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COLUMN
原則として月に一度、
代表 高木康裕が自身で執筆しております。
お客様の立場に立って、
新たな税務の情報や事例をご紹介。
辛口で税務の現場のナマの姿をお伝えして参ります!
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5383号
戸籍の取得が便利になったらしい?
令和6年3月1日に改正戸籍法が施行され、戸籍制度が利用しやすくなりました。相続手続きのときに必要になる戸籍も今までより取得しやすくなったと言われています。確かに間違いありませんが、相続実務を考えた場合に果たしてどこまで便利になったのでしょうか。
1.最寄りの役所窓口で取得できる
今までは、戸籍を取得するのであれば本籍地の役所に請求する必要がありました。これが戸籍法の改正によって、今年の3月からは本籍地以外の役所でも取得することができるようになっています。戸籍の広域公布制度と言い、戸籍の取得について便利になった点は次の2点です。
① どこの役所でも取得可能
本籍地が遠くにある方でも、最寄りの市区町村の窓口で請求・取得ができます。
② まとめて取得可能
取得したい戸籍の本籍地が全国各地にあったとしても、1か所の市区町村の窓口でまとめて
請求・取得ができます。
取得ができるのは、「戸籍と除籍の全部事項証明書(以下、戸籍証明書等)」です。したがって、戸籍の一部事項証明書、いわゆる抄本の取得はできません。
また、戸籍証明書等の請求は本人が窓口に出向く必要があり、郵送や代理人による請求はできないことになっています。そして、窓口では運転免許証やマイナンバーカード、パスポートなどの顔写真付きの身分証明書を提示する必要があります。
郵送では請求することが出来ないため、役所に行かなければならないのが不便な点でしょう。2.自分以外のものも取得できる
戸籍証明書等は、本人のものを取得できるのは当然ですが、次の方の分も取得が可能です。
① 本人
② 夫または妻(配偶者)
③ 父母、祖父母など(直系尊属)
④ 子や孫など(直系卑属)
したがって、相続手続きで必要となる関係者分も同時に取得ができるというわけです。ただし、兄弟姉妹の戸籍証明書等は取得が出来ません。兄弟姉妹は必ずしも相続人になるわけでは無い立場だからなのでしょう。3.本当に便利になった?
いままでの説明を聞くと、本籍地以外で戸籍の取得ができるようになったのでとても便利になったと思うはずです。法務省のパンフレットでも、「最寄りの窓口で戸籍が取得できるので相続登記もばっちり!」などとアピールしています。
しかし、よく考えてみましょう。相続のときに必要な戸籍としては、被相続人が生まれてから死亡するまでの全ての戸籍を集めなくてはなりません。そうすると、何十年も前の戸籍や除籍、改製原戸籍と言われるものを取得する必要があるのです。それのどこが問題なのか、ここでピンと気付かれた方は相当察しが良い方です。
改正戸籍法で取得ができるようになったのはあくまでも「戸籍証明書等」です。戸籍証明書等であって戸籍謄本や除籍謄本そのものではありません。つまり、コンピュータ化前の従前の戸籍、いわゆる紙作成の戸籍謄本等は含まれていません。全国の市区町村とデータ連携して行うサービスですので、コンピュータ化されていないものは相変わらず本籍地に請求するしかないのです。閉鎖された古い不動産登記簿をインターネット登記情報サービスで閲覧できないことと一緒です。
■ 広域公布制度で取得できるもの
コンピュータ化された戸籍証明書等
■ 広域公布制度で取得できないもの
コンピュータ化されていない一部の戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍、戸籍の附票
相続のときに集めなければならない戸籍は、コンピュータ化されていないものもまだ多くあるのではないでしょうか。特に現在はシステムが不安定なため暫定運用中です。将来は全ての戸籍情報を最寄りの役所で取得できるようになるのでしょうが、もう少し先のことなのかもしれません。4.今のところ便利な手続き
この改正戸籍法によって便利になるのは、今のところは現在の戸籍情報が必要な手続きと理解しておくのが良いでしょう。本籍地ではない役所窓口で行う婚姻届などは戸籍添付が不要になりました。今後は、児童扶養手当認定の手続やパスポートの申請にあたって戸籍証明書等の添付が省略される予定になっています。
5.税理士は職権で取得可能
相続のときに必要となる戸籍は、相変わらず全国各地の本籍地に郵送で請求をする可能性もある、これが当面の現実かもしれません。
税理士は相続税申告などに必要な場合には、職権で戸籍を取得することが可能です。相続手続きで戸籍の取得に困ったときや、煩わしいときなどは、相続税の申告依頼とあわせて是非ご相談ください。委任状無しで代理取得ができます。
2024年4月30日
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5382号
源泉徴収義務者の仕事は増えるばかり
給与の支払者は源泉徴収事務を負わなければならない決まりです。月々の給与における手続きはもちろんのこと、年末になれば年末調整も行います。法律で定まっているのですから仕方ないとはいえ、最近は税制改正を経るごとに事務負担は増すばかりです。
1. 源泉徴収と年末調整
給与の支払者は、源泉徴収義務者として月々の給与計算を行う必要があります。そして、源泉所得税を給与から天引きして税務署へ納付をしなければなりません。さらに年末になれば、年末調整事務を行って税金の精算手続きまでを本人に代行して行います。
これはまさに、給与支払者が徴税代行を行うという制度そのものと言えるでしょう。税務署としては徴税コストを民間に押し付けられるという大きなメリットがありますから、この制度を今後も手放すことはないでしょう。源泉徴収事務は仕方ないとしても年末調整はどうにかして欲しいものです。2. 年末調整の負担が多すぎる!
