お役立ち情報
COLUMN
原則として月に一度、
代表 高木康裕が自身で執筆しております。
お客様の立場に立って、
新たな税務の情報や事例をご紹介。
辛口で税務の現場のナマの姿をお伝えして参ります!
年度:
タイトル:
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5120号
相続後でも工夫はできる!
今月は、本業であれ、不動産所得の節税目的であれ、会社を所有されている中小企業オーナー向けのお話です。相続対策は事前の準備が何より大切。ただ、相続後でもこんな工夫ができる場合も…
1.会社への貸付金は要注意!中小企業の場合、懐勘定は個人も法人もなく、会社に資金が不足すれば、個人のお金を投入するのは日常茶飯事。筆者も偉そうなことは申しあげられません。当社自身、その例に漏れずです。
さて、税務上、法人が借りる側であれば、利息を支払わなくても特に問題はありません。いや、利息どころか、元金だって返ってこないことも多いはず。
注意すべきは、相続財産への影響です。例えば、個人から法人に1億円の貸付金がある状態で相続を迎えたとします。この貸付金はまさしく相続財産。いくらで評価するのかと言えば、回収できる金額です。通常のケースでは1億円でしょう。法人として活動もし、少しずつでも返済の可能性があれば、貸付金として1億円で評価されても仕方ありません。しかし、実質的にはあまり機能せず、休眠状態の会社も多いはず。
そんな時は若干の工夫も可能です。
2.回収できなければ、評価はゼロ!回収ができると想定されるから、1億円の評価になるのです。回収できない状態ならば、当然に評価はゼロ。早い話、相続後に貸付金を回収できない状態にしてしまえばよいのです。
一つの手法は、会社の解散。ただ、会社は解散だけで法律的に終了はできません。解散の後、会社財産を総てきれいな形で清算し、利益があれば清算所得の課税。そして株主へ出資額を超える残余財産の分配があれば、配当所得の課税です。
3.税務署も財産なければ追求無し!話は元に戻ります。会社側から見ると、オーナーに対する借入れが1億円あるのですが、借金だけがある状態では債務超過。実は債務超過の場合、特別清算と言って通常の方法より面倒な手続きが必要なのです。
そこで、実務的には清算をせず、解散の状態に留めておきます。具体的には、解散年度の法人税の申告書を税務署に提出。これで、税務署に対してはこの会社が今後、機能しないことは解ってもらえます。その上で貸付金については、解散と言う事由が回収できない事の補強となるため、評価はゼロとできるのです。
税務署は会社に財産が残っている状況で、解散だけしても放っておいてはくれません。前述の清算所得で課税できるチャンスがあるからです。しかし、債務超過の会社なら、旨みはないので、清算までしなくても、それ以上の追求がないのが実態です。
また、解散時に会社に借入金額に相当する赤字があれば、話はもっと簡単です。会社に対し、債権放棄をするのです。会社は債務を免除されたため、贈与されたものとして課税されますが、赤字でその分を補填し課税無し。
いずれにせよ、この様な手続きをしなければ、原則に戻って1億円で貸付金を計上です。
4.会社に土地が残っていたら…こんな事案がありました。亡くなったご主人が生前作った会社が有り、その株式を相続財産として評価です。この会社、大分前から実質的には休眠で、何年にも亘って申告すらしていない有様でした。通常ならば無視してもいいのですが、面倒なことに若干(評価額にして1億5千万円)の土地が残っていたのです。 株価評価の方法に、純資産価額方式と言って、プラスマイナス両財産の差し引き計算で算出する方法があります。この方法による場合、土地の時価を反映した株価となってしまいます。また、従前の申告状況も不明で、欠損金があるや否やも解らず、 な方法は採れません。そこで、この土地の評価額相当の死亡退職金を支給することにしたのです。これにより、この会社のプラスの財産は土地の1億5千万円、一方、マイナスの財産は未払いの退職金1億5千万円。つまり、差し引き株価の評価はゼロ円とする事ができるのです。
因みに、原則的には申告済みの最終期の決算書を基に算出します。しかし、相続後に独自に決算を組むことも可能で、今回は申告もないため、この方法による申告です。基本的には相続準備は生前に、用意周到にお進め頂くに越したことはありません。が、相続後でも、あれやこれや、工夫をすれば何とかいい知恵もでてくるものです。2002年5月31日
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5119号
税理士法人で税理士事務所はどう変わる?
