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今月の言葉

2025年6月30日

アスパラガス

 私事であるが、その昔この稿の筆者の自宅の庭に、ポショポショした平たい、見た目クリスマスツリーのような格好をした草が生えていた。母親が、「これはアスパラガスなの」というのだが、食卓に上る幹の太い緑色の野菜とこの草とがどうにもつながらなかった。それでも戦後まだ間もないころで、アスパラガスは高価ななかなか家庭で食べるのが難しい野菜だったから、筆者はこの草がいつかあのアスパラガスに成長するのではないかと期待していたのだが、残念ながら草はいつの間にか芝生の間にまぎれてしまい、庭のアスパラガスを家庭で食する夢はかなわなかった。この稿の筆者がはじめて親許を離れて、自炊体制に入った日につくった料理というのが、アスパラガスとベーコンの炒め物、スクランブルエッグとトースト、コーヒーというもので、心のどこかでアスパラガスへの執着が残っていたのかもしれない。
 アスパラガスは学名Asparagus officinalis、和名はオランダキジカクシ(和蘭雉隠)。原産地はヨーロッパの地中海沿岸のどこか。ローマ時代の紀元前2000年ごろには栽培されていた記録があるとのこと。その後ヨーロッパ各地で栽培が広がった。北米には1620年の移民とともにもたらされ、東部地区やカリフォルニアで栽培されるようになり、一大産地となった。i 日本には江戸時代中頃にオランダ船によってもたらされたが、当初は観賞用で、食用として利用、栽培されるようになったのは、明治期、北海道開拓使が導入してからのこととされる。
 さて、ご承知のようにアスパラガスには、緑色のものと白いのと二種類がある。同じアスパラガスなのだが、前者は自然に太陽の光を浴びて育ったもの。後者はわざと生育中に土をかけて直射日光が当たらないようにしたものである。現在でもそうかもしれないが、ホワイトアスパラガスを水煮して缶詰にしたものは、自然に生育して野菜として店頭に並べられているものに比較して、かなり高価なもので、子供のころはなんとなくカニ缶などと並んで贅沢品という印象が強かった。
 欧州とくにドイツ、オーストリア辺りではこのホワイトアスパラガスをSpargel(シュパーゲル)と呼び、日本の筍同様春の味覚として珍重する。この稿の筆者は5月連休にウィーンに滞在したことがあるが、郊外のホイリゲ(新酒という意味だが、それを供する居酒屋もホイリゲと呼ばれる)の野外のテーブルでさわやかな春の風に吹かれながら、ホワイトアスパラガスのサラダにオランデーズソース(卵の黄味とバターでつくったマヨネーズのようなソース)をかけたものを肴に、冷えた白ワインを飲んだのは、筆者生涯の思い出の一つである。
 一方、緑のアスパラガスについては、ベーコンやソーセージなどの豚肉類と相性が良い。
 同じウィーンには、ウインナー・シュニッツェルという紙のように薄いカツレツ料理があり、これなどもアスパラガスを添えていただくと、なかなか乙にいただける。(このカツレツには、濃い味のソースはかけずに、塩とレモンだけをかけていただくのがよろしい)
 緑アスパラガスは、茹でる、炒めるももちろん良いが、この稿の筆者は、油を一切使わずにトースターか炭火で少し炙った緑アスパラガスに、削り節と醤油をパラパラとかけていただくのがおいしいと思っている。生ビールのつまみとしても最適なので、読者の方にもぜひお試しいただきたい。
 アスパラガスの産地は、北海道、長野、福島などが知られている。国内では北海道が第1位の収穫量で、全国の16%を占めている。本稿が出る頃には道産品が最盛期を迎える。


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