認され、親御さんの貸付残高があることを把握されたのです。もし抵当権さえ付いていなければ、貸付の事実はいつまでも残らずこんな話にはならなかったのに…
結果、貸付利息計上漏れで3年分の修正申告。貸付金が相続財産を増加させるオマケ付です。
6. 同族法人との金銭の貸し借り話は変わりますが、親子ではなく同族会社との間でも金銭の貸し借りはよくあるもの。ご注意頂きたいのは、個人と法人では税務上の取り扱いが異なる事です。法人が貸主、個人が借主の場合、必ず利息を支払わなければなりません。法人は税務上あくまで利益を追求するための組織。無利息で特定の個人のために利益を放棄するなど許されないのです。しかし、逆に個人が貸主、法人が借主なら必ずしも利息は必要ありません。何億円もの多額の場合は別として、法人が無利息で得をすることについては、特段のお咎めは無いのです。むしろ経費となる利息が無い分、利益が出て課税対象額が増えるので税務署も喜ばしい位です。が、こんなお客様も。ご丁寧に会社として資金繰りに窮しながらも何年にもわたり利息を計上なさっていたのです。結果、会社の未払い利息分が個人としては未収金として相続財産を形成していたのです。借りても貸しても税務上は色々な問題が出てきます。ご利用は計画的に、返済計画は慎重に!
2009年11月30日
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5209号
税理士として安易には勧められない相続税の納税猶予
事業承継に関連して、相続税の納税猶予の制度が新設されています。とりあえず税金が少なくなるのは結構な事、と言いたいところですが、残念ながらそれ程単純な話ではありません。結論として、税理士としては積極的にはお勧めができません。リスクをご承知で実行されるのなら、敢えて反対はしませんが、制度に改良の余地はまだまだありそうです。
1. 制度の概要まずは制度の概要から。原則として、一定の事項を実際の相続前に、経済産業大臣に確認を受ける事が必要です。これにより、相続した同族会社の株式について特別の計算がなされ、相続税の納税を一部猶予してくれると言うものです。但し、これは猶予であって、一定の条件を満たして初めて税金が免除される事になります。何やら農地を相続した際の納税猶予を彷彿とさせるものがありますが、基本的な考え方は同じです。中小企業対策として、相続税が原因で事業承継がスムーズに行かなくなる様な事態を回避するために、今年から設けられた制度なのです。
2. 猶予される税額は?では、どの位の税額が猶予されるかですが、ケースにもよりますが、意外に少額な事が多いようです。解り難いのですが、敢えて書けば“相続により取得した議決権株式の内、相続開始前から既に保有していた議決権株式を含めて、発行済議決権株式総数の2/3に達するまでの部分の株式”と言う事になります。計算の詳細は省きますが、納税猶予を受けようとする株式の他に、不動産やら現預金が多額にあると、その効果は半減され、がっかりするような金額になる事もあり得るのです。
3. 更にがっかりは、資産管理会社等は対象外さて、本当に生きた会社の株式なら勿論問題はないのですが、読者の中にはいわゆる製造業や小売業ではなく、不動産をお持ちの会社やそれを管理している、言ってみればペーパーカンパニーの方も多いと思われます。残念ながら①『資産保有型会社』や②『資産運用型会社』は対象外になっています。正確な表現ではありませんが、敢えて簡単に言い切れば、①は現預金や自ら使用していない不動産(貸付用等)、有価証券等の財産が全体の財産価額の70%以上の会社。②は上記①の財産の運用収入が総収入金額の75%以上である会社を言います。つまり、会社の財産の大半が貸付用の不動産で、その運用で賄っている会社の株式については、この制度の適用はないことになる訳です。但し、次の総てを満たす場合には、①や②に該当しない事とされています。(ア)常時使用する従業員の数が5人以上である事(イ)常時使用する従業員が勤務している事務所、店舗、工場その他これに類するものを所有し、又は賃借している事(ウ)相続開始の日までに引き続き3年以上にわたり、商品の販売等を行っている事。形式で判断するのではなく、あくまで事業の実態があれば、認定の対象にはなるのですが、どんなに規模が大きくても、単純な賃貸業では適用はありません。
4.更に厳しい条件がつきます!更に厳しいのは、この規定、事業を承継し継続する事が本来の趣旨。従って相続後にも様々な条件が待っています。もし条件を満たせなくなれば、当初経済産業大臣から受けていた認定は取り消され、猶予されていた相続税を納めなければならないのです。で、その条件ですが、相続税の申告期限から5年間、代表者の氏名から始まって、常時使用する従業員の数、株主構成、会社としての該当性等々を経済産業大臣に報告し、その後は3年毎に税務署への報告が義務付けられています。
中でも厳しいのが事業継続条件ですが、次のいずれか一つに該当すれば、認定取り消しとなります。主なものとして、当初5年間に①事業を承継した相続人が代表者を退任②常時使用する従業員数が80%未満になった事③事業を承継した相続人とその同族関係者で有する議決権割合が50%以下となった事。④事業を承継した相続人が猶予を受けた株式の全部又は一部を譲渡した事⑤事業を承継したその会社が解散や倒産した事等々です。
とりわけ注意すべきは②で80%の雇用を維持しなければならず、5人の場合2人辞めた時点でアウトです。また、何かの事情で会社が資産保有型や運用型の会社になっても適用除外。
5. 税理士が何処まで責任をもてるのか?もし相続税の申告にあたり、税理士が気軽にこの制度を勧め、お客様が実行していたらどうなるのでしょう。その後の会社を取り巻く状況の変化に社長が交替する、従業員数をやむなくリストラで減少させる等々認定取り消しの要因が現実化した時を考えて下さい。こんな細かな条件をお客様である事業承継者が知るはずもなく、“先生が教えてくれなかったからだ!”となるのは必至です。
納税猶予が認められなくなれば、その時点で猶予されていた相続税額を一時に支払い、併せてそれまでの利子税相当分も納める事を意味します。税理士として、安易にはお勧めできません。2009年10月30日
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5208号
税務署の手打ち?
