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COLUMN
毎月職員が交代で執筆しています。
ただ、自分の順番が回ってくると、
その対応は様々です。
税務のプロとして、日頃の実務や研究の成果を
淡々と短時間にまとめる者、
にわか勉強で急に残業が増える者、さて今月は…
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275号
ふるさと納税は相続税でも使える?~所得税と住民税、相続税でもふるさと納税~
ふるさと納税は、ご自身の選んだ地方公共団体に対して寄附を行った場合に、返礼品がもらえる上、控除上限額の範囲内で寄附すると寄附額のうち2,000円を超える部分について、所得税及び住民税からそれぞれ控除が受けられる制度です。
相続により財産を取得した人が、相続直後に国などに相続した財産を寄附した場合、一定の要件を満たせば、寄附した財産は相続税が非課税とされます。これは措置法70条の非課税という相続税の制度です。
ふるさと納税と措置法70条の非課税は、どちらも寄附した場合に受けられる制度という点では似ていますから、ふるさと納税をすると所得税・住民税だけでなく相続税も節税することができるのでしょうか。1.措置法70条の非課税の要件
適用を受けるための主な要件は次のとおりです。
①寄附先は、国、地方公共団体、特定の公益法人等であること。
②相続または遺贈により取得した財産を寄附すること。
③相続税申告書に寄附金の受領書等を添付すること。
少しわかりにくいので、細かい部分を見ていきましょう。2.要件① 寄附先は国等であること
寄附先は、厳密に指定されていて、以下のとおりです。
・国
・地方公共団体
・特定の公益法人等
ふるさと納税は、地方公共団体への寄附ですから、措置法70条の非課税の要件も無条件でクリアします。3.要件② 相続等により取得した財産の寄附
相続等により取得した財産を、そのままの形で寄附しなければならない、という制限があります。
たとえば、相続した土地を売却してその代金をふるさと納税した場合は、相続した財産が土地、寄附した財産が売却代金と異なる財産に変わりますので、措置法70条の非課税は適用できません。
被相続人の預貯金は、口座が凍結されてしまい取引ができないため、解約して相続人の預貯金口座に移管するのが一般的です。預貯金の口座が変わってしまった、クレジット払いやQRコード決済等で寄附する、こんなときは要件を満たすのでしょうか。
相続等により取得した財産が預貯金の場合には、払い戻しを受けた金銭は「相続等により取得した財産」に該当するものとして取り扱うこととされています。被相続人の預貯金の払い戻しを受けた相続人の預貯金口座から寄附された金銭は「相続等により取得した財産」になります。ふるさと納税がクレジット払いやQRコード決済等で行われた場合でも、これらは支払い手段であり、被相続人の預貯金口座から移管した相続人の預貯金口座から引き落とされるのであれば、相続等により取得した財産の寄附と考えて差し支えありません。4.要件③ 相続税申告書に寄附金の受領証等を添付
申告期限内にふるさと納税をし、相続税申告書に寄附金の受領証等を添付しなければなりません。相続人間で遺産分割が長引いてしまうと相続税申告書にその証明書を添付することが難しくなってしまうので、措置法70条の非課税は使えなくなってしまうかもしれません。
5.ふるさと納税で一石四鳥
ふるさと納税で措置法70条の非課税の適用を受けるには、被相続人の預貯金の払い戻しを受け、その払戻金で相続税の申告期限までにふるさと納税をし、相続税申告書に寄附金の受領書等を添付すればよいのです。
結論として、ふるさと納税は、所得税・住民税の控除と措置法70条の非課税の適用を受け節税することが可能です。寄附先から返礼品がもらえることも加えれば、一石四鳥の制度ということができます。6.ご注意していただきたいこと
ご注意していただきたいことがあります。
1つ目は、措置法70条の非課税は寄附した財産の相続税が非課税とされる制度ですから、相続税がかかる人でなければ相続税の節税になりません。
2つ目は、所得税等の寄附金控除は控除限度額があるということです。控除限度額を超えると、その分は所得税等の節税になりません。控除限度額は、寄附する方の年間所得や家族構成によって変わりますので、事前に確認しておくことが重要です。
3つ目は、ふるさと納税の金額が高額になり、返礼品の額が50万円を超えると一時所得が発生してしまいます。
多額の寄附をされる方は、その分の財産が減りますから、今後の生活等のこともよく考えていただくようお願いします。7.まとめ
毎年ふるさと納税をして確定申告で寄附金控除を受けている方は、もしも預貯金をご相続することがありましたら、相続した預貯金をふるさと納税することで、所得税・住民税がお得になるだけでなく、相続税が非課税になる場合があるということを思い出してください。そして、被相続人の方が残された財産を有意義に使っていただきたいと思います。
2024年3月15日
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274号
令和6年度税制改正の概要
令和5年12月14日に令和6年度の税制改正大綱が発表されました。今回は税制改正の主要項目のうち、特に注目すべき点をご説明します。
1.所得税・個人住民税の定額減税
国民負担の緩和、デフレ脱却のための一時的な措置として、令和6年分の所得税及び令和6年度分の個人住民税の減税が行われます。
(1) 減税額
① 所得税 本人3万円+同一生計配偶者又は扶養親族1人につき3万円
② 住民税 本人1万円+控除対象配偶者又は扶養親族1人につき1万円
(2) 所得制限
① 所得税 令和6年分の所得税の合計所得金額1,805万円以下(給与収入2,000万円以下に相当)
② 住民税 令和6年度分の住民税の合計所得金額1,805万円以下
(3) 実施方法
① 給与所得者
(イ) 所得税 令和6年6月1日以後最初に支払を受ける給与等の源泉徴収税額から控除し、
控除しきれない場合は翌月以降の税額から順次控除。
(ロ) 住民税 特別控除後の住民税額を令和6年7月から令和7年5月までの11ヶ月で均等徴収。
② 公的年金受給者
(イ) 所得税 令和6年6月1日以後最初に支払を受ける公的年金等の源泉徴収税額から控除し、
控除しきれない場合は翌々月以降の税額から順次控除。
(ロ) 住民税 令和6年10月1日以後最初に支払を受ける公的年金等の特別徴収税額から控除し、
控除しきれない場合は翌々月以降の税額から順次控除。
③ 不動産所得・事業所得者等
