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COLUMN
毎月職員が交代で執筆しています。
ただ、自分の順番が回ってくると、
その対応は様々です。
税務のプロとして、日頃の実務や研究の成果を
淡々と短時間にまとめる者、
にわか勉強で急に残業が増える者、さて今月は…
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136号
老人ホーム入所と小規模宅地等の減額特例の適用
~「生活の拠点」は”自宅”それとも”老人ホーム”?~自宅の敷地についての「小規模宅地等の減額特例」。適用できれば80%の減額です。240平方メートル部分までという面積制限はありますが、例えば1億円評価の土地が2,000万円になります。適用できるか否かで相続税額に大きな差が生じることが多いのです。
ところで、老人ホーム入所後に死亡した場合、自宅の敷地についてこの減額特例を適用できるのでしょうか。
1.自宅の敷地への減額特例の適用居住用宅地についての小規模宅地等の減額特例は、『居住の用に供されていた宅地等』について適用されます。具体的には、「生活の拠点」といえる建物の敷地がその対象です。老人ホームに入所していたとしても「生活の拠点」が自宅にあると言えるのであれば、自宅敷地についてこの減額特例が適用できることになります。
いずれの建物に「生活の拠点」があるかは、日常生活の状況、建物への入居目的、建物の構造及び設備の状況などの事実を総合勘案して判定することとされています。
2.事例の設定(自宅が"空家"となる場合)今回は、次の条件設定での検討とします。
・
・
・被相続人は、介護を受けるため介護用老人ホーム(終身利用権取得)に入所し、退所することなく死亡。
被相続人の配偶者は既に死亡しており、老人ホーム入所後、自宅は空家のまま。
自宅とその敷地は、別居の子(3年超の期間、賃貸住宅に居住)が相続し、相続税の申告期限まで保有。
3.4つの判定要素判定要素は次の4項目です。「生活の拠点」が自宅にあるとして、その敷地について減額特例の適用を受けるには、原則、4項目の全てをクリアする必要があります。
ア 被相続人の身体又は精神上の理由により介護を受ける必要があるため、老人ホームへ入所したこと。 イ 被相続人がいつでも生活できるよう自宅の維持管理が行われていたこと。 ウ 入所後あらたに自宅を他の者の居住の用その他の用に供していた事実がないこと。 エ 被相続人又はその親族が、老人ホームの所有権あるいは終身利用権を取得していないこと。
4.判定要素はどのような意味があるか(1)介護の必要性(判定要素ア)
介護を受ける目的で老人ホームに入所されるケースのほか、介護の必要がなくても、将来のことを考え入所されるケースもあると思います。後者(介護の必要なし)の場合、老人ホーム入所時に「生活の拠点」が自宅から老人ホームに移転したことになり、自宅の敷地は、『被相続人の居住の用に供されていた宅地等』に該当しないことになります。このことは、亡くなる直前に要介護状態になったとしても結論が変わるものではありません。あくまでも入所時の状況で判定します。
(2)自宅の維持管理状況(判定要素イ及びウ)
「自宅」=「生活の拠点」といえるためには、いつでも住める状態(起居可能)であること、すなわち、親族等によって維持管理がなされていることが必要です。自宅に戻る見込みはないと考え、寝具などの生活用品を処分したり、自宅を賃貸に供したりしたような場合には、その時点で「生活の拠点」といえないことになります。
(3)終身利用権等を取得していないこと(判定要素エ)
まず、入院のケースを考えてみましょう。病気のため入院し、退院することなく死亡した場合です。入院は治療のためで、病気が治癒すれば自宅に戻ることは明らかです。そうすると、入院はあくまで「一時的」なもので、病院に「生活の拠点」を移したことになりません。なお、ここで言う「一時的」なものかどうかは、入院期間の長短という時間的なものではなく、入院の必要がなくなれば自宅に戻る状況と言えるかどうかで判定されます。
介護の必要があり介護用老人ホームに入所した場合も同様です。介護の必要がなくなれば、自宅に戻ると言えるのであれば、その入所は「一時的」なものとなります。この点、老人ホームの終身利用権等の取得という事実は、「一時的」なものかどうかの判定において、大きなマイナス要因とならざるを得ないのです。一般には「生活の拠点」が老人ホームに移ったと判断されてしまうのです。
高齢者が要介護となった場合、その後、介護の必要がなくなるケースは少ないのかもしれませんが、特別養護老人ホーム(特養)や賃貸形式等の介護用老人ホームであれば、入院の場合と同様に、その入所が「一時的」なものと判断されるケースも多いようです。
5.本事例の場合は・・配偶者や同居親族がいない状況で、賃貸住宅に3年超の期間居住する子が被相続人の自宅敷地を相続し、申告期限まで保有していますから、取得者要件や保有継続要件は充足しています。問題となるのは老人ホームへの入所が「一時的」なものといえるかどうかです。「生活の拠点」の判断は、本来、住居の所有形態(自己所有・賃貸)で結論が左右されることはありません。しかし老人ホームでは、終身利用権が取得されていると、介護のための「一時的」なものというよりも新たな「自宅の取得」という印象が強くなります。個々の事実関係を検討する必要がありますが、一般には、自宅の敷地への減額特例の適用は困難と考えられます。
2012年8月15日
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135号
売ってないのに譲渡所得!?にご用心
土地や建物を売って利益が出たら譲渡所得税が課税される。当たり前のこととしてご存知の方も多いのではないでしょうか。しかし、所得税法では、売っていないのに譲渡として課税されてしまう場合があるのです。今回は、そのような一般常識からは例外と言える所得税法上の取扱いをご紹介します。
1.所得税法における譲渡所得とは単に資産を引き渡して対価を得るという一般的な売買だけでなく、対価の授受がなくても譲渡所得として課税されることがあります。これは、所得税法が資産保有期間中の価値増加分を譲渡所得としているためです。
以下、代表的なケースについて具体例をあげて説明いたします。
2.譲渡所得とされるケース(1) 借地権等の設定
建物または構築物の所有を目的とする借地権等を設定するケースです。その対価として支払いを受ける金額が、土地の時価の2分の1を超える場合には、その対価の額で借地権等の譲渡があったものとして譲渡所得の計算をします。