今までこの稿で何度か取り上げた『広大地』評価。この適否をめぐり、税務署の態度が迷走しています。今回は一度は駄目だと言って更正処分までしておきながら、こちらが本気だと知ると、態度を豹変。広大地の適否は良くも悪くも担当者次第のようで…。
1.事案の概要埼玉県の、とある税務署に相続税の申告をした時の事です。お客様は農家の地主さんで、郊外でもあることからお持ちの土地は総て広大なもの。そのどれもが相続税法で言うところの『広大地』に該当しそうなものばかりでした。外野からの情報も色々お持ちなのでしょう。相続人の方も、申告に当たってこちらから広大地のご説明をするまでも無く、先刻ご承知でした。図Aを含み自信のある3件についてだけ、想定される開発図面を添えて広大地として申告を行ったのです。
2. 土地の特徴ここで広大地を適用した土地の特徴を簡単にご説明しておきましょう。3件の内2件は2,000㎡を超え、他の1件も900㎡で周辺はいずれも住宅地です。鑑定士の力も借り、精緻な現地調査を終えて作成したのが図Aの図面なのです。ご覧頂ければお分かりの通り、極めて常識的、合理的で無理なものではありません。全体としてもこれなら綺麗な町並みを保てます。ただ、3件とも2方ないし3方を道路に囲まれていて、税務署に付け込まれる余地はあったのかも知れません。結論から言うと、図Bのような旗竿地にすれば、多少見かけは悪くても、道路を全く入れずに開発ができると言うのが税務署の主張です。このように開発道路が不要な土地は広大地に該当しないのです。
3.当初は1件否認で決着の兆し、が…そんな中、財産規模も大きいため想定どおりに税務調査です。当方も自信満々で臨んだ調査でした。が、広大地を3件も適用したのが気に食わなかったのか、遠慮がちに1件だ けを否認する形で修正申告のお勧めです。1件だけでも修正させて実績を作りたかったのでしょう。勿論ガンとしてはねつけました。そうこうしている内に担当者が転勤です。運悪く新任者は端から聞く耳持たず、1件どころか3件総て否認の態度です。理由を聞いても根拠は不明、図Bの区画割で対応できる、の一点張り。修正しなければ更正するだけと高飛車な態度です。取り付く島がないとはこのことでした。
4.異議申立ては?セレモニー〝?売られた喧嘩は買うのが江戸っ子、すぐさま〝異議申立て?です。が、これは更正処分をした税務署に対してするもの、担当官が変わりはするものの、所詮同じ穴のムジナです。結論が変わる事などほとんどなく一種のセレモニー、全く期待もしていませんでした。本当の戦いは、次の段階である『国税不服審判所』での審査請求だと腹をくくっていたのです。ところが何と初めから話し合いの様相、当方に擦り寄ってくるではありませんか。実は異議申立ての段階で、仮に広大地が適用できない場合でも、減価要因となる面大地としての鑑定書を添付し評価が下がる事を指摘しておいたのです。
5.メンツに拘る税務署の手口ないと判断したのではないでしょうか。更正処分は税務署長の名で行うものの、真に納得しないまま、現場責任者の勢いに押され判を押す事もあるもの。しかし、万一審判所で負けでもしたら、それこそ沽券にかかわります。そこで、増差が1/3に減額するものの、当初の申告と更正処分の額の間の鑑定価格で手打ちをしませんか、と言うお申し出です。矢尽き刀折れるまで戦う覚悟ではありましたが、お客様のご意向で戦いはここまで。但し、最後までメンツに拘るのが税務署です推測の域をでませんが、税務署もこんな根拠のない強引な更正では、不服審判所では勝て。当方の主張を一部認める形ではなく、一旦異議申立書を取り下げさせ、税務署の自主的判断で新たな更正という体裁。税金が戻れば、ま、良しとするか!