(イ) 所得税 令和6年分の第1期分予定納税額から本人分の特別控除の額(3万円)を控除し、
控除しきれない場合は第2期分予定納税額から控除。
※最終的には確定申告の機会に減税。
(ロ) 住民税 令和6年度分の第1期分の納付額から控除し、控除しきれない場合は第2期分以降の
税額から順次控除。2.住宅借入金等特別控除の改正
子育て特例対象個人(夫婦のいずれかが40歳未満の者又は19歳未満の扶養親族を有する者)が一定の新築住宅を取得した場合の取扱いが下記のように変更されます。
(1) 令和6年入居の控除対象借入限度額を上乗せ
認定住宅:4,500万円→5,000万円
ZEH水準省エネ住宅:3,500万円→4,500万円
省エネ基準適合住宅:3,000万円→4,000万円
(2) 床面積要件を40㎡以上とする認定住宅等に係る緩和措置を受けるための建築確認の期限が令和6年12月31日まで1年延長されます。3.住宅特定改修特別控除の追加・見直し・延長
子育て特例対象個人が一定の子育て対応改修工事をした場合が対象工事に追加されます(控除限度額は25万円)。工事内容は転落防止工事、対面式キッチンへの交換工事等。
既存住宅等に係る一定の改修工事をした場合における適用対象者の合計所得金額要件が3,000万円から2,000万円(耐震改修は所得要件なし)に引き下げられた上で適用期限が令和7年まで2年延長されます。
なお、一定の子育て対応改修工事と併せて他の改修工事を行った場合の控除限度額は62.5万円になります。4.住宅取得等資金贈与を受けた場合の贈与税非課税措置の延長及び相続時精算課税制度の特例の延長
直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置について、省エネ等住宅の家屋の要件が耐熱等性能等級4以上(改正後:5以上)又は(改正後:かつ)一次エネルギー消費量等級4以上(改正後:6以上)へと厳しくなった上で適用期限が令和8年まで3年延長されます。また、当贈与に係る相続時精算課税制度の特例措置についても同様となります。
5.その他の主要な改正項目
※表をクリックすると、拡大表示されます。
2024年2月15日
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273号
建物敷地の固定資産税評価額 ~相続税評価額との相違点に注意しよう~
土地の固定資産税は、「固定資産税評価額」を基礎として算定されます。一方、相続財産や贈与財産に土地があれば、相続税や贈与税の申告に当たり、まずはその土地の「相続税評価額」を求めます。土地の時価とされる公示価格と比べ、固定資産税評価額はその70%程度、相続税評価額はその80%程度と言われています。そうすると、「固定資産税評価額」は、「相続税評価額」の87.5%(70%÷80%)が一応の目安となるのかもしれません。しかし、その目安と大きく異なり、想像以上に固定資産税が高額となるケースがあるため、注意が必要です。
1.事例で検討してみましょう
A土地(100㎡)は甲所有、B土地(100㎡)は乙所有で、それらの土地上に丙(第三者)所有のC建物があります。B土地は繁華街である表通りに面しており、A土地は裏通りに面しています。裏通り路線価は、表通りの路線価と比べて6分の1となっており、大きな価額差が生じています(下図参照)。
2.A土地はどのように評価するのか
まずは、A土地の相続税評価額と固定資産税評価額(いずれも概算額)を求めることとします。便宜上、奥行価格補正や不整形地補正はないものとし、下記(2)における二方路線の影響加算率は0.05としています。また、固定資産税では土地の権利関係(借地権の有無など)は考慮しないため、ここではいずれも自用地としての評価額とします。
(1) 相続税評価額
A土地の相続税評価額は、裏通りの相続税の路線価8万円に地積100㎡を乗じて算定しますから、次のとおり800万円になります。
(算式) 8万円×100㎡=800万円(2) 固定資産税評価額
A土地の固定資産税評価額は、固定資産税の路線価を用い、C建物の敷地であるA土地とB土地を一体として評価した上で、面積割合を用いて按分します。そうすると次のとおり4,235万円になります。
(算式)(42万円+7万円×0.05)×200㎡(全体の地積)×100㎡(A土地の地積)/200㎡(全体の地積)=4,235万円3.固定資産税評価額が相続税評価額の5倍超
路線価は、固定資産税が相続税より低いにもかかわらず、A土地の固定資産税評価額(4,235万円)はその相続税評価額(800万円)の5倍超になります。これは、土地の評価単位の考え方が異なることに基因します。固定資産税では、建物の敷地に供されている土地は、その権利関係にかかわらず、その敷地全体を一体として評価するルールがあります。そのため、A土地の評価において、甲が所有しないB土地が面している表通りの高い路線価の影響を受けることになります。
一方、相続税や贈与税では、甲はA土地しか所有していませんから、A土地に面している裏通りの路線価のみで評価します。
なお、本事例とは異なりますが、仮に甲がC建物を所有しているとすると、甲はA土地のほかC建物の敷地であるB土地も利用しているため、評価単位の考え方は、固定資産税と同様(一体評価)になります。4.固定資産税評価における課税実務上の制約
A土地の所有者である甲は、B土地のみならずC建物も所有していませんから、A土地の固定資産税の算出に当たり、B土地を含めて一体評価するのは合理性に欠けるように思われます。固定資産税の賦課に関する類似の訴訟もありますが、いずれも、訴えは認められていないようです。その理由としては、固定資産税の評価基準(評価マニュアル)は、個別の権利関係を詮索しない更地主義(自用地扱い)が採用されており、建物の敷地など外見上一体として利用されている土地については、その所有関係を考慮せず、全て一画地として評価するのを相当とするものです。市町村は、管内の全ての土地の固定資産税評価額を定める必要があるため、本来あるべき評価理論より、課税実務上の制約を優先せざるを得ない事情があるのかもしれません。
5.不動産取得税にも注意が必要
固定資産税評価額は、固定資産税はもとより不動産取得税や登録免許税の課税標準としても用いられます。
建物の敷地である1筆の共有土地について、共有を解消するため共有物の分割を行い、単独所有の2筆の土地に分割することがあります。この場合、分割後の2筆の土地の相続税評価額が概ね等しければ、所得税では等価交換として取り扱われ、課税は生じません。しかし、面している道路の路線価に大きな差があると、分割後の土地の面積は50%ずつの均等にはならず、例えば70%と30%のように差が生じるとすると、前者については20%(70%-50%)相当部分の土地の取得があったとして、不動産取得税が課税される点に注意が必要です。2024年1月15日