ちなみに、対価の額が土地の時価の2分の1以下である場合には、不動産所得の収入金額となります。
(2) 代物弁済
代物弁済とは、例えば、Aから3,000万円の借金をしているBが、現金による返済に代えてAに時価3,000万円の土地を引き渡し、債務を消滅させる契約を言います。
この場合、Bは土地を3,000万円で譲渡したものとして譲渡所得の計算をします。
ただし、その代物弁済が資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難な場合において一定の要件に該当するときは、譲渡所得は非課税とされます。
(3) 離婚による財産分与
例えば、離婚による財産分与として、夫が自己名義のマンションを妻に引き渡した場合、所得税法上は次のように取り扱われます。
夫は、財産分与義務の消滅を対価とする資産の譲渡をしたとみなされます。したがって、分与時の時価でマンションを譲渡したものとして譲渡所得の計算をしなくてはなりません。
ただ、この場合、居住用財産の譲渡をした場合の特例が使える可能性がありますが、ここでは詳述いたしません。
一方妻は、財産分与請求権に基づいてマンションを取得したに過ぎず、贈与により取得したものではないと考えるため、贈与税は課税されません。
しかし、その取得した財産の価額が、婚姻中の一切の事情を考慮して過当であると認められる場合には、その過当である部分の価額については贈与税が課税されます 。
(4) 法人に対する現物出資
現物出資とは、法人の設立や増資等に際して金銭以外の財産により出資して、その法人の株式等を取得することをいいます。
例えば、法人の設立時に個人が時価5,000万円の土地を出資し、5,000万円相当の株式を取得したとします。この場合、出資した個人は取得した株式の時価である5,000万円で土地を譲渡したものとして、譲渡所得の計算をします。
(5) 限定承認による相続及び包括遺贈
相続人は、相続する財産を限度として、被相続人の債務を弁済すべきこととして相続の受諾をすることができます。これを限定承認と言います。なお、相続財産を特定されず、一定の割合を指定されて遺贈を受けた人(包括受遺者といいます)も相続人と同一の権利義務を有するため、限定承認をすることができます。
被相続人が、財産より多くの債務を抱えている場合に限定承認を選択されるかと思いますが、税務上は相続税ゼロだけでは終わりません。限定承認により不動産等を相続した場合、相続開始時の時価で被相続人から相続人に対して譲渡があったものとされるのです。
(6) 法人への贈与及び遺贈
個人が、法人に不動産等を寄付した場合には、寄付した時のその不動産等の時価により譲渡をしたものとして譲渡所得の計算をします。
また、被相続人が法人に不動産等を遺贈した場合には、相続開始時の時価により譲渡をしたものとして譲渡所得の計算をします。この場合、被相続人の譲渡所得の申告は相続人等が行うことになります。
以上ご紹介の通り、何気なく行った行為に思わぬ所得税がかかってしまうことがありますので、十分ご注意ください。2012年7月13日
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134号
代償分割を行った時の相続税の計算
~思わぬ税負担が発生しないために~相続が発生すると遺言がある場合を除き、各相続人が具体的に遺産を相続するためには遺産分割協議を行う必要があります。この分割協議が行われない限りは、全遺産は一時的に各相続人の共有状態となっているに過ぎません。
1.遺産の分割方法遺産の分割方法には、現物分割、代償分割及び換価分割の3種類の方法があります。それらの内容は次のとおりです。
(1)現物分割・・・遺産そのものを各相続人がそれぞれ取得する方法
(2)代償分割・・・一部の相続人が財産の現物を取得する代わりに、他の相続人に対して債務を負担する(金銭等を支払う)方法
(3)換価分割・・・財産の全部又は一部を金銭に換価した上で、その換価代金を各相続人にて分割する方法遺産分割の方法は制限があるものではありません。どれか1つの分割方法によっても構いませんし、複数の分割方法を組み合わせて行うことでも当然問題はありません。
上記(2)の代償分割の良い点は、現物の財産だけでは各相続人の取得割合に合致するような遺産分割を行うことが難しい時の調整弁として役立つ点です。
2.代償分割時の相続税の計算方法代償分割を用いた遺産分割を行った場合には、各相続人が取得する相続財産は次のように計算されます。
(1)代償財産の交付を受けた者(金銭等の受領側) ⇒取得した現物財産の相続税評価額+受領する財産
(2)代償財産を交付した者(金銭等の支払側) ⇒取得した現物財産の相続税評価額-支払う財産
上記のとおり、代償分割によるやり取り額を加減算するだけという単純な取り扱いとなっています。
また、受領する財産及び支払う財産の額は、相続開始時の相続税評価額によって計算することが原則です。したがって、授受するものが金銭の場合には金銭額そのものとなります。
3.計算方法の特例を活用する代償分割時の計算方法は2で述べたとおりです。しかし、この計算式を単純に適用すると大きな問題が生じる場合があります。
(計算例)・ 相続人はA及びBの2名、基礎控除額7千万円。 ・ 相続財産は、土地(相続税評価額7千万円、時価1億6千万円)。 ・ 分割方法はAが土地を相続し、Bに対して8千万円の金銭を支払う代償分割。(時価ベースでは等価) 相続税評価額=基礎控除額のため相続税は発生しないと思われますが、時価ベースによる金銭授受を加味すると1千万円に対する相続税が発生する結果となります。
代償分割の金銭授受額は次の算式にて計算することもできるとされています。
「8千万円×7千万円/1億6千万円=3千5百万円」
つまり、代償額を相続税評価額ベースに引き直すということです。この計算を用いれば結果として相続税は発生しません。
4.税負担も考慮の上で調整を図る今回は話を単純化しましたが、計算方法によって大きな違いが生じます。実際には、他の財産や債務もあるためさらに複雑となります。また、代償の対象が金銭ではなく不動産である場合には交付者に譲渡所得課税も生じるため注意が必要です。代償分割は、そのやり方や選択する計算方法によって発生する税額に大きな差異が生じるということを認識しながら相続人間の調整を図ることが大切です。
2012年6月15日
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133号
年末に向けて今から準備!?
