54号
家族の間だからこそきっちりと
~家族に贈与や貸付けをする際の注意点~
1.預金の贈与を行う時の注意点
毎年コツコツと家族へ贈与を行うことで、生前にご自身の財産を家族へと移動させるという相続税対策があります。毎年の贈与額はそれほど大きくなくても、塵も積もれば山となるもので、10年20年と続ければ意外に大きな節税効果を生むものです。
このように毎年行う贈与の場合には、預金を家族名義の口座へ移動させる方法が多く見受けられます。ただし、その預金の移動が贈与であることを説明できないと、せっかく移動させた預金も、「家族への貸付金」や「名義預金」と認定されてしまい、贈与をしたつもりが、ご自身の相続財産になってしまう恐れがあります。
そうならないために、次のポイントをおさえることにより、本当に贈与が行われた実態を税務署に対して説明できるようにしておくと安心です。
① 贈与契約書を作成すること
② 贈与を受けた人が通帳や印鑑の管理を行い、預金を自由に使用できる状況になっていること
贈与は、贈与をする人の一方的な意思だけでは成立しません。贈与する人の「あげます」という意思と、贈与される人の「もらいます」という意思の両方があって初めて成立します。贈与契約書を作ることにより、贈与する人とされる人の意思が確認されていること、そして「いつ」「誰が」「誰に」「何を」「どれだけ」贈与をしたかを明らかにすることができます。
さらに、契約書という形式の他、贈与を受けた人が口座の管理を行っているという実態を兼ね備えていれば贈与があったことの証明になります。
2.貸付をする際の注意点
逆に、貸付けたつもりが贈与と認定されてしまう恐れのあるケースもあります。
例えば、子供がマンションを買うにあたって、親が購入資金を貸してあげたとします。本当に貸付けであれば何も問題ありません。しかし貸付けとは名ばかりで、実は贈与だったということになると、子供の方は贈与税を払わなくてはなりません。
親族間でお金の動きがあった場合、それが贈与ではなく貸付けであることを証明するにはどのようにすればよいのでしょうか。ポイントは次の2つです。
① 金銭消費貸借契約書を作成すること
② 金銭消費貸借契約書に記載された返済方法どおりに返済を実行すること
金銭消費貸借契約書には、実行可能な返済方法を記載することが重要です。例えば月収30万円の子供が、毎月5万円ずつ返済をすることは可能と考えられます。しかし、月収30万円なのに毎月50万円も返済をする、というような実行が困難な返済方法を記載した金銭消費貸借書を作成しても、貸付けとは認められません。
契約書を作成したらそれで終わりではありません。契約書どおりに返済を実行しましょう。返済がされている証拠を残すため、振込みにより返済をすると良いと思われます。振込みという形態をとることにより、税務署に対し説明しやすくすることができるからです。ただし、振込みさえすれば良いということでは決してありません。
また、金銭消費貸借契約書を「公正証書」にすれば安心、とお考えの方もいらっしゃるようですがそれも大きな誤解です。結局、公正証書であろうがなかろうが、振込みをしようがしまいが結論は同じで、貸付けであるため返済しているという「実態」が重要なのです。
贈与にしろ貸付けにしろ、「実態はどうか?」がポイントです。いくら形だけを整えても税務署の目はごまかせません。せっかく実行したことが水の泡とならないよう、慎重にご検討下さい。
2005年12月15日