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COLUMN
毎月職員が交代で執筆しています。
ただ、自分の順番が回ってくると、
その対応は様々です。
税務のプロとして、日頃の実務や研究の成果を
淡々と短時間にまとめる者、
にわか勉強で急に残業が増える者、さて今月は…
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112号
核家族という状況から見た小規模宅地等の課税の特例
~親と同居していない子供が取得する場合への影響~現代の日本は核家族化が進んでいるとよく言われます。子供が親から独立している状況下では、小規模宅地等の課税の特例のうち、税制改正後の居住用宅地等の特例の利用を考えると非常に厳しい状況にあると言えるでしょう。
1.居住用の特例は、核家族への影響が特に甚大平成22年度税制改正項目のうち相続税への影響として、小規模宅地等の課税の特例についてその概要をVOL.79 2010年3月号にて先日お伝えしたところです。
詳細は割愛しますが、税制改正後の居住用宅地等の特例のポイントは次のとおりです。1.「被相続人が居住していた」というだけでは配偶者の取得分を除き特例は一切利用できません。
2.配偶者以外の相続人の取得分に特例を利用するには、相続人は
①同居親族か、
②生計一親族か、
③通称「家なき子」か、
という3つのうちいずれかの要件を満たす必要があります。
3.軽減割合は240㎡まで80%引きです。従前の200㎡まで50%引きという制度は無くなりました。核家族の意義には未婚の子供が同居している場合も含みますが、ここでは、子供はある程度の年齢に達しており、既に結婚あるいは実家から独立して親と同居していない形態の核家族を前提に考えてみます。すると、上記①及び②を満たすことはできず、配偶者以外の相続人が特例の適用を受けるには、③の通称「家なき子」の要件を満たさない限り利用不可ということになります。
③の通称「家なき子」の要件は、次の全てを満たす人です。● 日本に住所を有するか、又は日本国籍を有している。
● 相続開始直前において被相続人の居住用家屋に配偶者及び同居親族がいない。
(つまり、配偶者及び上記①の人がいない場合。)
● 相続開始前3年以内に日本国内にある自己又は自己の配偶者の所有する家屋に居住したことがない。
居住用の持家がない相続人に対する特例であり、これが通称「家なき子」と呼ばれる所以です。つまり、子供が独立している家族を前提とすると、被相続人の配偶者がいる場合には、配偶者が取得する以外は特例が受けられる道は無く、被相続人の配偶者が既に亡くなっている場合には、③の通称「家なき子」に該当する以外は特例が受けられる道は無いということです。
子供が独立後の居住用宅地等の特例範囲
配偶者が健在・・配偶者取得部分のみ。
配偶者が既に他界・・③通称「家なき子」取得部分のみ。ちなみに税制改正前は、次の取り扱いでした。
子供が独立後の居住用宅地等の特例範囲(改正前)
配偶者が健在・・配偶者が土地持分の一部を取得すれば残りの部分も適用可。
配偶者が既に他界・・いずれの要件に該当しなくとも、200㎡まで50%引きが適用可。税制改正によって、誰もが利用できた200㎡まで50%引きの特例が無くなってしまったのです。
2.具体事例上記を前提とすると、2人の子供がそれぞれ持家に居住している場合には、特例は一切利用できません。
特例を利用するためには、子供及びその子供の配偶者は自分が住む家屋を所有してはいけないということです。
3.今後の対応?それでは、今後も特例を利用するためにはどのような対応策があるのでしょうか。いっそ親と同居すれば問題はクリアできますが、税務のためだけに生活スタイルを変化させるのはいかがなものかとも思います。そこで、次のようなことを考えてみました。
1.子供は持家を所有せず、賃貸用(事業用)の家屋のみ所有する。
自宅の購入を考えている場合には土地は子供が購入しても良いが建物は親が購入する。
2.法人を活用する。つまり、実家の建物は同族法人が所有して社宅化してしまう。1.の場合には子供が居住用家屋を所有することを否定するため、区分所有マンションでは利用できず、実質的に戸建住宅に限られます。
2.の場合には同族法人へ土地の賃貸を行うことで、200㎡まで50%引きという軽減を受けられるようになります。
なお、この場合は借地権の課税問題が生じますので、土地の無償返還届出制度などを活用する必要があるでしょう。
4.相続開始前の対策税制改正前は何も考えずとも、被相続人の居住用宅地等は200㎡まで50%引きとなる特例がありました。それが今後は、上述の要件に合致しない限り80%引きの特例の利用も不可であり、50%引きさえなしです。例えば、自宅が都内の一等地というだけで特例が利用できず相続税が発生するようなケースも想定されます。相続税の課税対象者を拡大するという今後の流れの中、相続のための事前対策・検討を誰しもが行う時代になったのかも知れません。
2010年9月15日
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111号
分割協議が整ってなんぼの相続税申告
~財産が未分割の場合の相続税申告~相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内です。相続財産の把握も大事ですが、それ以上に大事なことは遺産分割協議です。分割協議が整っていない場合にはいろいろな税務上の特例を適用することができずに、一旦は多額の税金を納税しなければならないような場合があります。今回は、申告期限までに遺産分割が整わなかった場合の相続税の申告についてのお話しです。
1.未分割の場合の相続税の申告(1)概要
相続税の申告は、原則として、相続人が相続により取得した財産について課税価格及び税額を計算して申告しなければなりません。しかしながら、相続税の申告期限までに分割協議が整わないため、各相続人の取得財産が確定しない場合があります。こういった場合には、各相続人が財産及び債務の金額を法定相続分により計算し、相続税の申告を行うこととなります。