~意外と知らない医療費控除~資産家の方だけではなく、本来なら確定申告の必要がないサラリーマンも活用する医療費控除。馴染み深いものではありますが、意外と知られていないことも・・・。今回は医療費控除について見直してみます。
1.医療費控除とは1年間に支払った医療費から保険金などで補?される額を控除した実質負担額から10万円(年間所得金額の5%(上限10万円))を控除した残額分、課税所得金額が少なくなる仕組みです。
所得税の税額は、所得金額から様々な項目の控除をした残額に税率を掛けることで計算されます。
10万円を控除した医療費にその方に応じた税率を掛けた金額分、税額が少なくなります。つまり、10万円を超えた医療費額と同額の税額が少なくなる訳ではありませんので、ぬか喜びにご注意ください。
2.一家団結! 交通費OK!意外と知られていないのですが、医療費控除の対象となる医療費は、申告するご本人分だけではありません。生計を一にする配偶者・その他の親族の医療費で申告する方が支払ったものも含めることができます。
生計を一にするとは、必ずしも同じ家で寝起きしているという状況を指しているのではありません。仕送りで生活されている一人暮らしのお子様、ご両親の医療費も含めることができます。ただし、その別居されている方が、その申告する方の仕送り分で生活しており、その方の医療費を申告する方が負担していることを前提としています。
また、医療費には通院に必要な交通費も含まれます。ただし、タクシー代は公共交通機関を利用することができない場合等に限り対象となりますので、ご注意ください。
3.人生いろいろ・・・老人ホームも・・・老人ホームにはいくつもの種類があります。次の4種の施設に支払った施設サービスの費用は医療費控除の対象となります。
(1)指定介護老人福祉施設
(2)指定地域密着型介護老人福祉施設
(3)介護老人保健施設
(4)指定介護療養型医療施設
ただし、入所しない場合であっても必要となる費用(理容代等)は控除対象になりません。また(1)(2)の施設に支払った費用は2分の1だけが対象となります。
4.おむつ代も医療費控除!おむつ代も医療費控除の対象となります。ただし、治療に必要とされることが条件になります。
その為、治療に必要なおむつであることを証明する、医師が発行した「おむつ使用証明書」を確定申告書に添付するもしくは、提出時に提示する必要があります。
では、2年目以降はどうなるでしょう?市町村長等が発行する「おむつ使用の確認書」(市町村によって名称が異なります)で代用することができます。なお、確認書の発行手数料は市町村によると思われますが無料のところが多いようです。
また、3でご紹介した施設に入居している方が介護保険給付の一環として支払ったおむつ代は、証明書の添付等が無い場合でも医療費控除の対象となります。
5.美容はダメ?医師に支払った医療費でも医療費控除の対象とならないものがあります。よく知られているものが「美容」のための費用です。
では美しくなるための費用は何でもだめなのでしょうか?一見すると対象とならないような費用でも、対象となるもののご紹介です。(1) おしゃれを楽しむために眼鏡は・・・と言う方に話題のレーシック(視力回復レーザー手術)。こちらは医療費控除の対象です。 (2) 歯科医で歯石を除去してもらうと口元が明るくなります。これは一般的には対象とならない費用です。しかし、歯周病治療の一環として行われた場合、保険対象となり、医療費控除もOKです。 (3) 年を重ねること、コンタクトレンズの長期・長時間使用等により、まぶたが垂れ下がる「目瞼下垂」。この症状の治療には手術が必要となり、医師の判断で、保険の対象となります。すっきり目元の為の医療費も対象となる場合があるのです。 同じく一般的には医療費控除の対象とならないものに健康診断の費用があります。治療に直接必要ないため、医療費控除の対象とされていないのです。
しかし、診断の結果、重大な疾病が発見され、治療した場合には、治療に先立って行われた診察と同じとされ、医療費控除の対象となります。
6.健康が一番!!電子申告の場合、領収書を申告書に添付する必要がありません。しかし、調査の際、領収書を提示できない状態では困ります。今から年末に向けて医療費の領収書の収集、保管をお願いいたします。
医療費控除を受けないで済む、健康一番!!とは言っても、10万円を超えそうなときは漏れなく領収書を集め、節税に励みたいものです。2012年5月14日
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132号
「生計を一にする」親族に 支払う必要経費
~事業専従者給与を中心として~個人事業主が家族に給与等を支払う場合、その給与等は原則として必要経費にはなりません。事業主の所得を同一生計の親族へ形式的に分散をすることにより、所得税の負担減少を図ろうとすることを防止するためです。ただし、その例外として「事業専従者」という制度があり、一定の要件のもと、必要経費とすることが認められています。
1.「生計を一にする」とは?生計を一にするとは、日常生活において生活費をともにすることをいいます。簡単に言うと「財布が一緒」という意味です。同一の家屋に住んでいれば、二世帯住宅など公共料金や生活費などを完全に区別している場合を除き、生計を一にしていると言えます。また、同居している場合に限らず、日常生活を共にしていなくても勤務、修学等の余暇には共に過ごすこととしている場合、常に生活費等の仕送りが行われている場合も「生計を一にする」に含まれることになります。
2.生計一親族に支払う必要経費個人事業主が、生計を一にする配偶者その他の親族に対して、給料、店舗の家賃などの対価を支払っても、必要経費とすることはできません。一方、その給料等の支払を受けた親族側においても、その給料等は受け取っていないものとして取り扱われます。また、その親族の必要経費、たとえば固定資産税、減価償却費、保険料や資産損失は、その親族ではなく、その事業主が負担したものとして必要経費になります。
具体的に説明しますと、例えば、子が父所有の建物を店舗として賃借し、事業を営んでいる場合は、下図の通りになります。父に支払う家賃は、子の必要経費とはなりませんが、父が支払う固定資産税、減価償却費等は、子の必要経費となります。一方、父側では、子から受ける家賃は収入とは取り扱われないことになります。
