お役立ち情報
COLUMN
原則として月に一度、
代表 高木康裕が自身で執筆しております。
お客様の立場に立って、
新たな税務の情報や事例をご紹介。
辛口で税務の現場のナマの姿をお伝えして参ります!
年度:
タイトル:
-
5303号
マンション同士の交換はできるか?
譲渡所得の中に、"交換の特例"と言うのがあるのですが、ご存じの方も多いと思います。例えばAの土地とBの土地を交換したとします。両者ともほぼ等価との認識で、金銭のやり取りもなかった場合、所得税の税負担はないと言うものです。土地と土地、建物と建物と言う同種の固定資産で認められるものなのですが、マンション同士の交換はどうでしょう?
できるような、できないような、実はちょっと微妙な問題を抱えているのです。
1.交換の特例とは常識論としては、物と物を交換して金銭のやり取りも無ければ、税金がかからないのが当たり前です。むしろ、そこに何故税金の問題が出てくるのか、その方が疑問かも知れません。しかし、税務の考え方は、交換は双方がそれぞれ売却をしたとして、譲渡税が課税されるのです。その売却したお金で相手の資産を購入したと言う考え方です。ですから、購入したことはともかくとして、売却したことに着目して税金を課税するのです。
その例外として、次の条件をすべて満たした場合、譲渡税は課税されずに済むことになっています。(1)同じ種類の固定資産である事 (2)双方の資産が1年以上保有しているもので、かつ交換の目的で取得したものでない事 (3)交換後、従前と同一の用途に供する事 (4)両者の差額が、多い方の金額の20%以内である事、の4つの条件です。
2.不動産登記法と相続税におけるマンションの評価方法さて、いわゆる分譲マンションについては、土地は所有権ではあるものの、『敷地権』と言って建物と切り離しはできない権利形態になっています。この敷地権とは不動産登記法の考え方で、マンションのような区分建物の登記簿に登記された、専有部分と一体化された敷地利用権のことを言うのです。確かに土地は所有権そのものなのですが、所有者全員の持ち分割合による共有なのです。そして、建物と一体と言う考え方なので、マンションの土地部分だけを売ったり、建物部分だけの名義を変えたりはできないと言う事なのです。部屋ごと、つまり201号室、302号室と言う部屋単位で売買をし、登記もしなければならないのです。
しかし、相続税法の評価方法は全く異なります。相続税法では、マンションは土地と建物と言う2つの評価単位の財産の集合体と言う考え方なのです。決して一体不可分の存在ではありません。従って、土地は土地、建物は建物で単独評価をした上で、土地と建物の評価額の合計がマンションの評価額なのです。
3.マンション同士の交換このことからお分かりのように、マンションAの201号室とマンションBの302号室を交換する場合、相続税法の基本的な考え方には"マンション"と言う単体の財産はないのです。あくまでも土地と建物が合体した物との位置づけです。
そうすると、マンションについても、土地部分と建物部分とを別々に評価額を算出し、それぞれが交換の特例の要件に合致していなければならないのでしょうか。交換の特例の大原則として、同じ種類の固定資産であることが要件となっていますが、それをどんな風に考えればいいのでしょう。
実態面で考えてみると、マンションの時価はあくまでも土地と建物が合体した一つの財産価値として考えます。それはマンションの場所や専有部分の面積、眺望、陽当たり等々を総合的に判断して割り出されます。マンションごと、部屋ごとに客観的な市場価格も割り出すことは可能です。それでも、マンションを土地と建物に分けて考えなければならないのでしょうか。
4.交換の相手は第三者か、親族か?あくまでも私見で責任は取れませんが、マンション同士の交換が第三者間同士で行われる場合には、税務署もそこまで厳格な事は言って来ない気がします。市場価値が客観的に明らかになっている訳で、租税回避的な目的がない事は想像に難くないためです。第三者間同士ですので、お互いに納得できる価額であれば、それがまさに"時価"でもあります。税法そのものの考え方とは違っていても、贈与の意思も租税回避の意思も見受けられなければ、認められるかも知れません。ただ、第三者間での交換自体、それほど件数があるとは思えません。多いのは、やはり親族間でしょう。
しかし、親族間の交換となると、税務署の見る目は違ってきます。どちらか一方が損をし、他方が得をする行為を行うからです。例えばマンションとしてはその価額が概ね等価でも、タワーマンションであれば土地の価額の占める割合は、立体利用のためかなり低いものになるでしょう。一方で低層の3階建て、4階建て程度のマンションは土地の割合は自ずから高い比率になるでしょう。マンションとしては等価でも、土地と土地、建物と建物とで比較した場合、明らかに異なる価額になる事も多いのではないでしょうか。
純粋な法令解釈上はどこまで行っても否認されるリスクがありますので、注意が必要でしょう。2017年8月31日
-
5302号
売却前の一工夫
東京オリンピックを3年後に控え、東京の町はあちらこちらで様々な工事が本格化しています。その一つに道路の拡張・整備に伴う収用が活発に行われているようです。そこで、もし収用の話が進んでいるなら、その前に是非検討をしておきたいことがあるのです。それは、相続時精算課税制度の活用です。
1.収用の場合の特別控除個人で所有する土地が収用された場合、税務上は様々な特例が用意されています。収用と言う国や自治体が進める政策に協力する訳で、だからこそ税務上も特典が与えられているのです。その一つは5,000万円の特別控除で、譲渡益(売却益)からこの金額が控除され、控除後の金額に譲渡税率を乗じたものが税額となります。
なおこの5,000万円控除を適用しない場合には適用税率の優遇を受けられます。通常は保有期間5年超の長期保有の場合、住民税込みで約20%の税率なのですが、優良住宅地の譲渡の特例で更に数%軽減されることになるのです。
2.買換え資産を取得した場合の特例もう一つの選択肢として、代替資産を取得した場合の特例があります。一般に買換え特例と言われているもので、売却資産の価額以上の物件に買換えれば、その時点での課税はなしと言うものです。但し、あくまでも売却時点での課税がないだけで、税金が免除された訳ではありません。その新規に買換えた資産を売却する時まで、課税を繰り延べるだけのことです。売却時点での課税がないため、当面の資金繰りはラクになるでしょうが。
ついでながら申し添えておくと、売却資産より安い物件を購入した場合、その差額については当然ながら買換えた時点で課税されることになります。
3.複数人で所有にして売るためには以上の説明からお分かり頂ける通り、実額の計算で必ず税負担で有利になるのは5,000万円控除です。買換えの場合、その買換え資産を売却する時の税率にもよりますが、基本的には課税を繰り延べただけなので、有利になることは少ないでしょう。
そうだとすると、一つの物件を複数人で所有していれば、その人数分だけ5,000万円控除の恩典を受けられることになる訳です。では、その具体的な方法を考えてみましょう。