我々税理士を規制する税理士法という法律が、4月1日より改正されました。既にご案内の通り、この法律に 則 ( のっと ) って、当社も税理士法人という新たな組織に衣替えです。この法律改正、特に税理士法人がお客様にどのような変化、影響を与えるのか、今後の動向を含めて考えてみます。
1.税理士法人て何だ?従来は税理士なる資格は個人に与えられているため、複数税理士が共同で営業はしても、あくまで法律的には個人事務所。法人格はありませんし、申告書の署名押印も個人の税理士名でせざるを得ませんでした。それが税理士法人により、全ての業務を法人名で行えるようになったのです。組織的には簡単で、社員と呼ばれる(従業員のことではない)2人以上の税理士が出資をし、無限責任を負う合名会社を基本とするものです。最低資本金の縛りもなく、いくらでも良い代わりに責任は際限なしで、それが無限責任と言われる 所以 ( ゆえん ) です。全ての個人財産を投げうってでも債務を弁済しなければならないと言う、厳しいもの。しかし、今時合名会社なんて、時代錯誤も甚だしい!ともあれ弁護士や弁理士と共に、税理士も法人化へと動き始めたのです。
2.お客様にとっての税理士法人の利点は?一口に税理士事務所と言っても千差万別です。が、税理士一人に職員5名以下と言うパターンが非常に多いのだそうです。この手の事務所の場合、所長たる税理士に万が一のことがあると、事務所はそこで崩壊。お客様は新たな税理士探しをするはめに。ただ、実務的には他の事務所が従業員ごとお客様付きで買収したり、担当者がお客様付きで他の事務所に転職したり、となることも多いそうな。この場合、お客様は税理士や担当者の都合で勝手に別の事務所になってしまうわけで、何とも頼りない存在です。それが税理士法人であれば、税理士は複数おり、組織としては従前と同様のサービスが受けられる仕組み、まずは安心と言ったところでしょう。
3.税理士事務所は大きければよいのか?最低二人の税理士で税理士法人は可能です。従って規模の小さな税理士法人も相当数に上るでしょう。
ただ、一般論として、税理士法人は大型化が予想されています。既に合併により200人を越える事務所も誕生したとか。それでは、事務所は大きければ大きい程良いのか、と言う古くて新しい問題が頭をもたげてきます。一概には言えませんが、小さな事務所の最大の長所、それは税理士である所長の顔が力量が人柄がはっきり見えることでしょう。逆に大きくなればなる程、たとえ担当者が税理士の資格者でも、事務所としての顔は見えにくくなってしまいます。つまり、事務所としての善し悪しが、各担当者の力量に非常に左右されてしまうのです。ただ、大きな事務所は情報量は豊かでチェック体制も整っていることが多いでしょう。専門的な問題でも、適正な判断が期待できそうです。どちらも一長一短、パーフェクトはあり得ません。
4.今後の税理士事務所の動向は?そうは言うものの、時代はますます複雑化、専門化していくでしょう。正直言って、筆者の場合でも私一人で全ての税法をカバーすることなど、とても不可能です。時代は税理士ならどんな税務も解決できるほど、簡単ではなくなっているのです。そんな状況下、はたして税理士事務所の行方は? 大方の予測は二極分化。小規模事務所はコンピューター化もままならない、零細な個人事業者だけを顧客にし、それ以外は大事務所に集約されると見る向きが多いようです。更にワン・ストップ・ショップと言って、一つの事務所で税務、法律、登記等々全ての関連作業が完結できる事が要求されるようになるとも言われています。お客様にとっては利便性が高く、各業界の垣根が取り払われなければならないのかも知れません。今のところ、それがお客様のためとは分かっていても、報酬の配分方法で実現はそれ程容易なことではありません。いずれにせよ、旧態然とした体制では、税理士事務所も早晩、生き残り競争から脱落です。
残念ながら、弊社も 一時 ( いっとき ) にワン・ストップ・ショップの実現は不可能です。しかし、多様化し高度化するお客様のニーズに対し、関係する多方面の業界との連携をますます濃密なものにして参ります。単なる大型化は目指しませんが、地道に一人一人の資質の向上により、差別化を図っていくことしかないと思っています。最大の関心事、税理士法人になると、報酬額は上がる??それはございません。ご安心を!2002年4月30日
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5118号
代償分割、贈与への応用!
相続で財産の分割をする場合、財産の種類や構成によっては、争いがあるわけではなくても、分割が難しいケースがあります。例えば小さな土地一つだけで、3人の相続人がいる場合です。こんな時、利用できるのが代償分割と言われる手法です。本来の目的以外にも、工夫次第では面白い利用方法が…
1.代償分割とは?相続人ABCの3人に対し、財産が前述のように小さな土地だけ、の想定です。売却すれば現金で分けられるものの、Aだけが相続すればBCは不満です。そこで、土地はAが相続するものの、その代わりにAが自身の預金を取り崩し、BCに相応分を支払うと言うもの。これが代償分割と言われるものです。分割協議書にAだけの相続を記載し、その後BCに資金を渡せば贈与税の対象です。しかし、代償分割を分割協議書に記載した上で実行すれば、贈与税の課税もありません。
因みに相続税の計算上、代償物を貰うBCは代償債権として課税され、支払うAは代償債務として借金と同じ扱い。つまり、財産からの控除項目になるのです。
2.俺が死ぬまで払え!昔、相続人2人、兄妹でもめにもめた事案がありました。土地が大半の相続案件です。妹が折れる形で決着がつくかに見えたものの、兄はどうしても小銭が欲しい。そこで最後の切り札です。妹が兄に対し、二人の内どちらかが死ぬまで、毎月一定額を支払うという約束で一件落着。珍しい代償分割ですが、問題は相続税額の算出に際し、これをいくらで評価するかです。仮に1年に100万円払うとしましょう。期限のないものを、しかもどちらが先に死ぬか解らないものを、どう評価するのでしょう?
3.税法上の評価方法結論から申しあげると、生存条件付有期定期金の評価と言って、生存中に限って定期的に受けられる権利の評価方法が定められているのです。定期金とはこの種の金銭を受ける権利を言います。やや専門的になりますが、このケースでは期限が決まっている場合(有期定期金)と決まっていない場合(終身定期金)とを比較し、いずれか低い額で評価して良いことになっています。有期の場合の年数の前提は平均余命も一つの方法でしょう。
さて、問題は終身定期金の評価方法です。1年間に受けるべき金額×評価倍数 と言う代物(しろもの) で下記の通り。
評価倍数法
権利取得時の年齢 倍 数 権利取得時の年齢 倍 数 25歳以下 11倍 50歳超 60歳以下 4倍 25歳超 40歳以下 8倍 60歳超 70歳以下 2倍 40歳超 50歳以下 6倍 70歳超 1倍 このケース、兄の年は56歳のため、年間100万円なら4倍で400万円の評価。
つまり、4年でもとを取る計算です。
4.こんな工夫で実質贈与!さて、上記の場合、4年以上兄が生存すれば、それ以降は課税もされず、丸儲けの勘定です。と言うことは、意識的にこの手の代償分割を親子でした場合、実質的な贈与が可能になるのではないでしょうか?
例えば、夫婦の間に子が一人で夫の相続がおきた場合です。配偶者控除を利用して、財産の半分までは無税で相続。分割協議の際、母が子に代償分割で払い続けるケースを考えてみます。年間1000万円として、子が40代なら6年、50代なら4年経過後は毎年無税で1000万円が子に移行できる計算なのです。相続税の節税にはつながりませんが、母と子が共に長生きできれば、贈与ができた上に母の相続時には財産が確実に減少していることに!二次相続の対策だってできちゃいます。
何故、この様なことが可能なのでしょうか?定期金の評価方法が杜撰(ずさん)だからです。税務の世界はいつも同じで、これをやる人数が少ない内はお咎め無し。増えれば必ず評価方法の見直しです。早い者勝ち、やった者勝ちですぞ!2002年3月19日
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5117号
たかが名義、されど名義!