なお、相続財産が未分割の場合には、その未分割の財産については、下記の規定の適用を受けることができません。
①配偶者に対する相続税額の軽減特例
②小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(2)配偶者に対する相続税額の軽減の概要
配偶者が相続又は遺贈により財産を取得した場合には下記の算式により計算した相続税額が軽減されます。
算式; 相続税の総額×①/②
①次のいずれか少ない金額
イ)相続税の課税価格の合計額×配偶者の法定相続分
(この金額が1.6億円に満たない場合には1.6億円)
ロ)配偶者が実際に取得した相続財産の価格
②相続税の課税価格の合計額
したがって、配偶者が取得した財産については、法定相続分までは相続税が課されないこととなります。(3)小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の概要
自宅や商売で使っている宅地については、所有や利用の継続等一定の条件のもと、その評価額を一定額減額することができます。例えば、自宅として利用していた宅地については、最大240㎡までその評価額を80%減額することができます。(4)3年以内に分割できた場合には・・・
では、申告期限までに分割できなかった場合には、永久にこれらの規定の適用が受けられないのでしょうか。申告期限までに分割協議が整わなかった場合には、相続税の申告について未分割の状態で申告書を提出するとともに、「相続開始後3年以内の分割見込書」を提出し、申告期限後3年以内に分割協議が整った場合には、それぞれの相続人がそれぞれが取得することとなった相続財産に基づいて修正申告、又は更正の請求を行う際に、上記の適用を受けることができます。
2.遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書相続税の申告について未分割の状態で申告書を提出していた場合において、申告期限から3年を経過してもなお分割協議が整わなかった場合にはどうなるのでしょうか。何の手続きもしなければ、その後に分割協議が整ったとしても、もはや上記1.(1)①~②の規定を受けることはできません。しかしながら、申告期限後3年を経過する日から2月を経過する日までに「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を所轄の税務署長に提出し承認を得ることにより、その適用期間を延長することができます。
3.当事者同士の話し合いが重要です!配偶者に対する相続税額の軽減・小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例、どちらも相続税の申告上、非常に重要な特例です。当初の申告の際にこれらの特例が受けられるかどうかにより用意すべき納税資金の額が大きく異なりますし、相続した土地の売却の有無、納税後の財産の手残り等、様々な点に影響が生じます。
税務上、事後的に特例の適用を受けるための救済措置はありますが、できればこんな手続きを使わないに越したことはありません。
相続財産は限られており、すべての相続人が納得いくような分割は実際問題としてなかなか難しいものです。また、トータルでの相続税の負担が一番低くなる分割案が必ずしもすべての相続人にとって納得のいく分割案になるとは限りません。財産の話ですからなかなか話しづらいかとは思います。かといって下手に当事者以外をその協議に交えたり自分の意思を他人に代弁させたりすると、思わぬ勘違いが生じたり、変な疑心を生じさせる場合が多々あります。まずは相続人同士、当事者として直接対話をすることが大事です。人の一生、財産分けの話なんて、そうそうある話ではないのですから。2010年8月13日
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110号
相続税と贈与税の申告
~申告により適用が受けることができる特例~相続税又は贈与税の申告は、財産を取得し、税額が生じるときに必要となります。この財産の価額及び税額を計算する上で、面倒でも税務署に申告という手続きを行わないと適用が受けられない特例があります。今回はその特例のうち代表的なものをご紹介したいと思います。
1.相続税において申告により適用が受けられる特例(1) 小規模宅地等の特例
相続又は遺贈により取得した財産のうちに被相続人等の居住用や事業用に使われていた宅地等がある場合において、その宅地等の金額のうち一定割合を減額する特例です。この規定は今年の税制改正で対象範囲の見直しが行われましたが、今後も減額割合の見直しなど増税の方向に向かう可能性が高いものと思われます。
(2) 配偶者に対する相続税額の軽減
配偶者が取得した財産のうち1億6000万円と法定相続分のうちいずれか高い金額に相当する部分までは配偶者に相続税がかからない特例です。この規定は後述の贈与税の配偶者控除の規定と異なり、婚姻期間の長短に関係がありません。財産目当ての後妻さんと先妻の子との間の確執の原因ともなり得るものです。
(3) 国等に対して相続財産を贈与した場合等の非課税
取得した財産をその取得後相続税の申告の提出期限までに国、地方公共団体等に贈与した場合には、その贈与をした財産を相続税の財産の金額に算入しないとする特例です。贈与を促進する意味で非課税であるのは当然のこと。奇特な方はどうぞこの特例をご利用ください。
(4) 申告期限前に災害による被害を受けた場合の特例
相続税の申告の提出期限前に災害による被害を受け、その損害の価額が取得した財産の10分の1以上である場合には、その財産の価額からその被害を受けた部分の価額を控除した金額により計算することとする特例です。10分の1の基準は相続財産の全体ではなく、相続人ごとの判定です。つまり、遺産分割が行われていないときは、この規定の適用が受けられないことに!災害の被害を受けた上に相続争いまでするなということでしょうか。
(5) 相続時精算課税に係る贈与税額の還付