現在一人で所有する物件の収用が見込まれる場合、これを複数人での所有にするには、その持ち分の一部を売却か贈与するしかありません。相続まで待つ方法もない訳ではありませんが、お元気な場合で考えればこの2つの方です。まず売却ですが、親族間で売買するからと言って時価1,000万円のものを200万円で売買すればその差額に贈与税がかかってしまいます。そもそも収用を受けるために複数人での所有にしようとしている訳です。それ以前に時価で売買しても通常の譲渡税が課されてしまい、意味はありません。となれば、残る方法は贈与ですが、素直に贈与をしても、1年ごとの計算期間で行う普通の贈与では、基礎控除額は僅かに110万円。土地の贈与ではかなりの負担になってしまいます。
4.相続時精算課税による贈与そこで考えられるのが"相続時精算課税制度"による贈与です。60歳以上の者から20歳以上の子又は孫へ贈与する場合、2,500万円までは贈与税が非課税。それを超える場合にも一律20%の贈与税で完結する制度です。但し、贈与をしたと言っても実際の相続時には財産の持ち戻し計算をして相続財産として課税される仕組みです。もちろん、既にこの制度による贈与税を納めている場合には、その贈与税は相続税から控除されます。従って、相続税の前払い的な贈与と言う事もできるでしょう。これなら例えば贈与を受ける方3人で7,500万円まで非課税です。そして、もともとの所有者を加えて4人で収用されれば、5,000万円控除が4人で2億円まで所得税・住民税がかからない事になる訳です。
5.居住用財産の売却にも応用できる!収用の5,000万円控除程の効果はないにせよ、複数人での所有は居住用財産を売却する時にも応用できます。居住用財産を売却する場合には3,000万円の特別控除が用意されています。これを複数で適用できるようにするのです。具体的には配偶者に対しては、婚姻期間20年以上で2,000万円の贈与が非課税となる贈与税の配偶者控除の適用です。夫婦の持ち分割合にもよりますが、合計で最大6,000万円までの売却益が生じても、非課税で売却できます。また、同居の子供がいるならば、事前に先程の相続時精算課税制度による2,500万円までの贈与税非課税枠活用の準備をしておきましょう。なお、特例を受けるためには、土地のみならず建物の持ち分贈与もしておくことが必須です。但し、注意すべきは譲渡直前の贈与の場合、贈与自体は有効でも、贈与税の配偶者控除も居住用の3,000万円の控除も受けられません。これらの特例を受けるためだけの目的で贈与を受けた家屋等には認められないので注意です。
2017年7月31日
-
5301号
税務調査は現場第一!
法人税であれ、個人の所得税や相続税であれ、本来、税務調査は何をおいても"現場第一"なのである。現場を見ずして、或いは軽視して本当の税務調査などできるものではない。調査のプロである税務職員はそんな事は先刻ご承知のはず。が調査官のサラリーマン化で、職人気質に変化も…。
1.調査の基本は人、金、モノの動き税務調査とは結局のところ、人と金と物の動きを見て、申告内容に反映されている事を確認する作業である。この3つが合致して、初めて真実であることが証明されるのである。だからこそ、整理された帳簿だけをいくら見ても、真実は確認できない。彼らは"原始記録"と言う言い方をするが、整理される以前のモトモトの証票や資料を見て確認するのが本来の手続きなのだ。
従って、法人の調査でも、個人の調査でも、調査初日の午前中は概況を聴取し、誰がどんな役割の業務を分担しているのか、決定権は誰に有るのか等々を質問し確認する。特に相続の場合、被相続人が総てを取り仕切っていたのか、配偶者や同居の親族が代行していたのかがポイントになる。
2.従業員持ち株会と言う相続税対策従業員持ち株会と言う制度がある。相続税対策で社長所有の株式をこの持ち株会に売却することも多い。税法上低い金額で売買が可能で、その結果、社長の持ち株数が減少するためだ。そして持ち株会が持っている株式は、議決権が無い代わりに配当が普通株式より高率なケースが多い。これなら社長が経営権を維持することができ、従業員にとっても経営に参画するより、高配当なら投資対象としても悪い話ではないからだ。
ただ、この制度がある法人の場合、相続税調査においてはその実態を確認することは極めて重要になる。と言うのは、形ばかりの持ち株会を作っても、従業員自身に株主であることの認識が全くない場合も多いからだ。調査においては、(1)持ち株会の規約はあるのか(2)従業員に自主的、民主的に運営を行わせているか(3)理事会、総会等を確実に開催し、議事録の作成をしているか等々を現場で従業員に話を聞き、確認する事が必要なのだ。
3.架空人件費は先ず机を見ろ!中小企業でよく見受けられる不正の一つに、架空人件費の計上による経費の水増しがある。今後はマイナンバーもありこの手法は使えないだろうが、やり方が容易なので従来はよく行われていた。会社側も直ぐにはバレないよう源泉税は徴収したり、社会保険にまで加入したりして偽装をする。
しかし、これは現場に行き一人一人の机と本人確認をすれば、嘘は簡単に見破れる。にもかかわらず給与の一人別徴収簿、社会保険関係資料等々の帳簿だけを丹念に見ている調査官も多い。前述の従業員持ち株会同様、いきなり従業員の所に行き、色々な質問をすることをためらうのだろうか。
4.相続税で問題になるのは名義預金・名義株相続税の調査でも同様に現場での確認は重要だ。しばしば問題になるのが、"名義預金""名義株"等の表面上の名義に拘わらず、真実は誰の預金や株であるかの問題。先般の事案では、被相続人に多額の株取引があり、相続財産としても株式を申告していた。税務署は相続税の申告書が提出されると、必ずそこに記されている金融機関や証券会社に対し、被相続人の他相続人までを含めて預金や株式の売買等の取引状況を過去数年に遡って照会する。それによってこの名義預金や名義株の有無の当たりを付けて調査に来るのだ。例えば被相続人の定期預金が2,000万円しかないのに、照会の結果、専業主婦である配偶者に1億円の定期預金があることが判明したとしよう。こんな時税務署はこの1億円は被相続人の名義預金だと想定し、調査に選定されることが多いのだ。
5.原則通り、現場第一の調査官もいるが…さて、その事案では株の名義が問題となった。被相続人と同じ証券会社2社で配偶者名義の取引があり、それが名義株だとの想定なのだ。相続税の調査においては、配偶者の存在、回答は非常に重い。何しろ被相続人を最も身近で見、知っている人物だからだ。ただこの配偶者、体調不良でもあり調査当日は挨拶だけすると二階の寝室に。
しかし、調査官は午後になってどうしてもこの配偶者に直接話が聞きたいと言う。もう一度階下に降りて来られるか、或いは寝室まで行ってもいいかとの質問だ。(近年珍しく骨のある調査官!)配偶者を階下に降りて来させると、株の売買をした経験の有無を問う。配偶者は正直にないと答えると、配偶者名義での株式口座の存在と、株式の売買実績の状況を告げられた。つまり、配偶者が何ら知り得ない所で株式の売買が行なわれていたことになる。これらの事実から、調査官は名義株で、配偶者のものではないから相続財産に加えろと言う。しかし、もともと購入資金は配偶者固有のもの。それを被相続人が配偶者名義で運用していただけで、運用益を被相続人が使った形跡もない。当方は申告内容を修正する気は全くないが…。修正に応じない場合、税務署は更正できるか?2017年6月30日
-
5300号
商売はニッパチ、税務署はヨンロク!