12月末までの正確な情報を年内最後の給与支払時までに把握することが難しいからなのでしょう。医療費控除や、ふるさと納税などの寄附金控除は年末調整では計算対象外です。逆に言えば、それ以外は全て年末調整で調整可能です(雑損控除は除く)。このように、給与所得者はできるだけ確定申告をしなくても大丈夫なようにと設計されているのが年末調整制度です。ただし、給与が2000万円超の方は年末調整の対象外です。税務署が個別に把握・補足したい高額所得者と見ているのかも知れません。
年末調整の確認内容を要約すると次のようになります。
・配偶者(特別)控除や扶養控除・障害者控除など、いわゆる人的所得控除を全て確認
・生命保険料控除、地震保険料控除や社会保険料控除、小規模企業共済・ideco・国民年金基金などの支払額を確認
・所得金額調整控除の対象者か否かを確認
・基礎控除に制限がない方かを確認
・住宅ローン控除の有無を確認
このように、いくつもの確認・調整項目があり事務手続きが複雑すぎる!と感じるのは私だけでは無いはずです。3. 基礎控除の確認はナンセンス
基本的には、今後も事務手続きが減るようなことは無いでしょう。年末調整時に行わなければならない事項は増え続けていくと思われます。
特に制度としてナンセンスだと思うのが基礎控除額の確認です。従前、所得税の計算をするときには誰もが基礎控除額を差し引くことができました。これが令和2年分からは控除に制限がかかりました。所得が2400万円以下の方は満額の48万円を控除できますが、2400万円超になると次のように減額されます。
2400万円超2450万円以下・・・基礎控除32万円
2450万円超2500万円以下・・・基礎控除16万円
2500万円超・・・基礎控除0円(適用無し)
例えば、給与収入が1000万円で年末調整を行う必要がある方がいたとします。ただしこの方は、給与以外にも別の所得があるためそれを加算すると所得が2400万円を超える見込みであるとしましょう。この場合、その他の所得状況も踏まえて年末調整を行うのが事務上の取扱いになっているのです。
つまり、勤務先に対して勤務先以外の所得までを伝えなさい。そうすれば正しい税金計算ができるはずだという制度設計をしたのです。現実的に考えれば、勤務先に他の所得状況を正直に答える人がどこまでいるのでしょうか?甚だ疑問です。そもそもこのような方は自ら確定申告を行っていると思われますから、年末調整で把握する必要がどこまであるのでしょうか。お節介すぎる制度だと感じてしまいます。4. 令和6年は定額減税で負担増
今年は岸田首相肝いりの定額減税が行われる予定です。給与がある方は6月以降の給与・賞与から本人分3万円が最低でも差し引かれることになっています。どんなに多額の給料がある方も一旦は控除することになります。しかし、この定額減税は所得制限がありますので、所得が1805万円を超える見込みの方は年末調整時にその分が徴収されます。また、年末調整対象者ではない給与が2000万円超の方は確定申告時に納税させられます。またもや給与支払者の手間を増やす無駄な制度ができたと思ってしまいます。そもそも今回の定額減税は国会の討論でも言われていましたが、給付金として支給すれば良かっただけです。誰かの見栄?で導入された制度に周りが振り回されているだけに見えるのは私だけでしょうか。
5. 簡素でシンプルが一番
そもそも税金は簡素でシンプルが一番のはずです。徴税コストを肩代わりしている会社の事務作業をこれ以上増やさないで欲しいものです。
2024年3月29日
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5381号
不動産賃貸業の法人成り、考え方を整理しよう
まだ法人を活用していない方は、今年こそは!と思っている方もおられることでしょう。個人事業のままか、それとも法人成りするか。どちらが良いかは所得水準が大きな判断ポイントですが、課税体系を踏まえると分かり易くなります。すでに法人を活用している方も再度整理しておきましょう。
1. 個人所有は?
個人で不動産賃貸業を行っていれば、まずは所得税を考えなくてはなりません。所得税の大きな問題は、所得つまり利益が増えると適用税率がすぐに高くなることです。所得税と住民税の合計税率は、所得控除後の所得が695万円超で33.483%、900万円超で43.693%、1800万円超で50.84%です。4000万円超になると55.945%に達します。更に、事業税がかかる方は5%の課税が上乗せされます。1800万円超で五公五民を超えますから、時代が時代なら不満が増えてもはや一揆が起こりそうなレベルです。これでも、昔は最高税率が80%を超えていたときもあったので相当良くなりました。
次に考えるのは相続税です。先ほどとは異なり、相続税では個人所有が有利なことがあります。相続税評価額は、建物は固定資産税評価額、土地は路線価評価額です。取引相場に比べればかなり低い金額で済むので評価差額が生まれます。特に建物新築時は評価差額による相続財産圧縮効果が大きく、これを直接享受できます。(法人所有でも原則同じ評価ですが、影響は間接的です。)また、土地を所有していれば小規模宅地等の特例が使えるため、評価額を更に減額できます。
このように賃貸不動産の個人所有は、所得税では所得が高い方はとても不利になります。一方、相続税では一概に不利とはならず評価面で有利に働きます。2. 法人所有は?
法人で不動産賃貸業を行えば、所得に対する税負担が所得税よりもかなりお得です。法人税・住民税・事業税の合計税率は、所得が800万円以下であれば約25%、800万円超でも約38%で済みます。個人とは最高で20%前後の税率差が生じます。つまり、所得が高い方ほど賃貸不動産は法人所有にした方がお得なのです。また、給与支払いなどを通じて所得分散ができるため、ある程度は所得のコントロールが可能です。また、経費計上面でも個人より有利です。
3. まとめると
所得に対する税、つまりフロー課税である所得税と法人税はどちらが良いか。これは税率構造から見れば、ある程度の所得がある方は法人税に軍配が上がります。つまり、事業活動に対する課税面を考えると法人成りをした方が有利になります。
財産に対する税、つまりストック課税である相続税は不動産の評価面で個人所有の方が有利になります。
おおまかですが、ざっくりとイメージすれば次のような感じでしょうか。
>> 事業を行っている期間を見た場合
⇒ フロー課税は法人所有が有利
>> 相続という一時点だけを見た場合
⇒ ストック課税は個人所有が有利
賃貸建物は個人で建築した方が相続税対策になるから良いというのは、フロー課税の期間が短いであろう高齢者向けです。建築から期間が経過すればその間に利益が蓄積されてしまいます。相続まである程度の期間がある方は、法人活用をした方が結局は良いでしょう。
4. それでは自宅はどう考える
自宅又は事業用の土地については小規模宅地等の特例が使えます。賃貸建物は法人所有であっても、個人が土地を賃貸しているのであれば貸付事業用宅地等に該当し200㎡まで50%引きの対象です。
これに対し、自宅敷地の330㎡まで80%引きの特例は建物が法人所有になっていると対象外です。建物は、被相続人かその親族が所有していなければなりません。したがって、社宅として建物を法人所有にしている場合にはこの特例が利用できません。相続時にはぜひとも自宅敷地の80%引きを活用したい!とお考えの方は相続が発生する前に個人所有に戻しておきましょう。
良いとこ取りをしたいのであれば、元気なうちは社宅にして法人で減価償却費や維持管理費を経費計上します。そして、相続が想定される頃になったら法人から個人へ売却して相続に備えましょう。ただし、相続はいつ起きるのか誰にも分かりません。あくまでもご自身の責任の範囲内で。5. 法人なら健康保険料の節約も可
法人を活用すれば医療に係る社会保険料を抑えることもできます。国民健康保険料は個人の所得水準に応じて徴収されるため、所得が高いとその負担は介護保険料と合わせて年間100万円超になります。しかし、法人からの給与がある方は、給与水準に応じた健康保険料を納めるだけでよいのです。個人の所得がいくらであろうと、月額給与を低めに設定すればその水準の負担で済みます。ちなみに、75歳以上は所得水準による後期高齢者保険の対象になるため75歳未満の方限定の選択肢です。
相続という「点」ではなく、相続までの間の「面」で考えるのであれば、法人は使い勝手が良さそうです。2024年2月29日
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5380号
再開発事業の権利、居住用の3千万円控除は?