相続時精算課税を選択して贈与により取得した財産は、実際の相続時にもう一度相続税の財産の価額に加算して税額を計算します。この場合、支払った贈与税があるときは、その金額を納付すべき相続税から控除します。相続税が贈与税より少ないときは、相続税はゼロとなり、かつ控除しきれなかった金額は還付を受けることができるという特例です。相続時精算課税は一度選択をした場合撤回することができません。2500万円までの非課税枠はあるものの、理屈の上ではこの制度の選択以後は10,000円の小遣いにも20%、2,000円の贈与税がかかります。
2.贈与税において申告により適用が受けられる特例(1)贈与税の配偶者控除
婚姻期間が20年以上である配偶者から居住用不動産又はそれを取得するための金銭を取得した場合において、2000万円までを贈与税の課税財産の金額に算入しないとする特例です。この規定は同一の配偶者に一度しか適用できないものです。何度もお使いになりたい方には20年ごとの再婚がお勧めです。
(2)相続時精算課税に係る贈与税の特別控除
20歳以上の者が一定の者から贈与により財産を取得した場合には相続時精算課税を選択することができます。相続時精算課税を選択すると1.(5)のとおり2500万円の特別控除を受けることができる特例です。2500万円という金額は相続税の基礎控除と4人家族をモデルとして勘案して設定され、将来相続税の心配がない方々に利用してもらうことを想定しているものと思われます。
(3)直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税
父母、祖父母などから取得した住宅取得等資金のうち、一定額まで贈与税の課税価額に算入しないとする特例です。この規定は昨年の補正予算で創設され、今年の税制改正で拡充されたことからも景気対策の側面が強いものです。経済の状況や国の財政状況により今後どのような措置が行われるか不確定な部分もあります。“いつまでもあると思うな親と金”、活用はお早めに。
3.特例の適用には申告による意思表示が必要です。相続税も贈与税も、納税者自らがその金額を計算して申告、納税する方式です。これは、税額は、納税者自身が最もよく知り得る立場にあるという前提の下に成立しています。しかし、金額の計算にあたっては当然のことながら税法の規定に従って計算しなければなりません。特例の適用を受ければ相続税や贈与税がゼロになるのでなぜ申告するのかと思われるかもしれません。
しかし、考えてみてください。税務署は疑うのが仕事です。ましてや納税者が勝手に特例の適用を自分にあてはめて計算した結果の税金がゼロになったものを信用するはずがありません。
税務署に自分が特例の適用をしっかりと適正に受けていることを示すために、税額がゼロになっても申告する必要があると考えると理解しやすいのではないでしょうか。2010年7月15日
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109号
事業承継税制による家督相続(隠居制度)の復活か?
~非上場株式等についての贈与税の納税猶予~家族経営による会社では、代表者はお父様、ご子息は役員だけれども、株式はすべて代表者であるお父様が所有という形態が多いのではないでしょうか。新しい事業承継税制は、この様な同族会社の非上場株式等の贈与につき、贈与税の納税猶予の特例を設けています。この制度を上手に利用することにより、贈与税の免除という形で生前に相続対策を図ることが可能となります。
1.制度の概要次世代への円滑な事業承継を目的として、贈与前に「経済産業大臣の確認」を行い、贈与発生後において「経済産業大臣の認定」を受け、贈与税の申告期限までに「申告書および一定書類」を提出し、贈与税額に見合う「担保を提供」(注:1)することにより、贈与税の納税猶予制度の適用が可能(注:2)となります。
さらに、納税猶予後においても5年間は①経済産業大臣に「年次報告書」②税務署には「継続届出書」の提出が必要となり、これらを経て贈与者の死亡時においては「免除届出書」を提出することにより、猶予されている贈与税が免除されることになります。(注:1)この適用を受ける非上場株式等のすべてを担保として提供することにより猶予額に見合う担保の提供があったものとみなされます。
(注:2)発行済み株式等の総数の3分の2までが対象
2.適用要件(1)先代経営者の要件
① 会社の代表者であったこと
② 贈与の時までに役員を退任すること
③ 先代経営者と同族関係者で発行済み議決権株式総数の50%超の株式を保有し、かつ、同族内で筆頭株主であったこと
(2)贈与の時において後継者の要件
① 会社の代表者であること
② 先代経営者の親族であること
③ 20歳以上であること
④ 役員就任から3年以上経過していること
⑤ 後継者と同族関係者で発行済み議決権株式総数の50%超の株式を保有かつ同族内で筆頭株主となること
(3)認定対象会社の要件
次のいずれにも該当しないこと
① 上場会社
② 中小企業者に該当しない会社
③ 風俗営業会社・資産管理会社
④ 総収入金額が零の会社・従業員が零の会社
(4)5年間の事業継続要件
① 代表者であること
② 雇用の8割以上を維持
③ 贈与した対象株式の継続保有
3.先代から後継者への世代交代家督相続(隠居制度)とは、死亡せずに発生させる相続であり、今回の事業承継税制は、まさにこの生前相続の復活として定義することもできるのではないでしょうか。
4.実は昔ながらの相続 ?制度の概要や上記2.の適用要件をみると、煩雑な手続きが必要で、要件も複雑にみえるかも知れません。しかし、実は昔ながらの家督相続そのものに置き換えて読んでみると、意外と簡単に理解することができるのではないでしょうか。
・戸主は一族で家督支配権を確保し、かつ、家督の筆頭者 → (1)③・(2)⑤
・家業を譲った戸主は隠居 → (1)②・(2)①
・若旦那(新社長)は成人である必要 → (2)③・④
・若旦那は家業を維持し、番頭、手代、丁稚の雇用を守る → (4)②
・若旦那は一生について家督を維持 → (4)③