世間ではニッパチと言われているが、商売は2月と8月は売上減少で暇な時期である。同様に税務署にも暇な時期があり、それがヨンロク、つまり4月から6月までというのが表題の意味である。もっとも税務署と一口に言っても色々な部署がある。しかし、何と言っても税務署の中心的な仕事は税務調査だろう。今回はその中でも法人課税部門に的を絞って何故暇なのかを探ってみよう。
1.勤務評定のために働く?税務職員は言わずと知れた国家公務員である。従って、懲戒処分でもない限り、クビになることもなく安定した収入が保証される。そのためか世間では他の公務員と同様に、競争もなくのんびり仕事をしているのだろうと思われている節がある。これはとんでもない誤解であることを、初めに申し上げておきたい。とりわけ法人税の調査部門では、毎日が同期や同僚との戦いなのである。
何故か。それは毎年3月末に勤務評定(通称"キンピョー")が行なわれ、それによって昇給や昇格に影響があるためである。それでは、どのような職員に優良な勤務評定が下されるのだろうか。"税務調査で良好な事績を上げた者"と、とりわけ若い職員は信じている。そのために、彼らは増差(申告額と調査額の差額)を稼ぎ、重加算税の課税をし、数多くの案件を処理することに励むのである。
ただ、民間でも同様であるが、営業職の人間は単に数字をあげれば、それだけで出世する訳ではない。先を見越し組織全体を見る目があるか、後輩を育てる力量があるか、上司に協力をし、恭順の意を示しているか等々様々な観点から人事評価はなされるのである。事は数字をあげればいいと言う、それほど単純なものではないのである。
2.工夫された競争システムそのことを理解できるのは、自分が相応の立場となり、部下を持つようになってからである。若い内は出世欲もあるだろう。そして人より早く昇給もして、生活の糧を多く稼ぎたいとも思うだろう。そんな心理を当局は非常にうまく利用し、競争システムを構築しているのだ。例えば、毎年いわゆる定期昇給が保証されてはいる。しかし、それぞれの条件に該当する年次には、特別昇給と言って通常の昇給以上の上がり方をする制度がある。ただ、これは全員ではない。キンピョーの良い"成績優秀者"だけが対象なのだ。今年は第何期の人間がこの特別昇給の対象者になるかは、誰しも知っている。そこで後れを取れば、当然のことながら次の昇給や昇格にも影響する。だからこそ、彼らは必死になって調査に励み、キンピョーをAランクにしたいと頑張るのだ。
また、一定額以上の増差所得等をあげた事案においては、報告書を提出する前に、栄誉ある"セレモニー"が用意されている。それは通称"重審"と言われているが、重要事案審議会を意味するものである。金額によって税務署長又は副署長の前で、事案の報告をするのだ。これに何回も出席できる人間は、当然のことながら署長や副署長の覚えめでたく、キンピョーにも繋がろうと言うものだ。とにかく当局は見事なまでに互いを競わせ、切磋琢磨させるシステムを構築している。
3.キンピョーの仮締めは12月、本締めは3月それ程このキンピョーは大切なのだが、毎年の事なので当然のことながら締日がある。一応12月末が仮締めで、7月の人事異動から半年の実績で概ねの評価が決定する。但し、最終の締めは3月末のため、調査官はこの時期までは必死で頑張る訳である。そのため、12月までの成績が金メダル、1~3月は銀メダルと言われ、4~6月は銅メダルどころか参加賞なのだ。キンピョーに影響がないためである。
つまり、ヨンロクは頑張っても無駄で、単なる件数消化。野球で言えばペナントレース終了後の消化試合なのである。従って、この時期の調査は至って緩く、とりあえず何らかの非違があれば簡単に修正申告を提出して終了となるケースがほとんどなのだ。では、もしこの時期に消化試合の積りで臨んだ調査事案がとんでもなく"美味しい"事案に化けそうだったらどうするか。実はそれが悩みどころなのだ。結論を引き伸ばし、7月以降にすれば金メダルが狙えるかも知れない。しかし、7月は異動の時期、辞令が出て他署に転勤となるかも知れない。
また同じ税務署ではあっても、所属する部門が変わってしまうかも知れない。実は法人課税部門においては、部門ごとに業種が決まっていて、3部門から4部門に移ったら、その事案を持って行くことはできない仕組みになっている。
4.法人課税部門以外は事情が異なる!以上述べたことは、あくまで法人課税部門の話である。所得税や資産税を扱う個人課税・資産課税部門では、1~3月は確定申告と言うビッグイベントがあり、法人課税部門とは趣を異にする。同じ調査部門でも、法人は数字にギスギス、個人はおっとり。所得税法や相続税法が血も涙もあるのに対し、法人税法がドライな割り切りの法律の規定となっているのに、何やら似ている気がする。
2017年5月31日
-
5299号
立ち上がれ、給与所得者
今月はいささか過激なタイトルにさせて頂いた。筆者も一給与所得者として怒り心頭だからだ。給与を支給されると、当然のことながら源泉所得税が課税される。それ自体は仕方がないのだが、問題はその計算の方法だ。給与収入の金額そのものに課税されるのではなく、給与所得控除という控除後の金額に対しての課税だ。実は、この給与所得控除額が今月の怒りのターゲットなのである。
1.給与所得控除とは税金と言うのはいわゆる"儲け"の部分に課税される。いくら土地を10億円で売却したとしても、購入時に12億円も払っていれば、差し引き2億円の売却損。税務署も流石にこう言う場合には1円の課税もしない。あくまでも儲かった場合だけに課税するのだ。では、給与の場合はどうか。サラリーマンなら通勤するに当たり、スーツやワイシャツ、靴、鞄等は仕事をするのに必要だろう。職種によっては専門の勉強のため、本の購入や勉強会への出席費用も掛るかも知れない。特例もあることはあるが、一般的にはこれらの個別的な事情は勘案されない。給与の額面金額に応じ機械的に必要経費部分を"給与所得控除額"として計算するのである。
2.控除額はどれ位あるのか?ではその控除額、どれ位あるのだろうか。28年分の給与については表1のとおりであった。これも従前よりかなり厳しいのだが、29年からは更に表2の様に変更されている。額面が1,000万円を超えると一律220万円に固定されてしまうのである。ニッサンのゴーン元社長のように、10億円超の給与の場合でも、僅か220万円だけしか経費として認められないのである。確かに給与所得者にとって、どこまでが必要経費なのか、その判定は難しい。しかし、最大で一律220万円と言うのは如何なものだろうか。
3.個人の事業所得と較べると個人で小売業や製造業を営んでいる場合、その儲けに対しては"事業所得"として課税される。これは言うまでもなく、売上から仕入、諸経費を控除して計算される。理論的、税法的には諸経費のうち、控除対象になるのはその事業に直接・間接に関連するものだけである。しかし、実務的には若干の個人的な経費が入ることは仕方がないだろう。車の利用や飲食代等々である。極端なものは否認もされるだろうが、軽微なものは認められることも多いもの。そもそも事業への関連性の有無やその程度を100%完璧に区分けなどできるものではないからだ。これと比較すると、給与所得控除額の計算は全く付け入る隙もない。しかも、最大で220万円と決めつけられ、年々厳しいものになっている。