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272号
電子帳簿保存制度について
令和6年1月1日以降、電子帳簿保存制度の対応が必要になる部分がありますので、今回は、この制度をご説明いたします。
1.電子帳簿保存制度とは
電子帳簿保存制度とは、税務関係帳簿書類のデータ保存を可能とするものであり、各種制度を利用することで経理のデジタル化が図れます。また、メールへの添付など電子データでやり取りした請求書や領収書などの電子取引データは保存が義務化されます。
つまり、この制度は、従来の紙保存からデータ保存に切り替えが可能になることで、経理のデジタル化を図り業務の効率アップができる制度ということができます。ただし、紙保存からデータ保存に切り替えるにはシステム整備をする必要があり時間や費用がかかりますので、費用に見合った効果が期待できない方は、各種制度を利用するのが難しい場合があります。そういう方は、少なくともデータでやり取りした電子取引データは消さずに保存しておかなければならないというものです。2.電子帳簿保存制度における3つの保存制度
電子帳簿保存制度では、書類の種類、書類の受渡方法により、以下の3つに区分されています。
①電子帳簿等保存→会計ソフトで作成した帳簿、貸借対照表、損益計算書等を電子データで保存。 ②スキャナ保存→取引先から受領した紙の請求書等を、スマホやスキャナで読み取った電子データ保存。 ③電子取引データ保存→取引先と電子データでやり取りした請求書等を、その電子データで保存。 上記①及び②は、紙保存が可能であり、希望者のみが電子データで保存することができます。
上記③は、個人事業者・法人は令和6年1月1日以降の取引について対応する必要があります。下記3以降で、どのような対応が必要になるかをご説明いたします。3.保存義務のある電子取引データ
メールやインターネットを介して電子データでやり取りしたもので、これまで紙でやり取りをしていた場合に保存が必要であった書類です。例えば、「注文書・契約書・送り状・領収書・見積書・請求書など」に相当するものが対象です。あくまで電子データでやり取りをしたものが対象ですから、紙でやり取りしたものをデータ化しなければならない訳ではありません。
なお、書類を受け取った場合だけでなく、書類を送った場合にも保存する必要があります。4.原則的なデータ保存の方法
データ保存は、「改ざん防止の措置」、「日付・金額・取引先で検索できること」など一定の要件を満たすようにしなければなりません。
なお、2年(期)前の売上高が5千万円以下の事業者の方は、税務調査の際に電子データをダウンロードできるようにしておくことを前提に、印刷した書面(紙)を日付ごとに整理した状態で提出できるようにしている場合には、電子データ保存時の検索要件は不要となります。
いずれにしても、データ保存を電子帳簿保存制度のルールどおり行うためには、基本的にはシステム整備をする必要があり、市販のソフトウェア等を使うと費用もかかってしまいます。5.猶予措置(例外的なデータ保存の方法)
個人事業主・中小企業などは、資金繰りや人手不足等の事情によりシステム整備が間に合わないこともあるため、一定の要件を全て満たすデータ保存をすることが難しい場合があります。そのため、猶予措置が設けられており、改ざん防止の措置や検索機能など保存時に満たすべき要件に沿った対応は不要となり、電子取引データを単に保存しておくことができるようになりました。
なお、猶予措置が認められるためには、税務調査の際に税務職員に対し電子データを印刷した書面を提出できるようにしており、かつ、電子取引データをダウンロードしてデータのコピーを提出できるようにしておかなければなりません。その上で、税務署長がやむを得ない理由があると認めた場合に猶予措置が適用されます。現状では、いったんシステム整備をしたのに検索機能などの要件を満たす保存をしていない場合は別として、税務署長が猶予措置を認めないという厳しい運用はされないものと考えられます。6.まとめ
電子帳簿保存制度は、大企業のように処理件数が多く作業量が大幅に減少する場合、紙保存に膨大なスペースが必要な場合などは積極的な導入を検討すべきでしょう。しかし、不動産賃貸業などで処理件数がそんなに多くないという方は、急いでシステム整備をする必要はありません。調査の際に、以下の2つの対応ができるように、電子取引データを保存して頂ければと思います。
①電子取引データをダウンロードしてデータのコピーを提出できる。 ②電子取引データを印刷した画面を提出できる。 なお、会計ソフトで作成した帳簿や紙で受領した請求書等について電子保存を検討される場合には、個別にご相談ください。
2023年12月15日
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271号
精算課税贈与の活用 ~2024年以降の考え方~
2024(令和6)年から贈与税が変わります。暦年課税は、贈与加算が相続開始前3年から段階的に7年に延長されます。精算課税贈与は、新たに毎年110万円までの非課税枠が設けられ、使い勝手がよくなります。
この改正を踏まえ、来年以降の精算課税の活用方法を検討します。1.令和6年以降の暦年課税について
令和6年以降の暦年課税は、贈与加算が段階的に7年以内に延長されるため、相続直前の節税目的の贈与が難しくなります。贈与加算は、基礎控除110万円以下の部分も含めて贈与した財産を相続財産に取り込んで相続税を計算するので、該当してしまうと贈与による節税の効果は失われます。
ただし、贈与加算の対象となる方は、相続人、受遺者や死亡保険金の受取人など相続で財産を取得する人(以下「相続人等」といいます。)に限られます。相続人等は別として、相続人等以外の孫などへの贈与は、贈与加算の対象になりません。贈与加算のことは気にせず、これまでどおり暦年課税を使うことができます。しかも、暦年課税は、精算課税とは違い適用を受ける人の要件がありませんので、孫や子の配偶者など多くの人に贈与することが可能です。2.精算課税の概要
・贈与者…60歳以上
・受贈者…18歳以上の推定相続人、孫
・特別控除額…累積2,500万円
・税率…特別控除額を超えた部分について一律20%
・贈与加算…2,500万円の特別控除額の枠内も含め、精算課税を利用して贈与した財産(贈与したときの評価額)をすべて相続財産に取り込んで相続税を 計算します。支払った贈与税は相続税から控除し、控除しきれない部分は相続税申告で還付を受けることができます。