5.株式はひとりにまとめて相続させましょう!相続人である子供が複数いる場合など、株式を分散して皆平等に相続させたいとお考えになるかも知れません。しかし、家督を譲るという意味においても、この制度の特例を受ける上においても、経営権の安定的な確保として、株式は分散せずに1人に集中して相続させるのが賢明な対策ではないでしょうか。
昔からの本来の生前相続の形を取ることにより、この事業承継税制の制度を有効活用することで、一族子孫の繁栄を守りつつ、節税対策を考えてみてはいかがでしょうか。2010年6月15日
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108号
遺言作成のすすめ
遺言の最大のメリットは、ご自身が築き守ってきた大切な財産をどのように承継させたいのか、ご自分の意思で決め、その意思を文章で明確に伝えることができるところにあります。また、相続税の申告の現場で相続人のお立場に立つと、遺言がある場合にはやはり被相続人の意思を尊重しようとするお気持ちは強く、また、受け入れやすいものです。相続税申告までの10か月という短い期間に分割協議というストレスを受けなくてよかったとおっしゃる事例はたくさんあります。
1.遺言でなければできないこと子供がいない場合、法定相続人は配偶者とご自身のご両親又は兄弟姉妹です。すべての財産を確実に配偶者に承継させるには遺言がなければなりません。また、どうしても長男に引き継がせたい財産がある場合には、それを遺言で指定しなければご希望通りに承継させることができません。可愛くてたまらない孫に財産をあげたい場合にも、養子でなければ遺言を残すしかありません。このように、遺言がなければご自分の意思を実現できないことがたくさんあります。
2.2割加算でも遺贈が有利な場合もところで、相続人以外の者はもちろん、相続人であっても被相続人の兄弟姉妹等一親等の血族でない者が相続又は遺贈により財産を取得する場合には、その相続税額に、更に2割相当額を加算することになっています。この加算対象者には孫(養子であっても対象。ただし代襲相続人である場合は除く)も含まれます。愛する孫に遺言で財産を渡そうと考えても、この2割増の税負担は気になるところです。
既に配偶者がおらず、相続人は子が1人、相続が起きた場合には50%の相続税率の適用が予測される方の事例です。この方の子に相続が発生した場合にも、やはり50%の税率の適用が予測されるとします。このような場合には、所有資産を養子ではない孫に遺贈するということは、今回2割多く税額を払うことにより、次の50%の適用税率を回避する、つまり一世代飛ばしを活用できることになります。これを単純に適用税率のみで比較しますと、次のようになります。
2回の相続の場合には、いずれの相続も50%の適用税率(注1)であるため、孫へ承継される財産は(1-50%)×(1-50%)=25%(注2)です。これに対して、遺贈の場合には50%×1.2=60%の税額を支払い、孫へ承継される財産は40%となります。
このように適用される税率や家族構成によっては、2割多く税金を支払っても有利となる可能性もあるのです。
3.思いだけでなく検討しておくべきこともちろん、申告の現場では必ずしも税務上有利ではない遺言と向き合うこともしばしばです。小規模宅地等の評価減は、取得者の条件で適用の有利不利に大きな差が出るため、これを考慮していない遺言では納税額の多寡に影響があります。二次相続の税負担を一切考慮していない配偶者への遺贈や、遺贈財産では納税資金が工面できないといったものもあります。
また、民法では、ご存知のように遺言であっても侵せない相続人の権利として遺留分が認められています(兄弟姉妹が相続人の場合には遺留分はありません)。いくらご自分の意思といっても、相続人から遺留分の減殺請求権を行使され、争いになってはどうしょうもありません。
最優先すべきはなによりご自身の意思ですが、このようなことも考慮した遺言であれば、よりご自身のお気持ちが伝わり、承継もスムーズとなるのではないでしょうか。
4.遺言の形式遺言は、民法で厳格な方式が定められており、その方式に従っていない遺言は無効です。これは遺言者の意思を確実に実現させる必要があるためです。自筆証書、秘密証書、そして公正証書という方法がありますが、自筆及び秘密証書はその内容自体が法的に不備である可能性もあり、また、これを発見した人が家庭裁判所に届け出て検認を受ける必要があります。遺言なさる以上は、検認手続きも不要で、法的に不備のない公正証書の作成をおすすめしています。ただし、財産の価格等に応じて公証人へ支払う手数料など費用がかかるものですから、作成にあたってはいろいろな面からの検討が必要でしょう。法律上の問題より、むしろ税務上の問題が大きな影響を及ぼすのが遺言であると心得ておきたいものです。
(注1)相続税は超過累進税率を採用しており、課税財産の価格が多くなるに従い適用される税率が段階的に高くなります。実際にはすべての部分について一律で50%の税率で計算されるわけではありません。
(注2)次の相続における配偶者の税額軽減は考慮していません。配偶者の取得財産の課税価格が、1億6千万円又は法定相続分相当額のいずれか多い金額までは、配偶者には相続税がかかりません。配偶者がいる場合の相続では、最大で2分の1まで、相続税を払わずに配偶者が財産を取得することができますから、実際の税負担は少ないものとなります。ただし、この適用を最大限に受けて配偶者が相続税を払わないことが、必ずしも有利とは限りません。配偶者ご自身のご所有資産及び取得財産の額により、次の相続での適用税率等を検討し、分割を検討すべきといえます。2010年5月14日
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107号
小規模宅地等の課税の特例に係る軽減枠の縮小
~平成22年度改正項目~相続税については、バブル期の地価急騰に伴い様々な減税措置が講じられてきました。しかし、地価が下落したにもかかわらず見直しがされず、今や相続税の負担者数は100人に4人とのこと。この格差を是正するべく、まず手始めに小規模宅地等の特例対象範囲が縮小されることになりました。