自宅を売却した際には税金の計算上いくつかの特例が用意されています。その中でも利用頻度が最も多いと思われるものは、居住用財産の3千万円控除の特例です。自宅が再開発事業の区域内にあった場合には事業にともなって建物が取り壊されてしまいますが、その権利を売却したときはどうなるのでしょう。
1. 再開発事業の権利を売却
駅前の土地などは、有効利用の一環として再開発事業が計画されることが多いでしょう。特に東京都内では盛んに行われている印象です。
このような背景のなか、駅前にある築50年の戸建住宅に住んでいたAさんは、ご多分に漏れず再開発事業の区域に指定されることになりました。そして、このたび権利変換が行われて自宅の建物も取り壊され、建築事業が開始されました。計画では、Aさんは新たに建築される高層マンションの1部屋を取得することができる予定です。新しいマンションに住むことができると最初はとても喜んでいたのですが、マンションの竣工は3年以上先になるとのこと。完成引き渡し後に再度引っ越しをしなければならない煩わしさ、その時の年齢などを後々考え直した結果、Aさんは新しいマンションに住むのをやめることにしました。そして、居住しないならと再開発事業の権利を現時点で第三者に売却して換金することにしたのです。2. 土地建物の譲渡になるの?
Aさんはすでに権利変換を受けた後ですので、現在所有している資産は土地建物そのものではありません。新たに建築されるマンションを取得することが出来る権利を所有しているのであり、正しくは「施設建築物の一部及びその敷地の共有持分を取得する権利」と言われるものです。あくまで権利であり、法的には債権になります。それでは、この権利を売却した場合にはどのように取り扱われるのでしょう。
結論を申し上げれば、この場合は従前に所有していた資産を売却したとして税金計算を行うことになっています。つまり、権利変換前の土地建物を売却したとみなして譲渡所得の計算を行うというわけです。3. 従前が自宅であれば居住用財産でOK
このようにAさんは、税金の計算上は従前所有していた土地建物を売却したことになります。そうすると、自宅の売却になりますから居住用財産の3千万円控除の特例を適用することが可能です。ただし、その売却は従前の建物を居住の用に供さなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに行わなければなりません。それまでの売却であれば、建物は取り壊されて今は存在しなかったとしてもこの特例を利用できます。また、10年超所有していた自宅であれば、税率の軽減特例の適用を受けることも可能です。
4. 売却すべきか否か
旧資産が自宅であり権利変換後に再開発事業の権利を売却するのであれば、住まなくなってから3年以内に行うのが良さそうです。しかし、再開発で取得する新しいマンションの新築竣工後の価格は、比較的高い値段で売買されることが多いでしょう。そうすると、再開発事業中に急いで権利を売却するよりも、待つことが出来るならば新しいマンションを取得して居住した後に売却した方が手取り金額は多くなりそうです。今売るべきか否か。今後の生活設計やお金事情、マンションの相場感なども良く考えて決めるのが良さそうです。
5. 再開発事業の権利の評価は?
再開発事業では、新しい建物が出来上がるまでに長期間を要します。もしも権利変換後の建物建築中に相続が発生した場合には、「施設建築物の一部及びその敷地の共有持分を取得する権利」を評価することになりますが、これは次のような計算になると考えられます。
① 施設建築物の一部を取得する権利
権利変換価額のうち建築施設部分の価額×70%×95%(工事完了まで1年超の場合)
② 敷地の共有持分を取得する権利
再開発事業地(施設建築物の敷地)の路線価評価額×共有持分×95%(工事完了まで1年超の場合)
権利変換価額そのものが評価額ではないのでまだ良いですが、従前の相続税評価額よりは高くなります。事業途中で相続が発生するリスクを回避したい、新しい建物にも魅力を感じない、などであれば権利を売却して早めに資産の組換えを考えるのもアリかもしれません。
6. マンション建替事業も同じ
マンションの建替え等の円滑化法による建替事業で権利変換を受けたときも同様です。建替事業の権利の売却は従前資産の売却として考えます。建替えのための決議要件はこれから緩和されそうですので、再開発だけではなくこれからはマンション建替事業も増えそうです。
2024年1月31日
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5379号
税法って実は古い考え方?家制度的な多くの取扱い!
税法では、その取扱いごとに細かな要件が定められています。特に所得税や相続税では、生計一親族や同居親族などといったキーワードがとても重要になります。実は、税法には家制度的な考え方がまだまだ色濃く残っているのです。今回は、この視点から要件を見てみましょう。
1. 所得税に残る家制度
戦後まもなく家制度は廃止され、戸主を中心とした家督相続の考えは無くなりました。所得税においても、家族を1つと捉えて合算課税するような計算は行いません。あくまで個人単位で課税するのです。現代からすれば至極当然なことでしょう。しかし、税法には古い考え方が一部に残っており、家制度的な取扱いが散見されます。そこで、まずは所得税の取扱いから確認してみます。
事業者が、生計一親族に対して給与や地代などの対価を支払ったとしてもその金額は必要経費になりません。家族内での給与などの支払いを通じて、所得の分散や利益調整ができないようにするためです。ただし、例外として青色専従者給与などに限っては特別に経費計上できることになっています。生計一親族の射程範囲は、実務上は家単位で考えるのがミソです。
1 生計一親族が対象
同じ家に住んでいる家族は、その全員を1つの生活単位と考えます。よって、同居親族は生計一の範疇です。
2 同居は原則生計一
扶養しているか否かは関係ありません。家族それぞれに稼ぎがあり経済的に独立しているから生計一ではないと主張しても、それだけでは認められ ません。寝食を共にしているのであれば基本は1つの家族という考えです。家単位で判断しますので、同居家族は結び付きがとても強いのです。逆に別の家に住んでいると結び付きが弱いため、今度は生計一と主張することが難しくなります。家が違うからです。つまり、生計一にしたければ同居する、生計別にしたければ別居すればよいのです。この関係があれば基本的に税務署は文句を言わないことになっています。
なお、医療費控除や社会保険料控除などの計算も家単位です。同居家族分の支払いをしたのであれば、それは合算して控除可能ですので忘れないようにしましょう。2. 小規模宅地等のポイント
相続税はどうでしょう。家制度の話ですから、自宅の特例である特定居住用宅地等の評価減を見てみます。
自宅敷地の相続税評価額を最大で330㎡まで80%減にできるこの特例、次のように考えるととても分かり易くなります。ポイントはいずれも家族の結び付きです。
1 被相続人の自宅の場合
(ア)配偶者は無条件
民法では夫婦は同居が大前提です。したがって、現実には別居していても配偶者はこの特例を利用できます。
(イ)同居親族は常に対象
被相続人と同居していれば、家族がその家を引き継ぐものとして特例の対象です。別居してしまうと分家したとして対象外です。出戻りして同居すれば対象です。
(ウ)家なし親族
通称、家なき子と言われている方です。配偶者も同居親族もいない場面では、家を引き継ぐ方がいません。そこで、このようなときは別居親族であっても家を引き継いで守ると特例の対象になります。ただし、すでに自分の居宅を所有しているような方は対象外です。分家独立後の家があり、実家を守る可能性が低いからです。
2 生計一親族の自宅の場合
被相続人と生計一の親族は、被相続人と同じ生活単位で暮らしていた方です。そのため、生計一親族が住んでいた自宅敷地も同一視して特例の対象地に含めます。
家制度的に考えるとその生活単位を引き継ぐ必要がありますので、特例が適用できる人は配偶者か、その生計一親族自身です。3. 事業承継税制は隠居
一定の要件を満たす非上場株式を引き継ぐ場合には、相続税と贈与税について納税猶予の特例があります。事業承継税制と言われている制度です。
贈与税の特例は隠居制度をイメージすると良いでしょう。贈与では、代表取締役であった先代経営者は代表者から退いたうえで、株式を贈与しなくてはなりません。引き続き代表者に留まりながら後継者を補佐することは認められないのです。つまり、生前に隠居して家督を引き継がせるイメージです。4. 家制度的な取扱いを賢く使う?