3.事業専従者の場合2.の例外として、親族への給与を必要経費とすることができる事業専従者の制度があります。生計を一にする配偶者その他の親族であること、年末現在15歳以上であること、年間のうち6ヶ月超の期間事業に専ら従事していること等の要件を満たしている「事業専従者」に対する給与が対象となり、青色申告者の場合と白色申告者の場合とで、取扱いが異なります。
(1)青色申告者の場合
事業主が、事業専従者に対して給与を支払った場合には、一定の届出書の提出を要件に、その給与の額のうち労務の対価として適正な金額を青色事業専従者給与として必要経費とすることができます。
この届出書の提出期限は、通常の場合、その年の3月15日までで、給与・賞与の支給金額、支給時期等を記載しなければなりません。なお、実際の支給額のうち、届出書に記載した方法に従い、記載されている金額の範囲内で支給されたものが必要経費として認められます。
(2)白色申告者の場合
事業主に、事業専従者である親族がいる場合には、その親族1人につき最高50万円(配偶者の場合には最高86万円)を必要経費とみなすことができます。
なお、青色・白色いずれの場合も、その給与の金額は、その事業専従者の給与とされますので、会社から支給される給与と同じように所得税が課税されます。また、給与額が少額であっても、控除対象配偶者、控除対象扶養親族、配偶者特別控除の対象から外されるので、注意が必要です。
4.Q&A(青色事業専従者給与について)(1)対象となる事業とは?
不動産所得、事業所得、山林所得のうち事業として行われているものが対象です。例えば小規模な不動産の貸付などは対象外となります。(白色申告者も同様です。)
(2)青色事業専従者が病気等により6ヶ月超の期間事業に従事できなかった場合は?
病気など相当の理由により1年を通して、「生計を一にする親族」として、事業に従事できなかった場合、従事ができる期間のうち2分の1超の期間専ら従事していれば認められます。
(3)青色事業専従者給与が事業主の所得よりも多い場合は?
従事状況などからみて適正な金額であると認められれば、必要経費にできます。事業主が高齢のため、事業主に代わって重要な職務に従事する場合、災害などにより、事業主の所得が著しく減少した場合なども認められます。ただし、日常的に青色事業専従者給与が、事業主の所得よりも多い場合は、給与の支給額が適正であるかどうか見直す必要があります。
適正額まで大丈夫、とは言ってもやはりある程度制限があり、法人にはかないません。益々の個人大増税時代を迎え、所得の分散と生前に相続人の方へ所得と財産の移転が可能な「所有型法人」を是非ご検討下さい。2012年4月13日
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131号
相続税申告後、新たな財産の存在が判明!
~遺産分割のやり直しに潜む問題点とその予防策~父が亡くなって相続が発生。相続人である子供達で遺産分割協議をし、相続税の申告書を無事提出です。 納税も済ませ、ほっと一息ついたのも束の間、子供達の誰も知らない父の遺産が他にあることが明らかになりました。
このような時、どうすればいいのでしょう。
2つのケースに分けて、以下まとめてみました。
1.その遺産についてのみ、新たに遺産分割協議をするケース(1) 当初の遺産分割協議は有効
遺産分割協議は相続人全員の合意により成立します。
一旦その協議が調ったら、その効力は相続発生時に遡って生じることになります。
上記のように、遺産分割協議後、新たに遺産が見つかった場合には、その遺産は未分割の財産であり、各相続人はその未分割の財産についてのみ、新たに遺産分割協議をすることになります。(2) 新たに遺産分割協議をしなくてもすむために
新たに遺産分割協議を行うためには、相続人が再度会して合意をする必要があり、手間がかかります。ましてや、各相続人が遠方に住んでいたり、お互いあまり仲がよくない場合は、なおさら負担に感じます。 当初作成する遺産分割協議書に、「今後、記載以外の遺産が発見されたときは、すべて相続人 ○○ が取得する」などと記載しておけば、原則として、新たに遺産分割協議を行う必要はありません。
2.当初の遺産分割協議をやり直しするケース(1) 新たに遺産分割協議をしなくてもすむために
新たに見つかった財産が高額だったり、相続財産全体のかなりの部分を占めるような場合はどうでしょうか。「この財産の存在が初めから分かっていたら、遺産分割協議書に合意なんてしなかった」と言い出す相続人もいるかもしれません。
遺産分割も他の契約と同様、民法上の法律行為ですから、相続人全員の合意があれば、遺産分割のやり直しをすることもできます。
しかしながら、税務上、遺産分割のやり直しは、次に掲げる問題が生じることになります。
(2) 贈与税、所得税の課税
当初の遺産分割協議が無効とされない限り、各相続人は、遺産分割協議により取得した財産について所有権を有することになりますので、その後になされた遺産分割のやり直しによる再分配は、相続登記の有無に関係なく、税務上、各相続人間における財産の譲渡(無償の場合は贈与)として所得税または贈与税が課税され、思わぬ税負担が生じることにもなります。
3.修正申告及びペナルティ相続税の申告書の提出後、新たな財産が発見された場合には、前述のように遺産分割に係る種々の問題が生じるほか、当然のごとく相続税の修正申告が必要になります。修正申告となると追徴税額の納付が必要となるほか、遅延利息相当として延滞税の納付も必要となります。ましてや新たな財産の存在が税務調査で発覚したのであれば、さらに過少申告加算税の負担も生じることになります。
4.相続財産の把握漏れを防ぐために遺産分割のやり直しによる税務上の問題を生じさせないために、相続財産の把握は的確に行う必要があります。
主な相続財産についてみると、次のとおりです。
(1) 預貯金、有価証券
預貯金、有価証券については、取引金融機関を確認し、残高証明書の発行を依頼します。借入金がある場合には、その残高証明書も入手します。
また、名義預金(名義上は被相続人の名義ではなく、妻や子になってはいても、実質的に被相続人の財産と推定される預金を言います)についても注意が必要です。