4.控除額引下げは法人化への税務署の対抗策?個人の不動産所得について、ATOでは建物の簿価での法人への移転・売却を勧めてきた。その結果、本人一人で負担する不動産所得を法人に移行し、それを役員報酬の形で親族に分散することができた。税務署から見れば、悔しいだろうがケチのつけられない合法的な手段なのだ。それへの報復と考えられなくもない。しかし、それでも一人だけで所得税を負担したら、今や最高税率は住民税を含め55%+復興税が所得税の2.1%。片や法人税率は親族に役員報酬を支払って所得を分散し、所得800万円以下に抑えれば中小企業特例で15%。法人住民税や事業税等を勘案した実効税率も20数%だ。所得税は給与所得控除の他、平成30年以降は配偶者控除でも恩典が減る。残された道は、実現可能性は別にして、給与ではなく外注費扱いにして貰い、事業所得や法人化を目指す以外にないのだろうか。弱者へのしわ寄せ課税は、所得税、消費税の課税強化でますます進んで行く。
2017年4月28日
-
5298号
退職金の使い方
"退職金の使い方"とは言っても、資金の運用や活用方法ではありません。身内だけで会社の意思決定ができる同族会社のような場合(以下、単に同族会社と言う)には、退職金は法人税や相続税の節税対策に、絶大な効果を発揮するのです。そこで今回は、それらの節税対策のために退職金をどう利用するかについて考えてみました。
1.法人税法上の制約まず、ここでの退職金は同族会社の役員に限定します。従業員と言う身分では、多額な退職金の支給が見込めないからです。税法の規定では原則的には退職金は法人の経費になります。但し、過大と認定された部分の退職金は、経費とならないことになっています。実はこれが非常に難しいのですが、教科書的な適正額は次のとおりです。
最終月額報酬×役員の在籍年数×功績倍率
種々の条件によっても異なりますが、一般的には功績倍率は2.0~3.0程度でしょうか。創業社長や特別な功績があれば、この限りではありません。但し、実務ではそれ以前に絶対額がモノを言います。以前にもお話しましたが、都心は田舎に比べてかなり高額でも目立たないため、認められることも多いのです。場所によるのが実状です。
2.死亡退職金と言う使い方被相続人の死亡に伴う退職金については、相続税の対象にはなりますが、非課税枠が用意されています。500万円×相続人の数で、相続人が4人いれば2,000万円もの非課税枠となる訳です。相続に際し、同族会社の役員であればこれを利用しない手はありません。
ただ、問題は月額報酬です。生前に高額な役員報酬を支払っていれば、それがそのまま現預金の形で相続財産を形成してしまいます。さりとてある程度の金額を支給しなければ、上記の算式で計算した際に、期待できるような金額の退職金になりません。従って、早目に役員報酬を支払い始め、役員の在籍年数を長期にすることが得策です。場合によっては当初は少額に留め、漸増させる方法も効果的でしょう。
3.相続税の納税資金にも死亡退職金の場合、それを受給するのは相続人です。つまり、相続人はその受給した退職金を、相続税の納税資金に充当できると言う事になるのです。もし、納税資金が足りず、延納や銀行からの借り入れで賄った場合、その利息は何の経費にもなりません。しかし、同族会社に潤沢な資金があれば、その資金で充当できますし、潤沢でない場合でも、会社が退職金支給目的で借り入れをすれば、その利息は会社の経費です。つまり、本来は相続人が個人的に負担すべき納税資金を、会社に転嫁できると言う事なのです。
4.生前の退職金もこんなに有利!生前に退職金を支払う事もあるでしょう。この場合、受給した退職金はその方の退職所得となります。勿論所得税の対象となるのですが、これが通常の所得と較べ、格段に税負担が少なくて済むのです。その計算方法ですが、まずは勤続年数による控除額を控除します。20年以下の場合は1年当たり40万円ですが、最低でも80万円は控除できる仕組みです。また、20年を超える部分については1年当たり70万円。従って、30年勤続の場合には、70万円×(30-20)+40万円×20で何と1,500万円も控除できることになります。更に実際に課税される金額は、役員の在籍年数が5年超ならこの控除額控除後の金額の1/2。30年勤続2,000万円の退職金なら、控除後は500万円でこの1/2の250万円にしか課税されません。しかもこれは分離課税のため、他の所得と合算されることもなく、課税される退職所得の金額に税率を乗じればいいのです。従って、例えば自宅の建て替え等の具体的な資金の活用方法が決まっているならば、生前の退職で低い税負担で現金化。それを基に相続税法上非常に有利な評価となる建物にすれば、3,000万円の現金が1,000~1,200万円程度に変身です。
5.生前退職の注意点但し、生前の退職金支給に当たっては、退職に伴う実態が必要です。"退職したことにして"実際には経営に関与していれば、退職金の支給は経費とは認められません。退職後、単にそれまでの役員報酬を若干引き下げたり、相変わらず大株主として経営を差配できる立場にあったり、非常勤となったりするだけでは、真実の退職とは認められません。役員としての地位又は職務の内容が激変し、実態が伴わなければならないのです。取締役を退任して、形式的にだけ監査役になったりするのも同様です。また、分掌変更等に伴い役員報酬が激減する場合も、激減と言うからには概ね従来の報酬の50%以上の減額は必要でしょう。 このような注意は必要ですが、退職金の支払いは会社に多額の経費を生じさせることにもつながります。保険金の満期時の大きな利益が生じる場合にこの退職金支給を合わせたり、株価を一気に引き下げ、その時点での株式贈与に活用したり、魅力満載の退職金を検討することは有用です。
2017年3月31日
-
5297号
結局、解決されない”タワマン節税”
本年の税制改正で改正前から注目されていた項目に、いわゆる"タワマン節税"があります。改正内容の詳細は、別途今月号の『え~っと通信』に譲りますが、結論を言えば、大山鳴動して鼠一匹、と言ったところでしょうか。実は筆者はこの程度の改正になることを、かねてから"予測"していました。なぜなら、この改正がそれ程簡単でないことは、火を見るより明らかだからです。
1.タワマン節税とはタワマン節税(タワーマンション活用の節税策)を一言で言えば、相続税においてマンションを評価する場合、高層階の部屋は節税効果が大きいと言う事なのです。マンションの相続税評価は実際の時価とは無関係に、土地部分と建物部分を分けて評価し、その合計とするものなのです。マンションは土地の立体利用なので、高層マンションになればなる程、土地部分の占める割合は低いもの。建物は建築価額に比べかなり低額の固定資産税の評価に基いて計算します。が、固定資産税そのものは、マンションの建物全体での評価。それを部屋の持ち分に応じて按分するため、高層階でも低層階でも床面積が同じなら同じ評価額になる仕組みです。現実には高層階の方が眺望が良いため、低層階より売買価額は高いと言うのが相場です。このような仕組みのため、マンションの相続税における評価は、実際の売買価額よりかなり低めになっていますが、高層階ほどその影響が顕著と言うのが、タワマン節税の概要です。
2.固定資産税の改正は相続税にも影響するが…さて、今回の税制改正はあくまでも固定資産税の改正であり、相続税の評価方法に関する改正ではありません。ただ、相続税においては、前述のように建物の評価は固定資産税の評価額に基づくため、大元の固定資産税評価額が変われば、それに伴って相続税評価額も影響を受けると言う事になるものです。今回の固定資産税の改正は、建物全体の評価額・税額は変更せずにそのままで、その全体の固定資産税額を各戸に按分する方法を変更したのです。単純な持ち分割合ではなく、基準階を中心に階層によって本来の按分額に増減を設け、高層階は高く、低層階は低くなるようにすると言うものなのです。結論的には非常に軽微な改正で、相続税への影響はなし。これでタワマン節税が封じられたなどとは言えない代物です。つまり、マンションに対する固定資産税及び相続税の抜本的な改正にはなっていないのです。