1.小規模宅地等の課税の特例とは相続や遺贈によって取得した宅地等が、被相続人等の居住の用又は事業の用に供されていた場合、一定の要件を満たすと相続税の負担が軽減されます。相続人の生活基盤の維持という配慮から設けられた特例です。
改正前の軽減割合は次のとおりです。
2.改正の内容(1) 対象除外となる宅地等
① 改正前:被相続人等が事業または居住の用に供していた宅地等については、相続人等が相続税の申告期限までに事業または居住をやめた場合でも「200㎡まで50%評価減」の適用が受けられました。
② 改正後:事業または居住を継続しない宅地等は適用対象から除外され、全く評価減をすることができなくなります。
(2) 80%評価減対象地の縮小
① 改正前:一の宅地等を取得した者のうちに一人でも居住用または事業用の80%評価減の要件を満たす者がいれば、その宅地等全体について80%評価減の適用ができました。
② 改正後:取得者ごとに適用要件を判定することとなります。
<具体例1>をご参照ください。(3) 居住用の80%評価減対象地の縮小
① 改正前:一棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等のうちに居住用の80%評価減の要件に該当する部分とそれ以外の部分がある場合には、その宅地等全体について居住用の80%評価減の適用ができました。
② 改正後:部分ごとに按分して軽減割合を計算することとなりました。
<具体例2>をご参照ください。(4) 今まで明記されていませんでしたが、居住用の80%評価減の対象宅地等は、主として居住の用に供されていた一の宅地等に限定されることとなりました。
3.大幅な増税も!上記2.の改正は、平成22年4月1日以後の相続又は遺贈により取得する小規模宅地等に係る相続税について適用されます。
上記2.(2)を例にとれば、極端な話改正前までは、その土地の1%でも配偶者乙が相続すれば、長男丙が相続した土地についても80%評価減の対象となりました。これが、取得者ごとに厳密に適用要件を判定されることとなるのです。場合によっては、大幅な増税につながりかねません。
取得者を決める遺産分割協議には、今まで以上に細心の注意を払わなくてはいけなくなるのではないでしょうか。2010年4月15日
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106号
平成22年度税制改正
平成22年度の税制改正の大綱は、政権交代後の新体制のため調整が最後まで難航したようです。そのため当初の予定より10日以上遅れた昨年12月22日に閣議決定されました。
今年度の改正案は、厳しい社会情勢の中で消費税の増税を封印し、家計支援・雇用対策の充実などを目指した内容が盛り込まれました。
主な改正予定事項について、整理してみました。
1.相続税関係税制相続税の大きな特例の一つである小規模宅地等について、次のような見直しが行われます。相続人等による事業又は居住の継続に関する改正です。
①相続人等が相続税の申告期限まで事業又は居住を継続しない宅地等(現行200㎡まで50%減額)を適用対象から除外
②一の宅地等について複数の相続人で相続した場合には、取得した者ごとに適用要件を判定することに。
従来は一人でも要件を充足していれば全体に適用できていたため、大幅な増税にも。
③一棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等のうちに居住用の80%引の要件に該当する部分とそれ以外の部分がある場合には、部分ごとに按分して軽減割合を計算することに。
こちらも従来は一部分でも要件を充足していれば全体に適用できていたため、大幅な増税にも。
④居住用の80%引宅地等は、主として居住の用に供されていた一の宅地等に限られることに。
上記の改正は、平成22年4月1日以後の相続又は遺贈により取得する小規模宅地等に係る相続税について適用されます。
2.住宅・土地税制(1)住宅取得等資金の贈与の非課税枠が拡大
父母または祖父母等から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税について、さらに下記のような非課税措置がとられました。
①非課税限度額(現行500万円)が次のように引き上げられます。
平成22年中に贈与を受けた者→1500万円
平成23年中に贈与を受けた者→1000万円
②贈与を受けた年の適用対象者の合計所得金額が2000万円以下の者に限定されます。
③適用期限を平成23年12月31日(現行 平成22年12月31日)までとします。
この改正は、平成22年1月1日以後に贈与により取得する住宅取得等資金に係る贈与税について適用されます。つまり、平成22年中に住宅取得等資金の贈与を受けた者については、今回の改正と以前の制度(500万円)を選択して適用できることになります。
(2)相続時精算課税制度の上乗せ廃止
住宅取得等資金の贈与に係る相続時精算課税制度の特例について、特別控除の上乗せ(現行1000万円)の特例が廃止され、贈与者の年齢要件の特例適用期限が2年延長になります。
3.個人所得税制扶養控除の見直し
①年少扶養親族(扶養親族のうち、年齢16歳未満の者)に係る扶養控除が廃止されます。
②特定扶養親族(扶養親族のうち、年齢16歳以上23歳未満の者)のうち、年齢16歳以上19歳未満の者に係る扶養控除の上乗せ部分(25万円)が廃止され、扶養控除の額は38万円となります。この改正は、所得税は平成23年分以後から、個人住民税は平成24年度分以後から適用されます。
4.その他の主な改正2010年3月15日
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104号
預金の残高だけが相続財産ではありません
~相続開始前3年以内の贈与財産の加算~相続税は、原則相続開始時点における財産について課税されます。「相続に備えて子供に贈与をしよう。子供の名義にしてしまえば相続税が課税されることはない。贈与税の申告も納税もするんだから大丈夫だ。」しかしながら、相続開始前の3年以内の贈与については、たとえ贈与税を払っていたとしても、相続財産に取り込み、相続税を計算するという規定があります。今回はこの相続開始前3年以内の贈与財産の加算についてのお話です。