税務上、様々な問題を含んでいる事項の一つに『名義』があります。名義いかんによっては、思わぬ課税関係が生じることがあるのです。確定申告もいよいよ後半戦。申告内容と名義が一致しているかどうか、今一度、注意が必要になるかもしれません。
1.3月15日までなら直せます夫婦共有でマンションを購入しました。深い考えもなく、1/2ずつの持ち分登記。これは税務上、何を意味するのでしょうか?持ち分を登記する事は、それに相当するお金を用意した、と言うことなのです。このケースで言えば、自己資金であれ借入金であれ、夫婦それぞれが半分ずつの資金を用意した事を意味するのです。
もし、名義と資金出所が一致していなければ、その一致していない分は贈与があったものとみなされます。ギクっとした方、ご安心下さい。3月15日、つまり確定申告の最終日までに登記を直せばよいのです。錯誤登記という手法で解決できます。
2.ペイオフも要注意!いよいよ4月から定期性預金のペイオフが解禁予定です。預金名義人毎に名寄せをし、元金1千万円とその利息を超える部分は保証の限りではありません。それなら、ご主人名義の預金を妻、子供2人の計4人にすれば、4千万円は安心なのでしょうか?確かにそうです。が、税務署はこんな時、ご主人から奥様や子供らへ贈与があったことになりますよ、と脅かします。そうか、贈与税がかかるなら、ここはひとまず撤退で、元の名義に戻しておこう!
3.税務署得意の二枚舌さて、前述の例で税務署の脅かしにもめげず、妻名義の預金のまま10年が経過。幸いに贈与税の課税もなく、夫の相続を迎えました。妻名義の預金、奥さんの認識では7年バレず、贈与税の時効が完成です。晴れて預金は自分のもの。
しかし、一筋縄では行かないところが税務署です。今度はこんな事を言うのです。“奥さん、専業主婦でご自身の収入はなかったのでしょ。あれは奥さんの名義にはなっていても、実質ご主人のものです。つまり、相続財産として計上しなければならないものなのです”と。これが、このATO通信でも何回かお話した名義預金なる代物 (しろもの)です。
名義を借用した時点では贈与だと言い、相続の時は単なる名義預金なのだから、相続財産だと宣( のたま ) うのです。何たる二枚舌! ただ、これは税務署という役所の本質的な性格で、建前はともかく、要は税金を取り立てる役所なのです。調査の時は、あの手この手で課税することだけを考えているのです。こんな時、安易に妥協してはいけません。相手は税務署。外務省ではないのですから、大声で恫喝( どうかつ ) せず、理詰めで応戦しましょう!
4.奥の手、過年分も修正して誠意を示そう!この時期、毎年1~2件使う苦し紛れの奥の手をご紹介します。誤解の無いよう申しあげておくと、駆け込みの新規のお客様です(つまり、当社の不手際ではない!)。
AB二人の借地人(借地権は共有)の方が、下図のように隣接する甲地、乙地に共有で2棟の貸し家を共有で持っていました。2棟の家賃は若干違うのですが、本来2棟分の合計額を二人で均等に申告すべきです。しかし、何年間も甲地の貸し家はA、乙地の貸し家はBの名で申告をしてきました。
この度、地主との間で土地の交換をし、互いに完全所有権の形態に変更することに。借地権はAB二人の共有のため、従来の申告の仕方ではそれが反映されておりません。そこで、本年分の申告は本来の形で行うと共に、過年分についても訂正です。Aは減額、Bは増額の申告になります。増額分は問題ないのですが、減額については原則的には1年分しか訂正ができません。こんな時は嘆願書と言う形でお願い申しあげるのです。お二人通算では増額になるのですが、仮に減額分は認められなくても無理を言う以上、ここは遡 ( さかのぼ ) って直すのが誠意というもの。この例を含め、こんな形で過去を訂正すれば、何とかなることが多いのも実務なのです。
法律的な意味も含め、名義は重要です。色々な便法はあるものの、強いのは真実。たかが名義、されど名義で様々な場面で要注意です。2002年2月28日
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5115号
平成14年度税制改正大綱
-中小企業関連の小幅改正のみ-今年もまた相続税率の引き下げはありません。期待しては裏切られの連続です。土地税制もほとんど改正無し。事業承継に絡んで、未上場株の評価を含め、中小企業関連の小幅の改正が大半です。
1.中小法人の自社株評価の減額制度処分もできず、評価ばかりが高額と不評だった中小企業の自社株評価。ホンの僅かの減税です(町の噂では、従来の評価額の1/3減とも1/2減とも言われていた!)。・対象法人は相続税評価額ベースで10億円未満の会社・被相続人等が5割以上の株式を所有し、相続人が継続保有し、かつ、役員として経営すること・軽減対象は発行済み株式総数の1/3以内で相続税評価額3億円以下の部分・軽減額は被相続人の持ち株評価額の10%で3千万円がMAXです。せこい事に小規模宅地等の評価減の特例との選択適用で、両方は使えません。
2.未上場株式の物納要件等の明確化従来から理論的には可能でも、実務的にはほとんど不可能だった未上場会社の株式の物納(下記の表参照、これ、全国ベースの数字です!)。
本年10月の金庫株制度(金庫株とは株式の発行会社が、処分せずに保有し続ける場合の自己株式のことで、従来はその保有は原則禁止されていた)の施行に合わせてか、物納の要件等を明確にするようです。詳細は不明ですが、今までよりは物納もし易くなるのでしょうか?