・非課税枠…令和6年以降、累積2,500万円の特別控除額とは別に毎年110万円の非課税枠が設けられます。
・暦年課税と精算課税の選択は、贈与者ごとに行います。一度、精算課税を選択したらその選択をした贈与者から受ける贈与については、暦年課税に戻 ることができません。3.令和6年以降の精算課税の活用方法
令和6年から新たに設けられる精算課税の110万円の非課税枠を活用する方法をご説明します。
(1) ご相続が近い場合
110万円の非課税枠の部分は、贈与加算の対象外です。つまり、精算課税を使えば、相続開始の直前であっても、年間110万円まで無税で贈与した上、相続財産から切り離すことが可能です。
ご相続が近い場合、相続人等に対する暦年課税は贈与加算の対象になるリスクが高いです。贈与加算を回避するため、精算課税を選択できる子などの推定相続人は、精算課税を選び年間110万円の非課税枠をきっちり使って相続税を減らすことができます。
(2) 贈与者が2人の場合
父A、母Bの2人が子Cに贈与するとします。暦年課税と精算課税の選択は、贈与者ごとに行います。令和6年以降は、A、Bの2人とも暦年課税または精算課税を選択するとCの非課税枠は110万円です。しかし、Aが精算課税、Bが暦年課税を選択すると、Cは精算課税の非課税枠110万円と暦年課税の基礎控除110万円の最大220万円まで1年間に無税で贈与を受けることができます。
Aに相続が発生すると、CはAから贈与(精算課税)を受けた財産を最大110万円×贈与年数だけ無税で承継できたということになります。
Bに相続が発生すると、Bからの贈与(暦年課税)のうち、贈与加算の期間を徒過したものは相続財産から切り離されます。仮に先にAに相続が発生したら、Bからの贈与について贈与加算を避けるため、暦年課税から精算課税に切り替えるのも一案です。4.適切な選択を
精算課税は、贈与者と受贈者に一定の要件があります。また、一度に多額の贈与をしたい場合や、将来値上がりしそうな財産を移転するには使いやすい制度ですが、一度選択すると暦年課税に戻せません。そのため、相続財産はどのくらいあるか、110万円の非課税枠を超えて贈与をするか、相続により財産を取得する予定か等、色々な検討要素があります。
令和6年以降は2つの制度を併用することで、非課税枠が220万円まで拡充されます。次世代への財産の移転の促進のため、有効に使うことが大切です。それぞれの贈与制度について、特性を踏まえた上で使い分けることが必要と考えます。2023年11月15日
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270号
非上場会社の事業を分割するときの税務について
同族会社の事業承継において、複数の相続人が共同で事業を引き継ぐ場合、経営方針が一致するとは限りません。むしろ、親族であっても考え方は十人十色ですから、円滑な共同経営は将来的な課題となります。その親族間の共同経営の対策として会社の分割が有効なことがあります。今回は、質疑形式を使って会社を分割する際の税務をご紹介します。
1.質問
父Aは、長男Bと二男Cの2名の子がいます。
父Aの主な財産は、不動産賃貸業を営む非上場の同族会社の株式です。その同族会社は、父Aが100%株主であり、賃貸マンションを2棟(簿価3億円×2棟)所有しています。父Aは、相続人である長男Bと二男Cの2名に財産を均等に相続させたいと考えています。どんな方法が考えられますか。2.会社分割の検討
理想的には、相続人同士が協力して会社を経営してくれることが望ましいでしょう。しかし、兄弟間で何かの折に意見が対立することも珍しくなく、2人に株式を等分に分けてしまうと、会社の意思決定に問題が生じ、将来的に会社の経営が困難になることが予想されます。兄弟2人で株式を持ち合うのはお勧めできません。
そこで、簡便的に賃貸マンション1棟を1つの事業単位とみて、兄弟に均等に財産を相続します。現在の会社を二つの会社に分割しておき、相続発生時に分割前から存続する会社(旧会社)の株式をB、新設された会社(新会社)の株式をCが各々引継ぎ、単独で会社を経営していきます。
それでは会社分割の方法と税務の取扱いをご紹介します。3.事業譲渡を用いる場合
事業譲渡とは、会社が特定の資産、事業、または負債を他の企業や個人に売却する手法です。今回の事例では、父Aが100%出資の新会社を作り、その新会社に旧会社が賃貸マンション1棟を売却しますので、新会社から旧会社に売買代金を支払うことになります。
税務上の要点として、新旧の会社を一つのグループとしてみたときのグループ外への税流出を考えます。まず資産の譲渡損益については、新旧会社の株主は父Aのみであるため、グループ法人税制の適用により、資産移転時の法人税負担は繰延べられます。しかし、両社の取引を通じて登録免許税、不動産取得税等の流通税や一定の事業者に対して消費税等の負担が生じるため、計画段階でこれらの税負担を考慮して検討する必要があります。ただ、収入のすべてが住宅の貸付業である同族会社間の不動産売買において、時価と簿価の差額がない場合は、売主に法人税・消費税の税負担は生じず、税流出は流通税の負担のみで済みます。4.会社分割を用いる場合
会社分割とは、一つの会社を2つ以上の独立した会社に分ける手法です。それぞれの会社が、賃貸マンションを1棟ずつ所有します。
税務上の要点としては、支配関係が継続しているなど一定の要件を満たした場合は「適格分割」に該当し、事業譲渡よりも有利になることがあります。具体的には法人税、消費税が掛からず、一定の要件を満たしている場合は不動産取得税も掛かりません。また、不動産の購入資金も必要がないため、資金的な負担が少なく、リソースを効率的に活用できるというメリットがあります。
さらに、会社分割は権利と義務を一括して移転するため、法務手続きが比較的容易であるという特長もあります。したがって、一定の要件を満たすのであれば事業譲渡よりも使いやすく有効な手法になります。5.留意点
会社分割は、比較的コストをかけずに実行できるのですが、事業承継の観点からすると実行時期に注意が必要です。
① 相続後に会社分割を行う場合
相続が発生し、遺産分割で旧会社の株式を相続人が各々50%ずつ取得した後に兄弟が旧会社を分割しようとすると問題が生じます。適格分割に該当するためには旧会社の株主の持分割合に応じて新会社の株式を発行しなければならないため、新会社もBとCが50%ずつ持ち合わなければなりません。BとCが新旧会社を各々100%所有になるよう会社分割すると、適格分割にはならないため、賃貸マンションを時価で旧会社から新会社へ移転したものとみなされます。事業譲渡と同様にグループ法人税制が適用され、旧会社に対する法人税は繰り延べられますが、一定の事業者には消費税の負担が生じます。更に新会社の株式を取得するCは、時価で旧会社の株式を売却して新会社の株式を取得したものとされますので、みなし配当による税負担が生じてしまいます。