1.制度の概要(1)概要
相続又は遺贈により財産を取得した者が、その相続開始前3年以内にその相続に係る被相続人から財産を贈与により取得したことがある場合には、その贈与財産については、相続税の課税価格に加算した上で相続税を計算することとされています。つまり、相続開始前3年以内の贈与財産については、相続税で課税をし直すこととなります。
(2)加算される額
加算される財産の評価額は、贈与時の評価額です。また、贈与税が課税されたかどうかは問いません。たとえば、現金50万の贈与を受けた場合には、贈与税は年間110万円までは非課税ですので贈与税はかかりません。しかし、3年以内の贈与財産の加算対象にはなりますので、この現金50万円は相続税の課税価格に加算した上で、相続税を計算することとなります。また、贈与税の配偶者控除(2,000万円まで非課税)の適用がある贈与を受けた場合には、非課税枠の2,000万円を控除した後の評価額が加算の対象となります。また、平成21年分から対象となる住宅取得資金の贈与についても同様に非課税枠の500万円を控除した後の評価額が加算の対象となります。
(3)相続により財産を取得していない場合
相続開始前3年以内の贈与財産が相続税で計算されるのは、あくまで被相続人から相続又は遺贈により財産を取得する者に限られます。したがって、被相続人から相続又は遺贈により財産を取得しない者については、相続開始前3年以内の贈与財産が、相続税で計算されることはありません。
2.相続時精算課税制度を選択している場合(1)概要
相続時精算課税制度(詳細な説明は割愛します)を選択している場合、相続税として課税し直す範囲は上記1.のように相続開始前3年以内に限らず、この制度を選択した後の贈与財産すべてが計算の対象となります。たとえ、この制度に基づく贈与が10年前であっても、です。
(2)加算される額
加算される財産の評価額は、通常の贈与と同じ贈与時の評価額です。なお、相続時精算課税制度上の非課税枠は考慮されず、贈与財産価額が全て取り込まれます。
(3)相続により財産を取得していない場合
上記1.の(3)の場合とは異なり、相続により財産を取得していなくても、その贈与財産は相続税財産に加算され、相続税が計算されることとなります。
3.支払った贈与税の取り扱い(1)上記1.の場合
上記1.の場合、相続税の課税価格に加算された財産につき支払った贈与税があるときは、相続税を計算した後その贈与税額は控除されます。しかしながら、計算した相続税額が支払った贈与税額よりも少ない場合には、相続税額はゼロとなりますが、控除しきれなかった贈与税額は切り捨てられます。つまり控除しきれなかった贈与税額は還付されることはありません。
(2)上記2.の場合
上記2.の場合、相続税の課税価格に加算された財産につき支払った贈与税があるときは、上記3.の(1)と同様に相続税を計算した後その贈与税額は控除されます。また、計算した相続税額が支払った贈与税額よりも少ない場合には、相続税額はゼロとなり、かつ、控除しきれなかった贈与税額は還付されることとなります。
つまり、相続時精算課税制度を選択しているか選択していないかにより過去に支払った贈与税について還付を受けられたり受けられなかったりすることとなります。
4.贈与のご利用は計画的に将来の相続税負担を見越してお子様・お孫様に財産を贈与する。よくあることだと思います。しかしながら、場合によっては相続税で払った方が、結果、税額が安く済んだなんて場合もあり得ます。特に、相続時精算課税制度を選択していない場合は注意が必要です。年間110万円までは非課税だからといって毎年110万円贈与をしていても、効果が期待できるまでには相当の年数を必要とするでしょう。一時に多額の贈与をすれば、多額の贈与税負担が生じますし、相続税の方が税金が安く済んだなんてこともあり得るでしょう。
贈与を行う場合には、まず、現状の相続税額の試算を行った上での検討が必須と言えます。2010年1月26日
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102号
住宅取得等資金500万円までの贈与なら非課税に
~相続時精算課税制度との併用も可能~長引く不況の追加経済対策として、先般「住宅取得等資金の贈与が500万円まで非課税」といった減税措置が施行されました。従来から、持ち家促進を狙いに住宅税制に関しては色々な手当てがされてきました。今回も需要不足に対処する観点から、高齢者の余裕資金を活用した住宅取得の支援制度として盛り込まれました。
その住宅取得のための時限的な贈与税の軽減について、今までの暦年課税や相続時精算課税との併用を含め説明いたします。
1.2年での累積額500万円が非課税に具体的には、住宅取得等資金について、下記の要件をみたす場合には500万円までは非課税となります。
①贈与者・・・直系尊属(父母、祖父母、曾祖父母・・・)
②受贈者・・・受贈された年の1月1日現在で20歳以上の子、孫
③適用期限・・平成21年1月1日から平成22年12月31日までの贈与
④対象要件・・贈与を受けた資金の全額を、翌年の3月15日までに住宅の取得等に充当
(床面積が50㎡以上など一定の条件を満たした住宅用家屋の新築、住宅用家屋と同時に取得する敷地、費用額が100万円以上の増改築等が対象となります。)
⑤居住要件・・贈与を受けた翌年の3月15日までにその住宅に居住
(3月15日までに一定の状態まで建築が進んでいながら未完成だったり、やむを得ない事情から居住していない時でも、遅滞なく居住することが確実と見込まれれば適用が認められます。)
⑥選択手続・・贈与を受けた翌年の3月15日までに申告が必要
もちろん500万円を超えた部分については課税の対象とされますが、この非課税500万円分は、贈与者が死亡した時の相続税の計算において加算されません。
2.それぞれの贈与制度との関係は?さらに、この特例は暦年課税制度または相続時精算課税制度(*)との併用が使用可能となっています。