2009年9月30日
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5207号
申告も、納税までもしていても…
税務署に適正な申告をし、納税も済ませていた事案がありました。本来はこれ以上、何のお咎めもないはずなのですが、税務署の論理は通常人にはとても理解が出来ません。こんな状況下で更なる納税を強いられたお客様のお話です。
1.源泉徴収制度の概要源泉徴収制度は読者の皆さんも良くご存知の事と思います。サラリーマンの場合なら、給料から天引きされる例の徴税方法のことです。実は源泉徴収の制度は給料の天引きだけではないのです。 個人事業の形態の税理士や弁護士に報酬を支払う際にも一定額を源泉として徴収し、税務署に納めなければならないのです。仮に源泉の税率が10%だとしましょう。本来の報酬が10万円だとしたら、その内1万円を源泉徴収し、差し引きの9万円だけを支払うことになるのです。勿論1万円は支払う人が税務署に源泉税として納めるのがこの制度なのです。お給料については会社がそれをやってくれているのです。
2.海外在住時に国内の土地を売却したら…仕事や勉学で海外に1年以上在住するケースも昨今では珍しくありません。税務上それらの人を『非居住者』と言い、通常とは別の扱いをすることになっています。いわば、税務上の外国人扱いなのです。非居住者の場合でも、日本の国内で得られた所得については我が国の税務署への納税が必要です。更に海外在住中に日本国内の土地を売却した場合、損得に関係なく売買価額の10%の源泉徴収が売却時点で必要なのです。もっとも買主がご自身の居住用等のために購入する1億円以下の場合、その必要はないのですが…。つまり、非居住者になってしまうと、上記1の税理士・弁護士等のように、土地の売却時点では代金の満額は手に出来ず、確定申告をして税額を精算する事が義務付けられてしまうのです。
3.非居住者の申告のご依頼を頂いてさて、昨年のことになりますが、母子で共有の土地を売却され、その申告のご依頼を頂いたときのこと。ご子息がお仕事の関係で海外赴任され、正しく上記の非居住者だったのです。つまり母の分は別として、ご子息分は源泉の対象となる売買だったにも関わらず、通常の代金決済をしておられた事案でした。既に契約も代金の決済もお済で、申告手続きだけをご依頼頂いたのです。税金を納める母子の側からすれば、源泉徴収がなされていなくても、相応の譲渡税を払えば済むだけの話。 当方としても何らの躊躇もありませんでした。
適正な申告をした上で納税も済ませたのです。法律に違反したことと言えば、買主である会社が非居住者であることを知りながら、源泉税の徴収を失念したことでしょうか。くどいようですが、源泉はなされなかったものの、結果的には適正な税額が納税までなされ、問題はないものと思っていました。
4.源泉徴収の本来的な意味ここでちょっと、源泉徴収の意味を考えてみましょう。結論から言えば、予定通りの納税がなされればこんな制度は不要です。しかし、世の中は正直者ばかりではありません。となれば、給与が支払われた時点、非居住者が土地を売却した時点で最低限の税収は確保しておいた方が無難と言うものです。勿論源泉税額は確定した税額ではありません。事後の調整が必要ではありますが、とにもかくにも最低限の税収が確保できる利点はあります。また、国庫に税金が納入される時期としても、確定申告を待たず、年の途中で入る訳でその意味でも国側にとって優れた制度ではあります。
5.買主の法人の税務調査前述の母子の申告が終わって1年以上経過したある日、買主の法人から当社へ連絡が入りました。 その法人に対し税務調査があったようなのです。そして調査の課程で源泉徴収がなされていないことが発覚、税法に抵触し源泉徴収義務違反との指摘を受けているとの事なのです。従って、今からその法人として、本来の源泉税を税務署に納める事を要請されているそうです。
そして非居住者であるご子息には、源泉された旨の書類を添付した上で申告のやり直しをし、還付された税金をこの法人へ戻して欲しいと言うのです。ただ、この法人の資金繰りの悪化から、とりあえず源泉税額を立て替えて欲しいと言うのがご依頼の趣旨でした。
6.信じられない税務署の実績主義何で税務署はこんなことを要請するのでしょう。事は全て適正に完了し、納税まで確認されているのに、です。その心は税務署の実績主義だけです。
つまり、この法人に対し、源泉徴収義務違反として源泉税の不納付加算税及び延滞税の課税ができ、それがこの調査官の調査の実績となるからなのです。こうなると源泉徴収の意味も、本来の申告納税制度への信頼も何もありません。