② 相続直前に会社を新設して会社分割をした場合
非上場会社の株式の相続税評価の多くは、会社の財産を基にした株価(純資産価額方式)と業績値を基にした株価(類似業種比準方式)を組み合わせて算出することになります。ただし、開業後3年未満の会社は一般的に評価額が高くなりやすい純資産価額方式のみで株価を算定することになり、類似業種比準方式を併用することができません。更に取得後3年以内の土地等は時価で評価する必要があるため、相続時の株価が高くなることがあります。6.まとめ
生前から事業承継を見据えて会社の事業を分割するというのは、どうしても時間がかかってしまいます。会社分割の活用をお考えの場合は、税務や法務に関する専門家としっかりと相談して計画を立てることが大切です。
2023年10月16日
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269号
実家に帰ってマイホームを建てる(増築する)時の税務の注意点
一生で一番大きな買い物といわれるマイホーム。近年は不動産価格の上昇により購入者の負担もより大きくなっています。子が家を建てるとき、家の建築資金は出せるが、土地は購入できないという場合、親の土地に家を建てることがあると思います。このようなときの相続税・贈与税の注意点を考えました。
1.子が親の土地にマイホームを建てるとき
子が親の土地に家を建てると、土地の購入費用がかからないので、子の負担は軽減されます。家が完成して住んだら、親が地主で、子が賃借人となりますが、他人に土地を貸して建物を建てさせたときと同じように、親子間であっても借地権は生じるのでしょうか。
2.使用貸借と賃貸借
親子間で地代のやりとりをするかどうかで借地権は以下のような違いがあります。
(1) 使用貸借
親族における土地の貸借は、わざわざ権利金や地代を決めて賃貸借を開始することはほとんどなく、タダのケースが多いと思われます。
タダでの貸借を含め、借り受ける土地の必要経費である固定資産税相当額以下での貸借を「使用貸借」といいます。「使用貸借」は、地代のやりとりをする「賃貸借」と比較して賃借人の権利が借地権ほど強くありません。税務上は、子に借地権が発生したとはみないので、贈与税がかかることはありません。また、子は土地をタダで借りることから、将来にわたって地代相当の利益を受けることになりますが、この部分にも基本的に贈与税はかかりません。
ただし、将来の相続税では、「使用貸借」している土地として評価しますので、借りている子の権利は考慮されず、更地価額が相続税の対象になってしまいます。
(2)賃貸借
固定資産税相当額を越える地代のやりとりをする「賃貸借」の場合は、借主に借地権が発生するため、相続税評価上は更地価額から借地権価額を控除して評価することになります。
ただし、権利金の支払いがないと、親から子に借地権相当の贈与があったとされ、思わぬ税金が発生しますので注意が必要です。3.親の家と同じ敷地にマイホームを建築するとき
(1)別棟を新築して住むとき
親の家の隣に子が家を建てて住むのは、いきなりの同居に対する抵抗がある場合は良いかもしれません。
ただし、同一敷地内で別居する子が相続で敷地を取得する場合、特定居住用の小規模宅地の特例の適用要件である「同居親族」を満たさなくなるため、原則として、同特例の適用を受ける事が出来なくなります。
例外として、別居の子が親の生活費を面倒みるなど生計が一であれば、敷地のうち子居住部分のみが特例の適用対象になります。
(2)親の家に増築して2世帯住宅とするとき
親の所有する建物に子が増築して2世帯住宅にすると、子からみればマイホームを一から建てるよりは金銭負担が軽くなりそうです。しかし、次のように贈与の問題が生じるかもしれません。
親名義の建物に子がお金を出して増築すると、増築部分は親の建物になりますから、親は子から増築費用分の贈与を受けたことになってしまいます。そこで子が支払った増築費用分の建物の名義を親から子に移転させて共有とすれば、贈与税がかかることはありません。
しかし、1つご注意いただきたいことがあります。
(3)2世帯住宅は共有登記か区分登記か
増築部分を登記する方法として、共有のほかに建物の構造などの条件を満たせば区分登記することができます。区分登記すれば、親の家と子が増築した部分は別の家屋になりますから、共有持分の計算をする必要はありません。しかし、特定居住用の小規模宅地の特例では区分登記された建物は登記に合わせて別の建物と判定することになります。したがって、子が親の家に増築して増築部分を区分登記すると、別棟を新築したのと同じように、特定居住用の小規模宅地の特例の適用に影響が及びます。小規模宅地の特例では共有のほうが有利です。4.まとめ
実家に帰ってマイホームを建てる(増築する)ことは親子の生活にとって大きな転機となります。税金面はご説明したように選択の仕方によって様々な違いが生じてきます。どのような方法が良いか相続税・贈与税の注意点も考慮に入れて決めていただければと思います。
2023年9月15日
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268号
本当にあった相続税の話 母の預金口座から14億円を出金
今回は、相続税に関する裁判例をご紹介し、タンス預金について考えます。
1.事案の概要
二男は、母の預金14億円を2年余りの間に毎日のようにATMから200万円ずつ現金で引き出し、相続税の申告財産を隠したというものです。
2.判決内容(令和5年2月16日東京地裁判決)
二男は、「母の預金から現金を引き出したのは自分ではない。」と主張して裁判をしましたが、認められませんでした。
二男は、国税局の調査で母の預金14億円の説明を求められましたが、一貫して「知らない」という態度で臨みました。調査では、引き出された現金が見つからなかったばかりか、二男が預金を引き出した決定的な証拠となるATMの監視カメラ映像が無かったようです。
しかし、国税局は、①母は認知症を患って老人ホームに入っており、ATMから預金を引き出していないこと、②預金が引き出されたコンビニの店員は、頻繁に二男が来店していたのを目撃していたこと、③ETCカード履歴による二男の滞在場所と現金が引き出されたATMがいずれも近隣していることなど、いくつかの証拠を積み重ねて二男が母の承諾なく預金を引き出したので、不当利得返還請求権の申告漏れがあると判断しました。裁判所は、国税局の主張を全面的に認めました。3.不当利得返還請求権?