3.何故、抜本的な改正ができないのか?それでは、何故、抜本的な改正をしなかったのでしょうか。それは、マンションの評価がそれほど簡単ではないからです。改正をしなかったのではなく、できなかったのです。そうは言っても世間では、タワマン節税が親の仇のように声高に叫ばれていました。政府としても、それを放置する訳にはいかなかったのでしょう。つまり、この程度の改正でお茶を濁しただけだったのです。
具体的に、何処がどのように難しいのでしょうか。実は問題の根は非常に深いのです。まず第一に、高層階の方が低層階より眺望が優れていると言いますが、隣地に同程度の高さのマンションが建ったら、眺望は一気に遮られ、従来の快適さは著しく阻害されます。また、同じマンションでも、その部屋が南向きか北向きかで、実際の販売価格は異なります。更には角部屋か否かによっても価格は異なる事でしょう。つまり、決して高層か低層かだけの問題ではないことは、誰の目から見ても明らかなのです。
4.固定資産税と相続税との建物評価の相違点そもそも、固定資産税の建物の課税は、建物の物理的な価値に対しての課税です。そのため、木造より堅固で耐用年数も長い鉄筋の建物は、必然的に評価額も高くなります。また、内部の構造も、床の厚さや柱や壁の部材によってもその評価に影響を与えます。そのため、全く同じ構造、全く同じ部材で作った建物であれば、どの場所に建っていても評価額は同額になる筈なのです。それ自体、間違ってはいないのでしょうが、それを相続税評価額にそのまま当てはめたところが間違いなのです。相続税の評価は収益性等を考慮した相続時点での"時価"とされています。その時価とは、国税庁が定めた財産評価基本通達と言う評価のルールブックに、『不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額』と明記されているのです。つまり、明らかに固定資産税のような物理的な価値ではないのです。
5.タワマン節税の将来的予測税務署は上記のようなことが分かっていながら、どうして建物評価を固定資産税に委ねているのでしょうか。答えは簡単で、個別の評価など税務署にできないからです。相続の度ごとに、一軒一軒の建物を評価することが税務職員には不可能だからです。と言う事は、今後も固定資産税の抜本的な見直しをしない限り、相続税においても、今回のような"お茶濁し"程度の改正に留まる事を、筆者は税理士として断言しておきます。
2017年2月28日
-
5296号
調査能力の低下を嘆く!
筆者は税理士として、年間に何件もの税務調査に立会う。税目も所得税から法人税、相続税に消費税、たまに源泉所得税や印紙税と多岐に及ぶ。どの税目についても言えるが、昨今の調査官の調査能力低下は著しい。納税する側から見れば歓迎すべき話ではあるが、税理士から見たその原因と実態を探ってみたい。
1.不均等な年齢構成あまり世間的には知られていないが、現状の税務職員には若い人が非常に少ないのだ。人事院が公表している世代別人員統計によると、最もバリバリ働く28歳から40歳未満は全体の約24%、それに対し44歳から60歳までの中高年が何と51%弱にもなっている。この年代にもなれば出世レースは概ね決着済み、万年係長の上席調査官のオンパレードなのだ。税務職員には実質的に調査件数のノルマはあっても、増差(調査で申告額に上乗せされる所得や税額)のノルマはない。従って、件数だけこなせば上からは文句も言われず、通常通りの昇給も約束されている。
2.60歳定年制の弊害調査官の様な公務員の場合、現状では例外なく60歳が定年である。その後は税理士資格がほぼ自動的に得られるため、税理士として活動する道がある。その場合、初めは先輩のOB税理士事務所に世話になるケースが圧倒的だ。もう一つは、再任用の道を選ぶコース。ただ、この場合、週4日勤務で給与は激減、その地位は基本的には調査官やせいぜい上席。若い人に交じって現場の調査。さすがに元署長クラスに調査はさせないものの、原則として管理職にはなれません。どんなに頑張っても昇給も出世もなく、士気が上がる筈もない。つまり、この手の調査官が調査に来ても、ここでも調査内容より件数消化に留まることが多くなる。調査を受ける側に立てば、これ程ラクな事はない。前述の人事院の世代別人員統計からも明らかなように、中高年の割合が非常に高いのが現状である。これからも当分の間、この再任用の調査官による調査が相当の数見込まれることになる。
3.準備調査不足税務調査と言うのは、実際に会社や自宅に来る以前に様々な準備をしてくるものなのだ。数年分の決算書を比較して、問題点や異常項目を抽出し、又は実際に調査に臨場した際に確認すべき事柄を整理した後にやって来る。これを準備調査と言うが、入念な準備があってこそ調査の際に力のいれ所が違ってくるもの。備えあれば憂いなしなのである。
ところが、昨今の調査ではこの準備調査が不十分なまま自宅や会社に臨場なさるケースが多い。本来は事前に調べてくれば分かることを、調査の場で初めて確認が始まったりする。準備調査を満足にしてこないのは、彼らが忙し過ぎるせいだろうか。確かに近年、国税庁は概ね56,000人体制で一般職の国家公務員の組織としては最大勢力と言う事になってはいる。しかし、平成27年度、28年度とも定員を含め減少傾向が続いているそうだ。一定の調査件数は確保せねばならず、一方で定員は減少傾向となれば、調査官一人あたりの負担が増えることは必至であろう。
4.相続税調査における金融機関への照会特に顕著なのが金融機関に対する預金の照会である。先般も相続税の調査で過去の預金通帳を見せてくれとの依頼だ。ここまでは調査での常套手段なのだが、実はパフォーマンスに過ぎない。実際には相続税の申告書を提出すると、税務署は直ぐに申告書に記載されているすべての金融機関に、相続時の残高はもとより、過去数年分の普通預金の動きを本人や家族を含め照会済みなのだ。これを基に不審な案件を調査に選定し、疑問点を解明するのだが、預金の中味を知らないふりして通帳の提示を求め、その場で質問をすることが多い。
しかし、先般の調査ではこの事前の照会を省略したのだろう。その場で一枚一枚通帳の写真を撮り始めたのだ。今はカメラの精度も良く、通帳程度のものははっきりと数字まで撮影も可能だ。が、これに延々と時間を掛け、ほぼこれだけで午後の時間を使い切った。
5.写真を撮れば満足なのか?写真絡みではもう一つ。ある著名な音楽家一族の相続税の調査である。さすがにストラディヴァリウスとまでは行かなかったが、かなりの名器と言われるヴァイオリンが相続財産に計上されていた。当方はきちんと鑑定書を付けて時価評価をしたので、これについての指摘はなかった。が、保管状況を質問されたので、金庫を案内し実物をお見せした。彼らに何が分かるのか、一所懸命に写真を撮りまくっていた。また、600万円の支出が通帳から確認されたので、使途を尋ねられ、ヴァイオリンの弦だと説明したら、やはり写真。その後何らのお咎めもない。昨今の調査は写真を撮り、調査調書に添付しておけばいいのだろうか。
元調査官である税理士としては、嘆かわしい実態に喜んでいいのやら、悲しむべきなのやら…。2017年1月31日
-
5295号
小規模宅地の特例は共有で?