その性格上、実務では真実誰のものかの特定は非常に難しく、故に相続税の税務調査での重要な確認事項となります。したがって、税務署にうまく説明がつくように金額を特定し、被相続人からの贈与が成立するように(贈与と認定されたものは名義預金とはなりません)準備しておく必要があります。
(2) 生命保険契約・損害保険契約
保険証券、保険料支払領収書、生命保険料控除証明書等から、加入保険の種類、内容を確認します。被相続人が被保険者となっているものは、保険会社に死亡保険金の請求を行います。また、保険事故が発生していない生命保険契約で、被相続人が保険料の全部または一部を支払っているものは、生命保険契約に関する権利として相続財産に含まれるので注意が必要です。この点は、いわゆる積立型の損害保険契約も同様です。
(3) 不動産
不動産については、まず固定資産税の名寄帳を取寄せ、把握漏れがないかどうか確認した上で、全ての不動産の登記簿謄本を入手します。
以上、相続財産の調査方法を整理してみましたが、被相続人の財産の所在自体が分からなければ調査の仕様もありません。出来れば、生前から被相続人ご自身、もしくは同居の相続人の方が、日頃から「財産リスト」などを作成し、相続財産の全体を明らかにしておくことが理想でしょう。2012年3月15日
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130号
税制改正を巡る最近の動き
~平成23年度・平成24年度改正を中心として~平成23年度の第二次税制改正法案が平成23年11月30日に成立し、同年12月2日に公布・施行されました。また、平成24年度の税制改正(案)が税制改正大綱として平成23年12月10日に閣議決定されました。
何が変わったのか、また、これからどのように変わろうとしているのか、主要項目について、以下にまとめました。
平成23年度 第二次税制改正
1.復興特別所得税・復興特別法人税等の創設(1) 更正の請求期間の延長
東日本大震災からの復興のための財源を確保するため、復興特別所得税及び復興特別法人税が創設されました。
いずれも、基準所得税額又は基準法人税額を基礎(課税標準)として、次表の税額欄の算式により計算した税額を、所得税又は法人税と合わせて申告・納付することになります。また、個人住民税については、平成26年度から平成35年度までの均等割の標準税率が1,000円引き上げられ、年額5,000円とされます。
2.更正の請求期間の延長と更正の申出制度(1) 更正の請求期間の延長
更正の請求期間(改正前:法定申告期限から1年以内)が表1のとおり延長され、原則、平成23年12月2日以後に法定申告期限が到来するものから適用されます。
なお、これに伴い、税務署による増額更正可能期間も更正の請求期間と同様の期間とされます。
(2)更正の申出制度
上記(1)の改正に伴い、平成23年12月2日より前に法定申告期限が到来した国税について、表2に掲げる期間において「更正の申出書」を提出し、減額の更正を請求できることになりました。
3.法人税関係(1)法人税の税率の引下げ
法人税の税率が、表3のとおり引き下げられました。この改正は、平成24年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。なお、中小法人のかっこ書(改正後)は、平成24年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する事業年度について適用されます。ただし、前記1.に記載のとおり、復興特別法人税が創設されたため、例えば3月決算法人に係る平成25年3月期から平成27年3月期において適用される法人税等の税率は、表4のとおりとなります。
(2)欠損金の繰越控除制度の改正
(ア)中小法人以外の法人の青色欠損金額の控除額は、控除前所得の80%相当額に制限され、(イ)青色欠損金額の繰越期間は、9年(改正前:7年)に延長されました。
上述の(ア)の改正は、平成24年4月1日以後に開始する事業年度について、(イ)の改正は、平成20年4月1日以後に終了した事業年度で生じた欠損金額について、適用されます。
4.定率法の償却率(所得税・法人税)定率法の償却率が、次表のとおり改正されました。
この改正は、平成24年4月1日以後に取得される減価償却資産について適用されます。
なお、(ア)所得税では平成24年末までに、法人税では平成24年4月1日前に開始し、同日以後に終了する事業年度に取得される減価償却資産につき、改正前の償却率を適用できる経過措置、(イ)改正前の償却率を適用している既存の減価償却資産につき、改正後の償却率を適用し、当初の耐用年数で償却を終了することができる経過措置が設けられています。
平成24年度税制改正(案)平成24年度の税制改正大綱に示された改正項目のうち主なものは次表のとおりです。改正法案が国会で成立した場合に適用されることになります。
2012年2月15日
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129号
相続財産が震災にあったら・・・
~相続税の課税価格の計算特例~今回の東日本大震災で税の申告に影響があるのは、震災地に居住していた人だけではなく、東京在住の人でも影響を受ける場合があります。相続(贈与でも対象になります)で取得した財産の中に、震災地の賃貸物件や別荘地がある場合も、申告の特例が適用されます。さらに、震災前に相続が発生していても、相続発生日によっては、評価方法の特例が適用できる場合があります。今回は、震災前(平成22年5月11日から平成23年3月10日)に相続が開始した場合の財産の評価方法を紹介したいと思います。
Q1.対象の土地等とは?まず、平成23年3月11日において所有していた土地等が財務大臣の指定する地域(以下「指定地域」といいます)内にあることが条件となります。「指定地域」とは、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、千葉県の全域並びに埼玉県加須市の一部地域等が該当します。これら指定地域にある土地等を「特定土地等」といいます。
