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今月の言葉

2018年9月1日

サンドイッチ

はじめに、サンドイッチの由来を少し語る。

 サンドイッチは英国ケント州の地名。その地の領主第四代サンドイッチ伯爵は、英国海軍大臣などを歴任した政治家。遠洋航海による世界探検にも熱心で、キャプテン・クックのハワイ航海の支援者。ハワイのことをサンドイッチ諸島とも言うのは、この伯爵に由来する。さて、政治家だから政敵がいる。この人の場合、ウィルクスという執拗な政敵がいて、その者が「伯爵は食事も顧みないで、パンに肉を挟んだものを食べながらトランプ賭博にふけっている」というスキャンダル情報を流したのだそうだ。その際、伯爵はパンに肉を挟んだものを「サンドイッチ」と呼んでいるとまで言ったのかどうか、ウィルクスの誹謗が端緒となって、既にその頃英国の家庭で普及していたパンに肉を挟んだ軽食のことを「サンドイッチ」と言うようになったのだとか。

 ところで、伯爵はトランプをしたかったのだから、サンドイッチは当然もう一方の片手で食べなければならない。今日のサンドイッチ専門店で供されるような具沢山で、両手でパンを押さえて食いついてもどうかすると具が飛び出してくるようなサンドイッチを食べていた訳ではあるまい。おそらくは、英国流の薄パンにローストビーフでも挟んで(マスタードをつけて)食べていたのではないか。

 インドのナン、メキシコのタコス、イタリアのカルツォーネなど、既にこの頃普及していた同種の軽食類も、概ねは穀物を練った薄い皮に具材を包んで食べやすくしたものから発達しており、具沢山型ではないように思える。一方で、近年この種の軽食類は、どんどん具沢山型が増加しているようだ。何より具沢山の元凶とも言うべきハンバーガーについて考察してみよう。最近のハンバーガー・チェーンで売っている各種の商品は、概ね二段の肉と野菜類等他の具との取り合わせになっており、この稿の筆者はどうしても上手に食する事が出来ない。中身を籠の上にこぼしながら、食いつくごとにまた中身が反対側に飛び出ることを繰り返している。おかずの半分くらいは、パンを食した後で、プラスティックのフォークで籠の中からつついて食べている。サンドイッチ屋についても、昨今のチェーン店の商品を、一口でかぶりつくのはなかなか難しい。一方ホテルや高級レストランのものは、概ね伯爵時代の薄型を守っている様に見える。ホットドッグについて述べると、米国の野球場のホットドッグなどは、あまり上等でない半割のドッグロールに巨大ソーセージが納まりかねていて、ケチャップ、マスタードがぽたぽたこぼれる態のものである(ドイツの鉄道駅では、上等なパンに縦穴が空いていて、ソーセージがすっぽりとパンの中に納まるスマートなものがある)。

 具沢山型は昔からあったのだが、これほど普及したのは、概ね第二次大戦後くらいではないか。その理由は、末端の価格の安い軽食堂(チェーン店を含む)における「お値打ち感」の競争にあるのではないだろうか。さらに、世界全体がリッチになったことにより、食事における惣菜比率が上がり、穀物比率が低下したのも、具沢山型の普及を促しているように思える。だが、サンドイッチの要諦は軽食簡便である。望むらくは、片手で食せる薄型サンドイッチの存命に期待したいものだ。