『ここはいったん、全員の共有と言う事にしておこう。』相続にあたり、財産分けの話し合いがまとまらない場合、誰かがこんな"名案"?を口にします。この"共有"は誰にとってもまさしく平等で、文句がつけられない分け方だからです。普段、共有は本当の意味での解決にならない、単なる問題の先送りだ、と言ってATOではお勧めしていません。が、時には共有でこんなにお得な事も。
1.共有の考え方共有と言う考え方、法律上は全員が平等で対等の地位に立ち、権利も義務も等分に分かち合うシステムではあります。しかし、最も大きな問題は、原則として全員の意見が一致しない場合、何もできないと言う事です。言うまでもなく、とりあえずの共有状態では、誰もが100%の満足はしていません。しかし、仕方なく我慢をしている状態なので、いつかは解決したいと心の中では思っているのです。ただ、残念ながらその具体的な手法が分からぬまま悶々とした日々を送っている相続人も多いのではないでしょうか。
2.事案の概要都心にほど近い、住宅地としては一等地にその土地はありました。相続財産としては唯一の不動産です。他にそれなりの金融資産もありましたが、この土地の分け方、行方が今回の相続の最大の懸案だったのです。このご家族、父と母との間に長男、次男、三男の3兄弟がいました。数年前に父親が亡くなった時に、母親がこの自宅の土地・建物を相続しています。長年夫婦二人だけの生活をしていたこともあり、小規模宅地の特例を受ける事からも、母親がそれを相続することに3兄弟とも異論はありませんでした。そして、今回の母親の相続です。別居はしていたものの、長男が頻繁に母親の様子をうかがい、気にも掛けていました。長男も次男もそれぞれ持ち家でしたが、昨今の風潮か妻の実家近くに居を構えていたのです。三男だけが母親の近くに住んではいましたが、持ち家は所有していなかったと言う状況です。また、この実家に対する思い入れも、3人の中では最も強かったのでしょう。そのため、三男が実家の不動産を相続したいと申し出たのです。路線価に基づく自用地としての原則評価で約3億円。長男も次男も三男がそれを相続すること自体に反対はしませんでした。ただ、当初から今回の相続については、均等に3等分すると言う了解事項ができ上がっていたのです。
3.代償分割と言う手法3億円の不動産を相続するなら、その見返りに他の兄弟に1億円ずつを支払うことがその条件です。当時の税理士には、いわゆる代償分割の手法でそれが可能であるとも教えられていたようです。しかし、三男にそれだけの返済原資も能力もありません。結局は共有にして直ぐに売却。売却代金を均等に分けてこの相続は無事に終了したそうです。これだけを見れば、共有大いに結構。三男の思い入れを実現できなかったのは残念ですが、現実問題としては他の方法はなかったであろうことも、想像に難くありません。
4.小規模宅地の特例適用を考えてここでの問題は、関与税理士の不十分なアドバイスです。代償分割まで考えたのであれば、どうしていったん三男に相続させなかったのか、と言う点です。ここで三男は唯一の"家なき子"。つまり被相続人の居住用の土地について、小規模宅地の特例の適用上、330㎡までは8割引きになる特例の適用対象者になり得るのです。
具体的には、分割協議書上は三男がいったん単独で実家の土地建物を相続する。その上で特例の適用を受けられるよう、相続税の申告期限まではその土地を保有し、その後に売却する。分割協議書にもその売却代金を三男の譲渡税控除後の金額で3等分する旨を謳っておけばいいのです。
但し、売却価額が相続税の申告期限までに確定していない場合もあるでしょう。その場合、各人の相続分も不明で、申告書にも記載できません。そこで、売却準備は事前にしておくとして、いったんは未分割の状態で申告をします。そして、価額が確定したところで分割協議書を作成し、三男が取得することを前提に、他の2人の取り分を確定するのです。当初の申告では小規模宅地の特例を適用していないので、これを適用すれば全員が更正の請求で相続税の取戻しは可能になります。もちろん、未分割で申告する時点で、一度は過分な税負担となりますが、短期間に取戻しは可能なので、そこは目をつぶるしかないでしょう。それが負担であれば、何とか申告期限前に売買契約の準備だけはしておくことです。契約を締結し内金を貰っても構いませんが、申告期限を待って残金の決済をして引渡し、登記を移転すれば問題はありません。申告期限までは保有することが条件だから、これは何をおいても死守しなければならないのです。このような配慮、準備があれば、相続税においては小規模宅地の特例を享受することができ、なおかつ公平な財産の分割が可能になるのです。2016年12月26日
-
5294号
税務署も監視カメラを使う時代
税務署には税務調査の際に活用すべき色々な情報源がある。最も典型的なのが一般取引資料箋と言われるもの。例えばA社を調査した時に、その仕入先B社との取引金額を把握する。すると、それはB社の税務調査をする際、B社の売上先としてA社が計上され、金額が符合するかどうかの確認項目として利用できることになる。税務署ではこの手のものを資料箋と言うが、これを基にこんな事までやる調査の最新の実態をご紹介しよう。
1.昔は"紙"、今は"電子データ"この資料箋、昔は総て紙に書かれ、それを保管していた。そして個人でも法人でも、確定申告が終わると、申告内容とその資料箋との突き合わせを行うのである。もし符合しないものがあれば、申告漏れが想定されるため、要調査事案として選定される可能性が高まる事は確実だ。
しかし、ペーパーレス時代の昨今、これらの資料箋はKSKと言う国税庁の課税情報システムに電子情報化されている。筆者が税務署に居たのはもう何十年も昔の事だ。現在の資料箋の運用実態は知る由もないが、基本的なやり方は同じではないのだろうか。調査官としては資料箋との突合を綿密に行うことが非常に有用なのである。ただ、紙と電子データとを比べると、見易さ、使い易さは紙の方が上だろう。見逃しがあるかも知れない。
2.税理士を交代させてATOが調査立会このATO通信はネットでも公開している。税務署の実態や税務調査で戦う姿を記事にしているからだろうか。先般もこんな事があったのだ。関与している税理士がいるのに、それを断って当事務所に今後の関与も含めて、税務調査の立会を依頼されたのである。とりあえず調査年分の決算内容も詳細は分からぬまま、調査には立ち会った。税務署は開口一番、X銀行との取引はあるか、との質問である。決算書綴りにX銀行は載っておらず、簿外の取引口座ではないかとの疑念があると言う。上述した一般取引資料箋があり、それが今回の調査の選定理由だと知らされた。が、3年前のものなので取引の全容は分かっていないとの事。