○物納の許可件数及び金額(全国)年度 件数 金額 平成9年 34件 38億円 平成10年 36件 199億円 平成11年 30件 50億円 平成12年 23件 103億円
3.自己株式の譲渡損益、課税無し!上記2の金庫株が解禁になったとは言うものの、来年3月までは売却はできないことになっていました。さて、4月以降、売却が可能になった場合、その売却についての税務の取り扱いは不明でした。結論として、資本取引と言って課税関係は生じないことになりました。
4.同族会社の留保金課税、5%軽減!同族会社の場合には、配当や賞与で社外に流出させず、一定額以上を内部に留保してしまうと、留保金課税と言って、本税の他に余計な課税が用意されています。資本金1億円以下の中小法人はこの税額、5%軽減で軽微ながら朗報には違いありません。更に、この留保金課税制度そのものを早期に抜本的な見直しを検討するそうで、大いに期待したいところです。
5.交際費枠、雀の涙ほどの拡大法人の場合、資本金1千万円以下では年間400万円、1千万円超5千万円以下では年間300万円までは、その8割までが経費計上できることになっています。それが5千万円以下の法人は一律400万円に改訂です。これも町の噂ですが、この制限が撤廃され、総ての交際費が経費として認められるか?と左利きの筆者は相当に期待していたのですが、残念でした。この程度では、景気の刺激策なんかにはほど遠い感じです。
6.連結納税制度、4月導入いよいよ来年4月から連結納税が始まります。対象は100%の親子会社で、強制ではなく任意の選択です。子会社の赤字と親会社の黒字を通算して税負担の軽減を、と思っても当初2年間は2%の上積み課税が用意されました。つまり、赤字の会社がない場合、誰もこの制度を選択などしないこと必至。連結納税により税収が減ることへの防波堤なのでしょうが、せこい、せこい!
7.検討事項税制改正大綱の本文ではないものの、今後の改正を検討していこうとする事項に注目すべきものがあります。
一つは、登録免許税、不動産取得税、特別土地保有税、事業所税等の土地税制全般について、早期の抜本的見直しが明記されていることです。特に登録免許税については、15年度の固定資産税の評価替えにあわせ、手数料化の是非も含め、そのあり方の包括的な見直しを進める、とあります。 もう一つは相続税です。最高税率の引き下げを含む税率構造の見直しや課税ベースについての検討です。税率を下げ、もう少し広く浅く課税することで、我々税理士も仕事が多いに増え、大変結構なことだと思うのですが…2001年12月25日
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5114号
電子申告には、絶対反対です!
当社もついにやられました。コンピューターウイルスです。風邪のウイルスとは大違い、被害甚大です。このATO通信も今や大半がメール送信のため、多くの方にご迷惑をお掛けしました。恥ずかしながら、その顛末をお知らせします。
1.新手の愉快犯?筆者の乏しいコンピューター知識でも、コンピューターウイルスの存在自体は理解しております。メールに送られてきた内容に、付属の添付ファイルがあり、それを開くと、さあ大変!データが破壊されたり、正常に機能しなくなったり、本物のウイルスの如く、コンピューターを蝕んでいくのです。だから、怪しげなメールは開かないのがこの世界の鉄則なのです。
当社がやられたのは、もっと手の込んだもの。敢えて内容を開かなくても、プレビューと言うメールの立ち上げ画面にしただけです。登録済みの当社の顧客リスト(アドレス帳)に載っている総ての方に、当社に送付されてきたメールが送信、転送されてしまうのです。そして、それをご覧になった方のコンピューターから更にその方の登録済みの総ての顧客に同メールが…こうして、ねずみ算式に爆発的な勢いで同じメールが世の中に出回ってしまうのです。
幸い、このメール、データの破壊等の実害はなかったようで、迷惑だけが被害でした。但し、当社のお詫びのメールが更なるご迷惑をお掛けしました。送信方法の不備から、お客様のアドレスを公表する結果となってしまったのです。
この場を借りて、改めてお詫び申しあげます。
2.不十分な危機管理無防備だった当社、当日は1日中その対応に追われ、大パニックでした。正に犯人の思うつぼ。
ここから何を学ぶべきなのでしょう?先ずは、現状分析。当社のコンピューター環境を把握し、現状での問題点を認識することです。その上で今回の様な事態を予想し、何らかの予防策を打つべきなのです。そして、万一事態が生じた場合、どのような手順で何をすべきか、をマニュアル化しておかなければならないのです。 正直な話、当社にはいわゆる危機管理の認識が薄かったのです。現代を生きる企業としては、その点では失格の烙印を押されても、甘受しなければならないでしょう。
これを教訓に、大いに危機管理体制の充実を図るつもりです。
3.もうすぐ、電子申告の時代です!今やコンピューター無しの生活など考えられない状況です。当社でも、出勤して最初の作業はコンピューターの電源を入れることから始まります。当社ですら、ソロバンのできる人間などごく僅か。
日常業務の何から何まで、コンピューターを駆使して作業をするのが大前提。こんな時代を反映してか、アメリカでは既に紙を使わない電子申告が始まっています。件数的にはまだそれ程ではないにせよ、確実に増加し、将来的には総てが電子申告になりそうな勢いです。
我が国でもご多分に漏れず、電子申告の導入が予定されています。メリットとして、国税当局は①税務署に行かなくても、自宅やオフィスから24時間、年中無休で申告が可能②企業では既に経理の電子化が進んでおり、申告までの一連の作業がインターネットの活用により、ペーパーレス化でコスト低減につながる。を謳い文句にしております。実際に昨年末から麹町署、及び練馬東署の2署において所得税、法人税、消費税の実験が行われています。それを踏まえて平成15年度から運用開始すべく準備中とのこと。
が、しかし。本当にそれまでにネット上の安全性は確保できるのでしょうか?個人や会社の申告内容が何者かにより、流出してしまう可能性はないのでしょうか?そして何より、ウイルス対策は万全なのでしょうか?筆者は今回の経験から、大いに疑問を感じています。はっきり言って、電子申告には反対です。そう言えば、原子力発電だって、我が国のは絶対に安全、なんてかつてはどなたかが言ってました。
ただ、時代の流れは否が応でも電子化でしょう。
署名捺印なんて、そんな言葉自体無くなってしまうかも知れません。でも、何となく寂しい気もします。メールで『愛してる』に対し、相手の名を書くまでもなく“返信”をクリックして『私もよ!』では色気がありません。熱い熱い思いが筆の乱れになる肉筆の手紙にこだわるのは、筆者だけでしょうか。2001年11月29日
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5113号
税理士同士も話し合い ~情けは人のためにならず~
相続がおこり、財産分けをめぐって親族間で血みどろの戦い、よくあるケースです。双方弁護士を立てて争うのは珍しくないにせよ、そんな時、相続税の申告書は別々に提出するのでしょうか?