申告漏れ財産は、二男が引き出した現金ではなく、不当利得返還請求権という債権とされています。不当利得返還請求権とは、法律上の原因がなく利益を得た人に対して、損失を被った人が利益の返還を求める権利です。
二男は、母に無断で預金から現金14億円を引き出し、その現金を所持しているか使ってしまったと認められるので、母には二男に対して14億円の返還を求める不当利得返還請求権が成立することになります。4.タンス預金は見つかるか?
相続税の調査は、相続開始から2・3年後に行われるのが一般的です。現金は、名前が書かれていないので誰のものか直ちに分からない上、使えば無くなるし、記録が残らないまま保管場所を移すこともできます。現金そのものが税務調査で見つかり難いことは間違いないでしょう。
しかし、現金そのものが見つからなかったとしても、相続税の調査では、税務署が持っている過去の様々な資料と申告内容の矛盾や預金口座の動きを注視しており、相続人に疑問点の説明が求められます。調査官の納得いく説明内容でなければ徹底した調査が行われます。
二男のように毎日200万円、合計14億円もの現金を引き出して何も知らないというのは無理な話です。また、国税局が裁判で主張した不当利得返還請求権というロジックが使われると、現金そのものや現金の使い道が調査で明らかにならなくとも課税処分されてしまいます。結局、タンス預金を隠し通すのは、難しいと言わざるを得ません。5.タンス預金のリスク
タンス預金は、低金利を背景に総額100兆円を越えると言われています。タンス預金を持つこと自体は、税務上、直ちに問題になるわけではありません。
しかし、タンス預金は、銀行等に預けた場合と比べ、①盗難や火災等に対する安全性が低い、②ばれたくないと考えると自由に使うことが難しくなる、③申告漏れ財産として税務署にばれた場合、悪質とみられペナルティーが大きくなるというデメリットがあります。6.まとめ
この裁判では、二男の2年間に渡る徹底した毎日の200万円の引き出しは水の泡。さらに重加算税までかかって大変なことになりました。
令和6年に新紙幣が導入されることから、紙幣交換のタイミングで新たな資料が税務署に蓄積されるかもしれません。タンス預金をお持ちの方は、その資産運用・相続対策を検討してはいかがでしょうか。2023年8月17日
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267号
祖父母から孫への資産移転方法
~一括贈与の改正を踏まえて検証~2023年度の税制改正で、教育資金・結婚子育て資金贈与特例について非課税措置の期限が延長されましたが、使い勝手が悪くなったところもでてきました。政府は、両親や祖父母の資産を早期に移転し、有効活用することを支援するためこれらの制度を創設しましたが、改正毎に課税を強化しています。それでは、一体どのような方法が一番次世代へ資産を継承しやすいのか、今回は祖父母から孫への移転方法について検証してみました。
1.祖父母から孫への贈与税の非課税措置
相続対策として使われる一般的な贈与税の非課税措置としては、下記のようなものがあります。
①教育資金に係る一括贈与(1,500万円)
②結婚・子育て資金の一括贈与(1,000万円)
③住宅取得資金の贈与(1,000万円又は500万円)
①②の一括贈与は、銀行等に贈与資金を拠出し、教育代等の領収書を保管して支出の都度銀行等に提出が必要なことから、管理が煩わしいのがデメリットとなります。一方、住宅取得資金の贈与は、手続きが1回で済むので管理の面からメリットがあると思います。2.教育資金贈与とは
教育資金贈与は、今年度の改正で令和8年3月31日まで適用期限が延長されました。祖父母(親)から1,500万円まで一括贈与を受けても非課税となりますが、祖父母死亡時の残高を相続財産に加算する必要があります。数年前までは残高があっても一括非課税でしたが、その後孫(受贈者)が相続開始時に23歳未満であれば非課税と徐々に課税強化されてきました。そして、今年度の改正で更に規制が入り、贈与者である祖父母(親)の相続税の課税価格の合計額が5億円を超える場合には、23歳未満でも残高に対して相続税が課税されることになりました。孫に対する相続税額の2割加算が適用されるため、超資産家である祖父母から孫への贈与については、かえって相続税額が増える場合もあります。これまでより選択を慎重に行う必要がでてきます。
また、孫が30歳になり祖父母が存命の場合、使い残し部分に対して贈与税が課税されます。この贈与税率も直系への低税率である「特例税率」から「一般税率」へ改正となり同じく課税強化となりました。3.結婚子育て資金贈与とは
結婚子育て資金贈与は、今年度の改正で令和7年3月31日まで適用期限が延長されました。祖父母(親)から1,000万円まで一括贈与を受けたときは非課税となりますが、教育資金贈与と異なり、残高に対しては 例外なく相続税の課税対象となります。孫への2割加算課税もされますし、使い残し部分に対しての贈与課税もされ、税率も教育資金贈与同様「一般税率」へ変更となり課税強化されました。
4.住宅取得資金贈与とは
住宅取得資金贈与とは、親や祖父母などから住宅取得のための資金援助を受ける場合、最大1,000万円までは非課税となる贈与のことです。贈与時期や住宅の性能によって下表のように非課税限度額が異なります。
適用を受けるためには、受贈者である孫の所得要件や取得建物の要件・確定申告が必要ですが、前記の教育資金・結婚子育て資金贈与と大きく異なるメリットがあります。
5.相続直前の贈与でも相続税に加算無し
住宅取得資金贈与の一番のメリットは、相続直前の贈与でも相続財産への加算がされないことです。今年度の税制改正で生前贈与加算が3年から7年へ延長されます。これまでよりも長期的に贈与税対策が必要となることから、生前贈与加算の対象にならない孫などの法定相続人以外への贈与対策も考慮する必要がでてきます。祖父母から孫への大きな資産移転方法としては、相続直前でも行いやすい住宅取得資金の贈与が最も使い勝手がよく、また管理がしやすいと思います。
6.住宅取得資金の贈与の留意点
住宅取得資金の贈与適用時の留意点があります。孫が住宅取得をすると持ち家有の状態となります。ここで相続発生の特例適用時にデメリットがでてきます。それは、小規模宅地等のいわゆる「家なき子」制度を適用できなくなることです。例えば、祖父母に相続が発生した場合、孫に自宅を相続させるなどの遺言を作成していても、家なき子でなくなるため、特定居住用宅地等の80%減額の適用が出来なくなってしまいます。「家なき子」として子供は小規模宅地等の適用が難しいことから、孫への遺贈を考えている場合に、特例の適用が不可となってしまいます。ご自宅の路線価が高い地域の場合の影響度はかなり大きく、住宅取得には相続を踏まえた総合的な判断も必要となります。
