御入場
この稿の筆者の友人に、結婚式場専属の披露宴司会者(英語ではmaster of ceremony=MCという)を職業にしている女性がいる。その人と話していたとき気づいたこと・・
まず、下記の文の内、日本語として正しく、且つ披露宴の場に相応しい言葉はどれか。
1. 新郎新婦が御入場されます
2. 新郎新婦が入場されます
3. 新郎新婦が御入場なさいます
4. 新郎新婦が御入場いたします
5. 新郎新婦が入場いたします
正解は、5である。
1は、日本語として間違いである。「切符をお切りする」「お客が御来店する」「貴方のご希望される色を選べます」等は全て誤り。「切符を切る」「お客様が来店される」「貴方のご希望の色を選べます」が正しい。以前本欄でも書いたことなので理由は省略する。
2と3は日本語としては正しい。4も形式的には文法違反ではない(「私がご案内いたします」は正しい例)。では、なぜこれらが文法的には正しくても、披露宴に相応しくないのか。
要は、披露宴の主催者は誰か、へりくだるのは誰で、敬語を使って持ち上げるべきなのは誰なのか、という問題なのである。
我が国では、結婚披露宴の主催者は、かつてはだいたい新郎新婦の属する家であった。
案内状の文言には、「この度○○(新郎父)の長男×太郎と△△(新婦父)の三女×子の婚儀が整い・・つきましてはささやかな小宴を催し・・」とか書いてあった。最近では、結婚する新郎新婦自身が披露宴の主催である場合もある。が、披露するのは新郎新婦側で、披露されるのはお客様であることにかわりはない。
友人主催によるパーティーの場合もあるが、この場合でも新郎新婦はお客様ではない。
よって、結婚パーティーにおいては、司会者というのは主催者の僕(しもべ)であるのだから、敬語を使って持ち上げるべきなのはお客様であり、へりくだって表現すべきなのは主催者側(新郎新婦もふくめて)であるという公式が成り立つ。故に正解は5なのである。
従って、お開きの挨拶も、「両家を代表いたしまして、新郎父○○より一言皆様にご挨拶を申し上げます」となる。
一方で、招かれたお客の側には、自分をへりくだってご両家ならびに新郎新婦を持ち上げる敬語、丁寧語使いが求められる。「この度は、ご新郎×太郎君、ご新婦×子さん、そしてご両家の皆様、まことにおめでとうございます」「只今お二人の御入場になりましたお姿を拝見いたしまして・・」などという言葉の使い方をする。
この稿の筆者が問うたところでは、友人の女性は概ね3を用いているようだ。これは彼女が会場従業員であることに由来するらしい。披露宴会場にとっては、主催者はお金を払ってくれるお客様。だが、司会者は、主催者の代理人である。断然3は間違っている。
2014年12月1日