同一の相続をめぐって内容の異なる複数の申告書、なんて事態が実際にあり得るのでしょうか?“争族”にまつわる税理士同士の熱い(?)戦いが本日のテーマ、お客様のご了解を頂いた上でのご紹介です。
1.相続人(?)がもう一人いた!母が死に、数年後父が後を追いました。一人娘のΑ子さん、父親名義の土地200坪を何の疑いもなく、自分名義に変えようとしていた矢先です。同じ敷地内に住む叔父が公正証書になった『死因贈与契約書』を突き出しました。見れば、叔父の住む敷地部分、父が亡くなったら叔父に贈与すると言う内容です。この死因贈与契約書、遺言書みたいなものと考えて頂ければよいでしょう。 日頃不仲の二人です。当事者同士で直接話し合うこともなく、手続きはたんたんと進みます。 が、最後に相続税の申告の段になってひと騒動。通常、相続税の申告書は相続人全員が同一の申告書にそれぞれ署名捺印をして提出です。全部でどれ程の財産があり、誰が何を相続したか、一目で分かる仕組みです。Α子さんに代わり当方で叔父さんに申告の説明をしたものの、聞く耳持たずの状況でした。そこで申告書はΑ子さんだけの署名捺印で提出です。この場合、叔父さんだけが無申告の状態ですが、第一義的にはΑ子さんには何の責任もありません。果たしてその後、叔父さん側の税理士から当方に連絡が入りました。 こんな場合、先方の税理士もやり難いに違いありません。先方に資料はなく、計算のやりようもないからです。結果的にはΑ子さんの了解のもと、当方の申告書をコピーし、税理士の名前だけが違う同一の申告書を提出して一件落着。 素朴な疑問が残ります。あの税理士は何の計算もせず、コピーだけをして、いくらの申告書作成報酬を頂いたのでしょうか?
2.財産が解らないまま、相続税の申告!前妻の子と後妻が相続人のケースです。後妻は財産の全貌を明らかにせず、財産の分割協議は当初よりドロ沼に。相続税の申告書も後妻は勝手に単独で提出です。困ったのは前妻の子、財産が解らないまま申告期限が近づきます。しかし、もっと困ったのは、その申告を依頼された当方です。先方の税理士は情報を提供してくれる筈もなく、解っている不動産だけでとりあえず申告。こんな場合、同じ被相続人について、異なる申告書が提出されるわけで、税務署も黙っているわけがありません。税務調査になれば、嫌でも財産の全貌が明らかになるため、むしろ早く税務署が来ることを期待さえしていたのです。双方弁護士を立て長期戦の様相でしたが、その後消息は不明です。税務調査になったら、どちらの税理士が立ち会うのか、その心配も杞憂に終わりそうです。
3.コピーで人助けも、情けは人のためならず分割争いが決着せず、数年にわたって共有状態になっている事案です。これまた双方とも弁護士を立てて争う中、解決の糸口が何となく見え始めた頃、税務面のご相談を賜りました。当方より大がかりな交換を提案し、何とか話はまとまったのです。 さて、話が決まれば、あとは“交換”に係る税務の申告です。勿論相手方にも税理士はいるのですが、そもそもの提案、試算は総て当方です。膨大な資料を整理した上で、先方の税理士に面談することに。と言うのは、交換の申告、相手方と当方は同じ内容になるはずです。そこで、双方の申告に辻褄合わせが必要なのです。 弁護士の世界と違い、税理士同士で話し合うことなど非常に珍しいことではあるのです。当方から資料に基づきご説明したところ、『その資料、そのままコピーして申告してもいいですか?』『???』当方も膨大な時間をかけ、精密な検討を加えて作成した資料です。それを単にコピーをし、他人の褌で相撲ならぬ申告書の作成を行うとは……。ただ、これなら双方同内容の申告になり、税務署に文句を言われることはありません。結局は当方のためにもなることです。それに、今回は当方の提案でしたが、先方の提案にこちらが載せて頂くことだってあり得ます。『結構です』の快諾に先方はニッコリでした。
ただ、またまた素朴な疑問が残ります。あの税理士は何の計算もせず、コピーだけをして、いくらの申告書作成報酬を頂いたのでしょうか?賃貸物件を建築することは、相続対策として昔からつとに有名です。確かに採算さえ合えば、税務上有利なことではあるのです。問題は建築をする、しないの決断の時期というかタイミング。 意外な落とし穴もあるので注意が必要です。2001年10月29日
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5112号
「建設途中で相続」の恐怖!
賃貸物件を建築することは、相続対策として昔からつとに有名です。確かに採算さえ合えば、税務上有利なことではあるのです。問題は建築をする、しないの決断の時期というかタイミング。
意外な落とし穴もあるので注意が必要です。
1.何故、建築が相続対策か?相続対策になる理由は概ね以下の3点です。
①まず第一は相続税の建物の評価が貸し家として、固定資産税評価額の7割相当で済むことです。そもそも固定資産税の評価額自体、木造で建築価格の4~5割、鉄筋で7~8割と低いのです。これの更に7割相当の評価なら確かにお得!