税法では、家制度的な考え方が特に強い部分があります。それは、同居家族を1グループと捉えて制度設計がされることです。譲渡所得においてもこの傾向が見受けられます。同居なのか別居なのか、これにより取扱いがまったく反対になるケースが多いです。それならば、これを上手く利用するのもひとつです。ただし、税金のために引っ越しするのが苦で無ければですが。
2023年12月27日
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5378号
会社を分けて簡易課税を活用!
消費税の計算方法には2種類あることをご存知ですか。原則課税と簡易課税です。どこかでは聞いたことがあることでしょう。この簡易課税による計算、上手に使えばいろいろなメリットがあります。また、新たに始まったインボイス制度への対応でも簡易課税の利用価値があります。
1. 簡易課税のメリット
消費税が課税される売上げ、この売上規模が5000万円以下であれば簡易課税方式によって消費税を計算することができます。ちなみに売上規模の判定は、原則として基準期間という2年前の売上げを用います。
この簡易課税を選択すると消費税の計算が簡単になるばかりではなく、税メリットが生じることが多いです。
例えば、貸店舗や貸事務所などの不動産賃貸業で課税売上げが4400万円(うち消費税400万円)、課税仕入れが880万円(うち消費税80万円)の場合を見てみましょう。
1 原則課税での納税額
売上消費税400万円 - 仕入消費税80万円 = 320万円 ⇒ 320万円の消費税
2 簡易課税での納税額
売上消費税400万円 - 売上消費税400万円 × 40% = 240万円 ⇒ 240万円の消費税
(原則より80万円お得!)
簡易課税では実際の仕入れに係る消費税は計算せず、売上げに係る消費税の何割かを納めるだけです。割合は事業の業種区分ごとに定められていて、不動産賃貸業であれば上記のとおり売上げの40%を差し引いて、残りの60%を納めれば良いのです。
つまり、実際の仕入れに係る消費税よりもこの割合が有利であると得をするわけです。特に不動産賃貸業の場合には、消費税を支払う仕入れが通常は売上げの40%も生じませんので簡易課税の方がお得になるはずです。なお、簡易課税では消費税還付を受けることができないため、多額の修繕費が見込まれるときなどは注意です。2. 簡易課税を利用
簡易課税の方が有利なケースだと分かったら是非利用しましょう。しかし、先ほどのとおり年間売上高が5000万円超の方は利用できません。それならば、売上高を5000万円以下にすれば良いのです。
1 法人の場合なら
会社を分けて売上高5000万円以下の法人を作りましょう。事業を切り分けることになるため現実には難しい面もありますが、不動産賃貸業の場合であれば比較的簡単です。物件ごとに考えればいいですし、もし1物件であるのならばビルを区分所有にしてフロアごとの所有にする、共有にするなどを行えば1社当たり5000万円以下にできるはずです。年間売上高が税込1億円であれば、2社に分ければ良いのです。
2 個人の場合なら
生前贈与をする、一部を法人化する、などをして年間売上高を5000万円以下にできないか探ってみましょう。
いずれにしても、不動産賃貸業の方は他業種に比べて実行し易いはずなので、消費税が課税される売上げが5000万円超の方は検討です。どれくらいの節税ができるのかをあらかじめ試算しましょう。新会社を作ると申告の手間が増えることになるため税理士報酬も増えるのではないかという心配が出てきそうですが、消費税のお得分が勝つのであればWin-Winです。さらに売上げが複数に分散することになりますから、法人税や所得税の観点からも有利に働くことでしょう。3. インボイス制度だって乗り切れる
簡易課税になれば、今話題のインボイス制度への経理対応も必要ありません。
インボイス制度で最も厄介で面倒なことは、原則課税では領収書や請求書などからインボイス登録番号を1つ1つ確認して処理をしなくてはならないことです。簡易課税はそもそも仕入れに係る消費税を計算しませんので、インボイス登録事業者に支払ったかどうかなどは関係ありません。インボイス制度が導入されてもお構いなしというわけです。4. 新会社の設立方法は要検討
会社を分けるのであれば、新会社を兄弟会社とするのか、それとも子会社とするのか。この際ですので、相続時の分割対策も踏まえておくのが良いでしょう。1人に承継させたい不動産であれば子会社を設立する、子ども2人に承継させたいのであれば兄弟会社を設立するという具合です。
また、設立手法には気を配る必要があります。通常通り新たに出資をして会社を設立するのか、それとも会社分割という方法を用いて設立するのか。設立後2年間の免税メリットが取れるか否か等に違いがあります。また、どちらを選択するにしても上手に計画実行しないと免税や簡易課税が利用できなくなる可能性があります。想定していた消費税の節税効果が無くなってしまっては元も子もありません。検討するのであれば税理士へ相談して進めましょう。2023年11月30日
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5377号
相続税の延納ってどうなの?
