資産管理会社などの非上場会社の事業承継を検討する際に最も重要な検討事項の一つが相続税等の税金対策です。資産管理会社のように常に黒字が見込まれる会社は株価が上昇し続けるため、株式の移転時における税負担が年々増加する傾向にあります。相続税への影響を考えると、株価が低いうちに後継者に株式を渡すことが効果的です。しかし、後継者の年齢が若い場合には多くの株式を渡すことに抵抗感を持つ方も少なくないでしょう。今回はそんな非上場株式の事業承継方法についてご紹介します。
1.事業承継の基本的な考え方
業績が好調な会社であるほど毎期生み出される利益によって会社の財産が増えていきますので、株式の相続税評価額は年々増加していく傾向にあります。このように将来的に会社の株価上昇が予想される場合、株価がまだ低いうちに大部分の株を後継者へ贈与することで、将来の値上がりに係る相続税の負担を軽減できます。また、短期間に大きな値上がりが見込まれるものの、税負担が重い場合は相続時精算課税制度を活用することも有効です。相続時精算課税を適用した場合は相続税の計算に贈与財産が組み込まれてしまいますが、株式の評価は贈与時(値上がり前)の株価で固定されるため、値上がりによる相続税の負担を軽減することができます。このように資産管理会社の株式を計画的に贈与していくことが肝要です。
しかし、家族間で円滑にコミュニケーションが取れている場合でも、税金が安いからといってまだ若いうちに多額の財産を所有させることや後継者が行う役員の選任や解任に対抗できなくなることに対して懸念を抱く経営者は少なくありません。このような場合、段階的に事業承継を行うための方法として、黄金株(拒否権付株式)や属人的株式を活用する手法が有効です。
黄金株や属人的株式は基本的には普通株式と同様の相続税評価額とされているため、黄金株等を活用しても税負担が増加することはありません。ただし、黄金株を後継者以外が所有している場合には事業承継税制が利用できなくなる点には注意が必要です。
2.黄金株を利用する場合
黄金株(拒否権付株式)とは、会社の重要な経営方針等を株主総会等において決議する際に、通常の株主総会の決議に加え、黄金株を持つ株主だけの株主総会での決議が必要となる株式です。この株式は事実上の拒否権を持ち、役員の選任や解任、報酬の決定、重要な財産の譲渡、新株の発行など多岐にわたり任意の拒否権を設定することができます。現社長が普通株式の一部を黄金株に変更して残りを後継者に譲渡することで、重要な経営判断に現社長の同意が必要となります。
これにより通常の業務は後継者に任せつつ、重要な経営判断が必要な事項については現社長の承認が必要となる体制を作ることが可能です。ただし、黄金株の導入には登記が必要であり、強力な権利を確保しているため、取り扱いには注意が必要です。例えば、現社長が保持する黄金株が相続により後継者以外の相続人に渡ると後継者が重要な決定を下すことができなくなる可能性があります。
したがって、黄金株が常に設定されている状況は望ましくありませんので、時期を見て普通株式に変更したり、遺言を通じて後継者が黄金株を確実に相続できるような出口戦略を考えることが重要です。
3.属人的株式を利用する場合
通常は株主平等原則から、株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱わなければなりません。しかし、非公開会社では株主平等原則の例外として剰余金配当請求権、残余財産分配請求権、株主総会の議決権については定款で株主ごとに異なる取扱いを定めることができます。同族法人内においては、議決権以外の権利についてはみなし贈与として課税されるリスクがあるため、実務的には議決権について利用されることが多いと思われます。
属人的株式が普通株式や黄金株と違う点は株式ではなく、株主に対して特別な権利を与えている点です。例えば現社長が所有している株式の議決権を1株につき100個の議決権と設定すると、99株を後継者へ贈与しても議決権上は100個(1株)対99個(99株)となるため、経営をコントロールしやすくなります。そして属人的株式が設定された場合、黄金株とは違い、現社長から後継者以外の相続人に株が渡ってもその権利は引き継がれません。前述したように属人的株式は株主に対して付与される権利であるため、相続が生じ、相続人が取得した上記の株式は普通株式1株(議決権1個)として取り扱われます。
属人的株式の利点は次の二点があげられます。一つは、定款で定めるだけで導入できるため、黄金株より導入のハードルが低い点です。二つ目は、生前に株式のほとんどを後継者に渡していれば被相続人が所有している株式は少数であり、誰の手にわたっても後継者が安定的に会社経営をすることができるため、黄金株よりも出口戦略が比較的容易に描ける点が挙げられます。
4.まとめ
黄金株と属人的株式はどちらも事業承継に役立つ手法ですが、導入する際には出口戦略も含めた慎重な計画が必要です。したがって事業承継を検討する際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。