②賃貸物件を建てると、貸家建付地と言って敷地の評価が更地に比して7~8割に減額。土地部分の評価額の節税につながるのです。
③200㎡までですが、土地を上記②の評価をした上、更に賃貸物件の5割引の特例があります。小規模宅地の評価減の特例と言い、相続対策の基本中の基本。因みに事業用や居住用としてこの特例を受ける場合、最高8割引の大特価での評価が可能です。
2.建築途中で相続がおきたら…問題は建築の途中で相続がおきた場合です。 上記の有利なはずの評価は、一体どんな取り扱いになるのでしょう? まず、上記①の建物評価ですが、建築途上では当然固定資産税の評価額はありません。この場合、一般的な言い方をすれば、その時点までの支払額の70%で評価することになります。本来の評価方法に較べ、明らかに不利な場合も出てくるでしょう。
②の貸家建付地はどうでしょう?この評価、借家人がいて、オーナーにとっては利用に制限があるために減額されているのです。と言うことは、言うまでもなく建築途中では更地扱い。残念ながらこれまた不利な扱いになってしまいます。
③の小規模宅地はいささか微妙な問題です。
本来、相続税の評価についての考え方は、死亡日時点の状況での判断です。しかし、建築を予定し工事も進んでいるのに、たまたま途中で死亡しただけで特例が適用できないのでは、死人に鞭の酷な扱い。そこで、若干の条件は付くものの、特例が適用できると考えて頂いて宜しいと思います。
3.『建築途中』とは、どんな状況か?原則として、建築途中であれば③の特例の適用はあるとは言うものの、具体的にどんな状況が建築途中と言えるのでしょうか? 勿論、実際に基礎工事が終わり、柱や壁が完成していれば文句はないでしょう。結論から言えば、建築に着工していればOKです。では、何を以て建築に着工というのでしょう? 建物を建築する場合、まずは設計図の作成です。そして具体的な建物プランができると、今度は建築確認の申請をし、役所の許可が必要です。その許可が下りたところで、地鎮祭をし鍬を入れ、杭打ちの開始です。 外観だけで判断をする場合、設計図ができあがれば、何となく建築の意思表示はできたような気もします。まして、役所に建築確認申請まですれば、本気であることは自明の理。 が、残念ながらこの段階でお亡くなりになった場合、特例の適用はありません。税務の上では鍬入れなり杭打ちがあって、初めて建築に着手と言えるのです。
4.決断は経営者の感覚で!賃貸物件の建築は、相続対策になるとは言うものの、経営リスクも伴います。また、土地の評価は下がっても、納税資金も確保しておかなければなりません。そのためには、高い評価は覚悟の上で、駐車場として将来処分がしやすい形にしておく場合だってあり得ます。
残念なことに、何か対策が必要であると分かってはいても、結局あれこれ迷い何もしない方が結構いらっしゃるのです。 納税額を把握し、納税方法を考えたらあとは決断一つです。考え中に相続、ではシャレにもなりません。賃貸事業をするのか、しないのか、それは正に一刻を争う経営者の判断です。賃貸事業自体、文字通り一大事業なのだと言うことを、肝に銘じていざ、ご決断を!
なお、ご決断の参考になる書物をご紹介しておきましょう。 ダイヤモンド社『これからの賃貸住宅ビジネス』(三井不動産編)です。税務の部分は筆者が担当ですので期待はできる(?)お値段、ちょっと高めの2800円で10月4日発売です。 (ヤラレタ、結局は宣伝か!)2001年9月28日
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5111号
要は分割の仕方です
相続と言えば、条件反射的に『財産分けの紛争』が頭に浮かびます。しかし、分け方次第で節税になるケース。はたまた争いどころか譲り合いのケースまで、色々な分割方法のご紹介です。
1.分割もやり方一つです先ずは図イをご覧下さい。50万円と70万円の二方の道路に接する土地が100坪です。これを、被相続人が使っていた、そのままの形で相続すれば、二方の路線価の影響で非常に評価の高い土地になってしまいます。 一方、図ロのように、AとB別々の相続人がそれぞれに分割して相続すればどうでしょう?Aは50万円の道路だけ、Bは70万円の道路だけに接する評価となり、評価額は軽減です。 本来、相続財産は被相続人が利用していた、その利用単位ごとの評価です。しかし、分割して取得した場合には、その取得した土地ごとの評価になるのです。
2.やり過ぎは不合理分割!それではここで、もうひと工夫。図のハやニのように分割したらどうなるでしょう?
ハにおいては、Bは無道路地、評価は激減です。図ニだってBは道路に点の状態でしか、接してはいないのです。 結論から言えば、これは不合理分割と言い、AとB全体での評価が基準となってしまいます。分割後の画地が著しく不合理であれば、分割前に引き戻して考えなければならないのです。 具体的には①無道路地又は帯状地②著しく狭隘な宅地③現在のみならず、将来的にも有効な土地利用が困難な土地等々です。3.遺言は多過ぎます。そんなにいりません!
さて、話は一変します。相続における分割のもめ事は、基本的にはもっと自分の取り分が欲しいというものです。人間誰しも自分の取り分は多いに越したことはありません。 遺言を残して亡くなった方がおられました。そこには、財産の大半を占める土地を妻と長男、若干の預金を嫁いだ長女へと記されていたのです。よくあるパターンですが、文句が出るとすれば、長女でしょう。ところが長男が、自分が長女に比して多過ぎる、こんな遺言承服できないと言いだしたのです。 結果、遺言は無かったことにし、分割協議によって長女の取得分を増やす事にしたのです。 筆者も長いこと税理士をやっていますが、初めての経験でした。
4.私は何もいりません!世の中には欲のない人もいるものです。相続人は姉と妹。姉は嫁いで実家を出、妹が親の面倒を見ておりました。このケース、億単位の財産ですが遺言はなく、分割協議で決着です。普通はここで次のような展開が。姉『嫁いだとは言っても私は長女、半分の権利はあるはずよ。』、これに対し妹は『自分で好きに出ていって、誰が親の面倒見たって言うの、あなたにそんな事言う権利はないわ!』 が、筆者の期待を裏切って、姉は自分の住む土地さえ主張せず、妹も妹で住む所さえあれば土地なんて…
5.最近の相続における傾向と対策ただ、上記はいずれも例外的なケース。こんな例ばかりなら、税理士なんて寝ていたってつとまりそうです。 概して言えるのは、子供がいない場合、現金は別にして土地は人気がないようです。バブル崩壊後の地価の値下がりのせいでしょうか?若い人には特にこの傾向が顕著です。親が土地の保有、活用で苦労しているのを見ているせいでしょう。土地はいらない、金残せ、でしょうか?
