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今月の言葉

2018年8月1日

入試改革

太郎は、小学校に入った頃から、「ものの名前」を知るのが好きであった。動物、植物、昆虫、それに恐竜、いろいろな図鑑を買ってもらっては、名前を覚え、周囲にも語った。特に好きであったのは昆虫で、毎年夏休み、母方の田舎の実家に行き、虫籠を持って野山に出かけるのが一番の楽しみであった。母方の祖父は農家を営んでいたが、ゲームやテレビに夢中の最近の子供達の中で、太郎は感心な子だと言い、太郎が捕獲してきた野山の虫について、自分の知っていることは何でも教えてくれた。ファーブル昆虫記も買ってくれた。小学生の頃は祖父が太郎のほんとうの先生であった。太郎は、偶然から、中高一貫の学校に進んだ。太郎の次の先生は、生物部の5年先輩で、もうその頃は高校生であったのだが、太郎達後輩に、遺伝子やDNAのことを詳しく教えてくれた。太郎は、虫たちを分類するだけではなく、個々の虫の足が生えるメカニズムを考えることを知って、はじめて「学問」に目覚めた。 それまで太郎は、あまり勉強が好きではなかったが、この遺伝子学というものなら、

 自分も大学に行って楽しく学べるのではないかと思った。今、太郎の志望校は、かつての生物部の先輩が進んだある地方の大学で、そこには日本で最高のDNA研究センターがあるらしい。そのセンターの研究員となり、先輩と一緒に研究をすることが、今の太郎の夢である。

次郎は、テレビゲームの好きな普通の少年であった。すこし、負けず嫌いで、遊び、ゲーム、勉強なんでも他の少年に勝ちたい、という気持ちが強かったので、小学生の間、勉強することがあまり苦ではなかった。近所の塾に行くようになっても、毎週テストの成績が発表される瞬間がいつも楽しみで、たまに他の少年に負けることがあると、目から火が出るほど悔しがった。塾の先生に「君なら有名校も夢ではない」と励まされ、次郎は中高一貫の学校に進んだ。中学生の間は運動部に入ってみたりしたが、チームの中で一人足を引っ張る部員がいると試合に勝てないというのがどうも理不尽な気がして、やめてしまい、高校生の現在は将棋愛好会でゆるく暮らしている。次郎の場合、学校の成績は良い方で、予備校の模試では、たいがいの大学には受かりそうなスコアが出ているのだが、目下の所どうしても行きたい大学というのがないのが、悩みである。偏差値の高い大学に行けば、その先に「勝ち組」の人生が開けると漠然とは思っているのだが、目の前の大学受験をクリアした後で、勉強に向かう動機が自分の中で維持できるか、自信はない。

 文部科学省は、2021年度から始まる高大接続改革(いわゆる入試改革)において、これまでの「知識、技能」を測る入試から、「思考力、表現力、判断力」「協働して学ぶ態度」も測る新しい入試の方向を打ち出している。試験という枠組みで、どのようにして計量化しにくい能力を測ることができるか、きわめて難しいとは思う。が、改革の方向としては間違っていない。それは、今まで次郎のような少年を中心に出来上がってきた入試の仕組みの中で、太郎にも、もっとチャンスを与えようという考えに他ならない。これからの中等教育の目標の一つは、生徒達にいかにして「立志」を促し、「やりたいこと」を見つけさせるかということになるだろう。