税理論としては税務署のおっしゃる通りですが、こんな事を続けていたら税務署への信頼感の喪失を助長させるだけにならないのでしょうか。2009年8月31日
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5206号
消費税の還付は調査を呼び込むが…
建物を建てたり、機械設備を導入した場合、それに伴って高額な消費税を支出することになります。しかし、申告の仕方によっては、その消費税が還付されることもよくあること。税金が戻って来るのは嬉しいのですが、その前には確認の税務調査が待っています。調査とは言っても、適正な処理をしていれば恐れる必要はありません。むしろこんな具合に還付額が増えることだって…
1.税務署の懐事情か、近頃は少額でも調査が税務署は税金を取るばかりが仕事ではありません。事前に納めた税額が本来の税額より多ければ、当然の事として差額は還付されます。しかし、還付となるとどうも必要以上に税務署の神経を刺激するのでしょうか。いくら詳細な説明資料や証拠書類を消費税の申告書に添付しても、近頃は数十万円を越えると確認のための調査になっているようです。消費税の確認だけなら問題は無いのですが、そこは税務署。実際には通常の法人税や所得税の調査に発展し、余計な部分も確認の対象となってしまうことは覚悟しなければなりません。
2.消費税が適正でも他の間違いを探すのが仕事消費税の還付をめぐり、ある法人の調査があった時の事です。個人の賃貸建物5物件を表イのとおり、自分の法人へ売却し建物を法人所有にしたのです。その際の法人として還付される税額が900万円を超えることから調査に選定されたようです。消費税自体には何も問題は無かったのですが、これでは彼らも仕事になりません。次は法人税の確認で、何とか誤りを探すべく必死の作業。
その結果、物件Eについて次の指摘がなされました。収入の計上が5月からなのに減価償却の開始が4月なのは不都合。1ケ月分の償却費を訂正しろとの仰せです。もう開いた口がふさがりません。減価償却は賃貸業務を実際に開始できる状態になってからできるもの。空き家になっていても、賃貸できる状況で実際に募集もしていれば、当然に償却はできるのです。
3.売買時期の問題点不動産の実務を知らず、税法についての正しい知識も欠如している調査官でした。単なる“増差主義”(調査で当初申告の間違いを発見し、税収を増加させることが税務職員の実績となること)のために1ケ月分の是正を迫る姿は痛々しいほど。こんな不毛な議論は避けたいというのが当方の品格、と言うか大人としての対応です。それならもう一度原点に立ち戻る意味で、問題の物件Eの売買時期を再考したのです。売買契約書上では『売買代金の授受を行った日』となっているにも関わらず、収入の計上はそれより早い5月、そして前述の償却の開始は4月です。
何故このような処理をしたかというと、4月に頭金も充当し、入居者へは通知済み。当時借入れ利率の関係で、融資の実行を先延ばしにした方が有利だとの銀行の助言もあったのです。しかし、当方にもミスがあったことは否めません。
4.課税売り上げ割合のマジック上記のような状況を踏まえて、総てを契約書記載のとおり所有権移転、賃貸人の地位の変更月を売買代金授受の9月で再計算を行ってみました。すると、法人としては収入も減る代わりにほぼ同額の経費が減少し、差し引き数万円の差額しか生じませんでした。更に、これが決定的なことなのですが、消費税の還付金額が増えてしまうのです。そのからくりは次のとおりです。
細かな仕組みは一般の方には退屈な話なので、ここで詳細は申し上げません。ただご理解頂きたいのは、消費税には同じ家賃であっても、店舗や事務所等のように課税の対象となるものと、住宅用のように非課税のものとがあることです。そして、両者が混在している場合は、課税の対象となるものの割合を算出。その割合が多ければ多いほど、還付金の金額も増えるという仕組みなのです。そこで、問題の物件Eですが、これは全室居住用のため消費税は非課税。9月にすると課税割合が増加し、何と還付金が200万円も増えるのです。
5.税務署の不思議な対応これに気づいてからは、当方も方針を大転換。税務上適正な9月に訂正するから還付金を増額してくれるように要請したのです。税務署とは面白い所で、こうなると減価償却を含め当初のままで結構ですとの主張。いやいや、間違ったのはこちらです、適正な処理に直しますので還付を!以来、攻守ところを変えた戦いが半年も続いています。
2009年7月31日