281号
個人から同族会社への土地売買で注意すること
令和6年分の路線価が7月に公表され、全国平均が3年連続で上昇したようです。東京23区の新築マンションの平均価格も1億円を超えており、不動産価格が上昇しています。さて、法人化をする際など不動産を法人へ売却する時の金額は、どのように考えれば良いのでしょうか。
1.個人から同族会社への土地売買を検討します
個人が土地を売却すると、譲渡益に対して譲渡税がかかります。譲渡税は、長期譲渡の場合は所得税と住民税を合わせて約20%です。
自身や親族が株主である同族関係者への売却は、第三者への売却と違い、譲渡税の負担を抑えるためになるべく低い金額で売買をしたいと考える方もいると思います。しかし、時価(相場)よりも低い金額での売買は税務上リスクを伴いますので、いくらで売買するか検討が必要です。
今回は、株主である個人から同族会社へ土地を売却するケースを、事例を用いて考えてみたいと思います。
2.事例の前提条件
・土地の売買金額 10,000千円
・土地の時価 30,000千円
・売主 個人A
・買主 同族会社B(株主は個人Aが100%)
3.売主 個人Aについて
売主である個人Aは、売買金額が時価の2分の1未満であった場合に問題が生じます。時価の2分の1未満で売却した場合には、実際の売買金額ではなく、時価で売却したものとして譲渡税を計算しなければなりません。
上記2の前提条件を基に考えてみますと、
【時価の2分の1未満であるかどうか】売買金額10,000千円<時価30,000千円×1/2=15,000千円
上記のように、売買金額は時価の2分の1未満となりますので、時価30,000千円で売却したものとして、譲渡税を計算することになります。仮に長期譲渡(税率20%)に該当し、取得費を概算取得費の5%とした場合(譲渡経費なし)の譲渡税は、以下の通りです。
【譲渡税】30,000千円×95%×税率20%=5,700千円
4.買主 同族会社Bについて
次に、買主である同族会社Bについて考えていきます。法人は利益を得ることを目的として経営を行うものですから、その取引は時価で行われることが原則です。
したがって、同族会社Bが土地を時価よりも低い金額で譲り受けた場合には、売買金額と時価との差額を受贈益として、法人税等がかかります。
上記2の前提条件を当てはめて考えてみますと、土地の購入金額は時価の30,000千円となり、以下の金額が受贈益として同族会社Bの利益になります。
【受贈益】時価30,000千円-売買金額10,000千円=20,000千円
上記の受贈益に対して、法人税等がかかります。法人税等は、所得金額が800万円以下であれば約25%、800万円を超える場合は最大で約35%です。
なお、上記3で、個人Aは時価の2分の1未満で売却した場合は時価により譲渡税を計算するとご説明いたしました。しかし、法人の場合は、時価の2分の1未満であるかどうかの判定がありませんので、注意が必要です。
5.(参考①)同族会社Bに個人A以外に株主がいる場合
上記4までは、同族会社Bの株主は、個人Aが100%株主を想定していましたが、個人A以外にも株主がいる場合は、他の株主に対して贈与税がかかるケースがあります。
贈与税がかかるケースは、個人Aが同族会社Bに対して、土地を時価よりも著しく低い金額で売却したことにより、同族会社Bの株価が上昇してしまう場合です。
その場合は、個人Aから他の株主に対して上昇した株価相当の贈与があったということになります。
6.(参考②)時価の2分の1以上であっても同族会社の行為計算否認に該当する場合があります
上記3にて、個人Aは、売買金額が時価の2分の1未満であるかどうかを判定しましたが、時価の2分の1以上であっても問題になるケースがあります。
同族会社の行為計算否認と言われているもので、その譲渡により所得税の負担を不当に減少させると認められる場合には、時価で売却したものとして譲渡税を計算することになります。
過去には、土地を第三者へ売却する際に、地上権部分を繰越欠損金のある同族会社を経由して取引したもので、同族関係者間であるがゆえに行われたとして適用された事例があるようです。
7.適正な時価を検討しましょう
今回は、売主を個人A、買主を同族会社Bとしての税務上のリスクを検討しましたが、同族関係者間での土地の売買は、時価で売買をする必要があります。
土地の時価の例としては、相続税評価額、公示価格(相続税評価額÷80%)、不動産鑑定士による鑑定評価額、近隣の類似する土地の取引事例等がありますので、事前によく検討しましょう。
2024年9月17日