税金は金銭で一括納付しなければならないのが原則です。たとえ多額の相続税が生じたとしても同じことです。そうは言うものの、相続税は財産税であるがゆえに実際には金銭一括納付が難しいことも多々あります。そこで例外的に、分割払いする延納や、相続財産で納付する物納という制度が設けられています。特に延納は使い勝手が良い場合があるので、一括納付が難しい方は検討価値ありです。
1. 延納を検討してみよう
相続税と贈与税について金銭で一括納付することが困難な場合には、延納制度が利用できます。実際には、税金が多額となる相続税で利用する場面が多いので、相続税のケースを前提にします。
延納が認められると、相続税を最長20年間の分割払いで納められます。納め方は元金均等方式です。そのため、支払総額は抑えられますが返済初期のうちは返済額が大きく、段々と減少していきます。例えば総額1億円で20年間の延納であれば、毎年500万円の元金と利子税(利子税の割合を以下「金利」と言います)を支払う感じです。
延納できる期間と金利は、相続で取得した不動産等(※)の割合によって変わり、以下のようになっています。
(※)不動産等とは、不動産、立木、不動産の上に存する権利、事業用減価償却資産、同族会社の株式・出資不動産等の割合 延納可能期間 令和5年の金利
(利子税割合)75%以上 動産等に係る相続税 10年 0.6% 不動産等に係る相続税 20年 0.4% 75%未満
50%以上動産等に係る相続税 10年 0.6% 不動産等に係る相続税 15年 0.4% (不動産等の割合が50%未満の場合は割愛) 2. 延納金利は思ったより低い
延納はやめた方が良い、延納を考えるなら金融機関から借りて納税した方が良いと聞いたなど、延納自体を検討しない方がいるようですが、1の表を良く見てみましょう。以前は延納金利が高かったこともあり、確かに金融機関から借りた方が有利なケースがありました。でも、現在の金利は0.4%または0.6%です。実務上はそのほとんどが不動産等に係る相続税の延納ですので、実質0.4%です。
適用される金利は年ごとに変わる変動金利ですが、思ったよりも低金利だと思いませんか。金融機関から同等の条件で借りるのは難しいのではないでしょうか。
しかも、繰り上げ返済はいつでも可能ですし、返済手数料も掛かりません。3. 担保設定費用も掛からない
もう1つ大きなメリットがあります。それは担保設定費用が生じないということです。
延納は国から相続税分の金銭を借りている状況と同じですから、担保提供が必要になります。銀行から借りる場合に担保がいるのと同じです。担保提供は、一般的には土地や建物などの不動産に対して抵当権設定をすることが多いでしょう。不動産に抵当権を設定するには、債権金額×0.4%の登録免許税を支払う必要がありますが、延納の場合には必要ありません。国が自ら職権で登記を行うからです。債権金額が1億円だとすると、40万円が浮くことになります。ちなみに、全ての納税が終了すれば、担保解除手続きは国が勝手に行ってくれます。4. 金利が経費にならないのであれば
相続税を納税するための借入金利は、必要経費にはなりません。延納の金利も同じです。収入を得るために生じたものではありませんので、不動産所得などがあったとしても経費計上はできません。そういう観点から考えれば、相続税のための借入れ・延納はできるだけ早く返済するのが得策です。
例えば、個人で賃貸不動産を所有しているのであれば、この機会に法人化を行うのはいかがでしょう。法人が資金調達をして個人から賃貸不動産を購入します。その代金で個人は相続税を支払います。延納しているのであれば延納税額の繰り上げ返済をします。法人は資産購入のための借入金ですので、この借入利息は紛れもない法人経費になります。金利負担を法人へ移すことで経費化するというわけです。5. 経験豊富な税理士に相談
延納許可を受けるための一番のハードルは担保提供できる財産があるか否かだと思います。でもそれは、金融機関から借りる場合も同様です。
つまり、納税計画を立てるのであれば、延納・物納の選択可否を含めた的確・柔軟なアドバイスができるのかどうか。ここが税理士選びの分かれ目です。2023年10月31日
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5376号
マンション評価改正の影響を考える
来年の令和6年からマンションの相続税評価額の計算方法が大きく変更されます。いわゆるタワマン評価の見直しです。新聞報道等でも大きく取り上げられたことから、既にご存知の方も多いことでしょう。相続税関係で今年一番のホットなこの話題について、その影響を検証してみます。
1. 新たな評価方法
新たな評価方法は、令和6年1月1日以降の相続・遺贈・贈与により取得した財産から適用されます。適用対象は居住用の区分所有財産、いわゆるマンションです。居住用のものに限定されていますから、店舗や事務所などのテナント用途は対象外です。それでは、新たな評価方法はどのような手順で行うのか一応確認しましょう。なお、計算式等は執筆時点における情報によっています。多少変わる可能性がありますが、基本の考え方は次のとおりです。
①いままでの相続税評価額を利用
おそらく、評価方法自体を大幅に変えるのは難しかったのでしょう。新たな評価方法でも、まずは従来通りのマンション評価額を計算します。
②次に市場価格との乖離率(下記2参照)を調整
今回の目的は、相続税評価額が市場価格の60%相当となるように調整を行うことです。しかし、現実には市場価格がいくらなのかを個別判断するのは難しいため、割り切りをしました。具体的には、統計的手法により算定した数値を、評価対象マンションの市場価格との乖離率と仮定したのです。こうすれば、従来のマンション評価額にこの乖離率を掛けるだけで、理論的な市場価格が導き出せます。【新たなマンション評価の考え方】
従来の相続税評価額×乖離率×0.6=新評価額
⇓これを理論的な市場価格と仮定する
令和6年からのマンション評価額は、理論的な市場価格の60%相当になると見立てた上記計算式により評価します。したがって、乖離率の数値が大きくなればなるほど、新たなマンション評価額は増加していきます。
ちなみに乖離率が約1.666以下の場合は、すでに市場価格の60%水準以上に達していることになります。そのため、今回は説明を割愛しますが上記計算式は利用しません。2. 乖離率の計算式
今後はどのようになりそうか。新しい評価の肝は乖離率ですので、内容を確認しましょう。
乖離率 = 築年数×△0.033+総階数/33(1.0超は1.0)×0.239 + 所在階×0.018 +敷地利用権面積/専有面積×△1.195 + 3.220
小難しい計算式ですが、ポイントは黄色でマーカーした4つの指標を見れば良いのです。乖離率が大きくなる、つまり相続税評価額がより増加するのは次のような物件です。
①築年数が浅い、②総階数が高い、③所在階が高層、④敷地利用権面積/専有面積が小さい(容積率が大きい高層マンション)3. 調整の限界値は2.5倍?