Q2.特定土地等の評価方法は?特定土地等の評価方法は、震災特例法により、その取得の時の時価によらず、「震災発生直後の価額」となります。 「震災発生直後の価額」は、原則として、指定地域内の一定の地域ごとに定めた「調整率」を平成23年分の路線価及び評価倍率に乗じて計算できます。
Q3.建物、自動車、家庭用動産等は?一方、建物や自動車等の動産が被害を受けた場合には、特定土地等とは異なり、Q4の要件を満たせば、災害減免法の適用を受けることができます。
Q4.減免措置の適用要件とは?次の1又は2のいずれかに該当するときは、災害減免法により相続税が減免されます。
(注1)動産等とは、動産(金銭及び有価証券を除く)、不動産(土地及び土地の上に存する権利を除く)及び立木
Q5.減免内容は?相続税等の申告期限前に被害を受けた場合には、以下の算式のとおりになります。
相続財産の課税価格に参入する価額 = 相続財産の価額 - 被害を受けた部分の価額(注2)
(注2)保険金、損害賠償金等により補てんされた金額を除き、個々の相続財産等ごとに、被害割合を考慮します。
Q6.特定株式等の評価方法は?「特定株式等」とは、指定地域内にあった動産(金銭及び有価証券を除く)、不動産、不動産の上に存する権利及び立木(以下動産等)の価額が保有資産の合計額の10分3以上である非上場株式等をいいます。 特定株式等を相続し、平成23年3月11日現在所有していた場合にも、詳細は割愛しますが、動産等の評価を震災直後の現況にあったものとみなして再評価しますので、株式等の評価額が下がることもあります。
特例措置はほかにも・・・上記でご説明した評価方法は、あくまで一部分であり、その他にも被災状況によっては、様々な評価方法があります。土地の地割れ等の物理的減価による土地の災害減免措置の適用がある場合もあります。
既に、相続税の申告をされてしまった方も、上記の評価方法で再計算して税額が減少する場合は、更正の請求ができる場合があります。是非一度見直しをされることをお勧めいたします。2012年1月16日
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128号
二世帯住宅の“壁”は小規模宅地等の特例の“カベ”?
~特例適用の特別な取扱いを知っておこう~皆様にはお馴染みの小規模宅地等の特例ですが、平成22年度改正により、特にご自宅の敷地にかかわる特定居住用宅地等については、厳格な要件が導入されました。要件を満たせば240㎡までの部分について80%の評価減を受けることができるため、要件を満たすか満たさないかで、相続税額に大きな差が出てきます。これを受けてご相談が増えたのが、いわゆる二世帯住宅や共同住宅で別々の部屋に親族がお住まいのケースです。
1.改正とその影響影響が出ているのは、次の改正についてです。
改正前は、1棟の建物の敷地の用に供されている宅地等のうちに特定居住用宅地等の要件に該当する部分とそれ以外の部分がある場合には,その建物の敷地全体を特定居住用宅地等とすることができました。図のように、被相続人自身の自宅とは別に、長男が区分所有して自宅としている部分についても、取得者が要件を満たしていれば敷地全体が特定居住用宅地等の適用対象でした。ところが、改正により、1棟の建物の敷地については、それぞれの利用区分に応じ按分した減額割合を適用することとなりました。改正後は被相続人の自宅部分について取得者が要件を満たしていても、長男の自宅部分については、その取得者に応じて扱いが異なることとなったのです。
このような建物と居住のパターンとしては、図のような二世帯住宅の他、1棟の共同住宅内の数戸の部屋に被相続人、長男、二男等がそれぞれの家族と居住している場合などがあります。
2.税務上の特別な取扱いにより特例適用可のケースも二世帯住宅といっても、構造上の区分がされずに、玄関が一つで内部を行き来できるような構造であれば、そこに住んでいる人たちは当然「同居」親族です。同居親族が相続した場合には、申告期限までの居住継続・所有継続を満たせば、特定居住用宅地等の適用を受けることができます。
しかし、お互いのプライバシーを尊重するため、あるいは建築資金の負担の関係から、建物の左右又は上下階部分について構造上区分して、住宅内部を壁等で隔て、お互いの玄関を通じてしか行き来できないタイプの二世帯住宅も珍しくありません。これが前記1.の図の場合で、被相続人と長男は実態として同居しているとは言えません。ただし、このような場合でも、特定居住用宅地等となる要件について、基本通達によって特別な取扱いが認められています。
これは、下記の①から③の要件をすべて満たす場合に限り、他の独立部分に居住していた親族が被相続人の「同居親族」であるという申告をした場合には、これを認めるというものです。① 被相続人の居住に係る共同住宅は、その全部を被相続人又はその親族が所有するものであること ② 被相続人が相続開始の直前に居住用に供していた独立部分以外の独立部分に居住していた者であること ③ 被相続人の配偶者がいない又は被相続人の居住していた独立部分に共に起居していた同居の相続人がいないこと この扱いが、図の事例ではどのように適用されるのか、下表にまとめてみました。
3.特例適用を視野に入れた計画を「二世帯住宅の壁は抜かなければダメでしょうか」というお問い合わせをよく受けます。もちろん、壁がなければ同居で問題なしです。しかし、構造上の問題で工事を行うことができない場合であっても、配偶者やその他同居の相続人がいない場合には、長男が取得し他の要件をすべて満たせば敷地のすべてが特定居住用宅地等として80%の減額を受けることができます。長男は同居親族として申告することにより、自分自身の所有建物に対応する敷地についても同居親族の居住用として、適用を受けることができるわけです。これに対し、被相続人に配偶者や同居相続人がいる場合には、長男の居住用部分は決して対象となりません。
特定居住用宅地等の適用を受けることができるか否かは、その減額金額の大きさから大変重要な問題となってきます。ご自宅の建替えを検討されている場合、こうしたことも十分に考慮して計画を立てる必要があるといえます。2011年12月15日
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127号
婚外子がいる場合の相続はどうなる?