7.まとめ
祖父母から孫への一括贈与に対して検証してきましたが、扶養義務者からの生活費・教育費等の贈与についてはそもそも非課税とされています。お孫さんのライフステージに合わせてその都度必要な教育費等の贈与を行い、住宅取得という大きな資産形成時に一括贈与などをご検討されてはいかがでしょうか。
2023年7月14日
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266号
老人ホーム等に入所中に相続があった場合の小規模宅地の特例
近年、老人ホームや介護施設等の数はどんどん増えています。老人ホームといっても、富裕層の方しか入ることができないような高級老人ホームも近年は増えており、一人暮らしのため、平日は自宅で生活し、週末だけ高級老人ホームを別荘のように利用するケースもあるようです。
今回は、被相続人が老人ホームに入所中に相続があった場合でも、小規模宅地の特例の適用を受けることができる要件を考えていきたいと思います。1.小規模宅地の特例について
相続開始の直前において「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」については、一定の要件を満たす場合、自宅敷地のうち330㎡まで相続税評価額の80%を減額することができます。小規模宅地の特例を使えるかどうかで相続税額は大きく変わってきます。
被相続人が自宅を離れて老人ホームに入所したまま相続があった場合、一般的には、相続開始の直前において被相続人が自宅に住んでいたとはいえません。それでは、自宅の敷地に小規模宅地の特例を使えないのでしょうか。2.老人ホーム入居中に相続があった場合
結果から言えば、次の3つの要件を満たす場合は、自宅の敷地は老人ホームの入所直前の状況をもって「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」とみることになりますので、小規模宅地の特例の対象となります。
要件① 相続開始直前に要介護認定等を受けていること
要件② 老人福祉法等で認定された老人ホーム等に入所していたこと
要件③ 老人ホーム入所後の自宅が賃貸等されていないことこれは、被相続人が介護を受ける必要があるため、住んでいる自宅を離れて老人ホームに入所しなければならない場面を考えています。被相続人は、自宅での生活を望んでおり、いつでも自宅で生活することができるように自宅が維持管理なされていれば、実際には病気療養のために一時的に入院しているのと同様な状況にあります。自宅で生活していないため一律に小規模宅地の特例の対象に当たらないとするのは実情にそぐわないからです。
3.要件①…要介護認定等について
被相続人が要介護認定等を受けていたかどうかは、老人ホームに入所した時ではなく、相続開始時までに認定を受けていたかどうかで判定します。
それでは、要支援認定の申請中に亡くなった場合はどうなるのでしょうか。申請をしてから市区町村の審査を受けて認定を受ける流れになりますが、介護保険法では申請があった日に、さかのぼって効力が生じることになっています。相続開始時点では、申請中であっても、相続後に要支援認定が認められれば大丈夫です。
なお、配偶者が要介護認定を受けたために、夫婦で一緒に老人ホームに入所することもあるかと思います。この場合で、要介護認定を受けていない方が亡くなってしまったときは、自宅の敷地について小規模宅地の特例の適用を受けることはできません。4.要件②…老人ホームについて
入所する老人ホームはどこでもよいというわけではなく、一定の要件を満たしている必要があります。老人福祉法により都道府県から認可を受けている老人ホームなどが該当します。
無認可の老人ホームでは、小規模宅地の特例を受けることができませんので、入所前に施設に確認をしておくことが大事です。5.要件③…老人ホーム入所後の自宅が賃貸等されていないこと
自宅は、基本的には老人ホーム入所時と同じ状態を保つ必要があります。老人ホームに入所後、自宅の用途を変更し、他人に賃貸しているときや事業用に使用しているとき、生計が別の親族が引っ越してきたような場合には、小規模宅地の特例の適用が不可となりますのでご注意ください。
なお、新たに自宅を他人に賃貸した場合は、居住用の8割引きに代えて、貸付事業用として200㎡まで5割引きの小規模宅地の特例を受けることができる場合があります。6.誰が自宅の敷地を相続するか
自宅を相続する方が誰でも小規模宅地の特例を使えるわけではありません。
被相続人が老人ホームに入所中に相続があった場合、小規模宅地の特例を使うことができる相続人は、次のいずれかの方です。①配偶者
②老人ホームの入所直前に被相続人と同居していた相続人
③上記①、②がいないときは、いわゆる家なき子の要件を満たす相続人7.最後に
小規模宅地の特例は、相続前の状況で使えるかどうかが決まる要件が多くあります。また、老人ホームへの入所が絡むと、判断が複雑で非常に難しくなります。
老人ホームへの入所を考えている方は事前に検討しておくことをお勧めします。ご不明な点がありましたら、ATOまでご相談ください。2023年6月15日
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265号
タイミングで変わる相続財産
~売買契約中に相続が発生したら~土地は、路線価から計算する相続税評価額よりも高い金額で売買されることが多くあります。
土地の売買契約を締結した後、残代金決済と引渡しが完了する前、土地名義が売主のまま相続が発生したとします。この場合、相続税はどのようになるのか。事例にあてはめて被相続人が売主のケースと、買主のケースに分けてご説明します。1.事例
被相続人が、土地を相続税評価額の2倍の金額で売買契約を締結し、手付金3,000万円を受け渡した段階で相続が発生したとします。
・土地の相続税評価額…1億5,000万円
・売買代金…3億円
・手付金…3,000万円
・残代金…2億7,000万円
なお、残代金決済と引き渡しが完了していないため、土地名義は売主のままです。2.被相続人が売主のケース
(1) 相続税の取扱い
売主の相続財産は、売買契約に基づく譲渡金額のうち相続開始時における未収金(=残代金)になります。
事例では、相続財産は土地(1億5,000万円)ではなく未収金(2億7,000万円)です。他に被相続人が受取済みの手付金3,000万円も相続財産になります。このケースでは、売買契約締結のタイミングで相続財産が1億5,000万円増えることとなります。(2) 考え方
土地名義が被相続人のままなのに、相続財産を土地として路線価評価できないのはなぜでしょうか。