例えば、暦年課税と併用の場合、贈与税非課税額は、基礎控除額110万円+500万円で610万円になります。相続時精算課税制度の適用を受ける場合は(住宅取得等資金特例1000万円を含め)特別控除3500万円+500万円で4000万円となります。
すでに相続時精算課税制度の適用を受けている場合、今回の非課税特例を適用した上で、500万円を超える部分について相続時精算課税制度の適用を受ける事となります。
また、相続時精算課税制度の場合には贈与者が父母に限られているのに対し、今回の非課税特例では「直系尊属」とし祖父母や曾祖父母からの贈与も対象になります。
3.注意が必要なところも・・上記の通り、これから住宅の取得を考えている方にとっては、それぞれの贈与制度を上手に適用することで非課税枠が拡大します。
ただ、相続税精算課税か暦年課税制度の適用かは贈与者ごとになるので注意が必要です。つまり「母からの贈与は相続時精算課税制度を適用する」と選択した場合、それ以降の母からの贈与はすべて相続時精算課税となります。この場合、今回の非課税特例は暦年課税との併用は出来ず、500万円を超える部分は相続時精算課税制度の適用を受ける事になります。
今回の非課税特例は、贈与された金銭で住宅ローンを返済したり、土地のみを購入したりする場合は対象とならないので注意が必要です。また、500万円という控除額は、受贈者一人での限度額です。残念ながら、両親と祖父母から500万円づつ合計2000万円の贈与全額を対象とする事はできません。
せっかくの非課税特例です。積極的に“贈与”を活用して、マイホームの夢を実現させましょう。子の喜ぶ顔を見せるのが、何よりの親孝行なのだと自らに言い聞かせて!* 相続時精算課税制度
親から生前贈与された財産を、相続時に相続財産の価額に含めて計算します。もちろん、それにかかる贈与税は相続税額の計算上控除されます。生前に相続財産を受贈できる「贈与税と相続税が一体となった制度」です。2009年11月16日
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101号
今年、来年買う土地で、将来の土地譲渡益課税を繰り延べる
~平成21・22年土地先行取得の場合の譲渡所得の課税特例~将来お持ちの土地を売却した場合の譲渡益を最大80%まで繰り延べることができるという、今年の税制改正で創設されたこの特例は、2年間限定。特に今年中の土地の取得にはより有利に働くため、今回はその概要をお知らせいたします。
1.特例の内容これまでの譲渡所得の特例からすると、馴染みのない方法です。まず取得ありき、譲渡はゆっくり考える買換制度と言えばいいでしょうか。
不動産所得等の業務を行う個人及び法人のいずれも適用を受けることができます。まず、平成21年1月1日から22年12月31日までの間に土地等(土地、借地権等の土地の上に存する権利で、棚卸資産でないもの。建物は対象外)を取得します。そして取得日を含む各年分(法人の場合には各事業年度)の確定申告書の提出期限までにこの特例の適用を受ける旨の所定の届出書を提出します。こうしておけば、その取得日を含む年の翌年以後10年以内に、所有する他の土地等(譲渡時に事業用のものに限ります)を譲渡したときの譲渡益の80%(譲渡時に平成22年中の取得土地のみが対象となる場合は60%)について、先に取得しておいた土地等の取得価額を限度として、課税の繰延べが受けられます。
2.特例を受けるための要件今年と来年取得する土地等を「先行取得土地等」、将来譲渡する所有土地等を「事業用土地等」といいます。それぞれの要件は表1の通りです。いくつかポイントを確認しましょう。
(1)用途制限
先行取得土地等には用途制限がありません。事業用土地だけでなく、自宅や別荘用の土地の購入でも対象となるのが特徴です。一方、事業用土地等は、譲渡する時に自社ビル、貸アパートや一定の設備等が伴う貸駐車場の敷地といった事業の用に供されている必要があります。
(2)取得先・取得原因
先行取得土地等の取得先・取得原因は限定されています。夫婦や親子間の取引、相続や贈与等による取得は対象となりません。土地取引を活発にするための政策的な制度ですから、これは仕方ないことかも知れません。
一方、売る方の事業用土地等には、事業に準ずるものも含まれ、現在所有している土地等に限りませんから、将来取得する土地でも対象となります。
3.譲渡益から控除される金額は表2の事例では、譲渡益の80%が先行取得土地等の合計取得価額を超えますので、取得価額相当額の利益が課税繰延べとなります。この結果、A,Bとも、税務上の取得価額はゼロになります。
4.今年、来年購入土地はまず届出を今年、既に決まった土地の取得がある場合、現時点で売却予定がなくても、とりあえず来年の確定申告時に特例の適用に関する届出書を提出しておきましょう。もし10年以内に他の土地を売らなかったとしても、特例を使わなかっただけのことです。何のペナルティも生じません。
今年に取得した土地を活用できるのは来年1月1日以後の譲渡からとなります。譲渡所得を計算する上での取得日と譲渡日は原則引渡し日ですが、選択により契約日とすることもできます。現在、特例を意識せずに検討中の取引でも、適用できる可能性もあります。
届出後も、実際の譲渡があるまで長い付き合いとなる特例です。何年か後に土地を譲渡した際の年分の確定申告書に、この特例の適用を受ける旨の記載をしなければ何もなりません。この際、先に届出をした先行取得土地等の売買契約書や諸費用の領収書等を添付しなければなりません。届出提出後はこうした書類の保管をしっかり行う必要があります。
なお、この特例とは別に、今年と来年に買う土地等そのものを、所有期間5年経過後に譲渡した場合、その譲渡益から1,000万円を控除できるという特例も創設されました。こちらは10年以内という期限はありませんし、取得時の届出は不要です。特例の併用はできませんが、5年経過後に売却して益が出る場合には、こちらの特例を使うことも可能です。2009年10月15日
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100号
法人の所得が赤字になったら?