それでは、「乖離率×0.6」は最大でどれくらいになりそうか?検証してみました。
新築の高層マンションで所在階は50階、50㎡の専有床面積に対して敷地利用権はたった1㎡と仮定します。(容積率的に考えると5000%なので有り得ないと思いますが)この前提で計算したところ、「乖離率×0.6=約2.58」となりました。つまり、評価額が増加したとしても従来の相続税評価額の2.5倍が限界と言えるでしょう。
実際にいくつか計算をしてみましたが、ほとんどの物件はおおよそ2倍前後になりました。4.影響実例を見る
① 都内のタワーマンション
築年数14年、43階建ての6階に所在する部屋は約1.80倍になりました。・実際の市場価格 約1億3000万円
・従来の相続税評価額 約1750万円(約13.4%)
・新たな相続税評価額 約3200万円(約24.6%)② 大阪のタワーマンション
築年数3年、42階建ての16階に所在する部屋は約2.09倍になりました。・実際の市場価格 約6200万円
・従来の相続税評価額 約1670万円(約26.9%)
・新たな相続税評価額 約3500万円(約56.4%)③ 都内のマンション(タワーマンション以外)
築年数7年、6階建ての5階に所在する部屋は約1.53倍になりました。・実際の市場価格 約9800万円
・従来の相続税評価額 約2600万円(約26.5%)
・新たな相続税評価額 約4000万円(約40.8%)5. 物件選びが益々重要
上記実例をみると傾向が良く分かります。タワーマンションは評価額が増加しますが、①都内のタワーマンションはそもそもの価格が高すぎるためか、調整をしても市場価格のまだ25%程度です。しかし、②大阪の物件は56%となり目論見通り60%相当になりました。③はタワーマンション以外ですが40%水準となり大きな影響を受けてしまいました。つまり、実際の影響度は物件次第なのです。今後は物件選びが益々重要になるでしょう。
2023年9月29日
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5375号
離婚で財産分与、申告を忘れずに
結婚があれば、当然に離婚だってあり得ます。令和4年に日本において結婚したカップルは約52万組、逆に離婚をされた方は約18万組ありました。最近は離婚件数が減少傾向にあるようですが、夫婦仲が良いからといって絶対に離婚しないとは言い切れない世の中です。さて、離婚には財産分与が付きものですが、財産を渡したときは税金のこともお忘れないように。
1. まずは渡した側は注意
離婚したときは、夫婦の一方は相手側に対して財産の分与を請求することができます。婚姻中に生じた財産の清算のためなど、その意味合いには様々な性質があるのですが、夫婦であった間に蓄積した財産を原則1/2に分けるようなものと考えれば良いでしょう。
ここで、対象財産は誰名義のものなのかは関係ありません。あくまで夫婦であった期間に取得した財産か否かです。そのため、主に夫が働いて妻は主婦であったとすると、夫名義の財産を妻に分与することになります。
分与する財産が現金であれば特に注意する必要はありませんが、不動産や株式などを渡したときは税金のことも頭にいれておきましょう。税務の世界では、財産分与をしなくてはならない義務の履行として不動産等を渡した、そして分与義務の消滅という利益が生じたため譲渡所得の対象になるという考え方なのです。2. 不動産や株式などの財産分与
財産分与なのですから売却代金は一切ありません。しかし、分与した側は不動産等を売却したことになりますから譲渡所得税が生じる可能性があるわけです。
それでは、いくらで売却したとすれば良いのかですが、これは財産分与時における財産の時価で計算することになっています。
不動産であれば、本来は市場価格が時価なのでしょうが、そんなものは実際に売却をしなければ誰も分かりません。そこで、実務的には相続税評価額を1つの参考指標として考えるのも良いでしょう。ただし、土地は公示価格という客観的な時価指標がありますので、相続税評価額をそのまま使うのでは無く、公示価格相当に引き直しましょう。具体的には、次のように計算すれば良いのです。
「相続税評価額×1.25=公示価格相当=時価相当」
また、上場株式などは分与日の終値を用いて計算すれば大丈夫です。市場で売却したわけではないので計算書が出ませんが、申告を忘れずに行いましょう。
このように、株式そのものを分与すると自分で計算して申告しなければなりません。ところが、上場株式は特定口座で所有をしており、個別に計算などしたことがない方が現実には多いのではないでしょうか。
そこで、相手側は上場株式そのものを望んでいないのであれば、売却をして得た現金を分与した方が簡単かもしれません。こうすれば、売却の計算は証券会社が行ってくれます。3. 財産をもらった側は
財産分与で財産をもらった側の取扱いも確認しておきましょう。もらった側(取得者)は、財産分与を受けることができる請求権と引き換えに財産を取得したことになります。つまり、請求権が対価であり贈与を受けたわけではないので、たとえ高額であっても贈与税の対象にはなりません。不動産や株式などであれば、渡した側は分与時の時価で売却したことになり、もらった側はその時価で取得したことになるのです。
そのため、財産分与で不動産などを取得した方がその後に売却をしたときは、分与日の時価を取得費として譲渡所得の計算をすることができます。もらった側は分与時には税金の問題が生じないため、取得費のことまでを気にする方はまずいないと思います。不動産を売却したときは、特に取得費の計算を忘れずに行いましょう。何も考えずに売却価額の5%の概算取得費を用いて申告をしてしまったとしたら、譲渡所得税は数百万円単位で増えることでしょう。ちなみに、事前に登記簿謄本をしっかりと確認しておけば、取得原因は財産分与となっているので見落とすことはないはずです。4. 偽装離婚は?
財産分与額が相応に計算されたものであれば、どんなに高額であったとしても、原則として贈与税は課税されません。著名人や富裕層の方などは数億円から数十億円に達することも珍しくないでしょう。
そうすると、これを上手く使って生前に妻へ財産を移転しようという方も出てきそうです。そこで、税務署も牽制を行っています。離婚を手段として贈与税や相続税を免れようとしたと認められる場合には、贈与税を課税することになっているのです。財産分与の割合が大きすぎる場合や偽装離婚を利用したケースです。
では、現実にはどこまで財産分与の実態をチェックできるのか?あらかじめ決められた基準はないですから一見して分かるものでもありません。あくまで、それぞれの家庭の事情に合わせて判断することになるでしょう。
2023年8月31日
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5374号
消費税相当の値下げ通告受けていませんか?