シングルマザーといわれる人たちが増えているこのご時世、いわゆる婚外子も少なくないはず。もし、被相続人に嫡出でない子がいた場合、その相続はどのようになるのでしょうか。
1.民法で言う嫡出子と非嫡出子(1)嫡出子とは
法律上の婚姻関係にある男女の間に生まれた子供をいい、下記に該当する子をいいます。
・婚姻中に妊娠した子
・婚姻後201日目以後に生まれた子
・父親の死亡後又は離婚後300日以内に生まれた子
・未婚時に出生し父親に認知された子で、後に父母が婚姻したとき
・未婚時に出生した後に父母が婚姻し、父親が認知した子
・養子縁組をした子
(2)非嫡出子とは
法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子供で、上記(1)に当てはまらない子をいいます。
2.非嫡出子の戸籍(1)母親と同じ戸籍に入籍
非嫡出子は、父母が認知することにより親子関係が生まれます。しかし、母子関係は認知などしなくても、分娩によって当然に発生するものとされています。
この場合、子は母の戸籍に入り、母と同じ姓を名乗り、母の親権で保護され、母の遺産を相続することになります。(2)父親にも認知をされると
父に認知されていない、いわゆる私生児は、父の遺産を相続することができません。
しかし、父が自身の住所地か本籍の役場、又は子の本籍の役場に認知届をすることによって、父子関係を持つことができるのです。
認知をされても、家庭裁判所の許可を得ない限り母の戸籍に入ったままですが、父が認知した事実は父子いずれの戸籍にも記載がされます。(3)父母との続柄の欄の記載
平成16年10月以前は、非嫡出子の戸籍上の父母との続柄欄には、単に「男」「女」とだけ記載されていました。しかし、差別的であるとの理由から、平成16年11月以降は、出生の順に「長男(長女)」、「二男(二女)」等と記載されることに変更されました。既に戸籍に記載されている場合は、申出により、記載の変更履歴を残さないよう戸籍の再製がされます。
3.法定相続分非嫡出子は、認知をされることによって親子となるため、当然に相続権も発生します。
その法定相続分はというと、嫡出子の半分となります。
4.意外な落とし穴うっかりすると、同じお腹を痛めて生んだ子供同士で、法定相続分に差が出てしまうというケースです。
女性Aは未婚時に子Bを生みましたが、その後子Bの父親と異なる男性と結婚しました。夫婦の間には子Cが生まれ、その後に離婚し、母子3人で仲良く暮らしていました。
ところが、Aがなくなり相続が開始します。各人の法定相続分は子Bが1/3、子Cが2/3となるのです。法律上、子Bは非嫡出子、子Cは嫡出子であり、同じ母から生まれたにもかかわらず身分に差があったためです。もし、Aが子Bを養子にしていたら、上記1.(1)にあるとおり子Bも嫡出子となり、二人を同等にすることが可能でした。実の子を養子にするなんておかしな話に感じるかもしれませんが・・・
実は、非嫡出子の法定相続分が嫡出子の1/2であることについては、平成23年8月に大阪高裁で違憲であるとの判決が出ているのです。民法改正は容易ではないですが、今後の動向には注目すべきではないでしょうか。
5.遺産争いを防ぐために相続人にとって、嫡出である子と嫡出でない子が混ざって遺産分割協議をしなくてはならないということは、争いの種になる可能性が高く気が重いものです。
無駄な争いを避けるために、親は遺言を書いておくべきではないでしょうか。ただし、遺留分には気を付けたいものです。嫡出子にも非嫡出子にも、遺言でも侵せない相続人の権利として、遺留分があります。詳述はしませんが、法定相続分の半分の割合です。
もし、優先的に財産を残したい子がいるのであれば、財産を相続させない子には、生前に遺留分の放棄をさせるということも必要になるかもしれません。
遺産争いを防ぐということは、何も非嫡出子がいる場合に限りません。スムーズな財産承継のためにはぜひとも生前から対策をしていただきたいものです。2011年11月15日
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126号
居住用財産の買換えと対象期間
~転居と自宅敷地の売却時期~相続人となる人が相続税の申告をし、納税する。一見すると当たり前のようではあります。が、相続人でも申告が必要ない場合もあれば、相続人でなくても、逆に申告が必要な人もいるのです。
基本的なことではありますが、誰が相続人で誰が申告義務を負うことになるのか。分かっていそうで分かっていない事柄を、まとめてみました。
1.居住用財産を買換えた場合自宅であっても売却をして譲渡益が生じた場合には、その譲渡益に対して所得税が課税されるのが原則です。しかし、新居を購入した場合、つまり自宅の買換えを行った場合には、税金を繰り延べる制度があります。この制度を利用すれば、売却時の税金をゼロにすることができます。
自宅の買換え特例 利用にあたっての主な要件
(1) 売却自宅、購入自宅ともに国内にあるもの
(2) 売却自宅の所有期間が10年超
(3) 売却自宅での居住期間が10年超
(4) 売却自宅の売却代金は2億円以下
(5) 売却先は親子などの特殊関係者以外であること
上記の他にも細かな要件がありますが、この制度はあくまでも自宅の買換えに対する特例です。そのため、自宅の売却時期と購入時期についての要件があります。
2.旧宅の売却時期自宅の売却は、その家に住まなくなった日から3年目の12月31日までに売る必要があります。なお、建物を取り壊してから土地のみを売却する場合には、詳細は割愛しますがさらに要件が厳しくなりますので注意して下さい。
この売却時期(譲渡年)をいつとするかは、税務上は次のいずれかを選択して良いことになっています。
(1) 自宅の売買契約日
(2) 自宅の引き渡し時通常は、引き渡し時を売却時期にすると思われます。しかし、退去日から3年目の12月31日までに売却する必要があるため、この期限が迫っている場合には売買契約日を選択せざるを得なくなります。また、3.で述べる購入時期との兼ね合いの結果、契約日を選択する必要がある場合もあります。
ただし、売買にあたり何らかの条件が整う事が前提となっているような停止条件付売買契約の場合には、売却時期を単純に売買契約日とすることは出来ません。その前提となっている条件が成就した日以降が売却時期となります。