3.社長の答弁それに対し調査会社の社長は次のように説明した。『X銀行に口座があるのはウスウス知っていた。それは元共同経営者が開設したものだと思うが、自分はその口座開設に積極的には関与していない。その後、彼とは経営をめぐる意見の違いから、現在は手を引いて貰っている。従って彼が当社の名前で取引をしているものだと想像するが、彼への反面調査は避けて欲しい。彼は得意先への影響力が非常に強く、怒らせると現在の取引先まで失う恐れがある。金額次第では当社が総ての責任を負うので、先ずは取引金額の全容を教えて欲しい。』この時点で筆者は社長に若干の同情を禁じ得なかった。税務署も簿外の預金口座があることは把握していても、全容を把握していないので税務調査で状況を確認してから銀行調査を行うとの事。とりあえず、直ぐに元共同経営者に対する反面調査は行わないと約束してくれた。
4.税務署が行なう銀行調査その後税務署は銀行調査を実施したようだった。銀行に行けば、その簿外口座と想定される普通預金の動きは総てが復元できる。それを基に、社長が自分で責任を取るべき金額を税務署から指摘されるだろうと思っていたのだが、事はそれほど単純ではなかった。この預金口座に関して、社長自らは関与していないと言っていた。にもかかわらず、何と税務署が調査をしたい旨を会社に連絡した直後に、この社長は自分でこの口座を銀行に行って、解約していると言うのだ。それを税務署は銀行の監視カメラで社長本人であることを確認していると言う。確かに今は監視カメラ、防犯カメラの時代である。預金の動きだけではなく、誰がいつ手続きをしたのか、カメラは総てを見ているのだ。これらのカメラは警察が犯人を特定するだけのために使っている訳ではない。税務署だって任意調査の段階でも、積極的に活用している。強制調査のマル査などは推して知るべしである。
5.税務署に嘘はいけない!この事例、当初は自分の関与している口座ではないが責任を取る旨の供述をしていた社長である。筆者も同情すら感じていたが、それは税務署も同様だろう。勿論、だからと言って社長に対する課税が軽減される訳ではない。しかし、このような場合、税務署は元共同経営者への反面調査を省略したり、除外した売上に対する原価を一部認めてやったり、それなりの配慮をしてくれることも多いのだ。それがこの社長のように税務署に嘘をついていたことが判明すると、もはや同情の余地はない。確かに税務署も資料箋を直ぐに活用せず、3年も経ってから見直ししたのは職務怠慢だ。また、筆者も税務調査に当たっては、税務署に対して日頃から是々非々で対峙してはいる。が、嘘はいけないし税務署を甘く見てもいけない。税務署と喧嘩ができるのは、あくまでも理屈の世界、税法に則って適正に処理をしている場合だけである。
2016年11月30日
-
5293号
高級車の購入方法
フェラーリ、ベントレーにランボルギーニ、車にあまり興味のない方も名前だけはお聞きになったことがあるのではないでしょうか。高級名車の数々です。昨今、若者の車離れが著しいようですが、私共のお客様には車好きの方も多いようです。
さて、これ程の車ではなくても、ン千万もの高級車を買う場合、個人、法人、誰の名義で買うのが節税になるのでしょう。そりゃ経費になるから法人だろう、と簡単に決めつけてはいけません。
1.基本的には法人名義確かに所得税と法人税、二者択一で考えれば言うまでもなく法人です。個人名義で車を買っても減価償却費、ガソリン代、駐車料等の全額が必要経費にはなりません。小売業や製造業を個人事業として行う場合、必ず問われるのはその事業にどの程度その車を活用しているか、です。個人的な買い物やレジャーにも車を利用するだろう、その分は経費としては認めないぞ、と言うのが税務署の考え方。税務署はそもそも性悪説の考え方で固まっています。そのため所得税においては、業務以外に個人的にも車を使っているだろうと疑ってかかるのです。その分は家事費として必要経費性を認めない方向なのです。もっとも、正確にその使用割合なんて誰にも分かりません。適宜の割合を決算書に記載しておけば、それ以上の追及をそれほど心配する必要はないでしょう。
それに対し同じことをしても、法人は総ての業務が法人の業務と言う前提です。実際には中小企業の場合、社長が友人とのゴルフに車を使用することだってある筈です。従って100%をその事業に利用している訳ではないでしょうが、これについては税務署も程度問題。理論的には甚だおかしいのですが、私的利用も常識の範囲内であれば税務署もこれを否認はしないのです。法人が100%業務に利用していると申告した内容を否認するためには、基本的にはその反証は税務署がしなければなりません。が、これも結構難しいので、お目こぼしも期待できる場合が多いのです。
2.個人の不動産所得では望み薄!法人に比べ個人は経費化が難しいと申しました。前述のお話は小売業や製造業の場合なのですが、これが不動産所得になると事態はさらに深刻です。結論から言えば、車の関係費用はほとんど経費として認められません。何故かと言うと、家賃や地代を得るために何で車が必要なのかを問われるためです。これに対し、例えば現場の見回りに行くのに車を使用すると答えれば、月に何度その現場に行くかとなるでしょう。月に1回と答えたら総額の1/30だけは経費と認めましょうと言うことになるのです。
税務署の考え方として、不動産所得は不労所得。額に汗をしないでお金を稼ぐことをあまり快くは思っていないのです。そのためか不動産所得に対しては、とりわけ厳しい見方をするような気がします。と言うことで、基本的には法人名義での取得が有利と考えて間違いないでしょう。
3.相続直前の車購入は?92歳のおじいちゃんがいます。勿論ご高齢のため車の運転はしません。車椅子ではありませんが足も不自由です。相続を控え孫のために、3,000万円のベンツをプレゼントすることを考えました。お墓にお金は持っていけません。元気なうちに家族を喜ばせてこそお金も生きるのです。しかし、こんな高額な車を買ってやれば、文字どおり贈与税の餌食です。およそ1,000万円の贈与税がかかります。それならと言うことでおじいちゃん名義で購入したらどうでしょう?今では運転もできないし、実質的に使用しているのは20歳の孫。税務署はその実態から見て孫への贈与だと言うのでしょうか。