法人が赤字となった場合、その赤字(欠損金額といいます。)は翌年以降に繰越して、翌年以降の黒字(所得金額といいます。)と相殺することができます。これを「欠損金の繰越控除」といっています。これと似て非なる制度に、「欠損金の繰戻し還付」というものがあります。実は、平成21年度の税制改正で、中小企業者等に限って、この制度の適用ができるようになりました。今回は、この繰戻し還付制度について、繰越控除との比較を交えてご説明します。
1.法人税の取扱い(1) 欠損金の繰越控除
欠損金の繰越控除とは、青色申告書を期限内に提出している場合、その事業年度に生じた欠損金額を、翌年度以降7年間繰り越すことができ、翌年度以降の法人税の計算上所得金額から順次控除できる制度です。
一般的な1年決算法人では、最大翌7事業年度まで繰り越すことができることになります。しかし、その翌7事業年度が赤字続きで、繰越した欠損金が使えなければ、期限切れとなって切り捨てられます。
また、冒頭でも触れたように、この制度は青色申告法人が対象です。さらに、欠損金が発生した事業年度から欠損金を控除する事業年度まで連続して確定申告書を提出していることが要件となります。
(2) 欠損金の繰戻し還付
① 制度の概要欠損金の繰戻し還付とは、青色欠損金が生じた事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度における法人税額の一部が還付される制度です。
還付を受けるには、申告書とは異なる「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出しなくてはいけません。② 対象法人
実は、この制度、H4.4.1以後終了する事業年度については、解散事業年度等一定の場合を除き、適用が停止されていました。それが、平成21年度税制改正において、H21.2.1以後終了事業年度から、中小企業等(資本金等が1億円以下の法人など)に限って復活することになったのです。
その他、法人税額の還付を受ける事業年度から欠損金が生じた事業年度まで、連続して青色申告書を提出していることが要件となります。③ 還付税額の計算具体例
上記の表の場合における法人税の繰戻し還付税額は、次のように計算します。
前期に繰戻しをした当期の欠損金額(6,000)は、すでに使ってしまったので、翌期以降に繰越す額はないことになります。
2.地方税の取扱い(1) 欠損金の繰越控除
① 法人事業税についても、法人税同様、7年間の欠損金の繰越控除の制度があります。
② 法人住民税(法人税割)は、繰越欠損金控除後の所得金額に対する法人税額を元に計算するので、繰越控除の恩恵を受けているといえます。
(2) 欠損金の繰戻し還付
① 一方、法人事業税には、繰戻し還付制度はありません。したがって、法人税について繰戻し還付を受けた場合、翌期以降に繰越す欠損金額が、法人税と法人事業税の計算上では異なってくるので、要注意です。
上記1.(2)③の例で言うと、法人税上の繰越欠損金は0ですが、法人事業税上では6,000となります。
② 法人住民税については、還付を受けた法人税額を、その後の7年間の各事業年度で、法人税割の課税標準である法人税額から控除します。
例えば、翌期の法人税額が2,000となった場合、上記1.(2)③の繰戻し還付額1,080を控除して法人税割を計算します。
3.選択の判定基準以上ご説明してきたとおり、法人税については、欠損金を翌期に繰越すか、前期に繰戻すか選択の余地があります。
そこで、どちらを選択するかですが、ひとつの判断基準としては、翌期以降の業績見込みが挙げられます。
前述のとおり、欠損金を繰越せる期限は7年間です。今後も赤字続きの予定で、たまたま前期が黒字になったのであれば、繰戻し還付が有効です。
しかし、たまたま当期だけが黒字だったのであれば、前期や翌期の所得金額(法人税額)によって、有利な方が変わってくる可能性があります。ただし、繰戻し還付請求には、税務署の調査を呼び込む可能性もあることをご留意ください。
大好きなものを最初に食べるか、最後の楽しみに取っておくかに似ている気もします。2009年9月16日
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99号
相続税にまつわる納税猶予と継続届出書
~申告期限後もご注意を~去年から今年にかけて、各マスメディアが非上場株式に係る相続税が猶予されるようになったと大きく報道し、納税猶予は多くの人が知るところとなりました。ただこの制度、本当に税金が免除されるところまで到達するにはいくつものハードルをクリアする必要があるのが実状です。相続税の申告が終わった後に提出する届出書もその1つです。申告後も継続して税務署へ届出が必要となりますのでご注意ください。
1.農地を相続した場合・・納税猶予の概要相続税の納税猶予の対象としては、従来から農地に係る特例があります。被相続人の農地を相続して農業を引き継ぐ相続人は、一定の相続税を猶予できるという制度です。
対象となる農地には生産緑地も含まれることから、都市部においてもかなりの方が利用していると言えるでしょう。
2.非上場株式を相続した場合・・納税猶予の概要平成21年度の税制改正で、新たに非上場株式に係る相続税の納税猶予が創設されました。被相続人の非上場株式を相続して会社の代表者として引き継ぐ相続人は、一定の相続税を猶予できるという制度です。
対象となる非上場株式は、非常に細かな要件をクリアしたものである必要がありますが、今後は適用例が増加していくものと考えられます。
3.継続届出書の提出が必要上記はあくまでも税金の猶予という制度です。したがって、担保提供も必要ですし、猶予期間中の要件を満たさなくなった場合には猶予が打ち切られてしまい、相続税と利子税を支払う必要があるので注意です。
特に要件の1つとして、猶予期間中は定期的に税務署へ状況報告としての届出書(継続届出書)を提出する必要があります。晴れて免除となる一定の要件に該当するまでは、相続税の申告期限後も細かな手続きが必要ということです。①農地の納税猶予
※農業委員会の証明書も取得する必要があります。
②非上場株式の納税猶予
※当初5年間は経済産業大臣の確認書も取得する必要があります。
上記の継続届出書を提出期限までに提出しなかった場合には、原則として納税猶予が打ち切られてしまいますので、提出の管理は非常に重要です。特に最近の納税猶予については継続届出書の提出は不可避となっていますので、肝に銘じておく必要があるでしょう。
4.申告後の管理が大切相続税申告だけを税理士に依頼した場合には注意が必要です。申告後は依頼した税理士とのお付き合いが無くなるかもしれないからです。ご自身や周りの誰かが気付けばいいのですが、継続届出書は申告後にやってくるものです。忘れるかも知れません。もし、税務署等から継続届出書についての案内が郵送されず、何も気付かなかったら・・・。
申告時の適用要件や、税金が免除されることばかりが伝わっていますが、そのためには相応の手続きも必要です。
税理士との付き合い方も申告書作成までだけではなく、申告後の様々なケアも含めて考えることが重要です。2009年8月14日