3.新居の購入時期買換え対象である新居の購入は、旧宅の売却前年、売却年、売却翌年のいずれかに行う必要があります。
なお、購入時期(取得年)をいつとするかは2.と同様に契約日又は引き渡し時のいずれかを選択することができます。ただし、建物の建設が完了していないような場合には、建設完了日前を購入時期とすることはできません。
そのため、分譲マンションの竣工前に売買契約を締結したとしても、竣工するまでは購入したことにはなりません。具体的な取り扱いは次のようになります。
(1) 新居を先に購入する場合・・・旧宅の売却は翌年中までに行う必要がある。
(2) 新居を後に購入する場合・・・旧宅の売却は前年中までに行う必要がある。したがって、売却や購入が年末年始に当たる場合には、取得期間をできるだけ効果的に活用できるように工夫することが重要です。
例えば、新居を先に購入する場合において、引き渡し予定日が年末であれば、その日を翌年1月に伸ばすだけで、特例が適用できる売却年を1年間延長することができます。
4.3千万円控除を忘れずに居住用財産の買換えの特例制度について述べてきましたが、新居を取得期間内に購入していないためこの特例が利用できない場合もあります。その時には、3千万円控除の利用を忘れずに検討しましょう。例えば、新居を先に購入してその年に旧宅からの引越しをしていた場合には、引越し年の翌々翌年までに旧宅を売却していれば3千万円控除を適用することが可能です。
5.その他の特例の活用今回は、自宅売却で譲渡益が生じたことを前提としましたが、譲渡損が生じた場合には別の特例利用を考えることになります。また、住宅ローン控除の利用を考えている場合には、特例利用との兼ね合いを検討する必要があります。
余計な税金を払わないためには、自宅の買換えであっても計画的な検討をする必要があるでしょう。2011年10月14日
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125号
お得なものをよりお得に
~小規模宅地等の減額特例の事例~え~っと通信をご覧いただいている方にはおなじみの『小規模宅地等の減額特例』。使い方によっては、より効果的に威力を発揮します。今回は事例をあげて、この特例の更なる効果的な活用方法をご説明させていただきます。
1.どんな特例なのか?被相続人等が事業や居住のために利用していた土地で、一定の要件を満たした場合に適用される特例です。
利用状況により減額割合に違いがありますが、土地の評価額を最大80%も減額することができます。
土地の評価額を減額できるお得な特例ですが、お得なだけに、各種要件や適用面積の制限という制約もあります。
2.では、具体的に !被相続人甲が所有する土地・建物を2人の子(A、B)が相続する場合を考えてみます。(甲の配偶者は既に他界されています)
前提として…土地は全て甲が所有。建物は区分所有型の2階建て。甲が建物の2階を所有し、一人でお住まい、1階は甲が経営する不動産貸付会社が所有しています。ちなみに会社から甲へ地代の支払いはありません。
Aは郊外の持ち家に居住、Bは都内で賃貸マンション暮らしをしています。
3.分割方法によって、適用範囲に差!この事例の場合、甲の自宅が所在する土地なので、まず、土地の評価額が80%減額になる「特定居住用宅地等(※)」に該当することによる特例の適用を考えます。
分割方法によって、適用範囲に違いが出てきますので、具体的に考えてみます。土地を2人で仲良く共有となるよう相続した場合(図左)、Bが土地の全てを相続した場合(図右)を比較してみます。右の図の方が、「特定居住用宅地等」の適用範囲(ピンク色部分)が広くなりました。この適用範囲の違いは「特定居住用宅地等」に該当するための要件から生じています。今回の事例では、被相続人甲に(1)配偶者がなく(2)同居の親族もいません。このような場合、「取得者(AまたはB)が相続開始前3年以内に自己又は自己の配偶者所有の国内所在の家屋に居住していない」という要件を満たすことで「特定居住用宅地等」に該当するのです。
その為、自己所有の家屋に居住しているAが取得した部分には、本特例の適用がありません。この要件を満たすBが土地の全てを取得した場合には、自宅に相当する土地部分が80%の減額となります。(適用面積の合計に制限があります)
4.こんな工夫でさらにお得に!ところで、1階は会社所有の建物です。そこで賃貸借と言う、1階部分に対応する土地の地代を甲が会社から受け取っている場合を考えてみます。
すると今度は1階に対応する土地が「貸付事業用宅地等(※)」に該当することになります。 この場合は、共有となるよう相続した場合(図左)も、Bが土地の全てを相続した場合(図右)も、適用範囲(水色部分)は同じとなります。その結果、1階に対応する土地部分が50%の減額となります。(適用面積の合計に制限があります)ちなみに賃貸借契約の方法を利用するときに「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出しておきましょう。これで権利金の認定課税をされることはありません。また、会社に貸付けている部分は特例適用前の評価額が更地の80%相当の評価となり、相続税の対策にもなります。
5.とは言うものの、ここには注意!このように、個人とその個人が経営する会社の間における土地の貸借を、地代が発生する契約にしておけば、この特例を更にお得に活用することができます。
しかし、場合によっては地代の発生により、個人の不動産所得が増え、それに伴い、所得税等の増額を招く恐れもあります。また、会社側の経費は増えますので、会社が赤字になることや、会社活用による個人の稼得財産の分散というメリットが半減してしまうことも考えられます。
相続税の有利不利だけで、賃貸借契約を選択するのは、勇み足かもしれません。
6.効果的な活用を!『美しいバラにはトゲがある』と言いますが、特例を受ける為には様々な制約があります。また、土地の利用状況、取得者によって適用範囲が変わってくる特例です。
制約をクリアし、より効果的に特例を活用するためには、プロの工夫が必要なのです。※4種類ある『小規模宅地等の減額特例』のうちのひとつです。
2011年9月15日