令和5年10月、いよいよ消費税のインボイス制度が始まります。領収書はどうなるのか?取引慣行は変わるのか?など、新たな制度ですので不安なことも多いことでしょう。世間のうわさでは、インボイス発行事業者にならないと取引先から値下げ要求があるぞ!などとも言われていますが、本当でしょうか。
1. 免税事業者はインボイスを発行できない
まずはインボイス制度の概要をおさらいしておきましょう。ご存知の通り、インボイスは消費税の納税義務がある事業者、いわゆる課税事業者でなければ発行することができません。そして、これからはインボイス発行事業者以外からの仕入れは消費税を支払ったことにならない取引へと変更されます。
例えば、税抜10万円、税込11万円の取引を考えます。インボイス制度導入後も今までと同じ金額で取引を継続することにします。支払代金の総額は11万円です。
① インボイス発行事業者への支払い ・・・ 税抜10万円、消費税1万円の取引
② インボイス発行事業者以外への支払い ・・・ 11万円の取引( 消費税は認識できない)
代金総額は変わらなかったとしても、消費税の処理が異なります。インボイス発行事業者以外、つまりは免税事業者からの仕入取引では、取引先は納める消費税が1万円増加する可能性があります。仕入れの取扱いが激変するということです。そこで、社会への影響を緩和させるため実際には次のような
経過措置が設けられました。
第1期間:制度導入後3年間(令和8年9月30日まで)
上記②⇒税抜10万2000円、消費税8000円の処理可能
第2期間:第1期間後の3年間(令和11年9月30日まで)
上記②⇒税抜10万5000円、消費税5000円の処理可能2. 免税事業者に取引価格の引き下げ要請!
このように、免税事業者からの仕入れは消費税的には不利になるため、取引の見直しを迫られる可能性があります。
そうだとしても、経過措置があるのでインボイスの影響が完全に現れるのは6年後です。特に3年間は消費税相当として8割を認めてくれます。政府としては、この期間にインボイス対応を考えて下さい、経過措置もあるので取引先は不当に(安易に)取引金額の引き下げ等はしないで下さい、というスタンスです。
それにも関わらず、免税事業者に対して11万円の支払いをしてもこれからは消費税1万円の処理ができなくなる。そのため、その分価格を1万円引き下げて下さいと要請する事業者が出てきています。貸家や駐車場などでも実際にチラホラと耳にするようになりました。
3. 慌てずに対応
免税事業者の方は、課税事業者となってインボイスを発行すべきか否かは世間の様子を見ながら判断したいという方が多いのではないでしょうか。
ところが、実際に取引価格の引き下げ要請があると、今後のこともあるし、相手はうちより大きい会社だからなど、様々な理由からどうしても弱気になりがちです。そして、もう課税事業者になるしかないか、というマインドになります。
でもちょっと待ってください。先ほど見たように経過措置が設けられていますから、消費税全額への影響が生じるのは6年後です。少なくとも3年間は消費税への影響は2割相当のはずです。なんとかならないものでしょうか。4. まずは交渉すべき
実は、インボイス制度に絡んで取引価格の一方的な引き下げ要請を行うのは独占禁止法や下請法上の違反となっています。特に、6年間は経過措置もあることから消費税相当額の単なる価格引き下げを行ってはいけないとして問題視しています。
そのため、課税事業者にならないのであれば取引価格を引き下げると通告した事業者については、公正取引委員会が注意勧告をしているのです。
双方が協議して納得のうえで取引価格の見直しを行うのであれば良いのですが、一方的な見直しに応じる必要はありません。相手先は独占禁止法上の取扱いを知っていたとしてもわざわざ教えてはくれません。
ルールはどのようになっているかを良く知り、減額要請を単純に受け入れるだけではなく、納得した上での対応を心掛けるべきです。
5. 消費税増でも税効果分を考えてもらう
免税事業者から仕入れを行った事業者は納める消費税が増加する。このことだけを見れば消費税分は確かに損するでしょう。しかしながら、本来は法人税や所得税への税効果(減税効果)も測定しなければナンセンスです。事業者ですから、消費税の負担が増えればそれは経費が増えることになります。つまり、増えた消費税納税分だけ法人税や所得税が減ります。例えば適用税率が30%であれば、1万円の消費税が増加しても事業者全体での税負担影響額は7千円です。経過措置に加えて、ここまで考えたうえで減額要請をしてきたのでしょうか。価格引き下げの話があったら、まずは本当の影響額はどれ程なのかを知ってもらった上で交渉を行うようにしましょう。
2023年8月1日
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5373号
相続時精算課税で上手に贈与
既報のとおり、今年度の税制改正により相続時精算課税制度の使い勝手が向上しました。令和6年の贈与からは110万円の基礎控除が設定されることになったからです。これを機に、相続時精算課税を活用した贈与を考えてみましょう。
1. 相続時精算課税を検討?
いままでは、相続時精算課税を一旦使ってしまうと毎年110万円までの基礎控除枠が無くなってしまう、という大きなデメリットがありました。これが利用を躊躇する理由の1つであったことは間違いないでしょう。
この点について、税制改正により相続時精算課税を利用していたとしても110万円の基礎控除枠が設けられることになりました。令和6年からは、相続時精算課税を利用するか否かで毎年の贈与税の基礎控除に違いが生じなくなるのです。
そこで、この機会に相続時精算課税の利用法を考えてみましょう。暦年課税では贈与税が多額になるので難しかった不動産の贈与も、相続時精算課税を利用すれば上手くいくかもしれません。2. 賃貸建物の贈与
相続時精算課税を使うのであれば、値上がりしそうなものや収益を生むものを贈与するのが良い!ということは幾度となく伝えているとおりです。そこで、アパートなどの賃貸不動産である土地建物を親が子に贈与するケースを考えます。収益を子に移転することが目的ですから、まずは建物のみの贈与で考えます。
贈与時の賃貸建物の評価額は固定資産税評価額の70%です。建築費に比べると相当低い金額になっているはずです。それでも数千万円の評価額になることもあるので、贈与税のことを考えると暦年課税では難しい場合が多々あります。
そこで相続時精算課税による贈与を活用します。「基礎控除110万円+特別控除2500万円=2610万円」までは贈与税がかかりません。2610万円を超える部分は20%の贈与税が生じますが、相続の際には精算されますので相続税の前払いのようなものです。
贈与を受けた建物の評価額に対して、毎年の収益はどのくらいになりそうですか?この場合、土地は地代ゼロの使用貸借で借り受けるので、子からすれば建物評価額に対する家賃の割合がそのまま利回りになるという見方も出来そうです。贈与税の評価額は建築費の半分以下になるケースが多いので、利回りは10%でしょうか、はたまた20%でしょうか。物件次第では魅力ある贈与になりそうです。3. 借入金があると難しい
これも以前に伝えていることですのでご存知の方が多いかもしれませんが、借入金付きの賃貸建物の贈与は実務的には要注意です。借入金は当然建物とセットで移さなくてはならないので、借入金の負担を付けた贈与になります。このような場合は、賃貸建物の評価額は固定資産税評価額の70%で計算することが出来ず、時価相当額になります。固定資産税評価額を用いた贈与が出来ないので、贈与のうま味は大幅に減少します。
また、税務上は贈与をした親は引き継がせた借入金額を対価として子に建物を売却したと考えるため、譲渡所得の計算まで登場します。
このように、借入金付きの賃貸建物は贈与にはあまり向いてなさそうです。こんなときは、発想を転換して土地を贈与するのはどうでしょう。4. 土地の贈与ではどうなる?