これに対し、例えばこんな風に応えたらどうでしょう。『確かに私は年寄りなので運転はできません。大抵孫にやってもらっています。でも、この孫は大変なおじいちゃん孝行で、病院に行く時は必ずこの車で送り迎え。買い物や旅行にもこの車で連れて行ってもらっています。近頃の若者にしては、本当に偉いでしょ?』こう言われて税務署は、そんなのウソだと言えるでしょうか。運転はしなくても購入資金の出所はおじいちゃんです。だから名義はおじいちゃん。車の名義人が必ず運転しなければいけないルールはありません。税務の世界では事実認定と言うのですが、真実の姿と言うか、実態で判断をすることになります。実際的には上記のような事実もなく、孫がただ単に遊びに使っていれば、贈与だと言われても仕方がないでしょう。また、税務署だって本気になれば、毎日の見張りまではしなくても、病院までの走行距離や買い物の頻度等から否認する可能性もなくはありません。そこは法人名義の車を社長が友人とのゴルフに使用するのと同じで程度問題。
3,000万円のベンツも耐用年数は6年。直ぐに償却が総て終了します。相続直前の購入で相当程度の評価も落ち可愛い孫に喜ばれる秘策、検討の余地はあるのかも知れません。2016年10月31日
-
5292号
贈与ではなく給与で移そう!
お金に色は付いていません。従って、相続の時に誰のお金だったのか、税務調査では常に問題にされるのです。いわゆる"名義預金"、"名義株"と言われるものがそれに当たります。真実が何処にあるのかは難しい問題なので、それを合法的にクリアーする新手法のご紹介です。
1."生計一"の親族とは所得税法に"生計を一にする親族"と言う、一見分かったようで、実際にはその判断が非常に難しい用語があります。敢えて大胆に定義すれば、『同居をしていて、同じお財布で生活を営む親族』、とでも言うことができるでしょうか。キーワードは"同じお財布"であって、必ずしも物理的な同居が条件ではありません。単身赴任のお父さんが一家の生計を支えていれば、その奥様やお子さんは言うまでもなく生計を一にする親族です。そのお子さんが就職をし、自らマンションを借りて住んでいれば、仮に親に幾ばくかの仕送りをしていても、これはもうお財布は別々なので生計は別と言う判断なのです。
2.生計一の親族に給与を払うと…基本的に配偶者は、多少の収入があっても生計を一にする親族に該当します。別居でそれぞれに収入がある場合もあるでしょう。が、ここは説明の都合上、筆者夫婦の様な収入は夫だけ、妻は専業主婦である円満(?)夫婦を想定して下さい。
不動産賃貸業又は小さなお店、例えばラーメン屋でも居酒屋でもいいでしょう。夫がそんな事業を営んでいて、妻がそれをたまに手伝っていたとします。個人事業なのでその利益に対しては、夫に所得税の課税が生じます。その夫が妻にお礼程度の気持ちで給与を払っていても、原則として払った給与は夫の経費にならず、逆に貰った妻も収入にはなりません。原則としてと言ったのは、青色申告の場合には、夫婦であっても専業主婦ではなく、実際に事業に専従する青色事業専従者となれば給与として認められるためです。勿論、この場合には貰った側は給与として課税されますが。ラーメン屋や居酒屋稼業で生計を立てていれば、利益の多寡と関係なく所得税の世界では立派な事業所得。青色事業専従者として給与の支払いが認められます。問題は不動産賃貸業で、専門的には"事業的規模"と言うのですが、一定規模以上でないと青色事業専従者として認められません。つまり、この場合には、白色申告ではなく青色であっても給与を経費とすることはできないのです。
3.給与を支払うと(貰うと)どうなるか?不動産賃貸業でもラーメン屋でも、とにかく例えば妻に給与を支払うとしましょう。先程、原則として青色事業専従者給与以外はその支給額が経費とならない代わりに、貰った側も収入にならないと言いました。従って、その給与に源泉税も住民税も掛りません。無税なのです。生活費その他の支出は総て夫のお金で賄えば、給与は総て妻が貯金する事も夢ではありません。例えば月に25万円の給与に夏冬にそれぞれ2ケ月分の賞与を支払ったらどうなるでしょう。年間に400万円の妻の貯金ができる計算です。10年で4,000万円、20年なら8,000万円もの金額が無税で妻の貯金形成です。ここで判断すべきは贈与との比較でしょう。年間110万円までは非課税ですが、400万円に係る贈与税は毎年約33万円。10年で335万円、20年で670万円にも上ります。一見、給与の方が良いことずくめの感もありますが、無税で妻に行った分は夫が所得税として総てかぶっているのです。あまり高額所得の方にはお勧めできない方法です。
但し、この方法なら妻の預金が多額にできていても、名義預金の心配は全くありません。これを原資に株を買っていれば、名義株と言われることもありません。正々堂々と合法的に夫の財産を減らし、妻名義の預金形成ができるのです。
4.高額所得ならどうするか?それではこの手法、どんな場合に有利になるのでしょう。前述のように夫の所得税と妻の贈与税の比較になります。ただ、夫の所得については、法人化や信託で既に対策済みと言う方も多い事でしょう。例えば、土地も建物も個人所有である場合、所有型法人に建物を移しても土地は個人のまま。従って、個人は法人から地代を収受することになり、この部分は個人の不動産所得です。が、この中から妻や子へ給与を支払えばいいのです。これと低額の贈与を併せて行えば、それなりの金額を妻や子に移すことも可能です。ここでもう一度復習です。この給与は支払っても経費にならずに、貰っても収入にならないのです。つまり、決算書にも何処にもその履歴が残りません。従って、毎月本当に給与の額として定時同額を妻や子の口座に振り込んでいれば、給与として支払った事実は証明ができるのです。さて、問題は地代だけがその内容となる不動産所得の申告で、一体どれ程の金額の給与を支払うことができるのかでしょう。相続時にこれが判明しても、真実給与を支払うだけの実態があれば、名義預金だと言われる心配はありません。但し、その金額があまりに高額であれば、高額な部分は贈与となる可能性も。給与か贈与か総ては腕の良い税理士との相談です。
2016年9月30日