筆者もお客様の苦労を沢山見てきたためでしょうか、土地は持たないことにしております。(世の中ではこの手を、持たざる者の負け惜しみとか?)2001年8月31日
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5110号
情報公開は納税者の権利です!
ちょっと前までは、『お上』の存在は絶対的なものでした。楯突くことはおろか、実態の開示など夢のまた夢だったのです。
時代は変わり、今や情報公開全盛で、税務の世界も例外ではありません。
1.税務問題はいきなり訴訟は出来ません税務署が行う処分に不服がある場合、どんな争い方があるのでしょう?いきなり裁判所で税務訴訟をするわけにはいきません。裁判の前に国税不服審判所への審査請求という手続きが待っているのです。 この国税不服審判所、公平な第三者機関として裁判の前に税務署と納税者の両者の言い分にご判断を頂けるのです。既刊第5093号に詳述しておりますのでご参考になさって下さい。 結論を先に申しあげれば、ここでの納税者側の勝算はほとんどありません。平成11年度に処理された件数 3,003件の内、一部だけでも納税者側の言い分が認められたのは、僅かに431件。何と14%に過ぎません。 因みに、その後裁判になれば、結果は更に悲惨です。同じく11年実績で、430件の訴訟件数に対し、一部勝訴を含め26件、6.1%と納税者側は惨敗です。 もっとも、この話には裏があって、税務実務の世界では、審査請求や訴訟にしないことが腕のいい税理士の対応なのです。 つまり、当局も訴訟と言うことになれば、彼らのプライドにかけても負けるわけにはいかず、なりふり構わぬゴリ押しをしてくるのです。 理論と現場は考え方が異なります。 現場で解決が生活の知恵!
2.朝日新聞の情報公開法に基づく請求今月15日付けの朝刊によれば、朝日新聞の公開請求に対し、審判所はその裁決(裁判における判決に相当)を公表。今年3月までの2年9ケ月分、計95件が今回の対象だそうです(毎年約千件程度の裁決が出る)。 我々税務関係者は公表された裁決に常に注目しておりますが、この内、既に公表されていたのは僅かに5件。
3.原則非公開、の問題点この裁決事例、従来は非公開で、審判所長が必要と認めた裁決だけが公表されてきた経緯があります。 その公表基準は①納税者の適正な申告に役立つ②課税や徴収の実務に役立つ、の2点。 但し、問題は実際の公表が審判所の裁量に任されていたことです。ちがった見方をすれば、税務署の違法、強引な課税処分が審判所で取り消された裁決等、国税当局に都合の悪い内容は公表されないこともある、と言うことです。 既刊第5093号でも取り上げたのですが、当局からの出向者が大半では、よほど国税側に明らかな非がない限り、納税者側に勝ち目など、最初からないのです。 その結果が勝率の低い数字となっているのではないのでしょうか?
4.いつまでも抜けない『お上意識』朝日新聞によれば、今回の公表で国税の強引な指導、処分が取り消された裁決が一部明らかになっています。 日頃、税務当局と折衝をし、実態を知っている税理士たる立場の一人としては、複雑な気持ちでこの記事を読んだものです。
人間である以上、間違いがあるのは避けられないこと。間違いが分かった時点で、訂正すれば良さそうなものですが、当局はそれが許せない。
お上に間違いなどあろう筈もなく、体裁が何より大事な世界なのです。ハンセン病訴訟しかり、税務訴訟しかりなのです。
5.もっと税務資料を公表すべき!こんな例もあります。過大な役員退職金は税務上、経費にならないことになっています。では、過大かどうかはどこで判断するのでしょう? 当局は、同規模同業種を基準にと言うのですが、我々はその基準が手に入らない。それを言うなら、固有名詞を伏せて、各種の数値をもっと公表すべきなのです。 筆者は正論を言っているつもりです。決して、税務調査で納得のいかない処分を受けた腹いせではないつもりですが(多少はあるかな?)…。
2001年7月30日
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5109号
税理士も損害賠償の対象です
今回のテーマ、税理士である筆者にとっては、身につまされると言うか、何とも重苦しく悩ましいテーマです。ズバリ税理士の損害賠償責任。勿論、本音で迫ります。
1.税理士も人間です税理士なる職業、いうまでもなくお客様から報酬を頂戴して生計を立てているのです。決して税務署から適正納税協力金を頂いている訳ではありません。 とは言うものの、建前上は『納税義務の適正な実現を図る』責務を負っている立場。脱税をお客様から頼まれれば、それを断るのは、なかなか勇気のいるものです。繰り返します。報酬を頂戴しているのはお客様からであって、税務署ではないのです。 良くないことと知りつつ協力した税理士の後始末が今回のテーマなのです。
2.当社の脱税に対する取り組み方脱税を頼まれること、残念ながら時にはございます。当社の場合、バレた時のリスク、加算税、延滞税等の費用負担を総てお話しします。それでもと言われれば、これらの事を説明した旨を書類に残し、お客様にお渡しをします。当社の責任は皆無とは言わないまでも、ご依頼に従って書類を作成した事は明記します。決して積極的に荷担は出来ませんし、税理士としての署名・押印は致しません。考えてみれば当然で、僅かな報酬でこちらまで手が後ろに回っては、たまったものではないからです。(僅かでない時はどうしましょう?)