土地は建物に比べて評価額が高くなることが多いですが、相続時精算課税を利用するからこそ、また納めた贈与税が相続時に最終精算されるからこそ、土地の贈与が行い易くなります。借入金付きの賃貸建物の敷地が担保提供されていたとしても、土地自体には借入金が付いていないことが多いのではないでしょうか。それならば、この土地を贈与します。賃貸建物の敷地の評価額は貸家建付地となり、路線価評価額×(1-借地権割合×30%)になります。
ここでのポイントは、贈与された土地から収益を得るようにすることです。地代を設定して親から地代収入を得るようにすれば収益物件化できます。地代は借地権課税の問題を回避するため、土地の路線価評価額の約6%、いわゆる相当の地代で設定します。ここでの路線価評価額は、貸家建付地の(1-借地権割合×30%)をする前の自用地評価額で計算します。そうすると利回りは約6%ではなくて、実質的には約7.5%になりそうです。さらに言えば、地代の設定は路線価評価額ではなく土地の時価ベースでも構わないので、もっと高額に設定することも可能です。このように、賃貸建物を贈与せずとも親から子へ収益を移すこともできるのです。5. 小規模宅地への影響
贈与するのであれば、小規模宅地の特例との兼ね合いも考える必要があります。贈与前の賃貸建物の敷地は、貸付事業用宅地として減額対象になりますが、建物の贈与後はこの特例が利用できなくなる恐れがあります。また、土地を贈与すれば、その土地は当然に対象外です。
つまり、贈与をすると相続税にどう影響するかまで把握しておく必要があります。内容は千差万別ですので、悩むのであれば一度弊社へご相談を。
2023年6月30日
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5372号
贈与税が大変!申告前なら取消し可能
相続税対策のことを考えて、子どもへ財産を贈与することはよくあります。自分ではお得と思って実行した贈与ですが、翌年に贈与税の申告を行おうと計算をしてみたところ、勘違いがあったのか贈与税が相当多額になってしまったらどうしますか?今からでも贈与を取り消すことはできるのでしょうか。
1. 原則的な取扱い
生前贈与を行うのであれば、当然のことですが後々の相続税の負担より贈与税の方がお得にならなければ意味がありません。賃貸建物などの収益財産を贈与するので贈与税はある程度高くても構わない、ということがあるかもしれませんが、通常は贈与税の方が高くつくのであれば行うメリットはありません。
そうは言うものの誰であっても間違えはあります。贈与を行った後になって勘違いや思い違いに気付いた、はたまた試算してみたところ贈与税が想定より多額になってしまったので考え直したい、ということもあるでしょう。このようなときは、贈与を取り消して無かったことにしたいと思いますが、税務上は認められるのでしょうか。
残念ながら、原則的な取扱いでは贈与税を課税することになっています。それは、個人間で無償による財産の移転があったときは贈与があったものとして贈与税を課税するルールになっているためです。事後に取消したかどうかなどとは関係なく、まずは贈与の事実があったのであれば課税するのが税務署の考え方です。贈与を取り消しさえすれば良いという単純な問題ではありません。
しかし、全てのケースについて杓子定規に贈与税を課税するのも酷な話です。そのため、一定の場合には贈与税を課さなくても良いという取扱いが用意されています。2. 3月15日までに取消しすれば実務上はOK
税務署としては、贈与の取消しや合意解除をやみくもに認めてしまうことが問題なのです。贈与税の申告納税をしたものの、1年後に贈与の取消しを行ったからやっぱり税金を返して欲しいと言われてしまっては困ります。
そこで、そのようにならない下記の4つの要件を満たす場合には、贈与の取消し等を税務上も特別に認めて課税しなくても良いことになっています。
1.取消し又は解除が贈与税の申告期限までに行われており、名義を戻す等の手続きを行っている
2.贈与財産を処分しておらず、担保目的などにもされていない
3.贈与された財産として所得税等の申告や届出をしていない
4.受贈者は贈与財産からの賃料収入や配当収入などの法定果実を受領していない、受領したのであれば贈与者へ返却しているここでのポイントは、贈与税の申告期限である翌年の3月15日までに取消しや合意解除をするのであれば税務署は認めるということです。逆に3月15日を過ぎると、たとえ取消し等をしたとしても贈与税が課されます。考え直しは翌年の申告期限までだということです。
3. 登録免許税や不動産取得税は戻らない
贈与財産が不動産であれば登録免許税や不動産取得税がかかります。贈与の取消しを行ったときにはこれらの税金はどうなるのでしょう。
結論からいえば、このような流通税と呼ばれる税金は、たとえ取消しを行ったとしても課税されることになっています。どんな理由であれ、所有権が一度は移転したのは事実だからです。したがって、所有権移転に伴う登録免許税は返ってきません。また、不動産取得税も同様に課税されます。
ただし、親族間贈与であれば、不動産取得税を一定の要件のもとで課税しないという特例的な取扱いを置いている県もあります。不動産取得税は念のため確認をした方が良いでしょう。なお、取消しや合意解除を贈与税の申告期限までに行う必要があるのは同じです。リミットは翌年の3月15日までと思いましょう。4. いっそ相続時精算課税にするか?
税務署は申告期限までに贈与の取消しをするのであればその理由は問いませんが、贈与税が多額になりそうなので暦年課税による贈与を一旦見直ししたい。これが理由としては一番多いのではないでしょうか。税負担のことで悩んでいるのであれば、いっそ2500万円までの特別控除枠がある相続時精算課税を検討するのはどうでしょう。令和6年からは制度が改正されて110万円までの非課税枠が新たに設けられます。今までは使い勝手が悪かった制度ですが、これからは利用価値が見出せます。
登録免許税や不動産取得税が課税されるのであれば、贈与の取消しはせずに精算課税贈与に鞍替えしたらどうなるのか?今一度考えるのも良いかもしれません。
いずれにせよ、判断には相続税と贈与税のシミュレーションが必要になります。しっかりと準備をしておけば、どんなことにも対応ができるのです。2023年5月31日