売主に相続が発生した場合、売買契約中の土地は、名義が被相続人のまま所有権が残っていても、相続人は残代金を受け取るのと引き換えに土地を買主に引き渡さなければなりません。相続税では、売買契約中の土地が主に残代金を確保するためのものだから、相続財産の種類を土地として路線価評価するのではなく、未収金(債権)とすべきと考えられています。
(3) 小規模宅地の特例適用について
居住の用や事業の用に供されていた土地に適用される小規模宅地等の特例は、土地等の売買契約中に相続が発生した場合、相続財産が未収金になるため原則として適用することができません。3.被相続人が買主の場合
被相続人が買主だった場合の相続財産はどのように考えればよいでしょうか。
(1) 相続税の取扱い
買主の相続財産は、原則として、売買契約に係る土地の引渡請求権という債権となり、その財産取得者の負担すべき債務が相続開始時における未払金になります。つまり、純財産は、引渡請求権と未払金との差額になります。
例外として、買主は、所有権移転の有無にかかわらず、売買契約中の土地を相続財産として路線価評価して申告することも認められています。申告する相続財産の選択の仕方で大きな差が生じますので、ご注意ください。
(原則)
事例では、相続財産は引渡請求権3億円であり、未払金が2億7,000万円になります。差額の3,000万円が純財産になります。
(例外)事例では、相続財産は土地1億5,000万円であり、未払金が2億7,000万円になります。差額の1億2,000万円が純債務になります。
(2) 小規模宅地の特例適用について
相続財産を土地として申告する場合、一定の要件を満たせば小規模宅地等の特例を適用することができます。4.売買契約のタイミングは慎重に
相続直前に土地を譲渡すると、売主の相続財産が土地から譲渡代金に変わるため、相続財産が膨らむケースが多くあります。売買契約中の相続でも、上記のように膨らむことがあり得ます。土地の売買は高額になり易いので、売買契約締結に当たっては、資金需要や使い道を考えた上で慎重にタイミングを検討することが必要と考えます。被相続人が土地の売買契約を締結中であった場合は、必ず税理士にお伝えください。
2023年5月15日
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264号
非上場株式を譲渡したときの税金について
同族会社の後継者以外の方にとって、相続財産の中で換金が難しく扱いに困りがちな財産とは?その一つが同族会社の非上場株式です。通常、株式は相続財産として配偶者や子供に引き継がれます。後継者は会社の株式が相続により分散すると買い取りや贈与でまとめる必要が出てきます。また、後継者以外の方にとっては相続したものの、相続税等の税金がかかるだけの財産になってしまうことも少なくありません。手放したい場合はその会社の後継者か、その会社自身に引き取ってもらう必要があります。そこで今回は非上場株式を発行会社に売却した場合にかかる税金をご説明させていただきます。
1.非上場株式の譲渡の概要
前提として、創業以来資本関係に変動はなく、資本金や利益剰余金が十分にあり株主は親族で占められている非上場の同族会社で考えます。
最初に通常の株式の売却を考えます。一般に株式の譲渡は、収入金額から取得費(取得時の金銭等の払込み金額)と譲渡費用を控除した残額に対して、約20%(所得税・住民税)の税率を適用します。親族で引き継いでいる非上場株式は、相続や贈与で移転していることが多いので、実務的には出資金額が取得費となる事が多いです。
次に個人の株主が、発行元の同族会社に時価で売却するケースを考えます。この場合は、出資金額に対応する部分とそれを超える部分で取り扱いが変わります。
出資金額に対応する部分は、会社は同額を資本金等から取り崩して支払い、出資した金銭の払戻しになりますので、課税関係は生じません。一方、出資金額を超える部分については、所得税法上、会社からの配当とみなされるため、配当所得(みなし配当課税)として扱われます。非上場株式の配当所得は総合課税となるため、最大で約55%(所得税・住民税)の税率が適用されます。同族会社への売却の課税関係をまとめると下の図のようになります。
2.みなし配当が適用されない特例
相続等により取得した株式については、株式の分散化を防ぐ趣旨から、次の特例が設けられています。
「相続開始の翌日」から「相続税の申告期限から3年経過日」までに一定の要件を充足して発行会社へ譲渡した場合は、みなし配当課税は適用されません。すべて通常の株式の売却と同じように譲渡所得として約20%の税金が課され、課税関係が終了することになります。また、納めた相続税の一部を取得費に加算できる特例も適用できます。他の所得との兼ね合いもありますが、保有する希望のない非上場株式については、相続直後に発行会社に売却をすると税負担の面で有利になることがあります。3.譲渡時の課税関係の注意点
株式を時価ではなく、無償又は著しく低い価額で発行会社へ譲渡した場合はどうなるのでしょうか。
(1)売主個人の課税関係
まず売主個人の譲渡の課税関係を考えますと、会社から受け取る金額が時価の2分の1未満の場合は、所得税法上、低額譲渡の規定が適用され、時価で譲渡したものとみなされます。
したがって、割安でも良いからと時価の2分の1を下回る金額で譲渡すると、次のようになります。【例】
時価10,000万円(出資金相当額1,000万円)の株式を4,000万円で譲渡した場合、
4,000万円-1,000万円=3,000万円」(配当所得・総合課税)となります。
更に時価で譲渡したものとみなされるため、「(10,000万円-3,000万円)-1,000万円=6,000万円」が株式の譲渡所得として税金が計算されます。
この様に場合によっては高い税金を支払うことになりかねませんので注意が必要です。
(2)既存株主の課税関係
会社が時価より低額(無償含む)で株式を買取ることで、既存株主は出資持分の増加という利益を享受することとなります。この場合は、既存株主にも課税関係が生じます。
【例】
株式の時価総額10,000万円(発行済株式5株、一株当たり株価2,000万円)の株式のうち、1株を同族会社が無償で取得した場合、
既存株主の株価は、10,000万円÷(5株-1株)=2,500万円となります。
無償取得前後で株価が500万円増加し、出資持分も増加しています。売主以外の既存株主が一人の会社の場合は、500万円×4株=2,000万円の経済的利益をその既存株主が得ることになり、この利益に対して贈与税がかかります。
4.補足
一般に第三者が相手の取引であれば合意した価額が時価とみなされます。しかし、同族会社との取引においては、市場が形成されていないため、国税庁の通達を基に算定した株価を税務上の時価とみなして税金を計算します。
株式に関する税制は非常に複雑であり、今回の事例の様に単純なものだけではないため、ご興味がある方は是非弊社にご相談下さい。2023年4月14日