3.事案の概要ある税理士が関与先の社長から、期末の売り上げの繰延べを頼まれました。本来今期末にあげるべき所、翌期のものとして処理をし、今期の税金を少なくしようとするためです。 よくある話で、期間をずらしただけと言えば、そのとおりではあるのですが、税務上は認められません。こんな事が数年続く内、つまり、毎期毎期売上げの繰延べをする中で、利益率が異常なものになってしまったのです。業種により、その利幅は概ね一定しているもの。それが極端な繰り延べをすれば、利益率が異常なものになるのも当然です。 ただ、社長に断りもなく、仕入れ金額まで調整してしまったのはちょっとやり過ぎ?税理士のミスまで重なって、大幅な利益調整をして(つまり脱税)申告書を作成したのです。 同業者の肩を持つわけではありませんが、一カ所ごまかすと、次々と辻褄合わせが必要なのも事実です。調査に選定されないようにとの彼の気持ちは痛い程理解できます。 一方、社長は内容を検討もせず、言われるままに署名押印。 さて、案の定、税務調査となりました。 税理士としての気遣いだったのでしょう。税務署に指摘される以前に、具体的な脱税の手口を記した上申書を作成し、社長に提出を勧めました。これで調査は終わるからと言われ、社長も渋々上申書に署名です。が、これで終わるほど税務署は甘くはない!通常、法人の調査は3年分です。が、税務署は相当な悪者と判断したのでしょう。あろう事か7年分も修正しろと言って来たのです。この時、社長は初めて事の真相を知ることに!
4.税理士の損害賠償責任さて、脱税をした場合、差額の本税の他、重加算税と言う罰金が課されます。税理士が勝手に作成した申告書の内、社長の知らない部分はこれが免除されるかと言えば、答はNO。重加算税がしっかりかかってしまうのです。対税務署上、総ての責任は署名した社長にあり、が大原則。 元々悪いのは社長でも、税理士の対応に怒り心頭、どうにも収まりません。税理士の首を切り、当社に御鉢が…。嫌な役回りです。税理士に対して、どんな手段が講じられるか、ご質問を受ける羽目に。相応分の損害賠償のご説明をしながら、我身に置き換えると複雑な心境でした。ただ、このケースの様なことでお困りのお客様に対し、税務署との交渉をし、解決していくことも税理士としての仕事。お客様の結論はミスの分と税理士の勝手な操作分の請求です。 不名誉な話ですが、税理士に対する損害賠償は年々増加の一途。そんな不測の事態に備えるべく、税理士損害賠償保険があり、我々業界の常識になっている程です。 脱税のお手伝いは今後もしないつもりですが、ミスは本当に怖いもの。色々な言葉が脳裏をかすめます。明日は我が身、他山の石、月夜の晩ばかりではない、盛者必衰…。 でも、最後は決まってお気楽ムード、褌(ふんどし)ならぬパンツのゴムを引き締めて、ミスのないよう仕事仕事!
2001年6月29日
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5108号
借地権の有無と税務署の見解
頭では何となく分かっていても、今ひとつ判然としない財産に借地権があります。
そもそも借地権が存在するのか否か、あるとすればどの位の評価か、今回はこの曖昧模糊とした借地権の存否がテーマです。
1.第三者なら判定は容易親の代から借地人さんがいる場合、金額の多寡は別として、地代を貰っていればほぼ間違いなく立派な借地権が存在します。契約書があってもなくてもです。
相手が他人であれば、判断はそれ程難しいものではありません。一定の賃貸期間とただではない地代の収受がポイントです。
2.同族法人が問題です問題は個人の土地に同族法人の建物が建っている場合です。『無償返還の届出書』と言う書類の提出があれば、若干の評価はするものの、理論的な話は別として、基本的には借地権はないと考えてよいでしょう。 この届けがない場合、色々なチェックが必要です。賃貸契約開始時に権利金の支払いはあったか、地代の水準は固定資産税の何倍か、賃貸期間はどれ程か、等々です。 相当程度グレーな問題で、税理士泣かせのテーマなのです。
3.借地権の有無で変わる相続評価と買戻し法人に借地権がある場合、地主である個人は底地だけの評価です。借地権の割合が6割なら底地は4割、7割なら3割で足して1が基本です。 応用編として、相続時に個人の底地を物納する事も可能です。物納後、地主は国に替わるものの、地代さえ払えば法人の事業はそのまま継続。法人が賃貸マンションでも経営していれば、収益確保も十分可能。国は底地を第三者に売却はしないのです。法人に資金さえあれば、買い取り交渉は国側も望むところで、時価での売買。昨今のように地価が下落傾向なら、かつて高い評価で物納した底地を安く買い戻す絶好の機会なのです。
4.親子に借地権なし親子の場合はどうでしょう? 親の家の庭先に子が建物を建て、世間並みの地代を払う、よくあるケースです。 基本的にはこの関係、何年続けても借地権は生じません。相当に高額な権利金を払ってまで借地契約をする親子はいないでしょう。 借地権が生じない代わりに、子が地代を払わなくても、また、権利金を払わなくても贈与税の対象にはならないのです。
5.来る人によって違う税務署の見解さて、話は再び個人の土地に法人建物がある場合です。無償返還の届け出もなく、借地権の存否が不明なケース。仮に古くなった法人建物を取り壊し、今度は個人が建物を建てるとしましょう。知らない仲ではない両者。特に立ち退き料の支払がなくても不思議ではありません。が、ここで法人の調査があったとしましょう。法人に借地権はあることが大前提とされるでしょう。そして、本来当然に貰えるべき立ち退き料、借地権相当額を貰わなくても貰ったものとして受贈益。それに相当する金額を個人に寄付したとして、計算されます。一見、収益と費用でツーぺイですか、寄付金課税でほとんど経費にならないのです。一方、個人も法人からの寄付で一時所得の課税です。また、その個人が法人の役員であれば、その役員に対する賞与。個人はその金額の給与課税、法人は損金不算入となり、全額課税の対象というダブルパンチです。 今度は、個人の調査があった場合です。
理論的な話はさておくと、実務では何も言われません。法人に借地権があったのではないのか、あれば立ち退き料を払うべきだから、その分が必要経費となるはず。その分必要経費として申告額から控除しましょう、などとは口が裂けても言いません。 税務署もお役所です。縦割り行政のなせる技、自分の得にならないことは一切しないのです。逆に、法人部門に連絡し、法人で否認したら如何ですか、と耳打ちすることもありません。幸か不幸か税務署って、そう言う所なのです。2001年5月31日